守護者として
神殿を後にした俺達は改めて建設中の街を眺めた。
今ここに集まっている人たちは国から派遣された人を除いて全て俺の信者になるらしい。
あ、この言い方をすると新興宗教の教祖にでもなった感じだな。
うーん、実際神様になったんだから拝むとご利益とかあるんだろうか。
でも、まぁ、そうか。
王様になった時も思ったけど、神様になるってことはこの人達全員を守らないといけないんだ。
リアルで言えば社長になったようなものか?
でも以前読んだ経営者の本にこんなことが書かれた。
『社員は家族であり、俺の差配次第では彼ら全員が路頭に迷うことになる』
『社長は父親みたいなものなんだから、しっかりと胸を張っていないとな。
父親が元気が無いと家全体が暗くなってしまうよ』
『責任は重大だ。だがそれ以上に期待と喜びが待っている。
それを知ってしまえばどんなに今が苦しくても乗り越えられるものさ』
まだ学生の俺がそこまで考える必要もないかなって思ったりもするけど、その本にはこうも書かれていた。
『社長に1年目も始めたてもない。年齢も国籍も性別も関係ない。社長は社長だ。
それともなにか?始めたてだったら法律破っても良いのか?男だったら女だったら異性の気持ちを無視しても良いのか?
違うだろ?腹を括れ。お前は社長なんだ』
なかなかに厳しい言葉だけど、それが事実なんだろう。
だから俺も甘えたことは言っていられない。
それにだ。
前哨イベントの時は俺達だけだったから壊されても直せばいいやって感覚だけど、今度はそうはいかない。
折角大勢の人たちがせっせと造ってくれている街を壊させる訳にはいかないじゃないか。
北の魔物、特に黒龍の襲撃からこの国を守ること。
それが俺が神様になって最初に手掛ける仕事になりそうだ。
その為にはここを戦場にする訳にはいかないな。
「ディーネさん」
「なに?」
「ディーネさんのコンサートホールというか浮島って俺でも作れるかな?」
あれと同じものをグレイル島の北側に作ればここを戦場にせずに済むかなと考えたんだけど、ディーネさんは首を横に振った。
「残念だけどあれは私の神性によって生み出されたものだからダーリンには無理よ」
「そうか。あれがあれば防衛も楽になると思ったけど、そう思い通りにはいかないか」
「ま、ダーリンはダーリンらしい方法でやれば良いのよ」
俺らしい方法?
海上に畑を作る?それが出来たら海中が全部畑になって身動き取れなくなるし無理だろう。
まぁまた後で考えるか。
と思ってたらリースに袖を引かれた。
「カイリ君カイリ君。私も居るからね」
「あ、うん。そうだな」
「カイリ君には海中もあるんだから地上は私達を頼りにしてくれた方が嬉しいよ」
リースにそう言われて視野が狭まっていたのを気付かされた。
そうだよな。別に神様になったからって全部を自分がやる必要は無いんだよ。
俺にはリースを始め、多くの仲間が居るんだから頼っても良いんだよな。
「ありがとうリース」
「うん。それに私あの黒蜥蜴には借りがあるしね。
今度こそあいつにはこの島に指一本触れさせないわ」
拳を握るリースはこう言ってはあれだけど漢らしい。
出島の件は引き続き考えておくとしてもここの防衛は任せてしまっても良いだろう。
しかし海中か。
「ボシスの奴が居なくなったんだから海中は魔物が来なくなるとかないのかな」
その問いにはミクマリ様が答えてくれた。
「無理でしょう。あれが率いて来れたのは所詮下級の魔物だけ。
多分今度は黒龍が声を掛けるのでしょうから中級や上級の魔物が来ます。
それらは多くの下級の魔物を付き従えてますから1体の上級の魔物が居れば数百から多くて万に近い軍勢になるでしょう。
それが複数体来ることが予想されますから」
なるほど。
数自体は今回より少ないけど強力なボスが従えているのか。
上級の魔物相手だと今回みたいには行かず、イカリヤ達が総出で相手をしないといけないだろう。
そんな魔物が何体も居たら結局は手が足りなくなる。
「何とか魔物を分散できないかな」
「あらそんなの簡単よ」
俺のその疑問にディーネさんが事もなげに答えた。
「北の海を隔てる結界を全部消してしまえば良いのよ」
いや、それはどうなんだ?
確かに結界さえなければ魔物たちも狭い海溝部を通る必要が無くなるから広く展開することになるだろう。
でもそれをしてしまうと今後は魔物が行き来し放題になってしまう。
そうなると結局南の海が荒らされることになるんじゃないだろうか。
そんな悩みをディーネさんの言葉が吹き飛ばしてくれた。
「心配しなくて大丈夫よ。
南の海の人たちだって守られなくちゃ生きていけない程弱くは無いし。
それに何かあったら異界の人たちが喜んで駆けつけてくれるでしょ?」
「確かにそうかもしれないな」
今回のイベントを契機に今後は不定期に北の魔物の襲来イベントが発生しますってなったらプレイヤーの皆は困るよりも喜ぶだろう。
俺の一存で今後のイベントに変化が生まれる訳だけど、それも運営からは好きにやれって言って貰ってるし大丈夫だ。
「よし、じゃあその方針で行こうか」
「ええ。結界の方は私や他の神様に任せてくれていいからね」
「分かりました。お願いします」
よし、まだ問題は山積みだけど少しずつ解決の糸口は見えてきたな。
後は、そうだな。
折角の一大イベントなんだ。
もっとガンガン他のプレイヤー達にも参加してもらおう。
各国に被害が出ないかどうかなんてレベルじゃなく目指すは完全勝利だ。
『ダンデ、ちょっと良いか?』
『おう、どうした』
『ああ。今度のメインイベントについてなんだけどな……』
俺はダンデやインガルスさんを通じて全プレイヤーへと情報を展開してもらった。
あ、もちろんネタバレには気を付けて、だ。
運営が報酬を出し渋ってプレイヤーの参加が消極的だというならこちらで用意してやればいいんだよな。
後書き日記 サクラ編
10月15日
先日行われた前哨イベント。
あの時私とツバキちゃんが何をしていたかと言えば、グレイル島から東西に離れての哨戒と遊撃を行っていたんです。
なにせ海の上を自由に飛び回れるのって私達以外ほとんど居ませんから。
だからグレイル島の防衛はリースさん他、島にやって来た人たちにお任せしていました。
なので非常に残念な事に黒龍が来た時に私達はその場に居合わすことが出来なかったんです。
もしあの時その場に私達が居ればみすみすブレスを吐かせることも無かったのに、と思ってしまいます。
まぁ後の祭りなんですけど。
ただ実際どうなんでしょう。
例の黒龍って空の神様の中でも特に戦闘力の高いという話ですし、私達の力がどこまで通用するのかな。
普通に考えれば単独で勝てることはまず無いと思いますが、妨害くらいは出来るかな?
鳥の神様も速さなら負けないって言ってましたし。
月末がメインイベントってことなので、次こそは活躍してみせましょう。
その為にも今は特訓あるのみ。
「ツバキちゃん、行くよ」
「おっけー」
「じゃあまずは一気に上空100メートルに達した後、急反転して1ループ。その後垂直上昇で500メートルまで上がるよ」
「うん……うん?」
「はっ!」
普通なら上昇気流に乗って高度を上げるところを風魔法を活用して一瞬でトップスピードで飛び上がる。
そして反転。この切り返しの早さが空中戦の肝だったりするの。
イメージとしては地上を襲って来た魔物をすり抜けてその背中を狙う感じ。
急降下攻撃を加えてその反動で再び上昇。一気に高度500メートルに上げる。
ここまで上がれば付いてこれる魔物は飛行特化の魔物ばかりでしょう。
地上から狙われることもほぼないから私達の腕の見せ所です。
って、あれ?ツバキちゃんはどこに行ったかな?
「サクラちゃーん」
あ、来た来た。
「遅いよツバキちゃん」
「いやいや、サクラちゃんがいきなり飛ばし過ぎなの!
どうしていきなり地上で休息してる時に奇襲を受けた時の反撃パターンなの!?」
あ、言われてみれば。
今のこれってツバキちゃんが言ったように緊急反撃訓練でした。
通常はもっと普通に上昇するんです。その方が魔力とかの温存にもなりますしね。
「イベントは3時間もあるんだよ?
そんなに全力機動してたら30分持たないよ」
「それもそうだね。じゃあここからは普通に空中戦訓練ね」
「……そう言って熱中するとすぐに加減を忘れるじゃん」
「ん?何か言った?」
「なんでもなーい」
そこからはフブキやミゾレも呼んで4人で空中戦です。
鳥の神様の祝福で進化した私達の強みはやっぱり速さ。
エネルギーは質量x速さの二乗に比例するのだから質量のと~っても軽い私達はとにかく速さを極める必要がある。
高速で交差しながら斬撃を交えていきます。
「もらった!」
「あまいっ」
「くっ、まぶしっ」
私の突きをふわりと避けたツバキちゃんを追うと、そこにあるのは光輝く太陽。
空中戦では太陽の位置も重要です。今みたいに視界を奪われたり、狙って奪いに行くのも大事な作戦です。
そして一瞬動きが鈍ったところにミゾレのキックがさく裂します。
「ぐっ」
「いまだ!」
「なんのっ」
態勢を崩された私はツバキちゃんの追撃をギリギリ受け止めてその反動も利用して急降下して速度を確保します。
空中で止まることは私達にとって死を意味しますからね。
「ふぅ。よぉし、ここからは大技も混ぜて行くよ~」
「あ~ん、やっぱりもう本気モードじゃん」
ツバキちゃんもそんなこと言ってるけど私以上に派手なスキルが好きなんですよね。
ほら、今も相手は私達しかいないのに広範囲攻撃スキルを展開してるし。




