農業の神様
ウィッカさん達はなかなか出すタイミングがないので後書きに呼んでみました。
進化した俺の元に届いた通知。
そこにはデカデカと【神様】と書いてあった。
そうか運営が制限を外すとか言ってたけど、これの為だったのかもしれない。
以前頂いていた海の神様達からの祝福もここに来て復活したみたいだし。
「おほん。もういいかしら?」
「ええ。リースちゃんが怖いから後は大人しくしてるわ」
ディーネさんが元の席に座り、再びミクマリ様が話始めた。
「さてカイリさん。
本当ならもう少し後にお話するべきかとも思ったのですが周囲から一刻も早くという声が余りにも多いのです。
正式な式典はここが完成してからになるかと思いますので、今日は略式の叙任だけになることを許してください」
「はぁ、いったい何のお話でしょうか」
「カイリさん。あなたには新たな海の神となって頂きたいのです。
そして願わくば共にこの世界をより良き方向へと導いては頂けないでしょうか」
そう言ってミクマリ様は俺に頭を下げた。
いやちょっと待って。そりゃさっきの通知で神様になれるみたいな事が書いてあったけど、神様ってそんな簡単になれるものじゃないだろう。
「待ってください。そもそも神様って4人しかなれなくて今は空きは無かったですよね?」
「それならご安心ください。
先ほどボシスに会った時に『今後神様としてカイリさんの上に立つ度胸はあるか』と尋ねたところあっさりとその席を空けてくれましたから」
「そ、そうですか」
あのイルカ野郎。今度会ったら仕事量を3倍にしてやる。
まああいつのことはいいや。
他に気になることと言えば。
「俺は異界の住人ですし、常にこちらに居る事は出来ませんが大丈夫ですか?」
「はい。流石に1年2年と居られないと困ることもあるかと思いますが、1月程度なら大した問題はありません。私達もフォローしますしね」
「というか、神様って他の神様の祝福を受けるだけで簡単になれるものなんですか?」
「ふふっ。簡単ではありませんよ。
異界の住人であるカイリさんが神様になる条件は4つ。
1つ、4柱以上の神もしくは神と同等の力を持つ者から祝福を授かること。
1つ、神の席に空きがあるか、現職の神が交代することを承諾していること。
1つ、特定の分野において突出した能力を持ち、成果を出すこと。
1つ、一定数以上の人や動物、魔物の他、この世界に生きるモノからから認められること。
カイリさんはこれら全ての条件を既に満たしています。
特に最後の1つなんて規定値を軽く超えていて現職の神の中でも上位に位置するんですよ」
「そうだったんですか」
指折り楽しそうに数えるミクマリ様。
ミクマリ様の隣に居るディーネさんは元から知ってたんだろう。終始ニコニコしてる。
そしてチラッと隣にいるリースに目を向けるとこちらもニコニコしてる。
「リースは俺が神様になることに特に反対とかは無い?」
「ええ。カイリ君なら立派に神様出来ると思うし良いんじゃない?」
「でもほら、リースって【神敵】なんて称号持ってる訳だし、どこかで敵対することになったりとか」
「それも大丈夫。あの称号は現存する神様限定らしいし、新たに神になるカイリ君には影響ないでしょう。
それに、私も見てみたいな。神様になったカイリ君が何をするのかを」
「いやそんな期待されても特別なことはしないぞ」
「それは嘘」
ふふふって楽しそうに笑うリース。
俺ってそんなに特別な事なんてしてないはずなんだが。
あ、いや。してなかったら神様にならないかなんて言われないのか?
でも神様らしいことなんて何をすればいいんだろうか。
あとこれ、もし断ったとしても「はい」と言うまで何度でも来るパターンじゃないだろうか。
「はぁ。分かりました。神様にでも何でもなりますよ。
でも神様らしいことが出来なくても怒らないでくださいね」
「それは大丈夫よ。これまでやって来たことをそのまま継続してくれれば良いだけなんだから」
「そうじゃなかったら神様でもないのにこんなに信者は増えないわよ」
「私も街の人にカイリ君の神殿を建てても良いかって聞かれた時は最初びっくりしたけどね」
もしかしてそうなんじゃないかって気はしてたけど、やっぱりここって俺を祀る為の神殿だったのか。
しかも既に着工してるってことはリースもそれ聞かれてOK出したんだな。
「ちなみに神殿前の広場にはカイリ君の像を建てる計画もあるらしいよ」
「それは何としてでも阻止しよう」
「えぇ~。絶対格好いいと思うよ」
「だからだよ」
間違いなく「誰これ」って言いたくなるような出来になりそうだし。
ダンデ達に見られたら絶対笑うだろうし断固阻止だ。
「どうせ作るならイカリヤ達のを作ってくれ。もしくはリースも一緒にするとかな」
「ふむふむ。じゃあ3体の従魔を従えたカイリ君と寄り添う私って構図ならいいのね!」
なぜか乗り気なリースに釘を刺すためにそう言ったんだけど、藪蛇になってしまった。
リースのこのノリはウェディングドレスの時と一緒だ。
暴走し始めたリースを止める術を俺は知らない。
……今度リースのお母さんに相談してみるかな。
はぁ。
あれこれ図案を考え出したリースは脇に置いておいてミクマリ様達と話を詰めよう。
「俺が神様になるとすると、やっぱり農業の神様ですか?」
「そうね。他にも随分と従魔に好かれているようですし、色々なところで救済活動を行って来たようだからそれを加えても良いわね。
後は季節は秋。場所は海底でどうかしら」
「はい。じゃあそんな感じで」
「自分の事なのにそんなに投げやりで良いの?」
「何がどう作用するかまだ分からないですから。
それに出来ない事は出来ないし、嫌なことは嫌っていうから大丈夫ですよ」
「そう。分かったわ。じゃあちょっとそこに立って貰えるかしら」
言われて席を立った俺は一歩前に出る。
どうやら今ここで神様になる為の儀式みたいなのをするみたいだ。
ミクマリ様も俺の正面に立つと、小さく咳ばらいをした後両手の平を俺に向けた。
「海の神を代表し、我、水神ミクマリが汝カイリを新たなる神として認める」
その言葉と同時に祝福の時と同様に俺の体が一瞬光に包まれた。
【現時点を持ちまして神格を得ました。おめでとうございます】
どうやらこれで終わりらしい。
なんかこう、盛大なファンファーレが鳴り響いたり、よく分からない祝詞を延々と紡いだりとかは無いのか。
まぁ卒業式の校長の話と一緒で短いに越したことは無いけど。
俺は自分の姿を確認してみたけど、特に何かが変わった様子はない。
ダンデみたく頭が燃えたりしなかったのは良かったけど、なにも無いのも寂しいな。
ただステータスを確認すれば職業欄に【農業神】と書かれてるから間違いなく神様になったらしい。
スキルも幾つか増えてるし出来ることが増えた感じだな。
後書き日記 ウィッカ編
10月12日
「ウィッカ様。こちらの書類の確認をお願いします」
「あぁ、はいはい。そっちの机に置いておいてちょうだい」
「ははっ」
はぁ。
文官の置いて行った書類の山を見てついついため息が出てしまう。
私が今いるのはグレイル島の仮設テントの一つ。
そこで昨日から書類の山と格闘しているのでした。
急ピッチで復興が行われているグレイル島だけど、それはつまり大量の物資と人員がやってきている訳で、誰かが仕分けや管理をしないと身動きが取れなくなってしまうの。
そりゃまぁゲームだし?
書類の内容はごくごく簡略化はしてくれてるけど如何せん量が多い。
カイリくん達は現場で陣頭指揮を執ってくれてるから、うちのメンバーで事務処理が出来そうなのは私しかいないのは分かるんだけど~。追加って、だから量が多いのよ!
ゴクゴクゴクゴクっ
「ぷはぁ~~」
まったく飲んでないとやってられないわぁ。
世のサラリーマン達が居酒屋やらキャバクラやらに入り浸る気持ちが分かるってものよ。
そこへリースちゃんがお盆に色々乗せてやってきた。
「ウィッカさん、差し入れ持ってきましたよ~」
「きゃ~待ってました、リースちゃん!」
「大変だと思いますけど頑張ってください」
「ええ、任せてね~」
リースちゃんって良い子よね~。
あんな子が家で待っててくれると思えば多少大変な作業だって頑張れるってものよ。
うちの両親は共働きだったけど、私の事を見て同じように思ってくれてたのかしら。
もしそうだったら嬉しいんだけど。
そしていつか私も。って言ってもまだ彼氏すらいないんだけどね~。
「ん~。美味しい。リースちゃんは絶対良いお嫁さんになるわね」
ピリリと辛味の効いたタコわさと金平ゴボウを摘まみながら気合を入れなおす。
さ、もうひと踏ん張り頑張りますか。




