生まれ変わるグレイル島
伏字の意味が全くない伏字をご用意しました。
そしてようやくディーネさんの最初に考えていた役割を果たすことが出来ました。
ここまでより道が長かった。
海中の竜宮王国は問題ないと判断した俺は引き続き後を皆に任せて地上へと上がった。
そこで俺が見たものは昨日とは全く違う島の様子だった。
グレイル島は東西に分かれている訳だけど、その西側。今までは転送門の他、みんなの生産施設があった方は、昨夜の段階では転送門を除いて廃墟になっていた。
それが今や建設中の布で覆われてはいるが、幾つもの建物が立ち並び、町を通り越して街と呼べる規模になっていた。
しかもだ。その建設に携わっているのはほぼ全てこの世界の人たちでプレイヤーの姿は見当たらない。
そう言えば昨日、鳥神様が世界各地から救援が向かっているって言ってたけど、これ全部がそうなのか?
建設中の街を見回っていると同じように回っていたリースを見つけた。
「やあリース。なんか1日で凄いことになってるな」
「うん本当に。でもこれ、ほとんどがカイリ君がやったことの結果なんだよ」
「あ~なんか昨日も同じようなことを言われた気がするよ」
何でも彼らは俺に恩がある人たちらしい。
俺はほとんど面識は無いけど、この1か月色々なところで畑を作って来たり飢餓に苦しむ島を助けて回っていたりしてた。
その時助けた人のほとんどは自分たちのところで手一杯だろうからここに来る余裕はないはずだ。
なら誰が支援に来ているのかと言えば、それらの島の出身の人たちか、その人たちの働きかけで重い腰を上げた国家なんだろう。
と、武装した兵士の一団が俺達を見つけてやって来た。
「そちらにいらっしゃるのはカイリ王陛下でしょうか」
「ああ」
王様呼びされるのもだいぶ慣れてきたな。
俺が呼びかけに応えると、兵士たちだけじゃなく周囲で作業をしていた人たち全員が作業の手を止めて集まると膝を突いて深く礼を取った。
「我らは武国はサドー島出身の者です。水害で滅びかけていた故郷を救って頂きありがとうございました!」
「私は愛国の外れにあるアワズ島の出です。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんはお陰様で今ではすっかり元気です」
「俺んところは陛下が配ってくれた薬のお陰で妻と子供が息を吹き返したんだ」
「俺は」「私は」
口々にお礼を言ってくれる人たち。
中には涙ぐんでる人までいる。
こうして直接大勢の人たちに感謝を告げられると嬉しくなるな。
「えっと、みなさん。
俺はやりたいことをやっただけです。
考えてた事なんて、畑が増えてみんながお腹いっぱいにご飯を食べられるようになったら笑顔が増えるから良いなとか、それくらいです。
その結果、多くの人を救えたのだとしたらそれはその人たちの笑顔のお陰です。
だからもし俺に感謝してくれるのなら、自分と周りの人を笑顔にしてあげてください」
「「はいっ」」
「お任せください。我ら一同、竜宮王国を世界一笑顔で溢れる国になるように身を粉にしてまいります!」
「あ、いや……」
無理はしなくていいよって伝えたかったんだけど。
もう大声で泣きだす人まで出てきて一層収拾が付かなくなってきた。
これどうしようか。
と、そこへ大きくはないのに不思議と良く通る声が響いてきた。
「はいはい、あなたたち。ちょっと落ち着きなさい」
「そうよ。ダーリンを困らせたい訳じゃないでしょ?」
人垣の中に自然に道を作って悠々とこちらへと向かってくる2人。
この声は水神のミクマリ様とディーネさんか。
「ごきげんよう。カイリさん」
「ただいま、ダーリン」
「こんにちは、ミクマリ様。ディーネさんもおかえり。
このタイミングで来たって事はボシスの件ですか?」
「それもあるけど。まぁまずは場所を移しましょうか」
「あ、そうですね」
周りを見れば神様の登場で更に頭を深く下げている人々。
俺達がここに居る限り、彼らもこのままだろう。
ただ困ったことに場所を移すにしてもどこが良いだろうか。
以前と違って今はどこに何があるのかさっぱり分からないし、海中も部屋らしい部屋は無いから今度は魚人族のみんなが集まってくるだけだろう。
そう思っていたら最初に声を掛けてきた兵士の人が言った。
「陛下、現在神殿を建設中です。装飾などはまだありませんが、会談に使うにはちょうど良いかと思われます」
「そんなものまで作ってたんだ」
「もちろんです。現在最優先事項の一つです」
「は?」
「ささ、どうぞこちらへ」
誤魔化すように先導を始める兵士の案内に従って島の中央に建設中の建物へと移動する。
部屋に案内されて仮設の椅子に座るとすかさずお茶が運ばれてきた。
「あ、この香りは東側で育てていたハーブかな」
「はい。東グレイル島の農園は被害は余りありませんでしたので」
「そっか。後で様子を見に行かないとな」
あっちはカウクイーンを始め陸上で活動する従魔たちが防衛に参加していたはずだし、誰かがやられたという話は聞いていないので大丈夫だとは思うけど心配は心配だからな。
その為にもまずはミクマリ様達の要件を済ませてしまおう。
「あ、そうそう。昨日は救援物資をありがとうございました。
無事にミズモから受け取りました」
「そう、それは良かったわ」
「それで、ミクマリ様は本日はどのような要件で来られたのですか?」
「それなのだけど」
お茶を優雅に飲みながら笑顔を見せるミクマリ様。
笑顔というかとても清々しい表情というべきかな?
「海神が竜宮王国に居るって聞いたからお説教をしに来たのよ。元々はね」
「元々は、ということは変わったんですか?」
「ええ。竜宮王国であれが顎でこき使われているのを見てたらもうどうでも良くなったわ。
話してみたら完全に鼻っ柱も折られてたしね。
だからもう一つの用事を済ませるために来たの」
「あ、待って待って。それを伝える前に私から話をさせて」
そう言ってミクマリ様の話を遮ったディーネさん。
ミクマリ様が何も言わないところを見ると元々その予定だったのか、それともそれほど重要な話なのか。
何だろうと思っているとディーネさんが立ち上がり、何故か俺の前に立った。
何をする気だろう?
心なし真剣な眼差しで俺を見つめている。
「ダーリン。元海の神としてあなたに神の祝福を授けます」
ディーネさんはそう言った後、そっと俺の両肩に手を置くと顔を近づけておでこにキスをした。
「!!」
光に包まれる俺。隣からリースの息を吞む音が聞こえてきた。
でも俺はと言えばどうしていいか分からず身動きが取れない。
そのままディーネさんが離れると光は消えていった。
「本当は最初に会った時にこうするつもりだったのよ。
それなのにダーリンったら全く違う事を願うんだもの。困っちゃったわ」
ウィンクしながら驚く俺を見ていたずらが成功したと喜ぶディーネさん。
ただ俺は同時に流れてきたシステム通知のせいでそれどころじゃなかった。
【おめでとうございます。4つ目の祝福を獲得しました。
これにより※※になる資格を得ました。
他のすべての条件を満たせば※※になることが可能です】
後書き日記 リース編
10月11日
怒涛の1日が明けた朝。
学校に行く前にアルフロにログインすると多くの船が港へと押し寄せていました。
どの船もこの世界の人たちの船で、プレイヤーの船は無さそうです。
恐らく昨日鳥の神様が仰っていた救援に駆けつけてくれた人たちなのでしょうね。
港に着くなり木材や石材などの建材を降ろしているし間違いないでしょう。
っと、その中の一団が私を見つけて挨拶してきました。
「そちらにいらっしゃるのは地獄の料理長ことリース王妃でしょうか」
「……その二つ名で呼ぶという事は愛国の方ですか?」
「はっ。我らは『愛の試練』親衛隊です。
リース王妃の母国が災害に見舞われたとの情報を受け救援に参りました」
「そうでしたか。どうもありがとう」
『愛の試練』というのは愛国に作ったレストランの名前です。
親衛隊なんていつの間に出来たんでしょうね。
多分常連客が勝手にそう名乗ってるだけな気もします。
あの国ってそういう所がありますし。
……って、王妃!?
王妃ってことは王様のお嫁さんな訳でつまり王様のカイリ君のお嫁さん!!
いや待って待って。まだ結婚とかしてないんですけど!
「愛の女神様も『あやつが忙しいと新作が出ないのじゃ。とっとと救援に行くのじゃ!!』と仰せでした」
「あ、そう……。ふぅ。まったく素直じゃないわね」
「ははっ。全くです」
内心あわあわしていたところに気の抜ける話を差し込まれたお陰でちょっと落ち着きました。
あぶないあぶない。
あれ、でも待って。救援に駆けつけてくれたのは嬉しいのだけど、月末また襲撃があるんだけど。
そう伝えたら、
「なら今度は魔物に襲われても大丈夫な街を造りましょう。
法国からは最新の結界魔道具が届いていますし、武国と愛国からは防衛軍を派遣する予定です。
なに。飛竜の100や200、余裕で撥ね退けてみせますよ」
「そ、そう」
いやそれ。多分桁が1つどころか2つくらい違うんですけど。
これは今度のイベントは街の防衛も重要になってくるって事かしら。
「それでその、折り入って相談があるのですが……」
「何かしら。今は(登校時間まで)あまり時間が無いから手短にね」
そうして街の再建について幾つか相談を受けた後、私はログアウトして学校に行きました。
夜になったらカイリ君の驚く顔が見れるかもしれませんね。




