復興支援
遅くなりました。
バタバタしてたらあっという間に1週間が過ぎ去ってる。
魔物たち用の畑がある程度形になったところで後を任せた俺は農場へと戻ることにした。
そこでは戻って来た魚人族のみんなが、魔物を馬車馬のように使いながら復興作業を行っていた。
「ほらあなた達、キビキビ働きなさい。あなた達が壊したんでしょう?
遊んだ後は片付けるの。よく覚えておきなさい。
サボったらご飯あげないんですからね」
「ぎゃぎゃっ」
「そっちの白と黒のも。あんたは目を離すと直ぐ怠けようとするんだから。
いい機会だし、その腐った根性叩き直してあげるから覚悟しなさい」
「ひぇぇ~~」
良く見ればユッケの母親のアライ女王様までいる。
他にもホッケ族の国に居た魚人たちも居るから避難していた人たちと一緒に復興の手伝いをしに来てくれたみたいだな。
あとでお礼を言っておかないと。
それにしても本来1対1で戦えばまず勝てないはずの魔物がヘコヘコしてる。
女王様のああして指示をしている姿はまさに肝っ玉母ちゃんのようだ。
女は強い、母はもっと強いってことだろう。
……ということは、将来的にはユッケもそしてリースもああなるのか。
あと、その白と黒の奴は一応神様なんだよ?
若干戦慄を覚えながら作業を眺めていた俺をユッケが見つけて声を掛けてきた。
「あ、主様。ご無事でしたか」
「うん、何とかね。それにしてもこれは凄いね」
「はい。最初魔物たちが戻って来た時にはどうしようかと思いましたが主様の訓戒を受けた彼らは心を入れ替えて働いてくれてます。この調子なら2、3日で元通り、とまではいかないまでもおおよそ復旧できそうです」
「そうか、それは良かった。
ただ厳しくすると反乱をおこす恐れもあるから気を付けて。何事も飴と鞭だよ」
「心得てます。というか、そういう匙加減はお母様が得意ですから大丈夫でしょう」
「そうみたいだね。厳しくも褒めるところはしっかり褒めてるし」
若干叱られて喜んでる魔物も居る気がするけど、まぁ大丈夫だろう。
「さぁ、こちらは私達だけで大丈夫ですから地上の様子も見に行ってあげてください」
「うん、ありがとう。じゃあ頼むな」
農場の方もヤドリン達を中心に精霊たちが頑張ってるから大丈夫か。
俺を見つけたヤドリンがくぃっといつもの礼をした後に上を指さしてるから「ここは任せて」って事なんだろう。頼もしい限りだ。
そうして地上へと上がった俺が見たのは、例えるなら東京大空襲の後の焼け野原だ。
黒龍の襲撃があったとはリースから連絡を受けてたけど、また随分と手ひどく破壊されたものだ。
また島の外を見れば、多くの船が島を離れていくところだった。
大方イベントが終わったプレイヤー達が帰っていったってところか。
島に残っているのは100人前後。
その中に見知った顔があったので声を掛けることにした。
「やあ、ダンデにインガルスさん。二人も来てたんだな」
「ようカイリ。俺達はトップ攻略クランだからな。例え報酬がしょぼくてもこういうイベントには積極的に参加するさ。
それより悪かったな。俺達がここで戦ったせいで島の施設への被害が大きくなっちまった」
「いやいや。大部分は黒龍のせいだって聞いてるし。ダンデ達が居なくたって魔物の襲撃があればそれなりの被害は出てたさ」
「にしても薄情な奴らだよな。せめて後片付けくらいはして帰れってんだ」
島を離れる船を見てインガルスさんが悪態をつく。
どうやら今残っている人のほとんどが『太陽の騎士団』と『大草原』のメンバーのようだ。
イベント終了後で疲れてるだろうに、文句の一つも言わずに片付けをしてくれている。
「ところでうちのメンバーはどこだ?」
「ん?ああ。お前の愛しのリースならあっちで炊き出ししてるぜ」
「愛しのって。まぁいいけど」
俺はニヤニヤ笑うダンデに蹴りを入れながら別れるとリースの元へと向かった。
リースは他のみんなと一緒に残って片づけを手伝ってくれてる人たちに、豚汁っぽいのを配っていた。
「リース、お疲れ様」
「あ、カイリ君。カイリ君もお疲れ様」
「海底もボロボロだけど、こっちもだいぶ手ひどくやられたね」
「そうなの。次にあの黒蜥蜴が来たら絶対今日の事を後悔させてやるわ」
「あはは」
リースの気合に自然と笑えてしまった。
これだけの被害があっても元気そうだし心配はいらなそうだな。
「ところで今のところ復興の手は足りてる?」
「うん、ダンデやインガルスさん達が手伝ってくれてるから大丈夫かな。
あ、でも物資が全然足りないの」
「そうだろうなぁ」
元々それほど多くの施設があった訳じゃないけど、コツコツとアップグレードを繰り返してたし質は高かったし。それらがすべてほぼ全壊になってしまっている。
更に言うと俺達は食料や衣服、薬品関連は得意だけど建築系はそれ程でもないから建築資材は持ち合わせがほとんど無い。
なけなしの物資はイベントの防衛用に使いきってしまったからな。
急いで他国から調達してくるしかないか。
そう思ってた所にダンデの慌てた声が聞こえてきた。
「カイリ、南の空から魔物の大群だ!」
「なんだって!?」
慌てて島の南に向かえば、入道雲と共に確かに多くの魔物たちがその翼を羽ばたかせながらこっちに向かってくるところだった。
まさかイベントで南に抜けた魔物たちが戻って来たのか。
こっちにはもうほとんど戦力が残って無いっていうのに。
でもイベント自体は終わってるんだ。もしかしたら通り過ぎるだけかもしれない。
「全員、警戒態勢のまま待機。上手くすれば素通りしてくれるかもしれない。
こっちからは手を出さないで様子を見よう」
「「おうっ」」
緊張した俺達を見つけた魔物たちがその進路を修正した。
まずいな、こっちからはまだ遠くてよく見えないけど向こうから完全にロックオンされたぞ。
こうなったらもうひと踏ん張り頑張るしかないか。
「やるしかないか。全員せ「ミィーー」ん?」
先頭を飛ぶ魔物から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
ってあれはミズモか。
また一緒に来たサクラさんとツバキさんも何かに気が付いたみたいだ。
「カイリさん。あれ多分、鳥神様の所の人たちです」
「うんうん、あの暖かそうな羽毛は間違いないよ」
「なら敵じゃなさそうだな。しかしなぜこのタイミングで?」
首を傾げる俺の所にミズモが嬉しそうに飛んできた。
羽を仕舞って甘えるように頬擦りしてくるところは大きくなっても変わらないな。
「よしよし。良くここまで飛んで来れたな」
「ミィーー」
「しかし今日はどうしたんだ?」
「それは我々から説明しよう」
そう言ったのは空の神様たち。
彼らとは以前サクラさん達に頼まれて雲の上にイチゴ畑を作った時に会って以来だ。
それがそろい踏みということは空の方でも重大事件が発生したって事だろうか。
「いやなに風の噂で龍神の奴が暴れていると聞いたのでな。
あれが君に迷惑を掛けてしまっていると思って何か役に立てないかと思ってきたのだ。
そちらの空飛ぶミミズ君も水神から連絡を受けて救援物資を運んできたようだぞ」
「ミィ」
確かに言われてみればミズモの背中には木箱が積まれている。
これを落とさずに飛ぶのは大変だっただろうに。
「それに救援に来るのは我々だけではないようだぞ。
途中、幾つもの船がここに向けて出港していたのを見かけたからな」
「そうでしたか」
一瞬運営による救済策かと思ったがそうではなかった。
「皆考えることは同じだ。君に恩返しをしたくて仕方ないのだろう。
空を飛べる我々が一足先に辿り着いたという訳だ。はっはっは」
「ミィミィ」
空の神様たちとミズモは1番になれたのが嬉しかったみたいだけど、救援に来た順番で言えばアライ女王様の方が先だったりするんだよな。
ま、それは言わなくてもいいか。
後書き日記 リース編
10月10日 23:10
イベント終了の23時になると魔物たちは早々に引き上げていきました。
それを追撃しようとしたプレイヤーも多少居ましたが相手は既に海上に出てしまっているので呆然と見送るしかありません。
そして、それまで忙しなく戦いを繰り広げていたプレイヤー達はまるで夢から醒めたように別れの挨拶をするとさっさと船に乗って帰っていきました。
あ、船は格納出来るから無事だったんですね。
無駄に居残られても面倒なのでそれは良かったのですが、残ったのは祭りの後の惨状。
といっても本当の祭の後のように食べ物の容器やゴミが散乱している訳ではないのですが、ほぼ原形を留めていない各施設と破壊の限りを尽くされた島だけ。
彼らにとってはこのイベントの為だけの場所なのでしょうが、私達にとってはそうではありません。
せめてもの心遣いで後片付けくらいはしていって欲しいものです。
そう思っていたところにダンデとインガルスさんのクランが片付けの手伝いを申し出てくれました。
これですよこれ。
日本人なら義理と人情を忘れてはいけませんよね。
まぁあの人たちが日本人かどうかまでは分かりませんが。
さて私は折角なので手伝ってくれた皆さんの為に美味しい料理でも振る舞いましょう。
やっぱりこういう時に作るものって言ったら豚汁ですよね。
あ、でも豚肉を切らしてるんだった。
なら折角だしさっきの魔物を倒した時に手に入った肉を使ってみましょう。
北の魔物の肉って美味しいのかしら。
少なくともレア度は高いし素材の説明書きには食べられるって書いてあるから大丈夫よね?




