イベント2日目の畑
まずい、リアルが忙しくてストックが減ってきた。
子供たちと一緒に昨日の畑に行けば、確かに芽が等間隔に生えて来ていた。
けどこれ、うちの畑のとは違うな。
「なぁ、この畑って何が出来るんだ?」
「え、なんだよ兄ちゃん。そんなことも知らずに耕してたのか」
「この村の畑で普通に耕したら出来るのなんて決まってるよ」
「そうそう。常識だぜ」
そうなのか。
でも今、聞き捨てならない言葉があったな。
『この村の畑』の『普通に耕した場合』か。
つまり、村ないし土地ごとに基本作物が決まってるってことか。
そして基本作物以外が欲しかったら、普通じゃない耕し方をすれば良いと。
それが種植えなのか肥料なのか、はたまた水田のようにそれ専用の畑を作らないといけないのか。
その辺りはお爺さん達に聞いた方が良いかな。
「それで結局何が出来るんだ?」
「二日大根と早豆さ」
「手前半分が二日大根だね!」
大根と豆か。
名前からして普通の作物より早く育ちそうだな。
多分イベント用に収穫出来るようにっていう配慮なんだろう。
「それで、今日はなにしようか」
俺がそういうと少年の一人が「はぁ~~」と呆れたため息をついた。
「兄ちゃん、農家なのにほんと何も知らないんだな。
早豆が芽を出したら竹竿で支柱を立ててやらないと」
「なるほど。つる植物だもんな。
それで、その竹竿はどこにあるんだ?」
「あっちの納屋にあるぜ!」
そう言って畑の脇に建てられた納屋に連れて行かれる。
納屋の中には、竹竿を始め各種農具や肥料と思われる袋も置いてあった。
竹は直径1センチくらいの細い品種で草の弦が巻き付きやすそうだ。
俺達は竹竿と短い麻紐の束を持って畑へと戻る。
「いいか、兄ちゃん。
竹竿は2つの畝の外側に20センチおきに刺すんだ。
で、3本ずつ刺したら、それを纏めて上の方を麻紐で縛る。
そうするとちょっとやそっとじゃ倒れなくなるし、竹竿のトンネルが出来るんだぞ」
「ほうほう。こんな感じか?」
「お、上手い上手い」
見よう見まねでやってみたら褒められた。
でもこれ、一人で竹を拾い上げて、地面に刺して、紐で縛るんじゃ上下の動きも激しいし効率が悪いな。
「よし折角4人いるし分担して進めようか。
竹を拾って渡す役と、左右の畝に刺す役、そして刺した竹を縛る役だ」
「おっけー」
「じゃあ俺、左側を刺していくな」
「俺右側~」
「あ、ずっりぃ。俺も刺したいぞ」
「はいはい、じゃあ順番に交代な。畝は6列あるんだから3回行き来することになるからな。
1本終えたら役割交代な」
「「はーい」」
そうして分担して支柱を立てていく。
ちなみに俺は縛るの専門だ。4人の中で一番背が高いからな。
それに3人の息のあった連携と地面に竹を刺すのを楽しんでるのに水を差すことも無いだろう。
「みんな~お昼ご飯にしましょう~」
丁度支柱を立て終えた所でリースの声が聞こえてきた。
どうやら夢中になって仕事している間にお昼になってたみたいだ。
皆で公民館に戻ると玄関で村のお婆さんたちに迎えられた。
「どうも、ありがとうね~。
うちのやんちゃ坊主共が自分から畑仕事に行くのを初めて見たよ」
「ほんとねぇ。異界の人達が来たときはどうなる事かと思ったけど、私の孫も昨日突然、針仕事を教えてくれって言うものだから、どうしたのかと思ったらあなた達の一人に服の穴を縫ってもらったのが恰好良かったらしくてねぇ」
「まぁ、ちょいちょい悪さをするのも居るみたいだけどね。
うちのお爺さんは凄腕の猟師だったんだ。
だからそんな人はポイっと摘み出してくれるよ」
「そうさ。だからあんまり無理はしないようにね」
「あ、はい。ありがとうございます」
畑仕事のお礼を言われただけかと思ったら、どうも昨日の1件も広まっているらしい。
まぁあの時、村の子供も巻き込まれてたし、小さい村だしね。
「ほら、クルミ。勇者様のお帰りだよ」
「ちょ、おばあちゃん!!」
お婆さんが奥に声を掛けると、慌てた感じで10歳くらいの女の子が飛び出してきた。
ただ俺の顔を見るなり、赤くなってお婆さんの陰に隠れてしまった。
「あの、昨日はその、ありがとう、ございました」
「うわっ、クルミの奴赤くなってる~、あだっ」
「こら茶化さないの」
必死になってお礼を言ってくれた女の子、クルミちゃんに目線を合わせた。
「昨日は怖い目に合わせてごめんな。
怪我とかはしなかったか?」
「うん。お姉ちゃんも守ってくれたから」
「そっか。そのお姉ちゃんも奥に居るの?」
「うん、こっち」
そう言って奥に向かうクルミちゃんに続いて居間に行けば昨日の女の子が居た。
あの時は気付かなかったけど、獣人族か。狐っぽい耳が髪の中からこっそり顔を出している。
服装は初期装備の俺なんかとは違い、ワンピースの女の子らしい服装だ。
「こんにちは」
「あ、はい。昨日は助けて頂きありがとうございました」
「うん、無事でよかったよ。
俺はカイリ。君は?」
「レイナです。って私の事、知ってた訳じゃないんですね」
んん?あぁ。
昨日適当に呼んでみたんだけど、もしかして当たってたのか。
「昨日のあれは咄嗟に思いついた名前を呼んだだけだったんだ。まさか当たってるとは思わなかったよ」
「てっきり以前会った事あったのかと思ってちょっと焦ってしまいました。
あの、それで……」
「はーい、ごはん出来たわよ~」
レイナさんが何か言いかけた所でリースがお盆を持ってやってきた。
丁度良いし、話の続きは食べながらだな。
後書き日記(続き)
カイリさんを見送ったあと、さっそく厨房へと向かいました。
さて、まだお昼には時間がありますが、何を作りましょうか。
カイリさんからのリクエストはお吸い物なので、ツミレはそれに使うのがほぼ確定です。
なので残りの食材で何を作るか、ですが。
そう言えば、昨日はお茶を教えてもらいましたが、普段のこの村の食事は何を召し上がってるのでしょう。
おばさんに確認したところ、この村で採れる大豆、大根、芋、隣村で採れる小麦、それと山菜類。
これらを使った雑炊やパンが主な食事だそうです。
……小麦がありました!!
最初の街でもパンは売っていたから、小麦があることは分かっていましたが、買える場所はありませんでした。
今日は折角なのでこの村の料理を教わるとして、明日は小麦の買い付けに行きましょう。
小麦が自由に使えればパンを始め、麺類や点心、ピザ……はチーズが無いと厳しいかもですが、それでも料理の幅はかなり広がります。
いざ料理を、と思ったところでレイナさんが来ました。
レイナさんとは昨日の一件ですっかり仲良しです。
今日はどうやらここの1室を使って、村の繕い物を村人たちと一緒にやるそうです。
と、折角なので今朝考えていたことを相談しておきましょう。
でもレイナさんって見るからに争いごとは苦手そうなんですよね。
昨日の感じからして気が弱いってことはなさそうだけど。
聞けば直接戦闘は苦手でこのゲーム始めてからまだ1度も魔物と戦ってないそうです。
これまではずっと街で生産系クエストをこなしていたと。
スキルも裁縫に特化していて戦闘に使えるのはぱっと見ありません。
あ、別にダメなんて事はないですよ。
むしろそれが普通だと思いますし。
でもこうして改めて確認すると生産職は戦いには向いてないですね。