黒幕の正体
システムから通知が来た。
どうやら王都陥落=即滅亡とはならないらしい。
でもイベント自体はまだまだ継続中だし、街への攻撃が終わった分、こっちにくる魔物の密度が上がっている。
俺はイカリヤを戻して遠距離から攻撃してくる魔物を蹴散らしてもらいながら、この状況をどう打開するかを考えた。
(北の魔物にここまで知恵があるとは予想外だったな。もっと無秩序に攻めてくるかと思ったのに)
建物は破壊して回っていたのに畑は作物を齧られてるけどほぼ無傷だ。
まるで占領した後の事を考えているかのようだな。
って、そうか!
この魔物がただの群れではなく軍なら将が居るはずだ。
軍隊を相手にするならまず頭を落とすのは鉄則だったよな。
「みんな、魔物の中に指揮を執っている奴が居るはずだ。それっぽい奴を誰か見てないか?」
「「……」」
「あー、それっぽいじゃ分からないか。例えば一人だけ動いて無かったり、偉そうにしてたり、他の魔物と雰囲気や見た目が違ったりとか」
「……きょっ。きょきゅいっ」
どうやらイカリヤが突撃した時に、死糸花を抜けたすぐの所にそれっぽいのを見かけたらしい。
しかしなんだ?白と黒の可愛い見た目の奴が居たって。パンダか?
いやいくら何でもパンダは海に居ないだろう。
「まぁいいや。とにかく畑は襲われないみたいだから、ここからはそいつを倒しに行こう」
「「(コクり)」」
「ヤドリンは敵を蹴散らして道を作る役を頼む」
「くぃ」
「イカリヤとコウくんは、コウくんのスキルで潜伏してボスの背後に回ってくれ」
「きょっ」
「ぴっ」
ヤドリンが海底を巻き上げるように右腕を振り上げれば、城の残骸などが舞い上がり一瞬だけ俺達の姿を隠した。
その隙にイカリヤとコウくんは物陰に隠れた。
それを見届けた俺達は作戦を開始する。
「よし、じゃあ俺達は派手に動いて魔物の目を惹きながら正面突破しようか」
「くぃ!」
俺達はドッカンドッカン魔物の群れを吹き飛ばしながら突き進んでいく。
幸い今のところヤドリンを止められるほど強い魔物は居ない。
そうして進むことしばらく。
遂にイカリヤが言っていた白と黒の魔物が見えてきた。
魔物というか、あれは……イルカ?
イルカといえば賢くて愛嬌があって、水族館では人気のキャラではあるが、その実、自然界では殺し屋の異名を持つ程に獰猛な事が知られている。
ただ今俺達の視線の先にいるのは水族館側の雰囲気だ。
っと、どうやら向こうも俺達を視界に納めたようだな。
周りの魔物達をヤドリンに任せて俺はイルカの魔物と相対した。
「お前がこの魔物達のボスか?」
「ほう。お前達が報告にあっためちゃくちゃ強い奴らか。
よくこの魔物の攻勢を潜り抜けて俺様の所まで来れたな。
褒めてやるぞ。はっはっは~」
何とも上から目線で話すイルカ。
というか、普通に話ができるってことは魔物じゃないのか?
ま、プライドは高そうだし煽ってみるか。
「あ、低能な魔物かと思ったら喋れるんだ。
凄いなぁ。よしよし」
果たしてこんな見え透いた幼稚な煽りに引っ掛かるだろうか。
「て、てめえ!俺様を誰だと思ってやがる」
「いや知らないし。え、ただのザコキャラじゃないの?」
「くぅ~~」
わざと呆れたように振る舞えば地団駄踏む勢いで悔しがっている。
ひとまず沸点の低い馬鹿だってことは理解出来たな。
ま、前哨戦で出てくる位だからラスボスって事はないだろう。
「で、自分に酔ってる哀れな魚くんは誰なんだ?」
「ふっ、語るに落ちたな。
いいかよく聞け!……イルカはな。魚じゃないだ!!」
「あっそ」
「むきぃぃ~~」
ダメだ、からかうのは面白いけど話が進まない。
コウくん達は無事にあいつの背後に回れたし時間稼ぎも十分だな。
「で、結局お前はどこの誰なんだ?」
「ふっふっふ。仕方ないな。よぉく心して聞け。
俺様は大いなる大海を司る神、ボシス様だ!!」
これでもかと胸を張るイルカのボシス。
ボシス?どこかで聞いたような……。
あ、それ以前にこの世界に海の神様は4柱しか居ないはずだから、間違いなく他の神様たちが話してたあいつか。
「例の仕事サボって北に逃げた神様か。コミュ障のボッチの可哀そうな奴だっけ」
「だ、誰だそんなこと言った奴!」
「え、水神のミクマリ様だったかな」
「あんの陰険ババアめ!!」
いやそれ、本人に言ったらぶち殺されると思うぞ?
でもそうか。こいつが会えてなかった最後の神様か。
……でも待てよ?もしかして今回の騒動もこいつのせいなのか?
「なあ、この魔物たちを操ってるのはお前なのか?」
「ボシス様と呼べ! まあそうだぞ。俺の魔物を操る能力で北に居る魔物たちを集めてきたんだ」
「たった1人で数十万の魔物を集めたのか。そこだけは凄いな」
「そうだろう。そうだろう」
「でも何でここを攻めてきたんだ?南の海域を攻めるだけなら、こんな狭い海溝で大渋滞しながら進むより分散して南下した方が楽だっただろう」
「そりゃお前。ここに美味いものがあるって聞いたからな」
「は?」
美味いものって言われたらうちの畑の作物しか心当たりはない。
いや、心当たりもなにも間違いなくそれだな。
以前から精霊たちにお願いして畑の作物の放流を行っていたが、それが北の海で「ここに来れば美味いものにありつける」って噂になっていたようだ。
つまりは今回の襲撃イベントの原因は俺か?
なら人的被害も無いし畑もほぼ無事だから魔物達については多少多めに見てもいいか。主犯のこいつは許さないけど。
というか、北の海にはこんなに腹を空かした魔物がいるのか。
「もしかして魔物の中にはボシスの命令というよりも食料欲しさに集まった奴らもいるのか?」
「ま、まぁちょっとは居るだろうな」
目を逸らすボシス。これはちょっとどころじゃなさそうだ。
それなら今ここでボシスを倒しても襲撃が止まったりはしないって事か。
「ここを襲撃した理由は大体分かった。でも、ここを占領しても今実ってる分を食べ尽くしたら終わりだぞ?
多分ここに来た魔物の1/10も腹を満たすことはできないな」
「そんな馬鹿な。畑なんてものは放って置いても作物が実るものだろう?」
「それこそ馬鹿な話だ。畑はきちんと耕さないとあっという間に雑草だらけの荒れ地になるだけだぞ」
それを聞いたボシスの顔が青くなっていく。
多分集めたは良いものの自分で管理できる数を大幅に超過してしまってるんだろう。
「もし今の話を周りの魔物たちが知ったらお前はどうなるんだろうな」
「おおお終わりや。作物の代わりに俺様が奴らに食い殺される!」
ガタガタと震えだして逃げ場を求めて視線を彷徨わせるボシス。
その背中をイカリヤの殺気が撫でると、進退極まって縮こまってしまった。
「なんだ。神様なんだから強いんじゃないのか」
「馬鹿っ。俺様頭脳労働派だぞ。戦闘はからっきしだ。北の海で生きてこれたのだって魔物を操る力のお陰だ」
「そっか。まあ俺としてはお前が死んでも何一つ困ることは無いし。
北の魔物は残酷だから多分生きたまま食われるんだろうな。罰としては丁度いいか。
ヤドリン。適当に周りの魔物で話の通じる奴に今の話を伝えてもらって良いかな?
多分だれか1体に伝えれば伝言ゲームであっという間に全体に広がるだろう」
「くぃ」
俺の言葉にちょっと清々したって感じで返事をするヤドリン。
しかしヤドリンがすぐ近くの貝の魔物に声を掛けようとする前に俺の足にボシスが縋り付いてきた。
「お、お願いします。神様仏様海王様! どうか助けてください」
「いや神様はお前だろう。それに自分でやったことの責任はキチンと取らないとな」
「そこを何とか。俺様に出来る事なら何でもしますから!」
めちゃくちゃヘコヘコしだしたんだが。
はぁ。何というか神様としての威厳みたいなのはないんだろうか。
さっきまでの偉そうな態度はどこいったよ。
あと俺は海王でも何でもないって。
でもま、こんなのでも神様なら多少は使えるのか?
「よし、ならお前には魔物たちへの通訳をしてもらおうか。
それで無事に魔物たちの襲撃と暴動を抑えられたら今は命までは取らないでいてやる」
「ははぁ!」
「まずは海底の街や畑を荒らしている奴らを止めさせろ。止めないと俺のアイテムボックスにある食料は分けてやらないって伝えれば一発だろう」
「そうですね。間違いないでしょう」
「体力が余って暴れたい奴らには、この海溝を南に抜けたすぐの所にいる船を襲うように伝えろ」
「え、よろしいので?海王様の仲間の船なんじゃないんですか?」
「仲間って訳じゃないから大丈夫だ。どちらにも被害は出るだろうが気にしなくて良いだろう。
あ、それが終わったら戻ってくるように伝えろよ。戻ってこないと食事にありつけないからな」
「分かりました!!」
そうして俺はボシスを顎で使いながら事態の収拾に乗り出した。
あ、イカリヤ。街を壊されて怒ってるのは分かるけど、ボシスを剣でチクチク刺すのは程々にしておくように。
後書き日記 リース編
黒龍は結局ブレスを1度放った後、ぐるっと大きく旋回して北へと帰っていきました。
どうやら今回は小手調べというか様子見というか、とにかくそんな感じだったみたいです。
そして黒龍と入れ替わるように魔物の第2波がやってきました。
ただし今度はこの島を目指しているのではなく更に南を目指しているようです。
その証拠に島の外周より東西に大きく展開して飛んでいきます。
私達としては襲撃の密度も下がったので今の内に態勢を立て直すことが出来たので一安心です。
しかしやっと一息つけたと思ったところで今度は島の南側が大変なことになっていました。
そこには島に上がれなかったプレイヤーの船が多く居たのですが、そこへ海中から魔物の大群が押し寄せています。
え……待ってください。
魔物たちは海中を通って行ったんですよね?
ならその途中に居たはずのカイリ君はやられちゃったんでしょうか。
心配して連絡を取ってみれば何とも元気そうな声が聞こえてきます。
安否確認の一番が畑っていうのはカイリ君らしいですね。
ただ幸いにもカイリ君達は無事だけど街は破壊されてしまったようです。
『覆水盆に返らずなんて言うけど、街はまた造れば良いから。
大丈夫大丈夫』
そうカラカラと笑う声を聞いてるとこっちまで元気になってきました。
そうですよね。落ち込んでても壊れたものは直らないですし。
後日にメインイベントが控えてるって事は今回の借りを返す機会も用意されてるってことですよね。




