前哨戦という名の○○ゲー
10月10日 19:30 竜宮王国
今日は20:00から前哨イベント、つまり小規模ながらも北の魔物たちが結界を越えて攻め込んでくる。
イベント告知のお陰で来るタイミングが確定しているのは有難いが、問題はその小規模っていうのがどれくらいかなのかが分からないところだ。
だから俺達は最大限の警戒を持って当たることにした。
「主様、一般住民の避難完了しました」
王城前でみんなに指示を出していた俺の所にユッケが報告に来た。
ユッケには魚人族を代表して避難誘導をお願いしておいたんだ。
「うん、ご苦労様。女王様には無理を聞いてくれてありがとうと伝えておいて」
「はい。しかしお母さまはむしろやっと借りが返せると喜んでましたよ」
ユッケの母国のホッケ族の国はここより南西にある。
4大国家よりも北側に位置するからイベントの領域内ではあるんだけど、それでも最前線のここより安全だろうという判断だ。
現在魚人族で竜宮王国に残っているのはユッケ以下100人くらいだ。
本当は2000人は戦える人が居たけど、腕の程を聞くとそのほとんどが南の魔物でさえ1対1でギリギリくらいだったので今回は無理せず各地の防衛に回ってもらった。
残った100人は部隊長クラスだ。
「本当はユッケにも避難して欲しかったんだけどな」
「何を言いますか。家を守るのは女の役目。たとえ災厄が襲い掛かろうと、主様の帰る場所を守り抜きます!」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど『命を懸けて』は無しにしてくれよ。
お前達が生き残ってくれれば後はどうとでもなるんだから」
「うぅ~~」
不満そうに唸るユッケ。
だけど俺達プレイヤーは倒されたって復活地点で蘇るけどユッケ達はそうはいかないだろう。
だからこんなイベントごときで命を懸ける必要はない。
「それにもしもの時は国を守るためにここに留まって戦うよりも大事な役目を魚人族のみんなにはお願いしたいんだ」
「ここで戦うよりも大事な事、ですか?」
「ああ。それこそ命の危険があるんだけど、頼めるかな?」
「もちろんです!」
「よし。なら魔物の誘導をして欲しいんだ。
言い換えると囮役だな」
もしもの時。つまりは予想以上に魔物が多くて俺達だけでは対処が無理と判断した場合だ。
その時は魚人達の泳ぎに期待して魔物たちを海溝を南に抜けて更にその先の海上へと誘導してもらう。
「そこまで行けば今回の騒動を聞きつけてやってきた異界の住人の船が居るからそいつらに助けを求めてくれ」
「なるほど、主様の同郷の方々と共同戦線を張るのですね!」
「いや、みんなは異界の住人の船と魔物たちの交戦が始まるのを見届けたらそのまま避難してくれ」
「え、それではまるで」
「大丈夫大丈夫。どうせあいつらは戦いたくて仕方ない戦闘狂みたいな奴らだから」
戦いに消極的な人なら4大国家付近に居るだろうし、ここまで北上してくるってことはやる気に満ちてることだろう。
後は魚人族が救援を求めるってのが戦闘開始の合図の為のイベントシーンと思ってもらえたら御の字だ。
俺が同じ事したらモンスタートレインだとか擦り付けだとか言われるだろうけどな。
「よし、これで海中の準備は完了だな」
「はい」
後は地上か。
グレイル島に関してはリースを中心に準備をお願いしてある。
『リース、こっちは準備終わったけどそっちはどう?』
『こっちも大丈夫よ。人獣たちはダームさんの元の住処に避難してもらったし。
ただイベントに合わせてやって来た人でごった返してるけど』
『もし多くなり過ぎるようなら入島制限掛けちゃって良いから』
『もう掛けたわ』
『あ、そう』
グレイル島は俺達にとっては十分広いけど、イベントに参加する全プレイヤーを収容できるかと言われたら半分どころか2割が精々だろう。
残りは自前の船か東西に少し離れた所にいくつかある小島を利用することになる。
まあプレイヤーの造船技術もだいぶ向上して大型船や要塞艦も増えてるから足場に困ることは無いだろう。
『まぁ地上の事は私達に任せてカイリ君は海中に専念してね』
『うん、ありがとう。頼んだよ』
力強いリースの言葉に頷いてチャットを終了する。
さ、間もなく20時だな。
【それではただ今より前哨イベントを開始致しま、えっ、ちょ待っ……】
ブツッ。ツーッツーッツーッ
……え?
なんだいまの。アナウンスが変な感じで途中で切れたぞ。
何かトラブルでも発生したんだろうか。もしかしてイベント中止とか?
そんな俺の思考はイカリヤの慌てた声によって中断させられた。
「きょきょきょ!!」
「なにかあったって、なんだこりゃ!!」
海溝の北端で防衛のために構えていた俺達が見たものは、海を埋め尽くす程の魔物の大群だった。
そのあまりの多さに第1防衛戦の死糸花の触手柵がキャパオーバーで一瞬で突破されてしまった。
運営のさっきのは魔物の数を1桁2桁間違えてたとかそんなんじゃないだろうな。
これを相手に俺達だけで防衛?
どう考えても無理だ。
「ユッケ。作戦変更だ。
魚人族は俺達が時間を稼ぐ間に金網トラップを起動させつつ海溝の南端まですぐに後退してくれ」
「い、いえ。私達も戦います!」
「無理だ。これは中途半端な戦力じゃ数に飲み込まれるだけだ。
見ての通り問答をする時間もない。俺の事を思うなら指示に従え」
「……ぐっ、はい。ご武運を」
悔しそうな顔をしつつも魚人族の戦士たちを引き連れて撤退を開始したユッケを確認した俺は残ったヤドリン達に向き直った。
「さてみんな。先に確認しておくけど皆も先に避難するって手もあるけどどうする?」
「……」
「きょ」
「ぴっ」
俺の確認に首を横に振る3体。
だよなぁ。
ユッケ達にはああ言ったけど、俺達にとってはこの場所こそが故郷みたいなもんだ。
一番守りたいものを放り出して逃げる訳にはいかない。
徹底抗戦あるのみだ
「分かった。なら皆の一騎当千の勇姿を北の魔物どもに知らしめてやろうじゃないか!」
「くぃ!」
「きょっ!」
「ぴっ!!」
力強く頷く皆と共に俺は武器を構えた。
そうして俺達4人と魔物数十万の戦いの火蓋は切って落とされたのだった。
後書きの掲示板
No.191 通りすがりの人間
さ、もうすぐ20時ですよ。全員集合~
No.192 通りすがりの魔族
しっかし、北の海から魔物の襲来って。
中央島は実は世界の中央でも何でもなかったってオチか?
No.193 通りすがりの獣人
『全ての道はローマに通ず』的な。
実際は井の中の蛙って事だったのかもな。
No.194 通りすがりの妖精
もしかしたら北の海は世界の果てとか魔界が広がってるって可能性もあるんじゃないかな
No.195 通りすがりの魔族
あ、それ良いな。なら最初の種族に魔族を選んだ俺様としては真っ先に駆けつけねば。
公式サイトにもイベント終了後には北の海も解禁になるって事だし。
No.196 通りすがりの人間
まぁ但し書きで、北の魔物は南より数段強いって話だぞ。
進化したての俺達じゃあすぐに食い殺されるのがオチだろう。
No.197 通りすがりの妖精
っと、イベント始まった……あん?
No.198 通りすがりの魔族
放送事故ですか?
No.199 通りすがりの獣人
いや、どっちかというとバグが発生したとかじゃないか?
No.200 通りすがりの人間
どっちでもいいけど、なにも起きないぞ?
No.201 通りすがりの妖精
右に同じく
No.202 通りすがりの魔族
ちなみにおまいらどこに居るの?
No.203 通りすがりの人間
武国の砂漠?
No.204 通りすがりの妖精
愛国のレストラン
No.205 通りすがりの魔族
前線に行けやw
こっちなんて最前線のグレイル島に行ったら人数制限に引っ掛かって上陸できなくて、仕方なくその東の海に船を浮かべてるんだぞ!
No.206 通りすがりの獣人
右に同じく。
というか、グレイル島はトップクランが独占状態。
まあ早い者勝ちだから仕方ないって気もするけど。
……というか魔物全然来ないぞ??
No.207 通りすがりの魔族
こっちも数匹来ただけ。暇すぎる。
もしかしてさっきの事故でイベントが開始しなかったとか言うオチ?
No.208 通りすがりの妖精
でもちゃんとイベントタイマーは進んでるよ?
もう開始から10分は経過してる。
……
…………
No.263 通りすがりの獣人
おいっ。今友達から連絡が入った。
グレイル島とその南側は凄いことになってるらしいぞ
No.264 通りすがりの妖精
うわっ、まじだっ!?
海中からわんさか魔物が出てきやがる。
No.265 通りすがりの人間
まさかの1点突破とか。
グレイル島はどうなってるんだ!?
No.266 通りすがりの魔族
今のところ大丈夫みたいだ。
頭オカシイのは海中のみなのかもな。
No.267 通りすがりの人間
って、おい!
あれを見ろ!!
No.268 通りすがりの妖精
げっ。まさかあいつがここで来るのか!!




