表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜宮農場へようこそ!!  作者: たてみん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

144/162

農場に愛を

一応このゲームはチュートリアル的なのを終わらせるとある程度の装備を整えられるようになっています。

なので初期装備で活動する人、し続ける人って余程の縛りプレイが好きな人か特殊な状況の人に限られます。


ディーネさんを連れて向かった先は海の中。というか竜宮王国だ。

海面近くから見下ろすと多くの魚人族達やちぃズみぃズが畑で動き回っているのが分かる。

それを見たディーネさんも俺が何をお願いしたいかが分かったみたいだ。


「なるほど。慰労コンサートってところね」

「慰労?まぁいつも頑張ってくれてるのは間違いないから慰労でも間違ってはいないか」

「あら、あの魚人たちはダーリンの国民でしょう?」

「まあ、いつの間にかね」


少し見ない間に増えてるし。


「だから彼らに私の歌を聞かせたいんでしょう?」

「いや、そっちはオマケでメインはあっちに聞かせることなんだけど」


そう言って俺は海底を指さす。

指した先を見たディーネさんは同じことを繰り返した。


「だから魚人達でしょ?あ、何体か魔物も居るわ。あっちはダーリンの従魔ね。

良いわよ。魔物だって私の歌の良さを分かるのは居るし」

「いや、ヤドリン達を労うのは吝かでもないけど、メインは別だから」

「??ほかに誰も居ないじゃない」

「まあまあ、行けば分かるから」


首を傾げるディーネさんをとにかく海底まで連れて行った。

そこは竜宮王国の中心地と言っていい場所、つまり農場だ。

作業をしていた魚人族のみんなには一度手を止めて休憩してもらったから今は無人になっている。


「という訳で、ディーネさん。よろしくお願いします」

「……」


あれ?

なぜかディーネさんが固まっている。

何かそんなに驚くことがあっただろうか。

と、思ったらギギギッと音がしそうなぎこちなさで俺の方を向いた。


「ねぇ。なにここ」

「なにって、畑でしょ?え、もしかして畑見た事無かった?」

「いや、畑くらい何度も見た事あるわよ。そうじゃなくて!」

「??」

「どうして海底に畑があるのよ!!」


何をそんなに慌ててるんだろうか。

まるでネッシーでも見つけたような驚きようだ。

ここは農場なんだから畑があって当たり前なのに。


「畑があるのってそんなに変かな?」

「当たり前じゃない」

「え、でも魚人族だって自分たちの畑作ってたような」

「それは海草の養殖。陸の畑とは違うの。

見てよ、どうして海中でニンジンが育ってるの?そこのほうれん草も。

あっちなんてシイタケが普通に地面から生えてるのよ。シイタケって言ったら普通は木に生えるものでしょう?」

「いや、でしょうって言われても適当に開墾して畑の形にしたら自然と生えてきましたよ?」

「あり得ないわ。どう考えたって異常よ!」


そ、そうだったのか。

俺は運営さん頑張ったな~としか考えてなかった。

確かに、普通に考えれば海中に畑は異常だけど。てっきりこの世界(ゲームの中)だからそういうものなんだと思ってた。

今まで誰も何も言ってなかったし。


「ねぇ、ダーリンって実は異界から来た農業の神様だったりしない?」

「ないない」


俺はあくまで1プレイヤーだ。

種族『その他』に何らかの仕掛けがあった可能性は否定できないけど、流石にそこまで贔屓は無いだろう。


「じゃあ、異界から来た人たちってみんな異常だったりしない?」

「異常な思考の人はいるだろうけど、特殊な能力を持った人は居ないと思うよ」


変態プレイをしてる人は一定数居ると思う。

ロールプレイを全力でやってる人も居るし、イベントとかに一切参加せずに自分の道を突っ走っている人も居るかもしれない。

毎日雄叫びを上げながら踊ってる人も居る、かもしれない。

その人達に比べれば俺は普通だ。うん、普通だ。


「あと考えられるのは、道具とか?」

「道具って言ってもこの畑作った時も今も変わらず使ってるのはこれだけどなぁ」


俺は首を傾げながらアイテムボックスから【はじまりの鍬】を取り出した。

するとそれを見たディーネさんが「げっ」と顔を引きつらせていた。


「それ鍛冶爺の作品じゃない」

「え、ただの初心者向けの装備じゃないの?」

「まぁ能力最低だし初心者向けっちゃ初心者向けでしょうね。

でもそっか。それなら納得だわ」

「どういうこと?」


ひとりうんうん頷くディーネさんに説明を求めてみると、どうやらこの【はじまり】シリーズはディーネさんが現役だった頃の鍛冶の神様の作品らしい。

その神様は相当ひねくれていたらしく、

『どんな素人でも業物を持ったら強くなれる?馬鹿を言うな。

もし本当にそうだったらそれは呪いの武器だ。それを使った者の成長を妨げる最低の呪いだ』

そう豪語した後、その神様は【はじまり】シリーズ、つまりほぼ全ての人にとって役に立たない装備ばかりを作るようになった。

その結果、人々から見放されて神様を辞めることになって隠居したらしい。


「その時に作られた【はじまり】シリーズの性能はダーリンも知っての通り最低。

その代わり【不懐】特性と最低限の性能・・・・・・を発揮するのよ」


なぜか最低限の性能を強調するディーネさん。

そこでちょっと考える。

剣にとっての最低限の性能って言ったら何か切ることだろう。実際に切れるかどうかは相手の防御力次第だろうけど。それでも剣のスキルが上がれば鉄でも切れるかもしれない。少なくとも強度で負けることはないのだから。

なら鍬にとっての最低限の性能は?地面を掘り返す事か? 違う。畑を耕すことだ。


「あ、それでこの鍬で耕した場所はどこでも畑になってたのか」

「そういうこと。ダーリンも最初は苦労したんじゃない?全然掘れなくて」

「うん。最初は開墾スキルを使っても1振りで5センチくらいしか掘れなかった気がする」

「『苦労して努力した者は報われるべきだ』とかよく言ってたし。ダーリンなら溶岩大地だろうと北極の氷山だろうと耕せるようになるわ」

「それはすごいな。じゃあこの鍬以外にも【はじまり】シリーズを使い続けてたら良い事あったのかな」

「そうね。例えば武器ならその武器種の練度の上りや技の上達が良くなるでしょうね。

とは言っても『最初の城の周りを100周してスライムばかりを倒す苦行』のようなものよ。

さっさと強くなりたいなら強い武器に持ち替えて最前線で戦った方が良いわ」

「確かにそうだな」


一瞬ダンデ達に教えたら喜ぶかなって思ったけど意味無さそうだ。

あいつなら地道な特訓も喜んで取り組みそうなんだけど。

と、話がかなり脱線したな。


「さて、畑の謎が解明出来たところで、改めてディーネさんの歌を聞かせてあげて欲しいんだけど」

「それってもしかしなくてもこの畑に?」

「そう、畑に。いつもは俺達が耕しながら声掛けたり歌ったりしてるんだけど、やっぱり本職の人の歌の方が畑も喜ぶだろうからさ」

「感情云々もそうだけど、畑に歌の良し悪しが分かるのかしら」

「まぁまぁ、物は試しということで」

「はぁ。仕方ないわね。さっき何でもやるって言っちゃったしね。

よし。じゃあ畑達。ギャラは最高に美味しい作物で手を打ってあげるから心して聞きなさい」


ディーネさんは軽く目を閉じ息を吸い込むと、静かに歌い始めた。

最初は優しい朝の陽ざしのように。

続いて明るく楽しい調子に。目を閉じれば公園で子供たちが遊んでいる光景が浮かんでくる。

段々テンポの上がる音調と共に子供たちは成長し活動範囲を広げ力強く夢を追いかけていく。

更に成熟した心は異性に恋を覚え愛する喜びを知っていく。

そうして大人になった彼らは自分のみならず家族を幸せにしたいと願うようになる。


「共に生きよう。一緒に笑顔になろう。それがきっと何より幸せなことだから」


そう締めくくってディーネさんの歌が終わった。


パチパチパチ

パチパチパチパチパチパチッ


聞き惚れて拍手をしようとしたら、いつの間にか集まっていた国中の人たちから万雷の拍手が降り注がれた。

そして更にはザワザワと畑そのものが感動しているかのように打ち震えていた。

やっぱりディーネさんにお願いして正解だったな。


後書き日記 リース編


9月27日


はぁ。現在反省中です。

カイリ君に嫌われてないでしょうか。

いくらディーネの歌で心の枷が緩んでいたとはいえ、あんなに嫉妬深い一面があったというのは自分のことながら驚きでした。

そりゃカイリ君は格好いいし優しいし、お昼休みに教室まで行くと色々な人と話しているところを見かけます。

中には満更でもなさそうな女子も居ました。

それでも今まで嫉妬らしい嫉妬をしなかったのは、今思い返せばきっとカイリ君が私の姿を見つけたらすぐに話を切り上げて私の所に来てくれたからです。

じゃあもし私が教室まで行っても気付かずに私以外の女子と話し込んでいたら?

やっぱり今回みたいに醜く嫉妬してしまうのでしょうか。


はぁ。

そんなことを続けてたらきっといくら優しいカイリ君でも嫌いになっちゃいますよね。

どうしたらいいんでしょうか。

やっぱりこういう時は年の功、もとい経験豊富なお母さんに相談してみるべきでしょうか。

そう思ってお母さんに話をしてみたら「若いって良いわね~」としみじみと言われてしまいました。

そのうえでこうも行ってくれました。


「付き合い始めるとね。それまで見えていなかった相手の良いところも悪いところも見えるようになるわ。

同棲したり結婚したりするとそれが倍どころか10倍くらいになるのよ。

だからもし、今見える悪い所を見て恋心が冷めるようなら早めに別れてしまった方がお互いの為よ。

でも逆に良いところを信じてあげられたら恋を愛へと昇華出来るかもしれないわね。


例えば甘い卵焼きを作るならちょっぴりお塩を入れるでしょう?

悪いところなんてそのお塩と同じようなものだと思っておけば良いわ。

完璧な人よりちょっと抜けてる人の方が親しみやすいものよ」


あぁ、だからお父さんはちょっとおっちょこちょいなんですね。

ところで恋と愛の違いってなんでしょう?


「そうねぇ、恋は例えるなら炎かしら」

「炎?」

「そう。熱く燃える炎。あまりに熱くなり過ぎると相手も自分も焼き焦がしてしまうこともあるわ。

そして常に燃料を投入しないと弱くなったり風が吹いたら消えてしまったりするわね」

「じゃあ愛は?」

「太陽かしらね。自分自身で燃え続けて無償で私達を明るく照らし温めてくれるもの。

お父さんだってそうでしょう?いつも仕事をして大変苦労しているはずなのに、愚痴の一つも言わず私達に笑顔を見せてくれる。

この前だってね……」


と、その後はいつも通り惚気話が続きました。

そっか。私はまだ恋をしている状態なんですね。

でも私にとってカイリ君は……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 深いな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ