海の底にて
溜めに溜めまくったネタがようやく解放です。
といっても最初の構想と全く違うルートになってますが。
最初は「幽霊船艦隊による竜宮王国への宣戦布告」とか「リースが人質になってカイリが覚醒」とか幾つか考えてたんですがドウシテコウナッタ?
Side リース
……
…………
気が付くと私は真っ暗な闇の中に立っていた。
ぼんやりと周囲が見えるのはゲームならではね。
で、ここはどこ?
なんで私こんなところに居るかしら。
うーん、こういう時は覚えている事柄を順に並べて行くと良いんだっけ。
確か愛国でロリ神様とやり合った後は、ヒーローさん達のお陰で無事にメインストリートから1つ奥に入った所にレストランを開店したのよね。
最初の数日は珍しさもあって行列は開店前から閉店まで途切れなかったわ。
しかもようやく落ち着いてきたと思ったら今度はロリ神様まで食べに来るしで大変だった。
……私って神敵なんじゃなかったのかな?
で、その後、料理人を何人か雇い入れてお店を任せられるようになったから一度グレイル島に戻ろうとしたんだっけ。
「あ、そうだわ。それで航海中に突然海が暗くなったんだ」
ということは何かの海難事故に巻き込まれたと見て間違い無いだろう。
そう言えば時々掲示板とかで話に上がってたっけ。
曰くバミューダトライアングル的な海難事故と失踪事件。
私もそれに遭ったということか。
幸いにして水竜のネックレスは常備しているから水中でも呼吸などの問題はない。
問題はどうやって帰るか、だ。
太陽の光が全く届かないって事はかなり深い場所なんだろうし、なぜか地図機能もここでは使えないみたい。
カイリくんにヘルプを頼もうかと思ったけど、チャットすら無理なのね。
仕方ない。地道に足で調べるか。
ゴンッゴンッゴンッ。
ゴンッゴンッゴンッ。
どこかから何かを叩く音が聞こえる。
だいぶ篭った音だけど水中だからでしょうね。
というかこんなところで採掘をしている人たちが居るのね。
魚人族かしら。
ならきっとお願いすれば帰り道くらい教えてくれるよね?
そう思って音のする方へと行ってみたのだけど。
「……なにあれ。魚人、というより半魚人?」
海底で採掘活動をしていたのは多数の魚顔の人たち。
魚人族なら体も魚だから別の種族だと思う。
ただ濠を掘ったり掘った土を壁のように盛ったり、まるで街を造っているようにも見える。
でも海中で濠を掘っても意味無いと思うの。
「うぅ~」
「ひひっ」
何かうわ言を呟きながら延々と作業してるしちょっと怖い。
出来れば話しかけたくない雰囲気だわ。
そうして遠目に眺めていたら突然、後ろから声を掛けられた。
「あらあなた。そんなところでどうしたの?」
「え、だれ?」
振り返ればヒラヒラのドレスを来た女の子が立っていた。
水流に靡く髪は綺麗で同性の私でも思わず見惚れてしまう輝きを放っていた。
そう、それはまるで。
「お姫様?」
思わずそう呟いてしまった。
でもそんな私を見て彼女は楽し気に笑っていた。
「ざんねん。ハズレよ。
昔は『乙姫様』なんて呼ばれたこともあるけど姫じゃないわ。
私はディーネ。あなたは?」
「リースよ。ディーネさんはここがどこか分かる?海底のどこかだとは思うんだけど」
「ディーネで良いわ。そうね、位置で言えば中央島の北側よ」
良かった。別に遠くに流された訳ではなかったんだ。
「なら泳いで帰れそうね」
「泳いでって。あぁ、水竜の加護ね。それのおかげで私の誘引から逃れられたんだ」
その言葉を聞いた私は慌てて彼女から距離を取った。
私の、ということは彼女こそが今回の海難事故を起こした元凶ということになる。
噂が本当ならこんなかわいい女の子なのに今までに何十隻と船を沈めてて1000人近い被害者を出している凶悪犯だ。
でも彼女は特に気にするでもなく笑っていた。
「大丈夫よ。個人的にあなたを襲う理由はないし」
「じゃあ何で沢山の船を沈めてきたの?」
「一言で言ってしまえば労働力の確保ね。
ほら、あそこに見えるでしょ?あそこで頑張ってくれている人たちが沈んだ船の乗組員たちよ」
そう言って指さしたのはさっきの半魚人たち。
え、でも待って。地上であんな種族は見たことないんだけど。
「もしかして何かの呪いであの姿に変えられているの?」
「人聞きの悪いこと言わないで。ここで活動しやすいようにちょっと姿を変えてるだけなんだから。
大丈夫。本人たちはその事に気付いてもいないし、仕事が終わったら元の姿に戻れるし地上にも帰してあげるつもりよ」
それはそれでどうなんだろう。
気付かないうちに半魚人にされてるって。
私だったら絶対嫌だけど。知り合いに見られたりしたら逃げたくなる見た目よあれ。
まあ、私は逃れられたからいっか。
それより気になることは沢山あるし。
「仕事とか労働力とか言ってるけど、結局あれは何をさせてるの?」
「私のダーリンへのプレゼントを作ってもらってるの。
それにしてもリースは丁度いいタイミングで来たわね。
ちょうど第1段階が完成するところよ。さあ、一緒に行きましょう」
「は、はぁ」
ディーネと一緒に泳いで工事現場の上へと移動した。
そうして上から全体像を見たお陰でそれが何かがなんとなく分かった。
扇形というかホタテ貝のような形のそれはつまり。
「ディーネ。これってもしかして」
「あ、ちょっと待って。先に皆に挨拶しちゃうから。
みんな~。いつもありがとう~~」
「「うおおぉぉ~~~!!」」
「ディーネちゃ~~ん!!」
ディーネが一声掛けると、作業をしていた半魚人全員から一斉に爆発のような歓声があがる。
「きょうは、みんなに大事なお話があります」
ディーネのその言葉に今度は水を打ったかのように静まり返る。
圧倒的なまでのカリスマ。
誰も彼もがディーネの一言一句を聞き逃すまいと全神経を集中しているのが分かる。
「きょうこの時をもって、みんなに作ってもらっていたものが無事に完成しました。
全部全部、みんなのお陰です。本当にどうもありがと~~」
「「うおおぉぉ~~~!!」」
「やったぜ~~~~」
「これからみんなに作ってもらったこれを浮上させるから、今すぐ乗り込んでください。
乗り遅れたら置いてっちゃうんだからね!!」
「「おおぉぉ~~~!!」」
我先にと集まってくる半魚人たち。
それを横目に見ながら私はディーネに手を引かれて端の方の一段高くなった場所へと移動した。
すると誰に指示されるでもなく、そこを正面に整然と整列していく半魚人。
まるでよく訓練された軍人みたいだ。
そして全員が乗り込んだのを見計らってディーネが手を上にあげた。
「では。移動島『アトランティス』浮上!」
ズズズズズッ……
ディーネの一言と共に地響きが起こる。
続いて全身に掛かる圧力が増した。それはまるで飛行機が離陸するときの感じに似ている。
さっきの言葉と合わせて考えれば、恐らく周囲の地面ごと海中を浮上しているんだ。
「(半魚人たちにやらせていた作業って、ここを掘り起こすことだったの?)」
「(そうよ。私が封印されている間にすっかり埋まっちゃってたから、みんなに協力してもらって再び動くようにしたの。さ、それより挨拶挨拶)
えー、今日まで頑張ってくれたみんなには、素敵な特典があります。
ひとつは今後、この島に自由に行き来することができます。何があっても私の所に帰ってきてね!
そしてもう一つは、私がここで行うライブをS席で聞く権利をプレゼントします」
「「うおっしゃあぁぁぁ~~~!!」」
あぁやっぱり。
ここってコンサートホールなんだ。
さしずめ私が今立っているここはステージの上だ。
照明の姿は無いけどなぜかここだけライトアップされてるし。
「さて、今日はなんと、オープニングのお祝いに私の友達が来てます。リースちゃんです!!」
「「おぉぉ~~」」
「リースちゃ~ん」
「流石ディーネちゃんの友達。かぁわいぃ~~」
って、私!?
「(ほら合わせて。あいさつあいさつ)」
「(え、え、えぇ~)え、えっと。リースです。よろしく、ね?」
「「うおおぉぉおぉ~~」」
「いい」
「あぁ。いい」
「ディーネちゃんと違って初々しいのがまたグッとくるな!」
うひぃ~~。
半魚人のお客さんの反響が凄すぎてはにかんだ笑顔が引きつる。
私アイドルでも何でもないんですけど。
というか、世の中のアイドルしてる子たちって凄いわね。
私には到底真似できないよ。
って思ってる私を余所にディーネは話を進めてしまう。
「さてさて。リースちゃんは普段何をしてるのかな?」
「料理人、です。この前、愛国にレストランをオープンしました」
「おぉ、あの毎日行列になってるって噂のお店ね。
じゃあじゃあ、今日ここに集まってくれたみんなに何かお料理とか出せちゃったりするかな?
あ、運搬に関しては私が海流を操作するから任せてくれればいいわ」
また無茶振りな。
みんなって1000人くらい居るのに急に料理を出せって言われても出来合いのものしかないわよ。
逆を言えば出来合いのものというか、竜宮王国の人たちに提供しようと思って開発した新作がアイテムボックスに入ってるんだけど。
まぁ、ここで出してもまた作ればいっか。
「じゃあとっておきの新作を出すわ。
海流を私の手元からお客さんの間を縫うように流し続けてもらってもいい?」
「おっけ~。それっ」
ディーネが腕を振るうとキラキラとしたエフェクトと共に何となく目に見える海流が出来上がった。
そこへアイテムボックスから取り出した料理を流し込む。
赤、オレンジ、黄色、緑、青、黒、そして赤……と1メートルごとに色が変わるパスタの川が流れだす。
まるで虹のようなカラフルなそれを見て全員から感嘆の声が上がった。
「えー、みなさん『流しそうめん』は分かりますか? それと同じ要領で上手く目の前に来たところを掬い上げて食べてください。
今流してるのは味付きのパスタで色ごとに味が変わるから、自分好みの味を見つけてみてくださいね」
「「おぉ~~」」
私の話を聞いて、みんな思い思いにフォークや箸でパスタを手元に手繰り寄せて食べている。
あ、食器類はこっちでは用意してないので自前のものを使って貰った。
無い人は手掴みになっちゃってるけど仕方ないかな。あの人たちは普段どうやってご飯食べてるんだろう。
それはともかく、食べた人の感想はおおむね良好だ。
「う、うめぇ。働き詰めだった胃袋に染み渡るぜ」
「すげぇ綺麗だ。もぐもぐ、赤いのはトマトだな」
「こっちのオレンジのはニンジンかな」
「この青いのはいったい……ぐほっ、辛っ!!青い癖して激辛トウガラシ味だ!!」
流しそうめんの最大の欠点は後の人の方が不利なところだ。
なのでディーネにお願いして海流を幾つかに分けてもらってある程度平等に行きわたるようにしてもらった。
あ、ディーネも食べたいっていうから1人前を取り分けてあげたわ。
もちろんこっちは綺麗にお皿に盛った状態で。
そして料理の提供が終わったら、ディーネのコンサートが始まる。
ふぅ、これで私はお役御免ね。って、私も歌うの!?
カラオケボックスみたいに歌詞と音程が表示されるから大丈夫って、振り付けは!?
結局その日は日付が変わっただいぶ後まで歌い続けることになった。
島の浮上も相当遅いのか全然海面が見えてこないし。
これ明日もログインしたらライブ再開するのかな。
後書き日記 カイリ編
9月26日
その日はリースが愛国に作ったレストランに向けて食材を転送した後にリースから「そろそろ一度グレイル島に戻るね」という連絡があった。
なので俺は久しぶりの再会を記念して何かプレゼントでも用意してみようかなとあれこれ考えていた。
しかし、ある時間を境にリースのログイン状況がグレーになった。
確かシークレットイベントなどに参加していて連絡が取れない状態になるとこう表示されるんだっけ。
案の定、チャットを送っても既読にならない。
あれ?でも、愛国から戻ってくるだけなのにそんな特別なイベントが発生するのか?
うーん、変なのに巻き込まれたとかそんな感じかな。ちょっと心配だ。
あ。というかゲーム内で連絡が取れなくてもリアルで取れば良いんだ。
そう思って一度ログアウトした俺は涼子ちゃんにメールを送ってみた。
……まぁすぐには返信はこないか。
涼子ちゃんはきっと今もゲーム内で忙しいだろうし。
結局連絡が来たのは翌朝だった。連絡というか通学中に合流したんだけど。
話を聞いてみれば何でも海中を移動するライブ会場でアイドルの相方を務めていたんだとか。
「コンサートが深夜遅くまで続いてたせいでちょっと寝不足なの」
と大きなあくびをしていた。




