反撃準備
翌日。
俺はGWの休みを利用して朝からログインしていた。
「おはよう、みんな」
「くぃ♪」
「きょっ♪」
「ぴっ♪」
皆と元気に挨拶を交わした後、俺はイベントフィールドに飛ぶ前に内職に励むことにした。
昨日皆が作ってくれた草団子とツミレをリース達にも食べてもらいたいから午前中は皆で料理だ。
と、意気込んだのは良いんだけどこの海中でどうやって作ったんだ?
そう思ってたらみんなが実演してくれた。
「ぴぃ」
コウくんが光魔法で直径50センチくらいの光の玉を生み出して素材を光の中に放り込む。
「きょきょきょきょきょ!」
その素材をイカリヤが2本の腕で細切れにしていく。
光の玉は味方には当たり判定が無いようで素通りだ。
「くぃっくぃ~」
最後にヤドリンが右のドリルでミキサーした後、左のハサミでぎゅっと固めれば完成だ。
入れる素材が海ニンジンと海ほうれん草なら海草団子に、白身魚と海シイタケならキノコつみれの出来上がりだ。
「えっと……あれ?これ俺の出番は?」
「……(つぃ)」
「……(つぃ)」
「……(つぃ)」
揃って目をそらされた。仲いいな。
えっと、この工程で俺が参加できるのは……最後の固めるところくらいか。
ヤドリンにお願いして最後の部分だけ代わってもらった。
結果、品質が下がりました(しょんぼり)
仕方ない。
そっちはみんなに任せて俺は昨日教えて貰った毒持ちの魚の使い方を考えるか。
といっても幾つか教えてもらった中で今この場に居るのは1種類だけ。
その名も痺れハリセンボン。
確認したら魔物扱いだった。なので倒すとアイテムボックスにドロップ品が収集される。
そして手に入ったのは【痺れ針】【毒針】【毒液】の3種類。針は1000本とはいかなかったけど99本ずつアイテムボックスにストックされている。
【痺れ針】【毒針】を取り出してみれば、どちらも針と言いつつ実際には5寸釘か棒手裏剣かって大きさだ。
毒が無くても刺さったらかなり痛そうだ。
【毒液】は手持ちの武器に塗ることで武器に毒属性を付加出来るらしい。
試しに銛にちょっと付けて1メートル級の魚を突いたら即死した。
どんだけ強いんだろう、この毒。
ただ欠点もあって、この毒で殺した魚は全身が毒に侵されてて食べられなくなっていた。
いや、これはこれで料理として出せば暗殺が出来る?
……使う機会が無いことを祈ろう、うん。
ちなみに痺れハリセンボンを倒したのはコウくんの光魔法だ。
というかコウくん、頭の明りからビームを放ったんですけど。
イカリヤの足剣さばきと言い、うちの子たちはかなり強いのかもしれない。
さて、今できる準備はこれくらいかな。
フレンド一覧を確認するとリースはログインしているみたいだし、村に行けば会えるかな。
「じゃあ行ってくるな」
「くぃ!」
「きょっ!」
「ぴっ!」
ビシッと敬礼のように手を挙げた3匹に見送られてイベントフィールドに飛んだ。
飛んだ先は村の公民館の一室だった。
部屋を出て廊下を歩いてるとリースに見つかった。
「あ、カイリさん!」
「ん?おぉ、リース。あれから大丈夫だったか?」
「それは私のセリフです!
2人を避難させた後、心配になって様子を見に行ったら決闘してるんですからビックリしました」
「なんだ、やっぱり戻って来てたのか。危ないなぁ」
この様子を見る限り、その後捕まったりはしてなさそうだけど、一歩間違えれば俺の苦労が水の泡だった。
ほっと一息つく俺をリースは心配そうな顔で覗き込んできた。
「あの、決闘のペナルティは大丈夫だったんですか?」
「ああ。所持金全部を奪われたけど、そもそもお金持ってなかったから何ともないよ」
「ほっ。良かった」
「それであいつ等はまだ村に居るのか?」
「いえ、あの後、村に残っていた人達にも警戒を呼び掛けたお陰で、諦めて宝探しに向かったみたいです」
「そっか。なら頑張って準備する必要も無かったな」
「??」
ま、積極的に仕返しがしたかった訳じゃなく、また同じような状況に陥った時に今度はもうちょっとスマートに解決出来るようにって準備しただけだから、空振りに終わったのならそれはそれで問題ない。
それじゃあ今日はどうするかなと考えた所で、俺を呼ぶ声がした。
「お、兄ちゃん。来たんだな!」
「待ってたぜ。ほらっ、畑行こうぜ畑」
「昨日耕したところ、もう芽が出て来てるんだぜ!」
わぁっと俺を囲んだのは昨日の少年3人組。
昨日会った時は畑仕事嫌がってたのに、歌いながらやったのが楽しかったのか、早く行こうとぐいぐい引っ張られた。
「ちょ、待て待て。すぐ行くから。
リース。これで、後でお吸い物でも作ってくれ」
「え、これって。ちょっ、カイリさん!?」
リースに海草だんごとキノコつみれと野菜類を適当に選んで譲渡する。
リースは料理人だからな。多分俺が料理するより美味しく作ってくれるだろう。
後書き日記
21xx年4月30日
イベント2日目です。
昨日はあんなことがあったので、早めにログインして村の様子を確認します。
……良かった。
あの人たちは居ないですね。
そうそう、一応この件を従兄にも相談してみました。
すると返ってきたのが、
『多かれ少なかれ、そういう奴は居るよな。
もし粘着されるようなら俺の方からも圧力掛けてやれるけど、そうじゃなかったらその囮になってくれた彼の手柄を横取りするような真似はしたくない』
言われて確かにと思ってしまいました。
もし従兄を助っ人に呼んだら、カイリさんに貴方は役立たずですと言っているようなものです。
せめてカイリさんと相談してからにするなり、自分たちで対策を考えるなりしてからですね。
対策……戦闘職にも舐められない程度の力を身に付ける?
とは言っても私のジョブは料理人。
私の包丁スキルは対食材特化です。
金属や食材以外、つまり武装した人に対しては大幅なマイナス補正が掛かります。
恐らく急所に当てたとしても薄皮一枚切るのがやっとでしょう。
今後の事を考えても、金属は無理でもせめて食材以外の相手に有効な攻撃手段は欲しいところです。
と考えていたらカイリさんが来ました。
メールでは確認していましたが、無事で良かったです。
と思った矢先に子供たちに連れて行かれました。
何かのクエストの一環でしょう。
って、待ってください。
去り際にアイテム譲渡をされたと思ったらレア度2の食材とレア度3のアイテムを渡されたんですが。
品質も最高で5って。
えっと、海ニンジンに海ほうれん草?
この頭の海ってなんでしょう。
ひとまず取り出してみたら、なんと滋養根と活力草に似た素材でした。
え、待って。活力草ってハーブ、ですよね。今までそう思って使ってきましたし。
ほうれん草はハーブじゃないような気がするんですけど、そこはゲームだからって事でしょうか。
こうしてみると滋養根もちょっと色の変なニンジンに見えてきました。
もしかしてこのゲーム、先入観で名前の表示が変わったりするんでしょうか。
もしくは名前が運営の罠という可能性もありそうです。
じゃあ、こっちのレア度3のアイテムも名前と実態は別かもしれないですね。
ならば思い切って目を閉じてアイテム名を見ないように取り出してみれば……緑色のお団子とツミレでした。
なるほど。だからお吸い物をと言ったんですね。
確かにこれは良いお出汁が出そうです。