愛国の本質
主人公が農業の神様にならないの?って多くの方から感想頂いてます(いつもありがとうございます)が、1プレイヤーが神様になれるのかという問題の前に、神様の椅子に空きがないので無理なんです。
後書きは……色々思い浮かんだものの1つで、とあるボランティア活動家のハンセン病の隔離村での話を元に描かせて頂きました。
リアルはこの数十倍残酷な状態だったようです。
Side リース
助けてくれたお姉さんにお礼を言って別れた私達。
次の目的地は結婚式場もしくはウェディングドレスを売ってそうなお店です。
とは言っても、何となくまだ気が抜けない気がします。
きっとカイリ君を呼べばすぐに解決するとは思うけど、彼にもやることがあるので私の都合で振り回す訳にも行きません。
なので別の作戦で行きましょう。
「レイナ。ここは私が囮になるわ」
「そんな、リースさん一人を置いてはいけません!」
「大丈夫よ。あなたの姿が見えなくなったら私もちゃんと逃げるから」
「うぅ、分かりました。絶対、絶対後から来てくださいね!ずっと待ってますからね!」
私達はヒシと手を掴んで約束を取り付け……え?
「ねぇ待って。何、今のやり取り」
「あ、リースさんも思いました?」
2人して首を傾げる。
最初は普通に別行動で行こうって言おうとしただけだったはず。
それなのに気が付けば演劇めいた言動になっていた。
そう例えるなら悲劇のヒーローが出てきそうな……ってまさか。
「愛の女神様の司っているものに『正義』ってあったよね?」
「あ、ありましたね。じゃあもしかして正義ってそういった企画物ってことですか?」
「そうなのかも。さっきの白い人と黒い人も実は被害者なんじゃないかな」
「もしそうだとしたら恐ろしいですね」
この国では誰も彼もが役を演じる事を無意識下で誘導されているのだとしたら、愛の女神様というのは相当危険な方なのかもしれない。
でもそうだとして、街を歩いている人たち全員が勇者だったり姫様だったりを演じていたら大変なことになっているだろう。
不安になった私は道行く人を捕まえてその辺りを聞いてみた。
すると、一瞬何のこと?って顔をされたけど、すぐに破顔して答えてくれた。
「ああ、それね。簡単よ。私は普段町人Aを演じてるの。
分かる?どんな劇でもわき役って必要なのよ」
「な、なるほど。奥が深いですね」
「時々鳴る鐘の音と一緒で慣れちゃったわ。
ちなみに言うと結婚を目的に来た女性はほぼ例外なくお姫様役を演じる事になるわ」
「それはどうしてですか?」
「だって結婚式を愛国に来てまでしてやりたいって人は大抵花嫁の華やかさを夢見ているでしょう?それとお姫様は酷似している部分が多いから」
「あ~言われてみればそうかも」
そうか。この世界の人にとっては愛国に来なくても結婚自体は出来るし、むしろ愛国に来るのは裕福な人か思い入れのある人くらいなんだ。
私達プレイヤーだってわざわざこの世界で結婚式を挙げようっていう人は結婚式に夢見る人に限られるだろう。式を挙げたからと言ってなにか特典が有るわけでもないし。
「あ、そうそう。気を付けてね。他国から来た人って最初は役無しだから狙われやすいのよ」
「狙われるって誰からですか?」
「正義のヒーローからよ」
「はい?」
「悪が居ないと正義は成り立たないの。大変らしいわよ?悪を見つけるのも」
「は、はぁ」
リンゴーン♪
つまり正義のヒーローの役を演じるために、常に悪を求めていて役無しの私達を悪に仕立て上げようとしているんだ。
って、それだけ聞くとどっちが悪役か分かったもんじゃないわね。
まあひとまずこの国の現状は何となく把握出来た。
これは用事を済ませて早く退散するに限るわ。
そう思っていたら突然また見知らぬ男性から声を掛けられた。
「む、そこの女。お前彼氏はどうした?まさか彼氏を置き去りにして浮気をしに行くところだな。許せん!」
「いやいや、それは思考が先走りすぎでしょう」
「問答無用だ!とうっ」
その男性はその場でバク中を決めると、その一瞬で某変身ヒーローのような服装に着替えていた。
「フェイスフルヒーローここに見参!!」
ビシッと決めポーズまで付ける男性。
そしてそこへ黄色くない声援が飛んでくる。
「うおぉぉ、フェイスフルヒーローだ!」
「浮気女に正義の鉄槌を!!」
「いやぁ、どもども~」
にこやかに観客に手を振る男性。
あ、これあれだ。芸人の人気取りみたいなものね。
あのこれ、付き合わないといけないの?
まあ逃げてもまた似たようなのが来るんでしょうね。
「レイナ。ここは私が相手をするわ。あなたにはあなたのやることがあるはず。だから行って」
「分かりました。あなたが作ってくれた時間は決して無駄にはしないから!
うぅ~。これ自分で言ってて恥ずかしいんですが」
「お願いそれは言わないで」
何となく口をついて出てくる言葉がそれっぽくなるんだもの。仕方ないじゃない。
とにかく、レイナを逃がして私は武器を抜いた。
あれ、街中で武器を抜いても怒られないのかしら?
まあ周囲のギャラリーが何も言わないから大丈夫ね。
「全く正義のヒーローっていうのはみんな人の話を聞かないのかしらね。
そんな人には例え悪と呼ばれても私がお仕置きしてあげるわ」
そう私が言った瞬間、私と男性を中心にフィールドが展開する。
【非殺傷決闘フィールドが展開されました。
このフィールド内では現在のHPの50%が失われた時点で敗北と判定されますのでご注意ください。
また周囲の観客の応援ポイントでも勝敗が決まります】
応援ポイントって。
やっぱりこれって一種のアトラクションなのね。
フィールド内の頭上には『99』の文字と4つのゲージ。
99は恐らく制限時間ね。
ゲージは2本がマックスで2本が空になっていることから、お互いのHPと応援ポイントってところかしら。
まるで格闘ゲームね。
【レディ……ファイトッ】
リンゴーン♪
「おらぁ」
アナウンスと共に男性が武器を振りかざして飛び掛かってくる。
何というか動きが単調ね。典型的なパワーファイターかな。
「私の方が悪役なのよね?なら多少ズルい手も許されるよね?
という訳で、えいっ」
アイテムボックスからとあるものが詰まった袋を取り出して男性の顔に向けて放り投げる。
「ふっ、しゃらくせぇ」
ズバッ。バシャッ。
「うぎゃ~~」
多分弾き飛ばそうとしたのだろうけど、袋は男性の剣に触れた瞬間に破裂して中に入っていた『玉ねぎの汁』をまき散らした。
それをモロに顔で受け止めた男性は涙をボロボロとこぼしながら蹲ってしまった。
「……」
「……」
その光景を見た観客たちが静まり返る。
まぁそうよね。真っ向勝負かと思いきや卑怯なアイテム一つで勝敗が決定的なものになったんだから。
それに傍から見たら涙を流して蹲る男性と、それを見下ろす女性。何とも酷い絵図だわ。
これじゃあ周りの人が引くのも当たり前。
そう思っていたのだけど。
「うおぉぉぉ~~~」
「すげぇ。なんて卑怯っぷりだ!」
「悪魔のような所業だ。こっちまで泣けてきた」
「これぞまさに悪役」
「彼女はいったい何者なんだ?」
「さっきのって臭いからして玉ねぎの汁じゃない?ということはあの人は料理人なのかしら」
「きっとそうだ。『地獄の料理長』だ!!」
「『地獄の料理長』すげぇ」
「『地獄の料理長』様~~」
周囲の観客からブーイングどころか歓声が上がる。
ええ~~。今ので良かったの?
いつの間にか応援ポイントもマックスになっていて私の勝ちが確定してしまった。
ただ、お願いだからその『地獄の料理長』っていうあだ名は止めてもらえないかな。
こうなったら逃げるしかないわね。
全く悪役なのに一般人から逃げるってありなのかしら。
後書き日記 カイリ編
9月12日
この日、待ちに待っていたバロンソさんから連絡が入った。
しかし何やら内容がきな臭い。
『すまん。ワテも約束を違えるのは商人としてあるまじき行為だと重々承知しとる。でもカイリはんだけが頼りや。なんとかあの島を助けてあげてほしい』
何故かバロンソさんが土下座している姿が目に浮かぶ。
でも一方的にそんなことを言われても訳が分からない訳で。
兎にも角にもバロンソさんの指定した島へと移動したのだった。
その島はこう一番近い表現で言えばボロボロだった。
何がボロボロかと言えば何もかもだ。
家も道も山も動物も。そして人も。
バロンソさんの案内で島の奥へと入った俺を迎えたのは本当に生きているのかが疑わしくなるような死にかけた人たちだった。
極度の栄養失調によって骨と皮しかないような外見。それに病気なのか肌のあちこちが爛れ、まだ息のある人の半数は満足に歩くことも儘ならないようだった。
いったいこの島に何が起きているのか。
それを考えるよりもまずはまだ生きているモノたちを助けることが先決だ。
俺は急ぎイカリヤに連絡を取り、超特急で救援物資と人手を連れてきてもらうと救援活動を開始した。
そうして一息つくのに3日を要した。
元からその状態でも生き永らえていた生命力のお陰でもあったのだろうけど、結果としてまだ生きていたモノたちは9割以上が助かったはずだ。もちろんまだ予断を許さないモノたちもいるけど。
ゲームの世界で良かった。これがリアルなら年単位で救援して、それでも助かるのは半数も居なかった事だろう。
そうした後で改めてバロンソさんに事情を聞くことにした。
バロンソさんの話によるとこの島はその昔、エリクサーが採れる神秘の島と呼ばれる場所だったらしい。
薬草の神様かそれに近い神様の恩恵を受け、神聖な島として守られて来たそうだ。
しかしその神様が代替わりした後に悲劇が起きた。
神様が居なくなってもエリクサーが採れることには変わりなく、世界中の国々がエリクサーを求めてこの島に殺到し、そして血みどろの戦争へと発展した。
何年も続いた戦争はこの島を破壊し尽くし、多くの血を吸った大地はエリクサーを呪いの草へと変えてしまった。
それを知った各国は戦争を止め自国へと引き返していったが、後に残されたのは破壊し尽くされた島と、そこに元から住んでいた住民だった。
残された者たちは島を出ることも適わず、何とか今日に至るまで命を繋いできていたそうだ。
俺がバロンソさんに今回の話を持ち掛けるまでここは商国が当時の国々から管理費用と共に受け取り、封鎖され隠された場所だった。
隠されていた理由は『歴史的汚点だから』だそうだ。何とも自分勝手で胸糞の悪くなる話である。
バロンソさんが商国に色々掛け合ったところ、商国もいい加減ここを手放したかったらしく、返品不可の条件で住んでいる住人ごと島をバロンソさんに売却した結果今に至った訳だ。
「正しい商人ならすぐに損切りすべきところやったのかもしれんけどな。
知ってしまったからには助けずにおれんかったのですわ」
というバロンソさん。
「もし助けようとしてなかったら俺がバロンソさんを切り捨ててましたよ」
そう答える俺だった。
そして俺達はこんな島の惨状を作り出した商国に対してどんなお返しをしてあげるのがいいかを話し合うのだった。




