法国の悩み
今回登場する二つ名ですが、こんな理由で付いてます。決して違法なものでは無いですので。
劇薬=副作用が激しい。使用直後に猛毒状態になったり、効果が切れた瞬間瀕死になったりする。
酩酊=使い過ぎると酩酊状態になる。一部酔拳使いには重宝されている。
Side ウィッカ
法国の港に着き船を降りるとそこには既に連絡が行っていたのか、馬車の用意がされていた。
ただその馬車の見た目は堅牢と言えば良いのか、無駄に頑丈そうだった。
もう馬車というより護送車と言った方が近いかもしれない。
「?」
何かしら、何処かから異臭が流れてきた気がするのだけど。
周囲を見渡してみても特にゴミが落ちてたりはしない。
……何だったのかしら。
「ウィッカ様。あちらの馬車にお乗りください」
誘導係の船員が恭しく案内してくれる。
というか、扱いがずいぶん良くなったわねぇ。
ほら、向こうの他のプレイヤー達がどういうことかと難しい顔をしてるじゃない。
まあこの流れで馬車に乗る以外に道は無いのだけど。
「なぁ、ウィッカさんって、もしかしてあのウィッカさんじゃないか?」
「あのってどのだよ」
「ほら。ランキングの。錬金部門でここ数か月TOP3に入ってた人」
「あ、あぁ!今月確か『劇薬のサリン』に次いで2位の『酩酊のウィッカ』か。通りで凄い待遇な訳だ」
「そりゃギッテの誘いも断るのは当然だな」
そんな会話を後ろに聞きつつ馬車に乗れば、馬車は見た目の重さとは裏腹に軽やかに走り出すのだった。
そして10分後。馬車が止まり降りてみれば宮殿の前だった。
(港からはだいぶ離れているみたいなのだけど、この辺りの時間短縮はゲームならではってところかしらね)
この馬車の移動といい、船の移動といい、時々速度と距離感がずれるのは移動に時間を掛け過ぎてユーザーを退屈にさせない運営の配慮と思われる。
実際外の景色を見る事すら出来ない馬車の中で延々と待たされたくは無いので実に有難い。
と、そんなことを考えつつも案内に従って宮殿へと入りそのまま謁見の間へと通される。
って、展開早くないかしら?
所定の位置で膝を突いて待てば程なくして皇帝陛下が姿を現した。
といっても私は頭を下げているから姿までは見えてないんだけど。
「我は法国第13代皇帝アドリンである」
意外と若い、それも女性の声が部屋に響き渡る。
「ウィッカと申したな。面を上げよ」
「はっ」
その言葉に従い顔を上げれば、玉座には声の通り女性が座っていた。
年齢は私と同い年くらいかしら。
「お主の事はこちらで少し調べさせてもらった。
かなり有名な錬金術師だそうだな。
我が国では実力のあるものは出自の如何に依らず重用している。
どうだ、我が国に仕える気はないか?」
「いえ、それは」
「あぁ。異界の者は縛られるのを嫌うという話も聞き及んでおる。
仕えるといっても、自由にしてもらって良い。
その代わり研究の成果や製作物を優先的に我が国に卸してくれれば良いのだ」
つまり所属を最初の国からこっちに移さないか、という提案のようね。
でも私はもう竜宮王国に籍を移してるからその提案に乗る気はない。
「申し訳ございませんが」
「ダメか」
「はい」
「そうか。まぁ無理強いはすまい。
ただ仕える云々は抜きにして、お主の知恵を借りる事は出来るか?
恥ずかしい話だが我が国では今、幾つか問題を抱えておってな。
我が国の研究機関でも解決は出来ると思うが如何せんまだ時間が掛かる。
異界の者であれば我らに無い知識も持ち合わせているだろう。
もちろん報酬は用意するので頼まれてはくれぬか」
「お力になれるかは問題の内容を見てからでなければハッキリしませんが」
「うむ、それで十分だ。ゲーリング、あれを」
「はっ」
私の答えを了承と受け取った皇帝は隣に控えていた男性に声を掛けた。
ゲーリングと呼ばれたその男性は何処からか羊皮紙を取り出して私に手渡した。
受取るとメッセージが流れ出し、この国が抱えているという問題がリストアップされて来た。
『近年海岸沿いの街を中心に発生している病気の治療』
『使えなくなった農地の回復』
『突然変異で狂暴化する魔物の原因調査』
『魔導砲の充填速度の向上』
『子供向けのハチミツを使ったお菓子のレシピ』
などなど、10項目ほど載っていた。
ハチミツって、先日カイリくんが渡したあれかしら。
まぁそれはともかくとして最初の病気が気になるわね。
「陛下。最初の病気の件ですが」
「おぉ、もう分かったのか!」
「異界の地でも似たような問題はあったのでそれと同じであればですが。
海岸沿いの街では近海の魚を良く食べているのでしょうか」
「うむ。そうである」
「であればその魚が毒に侵されている可能性があります。
毒に侵された魚を多く食べた海岸沿いで病気が多く発生し、それほど食べない内陸側では余り病気になっていないのだと思います」
「しかし、魚は昔から食べられておる。その理屈で言えば病気は昔からあったはずだ」
「毒の原因が最近であれば?
例えば川の上流で薬品を扱う工場のようなものがここ数年で造られてはいませんか?
そこの排水が川に流れ込み、海を、そして魚たちを汚染したとは考えられないでしょうか」
日本でいう水俣病を始めとした4大公害病と呼ばれるものだ。
そう言えば船を降りた後、少しだけ異臭を感じていた。
あれは近くの川か海から臭っていたのかもしれない。
私の話を聞いた皇帝もすぐに思い当たるものがあったのかすぐに指示を飛ばした。
「ゲーリング。急ぎ全ての魔法薬および魔道具製造施設の強制査察を行え」
「はっ。川に隣接した施設を中心に行えば良いでしょうか」
「馬鹿者、我は全てと言ったぞ!
川に直接流さなくても、地中を通って汚染する可能性はある。
近衛を除く全軍を挙げて全ての排水施設の調査ならびに問題のあった施設は強制閉鎖、関係者の拘束も忘れるな!」
「ははっ!」
指令を受けたゲーリングさんは慌てて飛び出していった。
それにしてもこうしてビシビシ指示を飛ばしている姿を見ると、若くても立派な皇帝であることが分かる。
一通り指示を出し終えた皇帝が改めてこちらへと向き直った。
「噂に違わぬ見識ぶり、見事である。
して、病気の原因が分かるなら治療法も分かるか?」
「体内に蓄積された毒を外に排出する必要がありますが、その方法までは残念ながら」
「ふむ。中和でなく排出か。……いや、そこまで分かっていれば後はこちらで何とかしよう。
して褒美は何が良いだろうか」
「それは調査の結果が出てからの方が良いでしょう。
それよりもあと2つほど気になる問題があるのですが」
「なんと!
ふむ。であれば場所を移すとしよう。いつまでも賢者殿を立たせておく訳にもいかぬのでな」
そうして謁見の間から応接室のような場所に移動することになった。
というか賢者殿って。能力のある人を優遇するという話は嘘じゃないみたいね。
後書き日記 ダンデ編
9月13日 続き
ジャハナムさんはその後、武神の神殿の方角だけ伝えると去っていった。
一緒に神殿まで付いてきてもらえたら心強かったのだけど、自力で神殿まで辿り着けないようでは進化はさせてもらえない可能性が高いと言って断られた。
まぁそれもそうか。
あと助けてもらったお礼に食料品を提供したらメッチャ喜ばれた。
10食分渡したのに一瞬で食べ尽くしてたしな。
そして砂漠を進むこと1時間。
遂に俺達の前にそれらしき建造物が姿を現した。
「ピラミッドって」
「……砂漠だからなぁ。まあ予測はしてたけどな」
「おいっ。それより一緒に居るスフィンクス像。今こっちを見たぞ!」
その言葉の通り、石で出来たように見えるスフィンクスがこちらを向くと口を開いた。
『ふむ、客人か。よくぞここまで来た。
我は全知全能の門番だ。
神殿に入りたければ我が問いに答えてみせよ。
ただし我は世間一般で知られている回答は求めておらぬ。
己の力で道を開く事だ。良いな』
「お、おう」
『では、最初は4本足、続いて2本足。最後に3本足になるものは何か』
これ普通に考えれば人間なんだろう。
でもさっき普通の答えはダメって言ってたしな。
となると。
「……クリーザだな」
『は?』
「だからクリーザだ。まさか全知全能のくせに知らないとは言わせないぞ」
『しばし待て』
考え込んでしまった。恐らくネットの情報でも検索しているんだろう。
ちなみにクリーザっていうのは某アニメに出てきたボスキャラで最初はケンタウルスのように下半身が馬になっていて、ピンチになる度に変身を繰り返していくんだけど、馬の次は主人公たちと同じ人型の2足歩行になり、それでもダメとなると最後竜人形態になって両足と尻尾の3本で体を支えていた。
このゲームとは無関係ではあるが、問いの答えとしては問題ないはずだがさて。
『……不本意だが正解としよう。
では第2問だ。これは謎かけとは違うが。ふっ!』
「なっ」
スフィンクスの前足が伸びたかと思った瞬間、俺の下半身ががっちりと掴まれた。
ダメージは受けてないが全く抜け出せそうもない。
「くそっ。謎かけと見せかけた罠だったか」
『慌てるな。本題はこれからだ。
さて、残った者たちに問う。見ての通りお前達の仲間が一人捕らわれの身となった。
この先には2つの道がある。
右の道は危険な魔物が多く生息するダンジョンを通って神殿に向かう道。
左の道は魔物のほとんどいない安全に神殿に向かう道だ。
右の道を通るのであれば仲間は解放しよう。
左の道を通るのであれば仲間はこのままだ。
さあ、どちらを選ぶ?』
なるほど。確かに謎かけじゃあないわな。
どちらかというと意地悪問題のたぐいだ。
俺は仲間たちに目配せして一言。
「みんな、分かってるな?」
それを聞いた全員が笑顔で頷いた。
「ああ。もちろんだ」
「リーダーの犠牲は忘れないぜ!」
「お先~」
『なっ』
全員が迷いなく左の道を選び進んでいく。
これにはさすがのスフィンクスも驚いたようだな。
『まさかこうもあっさり仲間を見捨てるとは』
「それはちがうぜ」
『むっ?』
「みんな、俺なら自力で脱出できると信じてるからだぜ。奥義『ボルケイノ』!!」
ズドドッッッ!!
足元からマグマが吹き上がり俺を拘束していたスフィンクスの前足を吹き飛ばした。
本当ならこれ、カイリと再戦する時の切り札用に覚えた技だったんだけどな。
「さあ門番。最初の問題に戻ろうか。
前足を失って4本足から2本足になったお前が3本足になるかどうかをな!!」
「さっすがリーダーだぜ!」
「道は己の力で開けって言ったよな。ならお前を倒して第3の道を作ってやるぜ!」
「ファイヤーー!!」
先に進んだと見せかけていた仲間たちも戻って来て門番を取り囲む。
これが正解かは分からないけど、武神としては一番燃える展開だろ?




