困りごと色々
前回の感想から、皆さんそっち系のネタが好きだなぁと改めて思って苦笑を浮かべてしまいました。
ちなみにレッゲリンさんは、ドイツ語の「recht」=「法律」から来てます。
残りの二人はまぁドイツと言えば?ということで。
あとは一度世界地図を作らないと私も含めて頭の中に??が浮かんでそうですね。
小船に乗って帰っていくレッゲリンさん達を見送る。
帰りがけにハチミツを譲ってもらえないかと言われたので1リットルの大瓶で渡そうとしたら再び「ありえないですわ~」絶叫と共に断られたので、仕方なく小瓶に分けて渡したら代わりに船に積んであったありったけの貴金属類や書物を置いて行った。
どんだけハチミツは高価なんだろう。
それはともかくこの書物はこれで勉強しろってことか?
……違った。いや半分は間違ってないんだけど、残り半分はスキルブックの類だった。
そのほとんどが中級クラスで俺が持っている風水スキルもこれで1ランクアップ出来そうだ。
リースも自分にあったスキルを選んでるし、後でみんなにも欲しいのを選んでもらおう。
まぁ早い者勝ちだ。
「さてと。リース、さっきのどう思った?」
「うーん、そうね。これから当分は建設ラッシュになるのかな」
確かに。
港に始まって色々と造る必要がある、なんて話をしてたからな。
でもリースの反応から分かるようにあまり乗り気じゃない。
なにせ俺達は基本やりたいことを優先するクランだからだ。
その優先することに建設は含まれていないし、商売や国の発展も含まれていない。
「港を作ればそうなるかもな。
でも逆を言えば港を作らなければ外から船は来ないし、そう慌てることも無いんじゃないかな」
「あ、そっか」
「それよりも俺は神様の偏りの方が心配なんだ。
農業の神様は居ないって言ってただろ?
多分この世界って神様が頑張っている分野の伸びが良くて、その反対は衰退してるんじゃないかな」
このゲーム、前に色々あったとは聞いてるけど、俺が始めた当初は農業を始めとした生産系が壊滅的だった。
幾らプレイヤーが匙を投げたからって、地元民たちが暮らしているんだからそれなりに食も充実していて良かったはずだ。
でも実際には街では魔物の肉と香草と塩と硬いパンが主で、満足に料理と呼べるものは少なかったらしい。
GWイベントの辺りから何とか息を吹き返して来た感じだけど、それだってきっと運営がこのままだとマズいと思って手を入れたんだと思う。
つまりだ。
「俺はこれまで食糧難なのは海中だけなのかなって思ってたけど、地上もギリギリな状態なのかもしれない」
「ここに居るとカイリ君のお陰で食材には困らないからイマイチ実感無いけど、確かにマーケットに出した食材が飛ぶように売れて行くのを見れば、その予想も間違ってないと思うよ。
ほら、これを見てみて」
そう言ってリースが見せてくれたのはマーケットの売り上げ統計情報だった。
どうやらこれも先日のアップデートで追加されたらしい。
そこには国ごとにどのジャンルの商品が売れたのかがグラフ表示されていた。
「リースが作った料理の9割は異界の住民の国、つまり他のプレイヤーがほとんど買い占めてるんだ。凄いなぁ」
「食材をカイリ君が提供してくれてるお陰でもあるんだけどね」
「その食材を上手に活かしてるんだから、やっぱりリースの頑張りの結果だって」
「うん、ありがとう。……って、そこじゃなくて、見て欲しいのはこっちの食材の売り上げの方。
3割はプレイヤーが買ってるみたいなんだけど、残りの7割のほとんどをさっき話に出てた4国が買ってるみたいなの」
「ほんとだ」
現地の人たちは異界の住民がこの地に降り立つ前からずっとこの星で生活していたことになっている。
だから普通に考えれば俺達がマーケットに出品した食材なんかなくても自給自足が出来ていておかしくない。
でも実際にはかなりの量の食料が買われている。
リースの料理にほとんど手が出ていないのは食材に比べ単価が高くて1食分にしかならないこととバフ効果に興味がないからだろう。
あ、そういえばさっき貰った書物の中に世界地図もあったな。
広げてみれば大まかな位置関係だけが載っていた。
それによると、中央島を中心として、その近くにこれまでイベントで使われた島々があり、南側には小さな島が点在している海域があって、更にその外側にプレイヤーの国が存在する。
例の4国は全部中央島よりも北に位置してて、更にその北にここグレイル島がある。
これと食材の売り上げ分布を照らし合わせると。
「北に行けば行くほど食糧事情が悪くなっているのか」
「そうみたいね」
これで更にこの島より北側が危機的状況だった場合、結界が崩壊した後の北の魔物の南下は食料を求めての行動だと考えて間違いない。
歴史を振り返ってみても、北の国々が豊かな農地を求めて南下するのは良くある話だ。
これはみぃズ達にお願いしている種の散布をもっと積極的に行うべきか。
いや逆に味を占めて攻め込む動機を強化してしまうだけか。
悩ましいところだな。
「それとカイリ君。実は困ったことがあるの」
「えっと。今の話と関係のある話?」
「うん。そのね。お金が余ってるの」
「へ?」
「だから。お金が増える一方で全然使わないから余ってるの」
「何というか、リアルで言ってみたい言葉ベスト3だな」
「……ちなみに他の2つは?」
「『自分カッコ良すぎる』とか『モテすぎて辛い』とかかな」
『彼女が可愛すぎる』とか言ったらどうなるのか試してみたいけど、流石にキザすぎるよな。
「ふむふむ。私の彼氏はナルシストで浮気願望あり、と」
「ちょっ……」
「あははっ。冗談だよ冗談」
「む。ちなみにリースだったら?」
「え? えと、その……か、『彼氏が格好良すぎる』、とか?」
「そ、そっか」
顔を真っ赤にして上目遣いで俺の顔を覗き込むリース。
くっ。
俺が自重したのに自分で言って自分で恥ずかしがってたら世話ないな。
まぁ俺の顔も多分赤いんだろうけど。
(うーん、いい雰囲気ですね~)
(うふふっ、青春ねぇ)
(ほらっ、そこで抱きしめてキスしないと)
(どきどきどきどき)
「……えっと……」
向うの草陰からみんなの視線が突き刺さってるな。
リースはまだ気付いてないみたいだけど、流石にこれは。
ビット、ちょっとお願い。
「ビビビッ」
「「きゃああっ」」
ビットに飛び掛かられて慌てて出てくるみんな。
それを見てリースが慌てて俺から距離を取る。
「ちょっとみんな。いつから見てたの??」
「それは……あのオバサンが帰った辺りから、ですね」
「本当はすぐに出ようと思ったのよ?でもいい雰囲気だから邪魔するのも悪いかなと思って、ね」
「それでデバガメしてたと」
「ごめんなさーい。ただそんな2人に朗報よ。
先日のアップデートで恋人設定機能も追加されてるわよ。更にとある国に行けば結婚式も上げられるみたいね」
「けっこん!!?」
結婚式の言葉に再び顔を真っ赤にするリース。
でも待ってほしい。流石にそれは話が飛び過ぎじゃないか?
その前にやるべきことが色々とあると思うんだ。
色々って何かって、それはあれだ。あれ。
って俺もちょっとテンパってるな。ここは話を変えよう。
「というか先日のアップデート、色々盛り過ぎじゃないか?」
「そうねぇ。どうやら進化システムの一環なんじゃないかと思うわ。
ほら、進化するには神様に会いに行く必要があるんでしょ?
さっきの話とカイリくんの話を合わせるとこの世界の地上の神様に会うにはその4国のどれかの神殿に行く必要がありそうじゃない」
「まぁ確かに」
「掲示板の方にも中央島で神様に関する話題が幾つか見つかってるみたいで、既に神様と進化を関連付けている人がちらほら出てきてるわね」
「運営としても実装したは良いものの、誰にも気付かれなかったら意味が無いですからね」
最近のゲームの傾向として、多少の謎かけはあったとしても、ほとんどは悩まなくても解けるようになっている。
まぁ、プレイヤーの年齢も下は小学生だからな。
攻略本なんて開発者が書いたんじゃないかってくらい各種成功率や裏ボスの出し方まで公開されている。
と、まあそれはいいや。
「皆もまだ進化はしてないよな。
どの神様で進化したいとか希望はある?多分自分の種族の国で進化するのが一番楽で早いんだけど」
「でもそれって、ただ強くなるだけなんじゃない?」
「そうかもしれないな」
「なら多少難易度が高くても自分に合った神様を探した方が良い気がするわ」
「とすると、料理の神、裁縫の神、お酒の神、旅の神?
どれもぴったり合う神様は居なさそうだな。
旅の神だけは空の4神の誰かが受け持ってそうだけど」
そもそもの話、神様が空と地上と海と異界のそれぞれ4柱、計16柱しか居ないのが問題な気がするんだけど。
俗世の事は自分たちで何とかしろって事なのか?
後書きの船室内
「急ぎ閣下に報告を。他国が嗅ぎ付ける前に何としても我が国が抑えます。
北との境界であるあの島は、北境条約によりどの国も手出し無用で合意が取れていたというのに、まさか異界の者たちが占有するとは。
どこまで行っても異界の者たちは富と問題ごとを持ち込んで来るようですね」
「しかしどうする。条約違反だからと言って攻め込んだとして、結局我が国のものに出来る訳でもない」
「アサシンビーをただの1国民だと称する国か。
しかもあの言い草では他にも多くの魔物を従えている可能性が高い」
「そうでしょうね。ですが今なら何とか従属化も可能かもしれません」
「しかし従属の条件はどうする。他国からの保護と言っても、今のところ彼の国に応じる理由は無い。
武力でも経済力でも間違いなくこちらが上だろうが、それを前面に押し出したとしても、彼のあの様子では委縮することはなさそうだ」
「アサシンビーのハチミツを気軽に譲渡するんだ。急がなければ商国が出てくるぞ。
かと言って、攻め入っても今度は武国が出てきてたちまちあの島は戦場になる。
電撃戦を仕掛けるにしても情報が足りな過ぎて攻め落とすべき場所を確定させるのに時間が掛かるな。
それを見越して国の内情を隠していたのだとしたら更に危険だ」
「そうですね。あのハチミツも場の主導権を奪う為の策だったのでしょう。
せめて彼の国の王の為人が分かれば良かったのですが、初見で王を出せとは言えませんでしたから外交担当の男性で我慢しましたが、これはもっと踏み込んだ方が良かったかもしれませんね」
「は?」
「ん?」
「え?」
「おい、レッゲリン女史。まさか気付いててあの強気外交をしていた訳じゃないのか」
「へ?」
「新興国『竜宮王国』の国王の名は確かカイリというはずだ」
「ということは……」
「応対していた男性、あれが王だったのだろう」
「しかし彼は私達と同じ種族でした。
……はっ。そう言えばごく僅かとは言え、私達と変わらぬ見た目の者も居るのでしたね。
ですがいくら大国の使者が相手とはいえあの態度は王のそれとは思えません」
「しかしそれが異界の者の特徴とも言える」
「我らの常識は通じないと考えるべきだろう。
下手に手を出せば火傷では済まないぞ」
「ええ。全くありえませんわ!!
すべて余すところなく閣下に伝えて指示を仰ぎましょう」




