来訪者の正体
描きたい事が沢山あるのに執筆時間が取れないと悶々としますね。
何より思い描いていたものの半分も文章に出来ないもどかしさが。
今回の後書きは没ネタ、ではなく本編の内容を受けて新たに書き上げたものです。
リースの連絡を受けて地上に上がると、村にはリースの姿が無かった。
船が来たって言ってたから海岸の方に向かったのかな?
確か南東から来てるって言ってたっけ。
と思ったら甲高い声が聞こえてきた。
「あぁ~りえないですわぁ!!」
な、何事?
慌てて声のした方に向かってみればリースと、恐らくさっきの声の主と思われる40代のオバサンが居た。
オバサンの後ろに居る男性2人は護衛か小間使いって所だろう。
「えっと、リース。これはどういう状況?」
「あっ、カイリ君っ!」
振り返ったリースは明らかに「助かった」って表情をしていた。
それに対してオバサンの方はますます目が吊り上がって居る気がする。
そしてやはりというか、この場で一番口が早いのはオバサンだった。
「あなたがカイリさんですの?
彼女からあなたが来るまで待てと言われたのですが、これはどういうことですか!?」
ずんずんと俺に詰め寄りながら問いただされるけど俺に心当たりはない。
「まずは落ち着いてください。一体何に怒っているんですか?」
「そんなことも分かりませんの?
どうしてこの国には港のひとつも無いのかと聞いているのです。
幾ら新興国とはいえ国の玄関口となる港はあって当然ですわよ。
お陰でわざわざ小船に乗り換えて上陸する羽目になったではありませんか!」
「は、はぁ」
確かに小船に乗り換えての移動は面倒だっただろう。
言われてみてみれば、島から1キロくらい離れた沖合にオバサン達が乗って来ただろう帆船が停泊している。
あれ。でも、おかしいな。この島の海岸はすぐに深くなるから大型船でも余裕で接岸できるはずなんだけど。
「えっと、あの船はどうしてもっと近くまで来ないんですか?
海岸付近に岩礁も無いので座礁する心配はないとおもうんですけど」
俺がそう問うと呆れたため息が返って来た。
「あなたそんなことも知らないんなんてあり得ないですわ。
良いですか。国交が成立していない他国の島に対して中型以上の船が無断で近づくのは国際法に抵触するのです。
侵略行為とみなされて攻撃されても文句は言えないのですよ!!」
「そ、そうだったんだ」
「そうなんです。まったく異界の方々は法に疎い方が多いようですわね。
噂によると今年に入ってから既に領海侵犯を犯して沈められた船が2桁に上っているそうですわ」
「へぇ」
そんな法があったのか。
公式サイトとかではそんな話は聞いたことが無いから、隠し要素というか、ゲーム内で調べないと出てこない内容なのかもしれない。
あ、そう言えば時々新天地に向かったプレイヤーの船が突如沈められた、なんて話があったけど、これなのかな。
「でもそれだとうちは何処とも国交を開いて無いから港を作っても意味が無いんじゃないですか?」
「そんなことはありませんわ。
港を作って利用条件を設定することで、例えば商船に限り自由に入港可能にする、といったことが出来るのです。
というか、そうしないと商船は荷物を運搬する関係上、島には近づきません」
「なるほど。つまり他国と交流したり流通を起こすのに港が必須ということですか」
「ええ。どうやらお分かり頂けたようですわね。
まったく。たまたま私達が近くを通りがかって、たまたま新興国が出来たと噂を聞いてやって来たから良かったものの、そうじゃなかったらどうなっていた事か!!」
「本当ですね。わざわざありがとうございます」
「フンッ」
何だろう、このオバサン。
態度は高慢な感じなんだけど、こちらを馬鹿にしている感じは無くて。
むしろそう、わざわざ知識を授けに来た解説キャラ的な立ち位置なんじゃないだろうか。
その証拠に。
「それと、必要なのは港だけではありませんのよ」
聞いても居ないのに追加で情報を渡そうとしてくる。
やっぱり建国後のチュートリアルみたいなものな気がしてきた。
なら話を合わせて、もらえる情報は極力貰っておこう。
「え、他には何が必要なんですか?」
「港が出来たら灯台、倉庫、宿泊施設、大使館は早めに作った方が良いですわ。
あと人の出入りが増えれば当然悪人の出入りもあります。なので保安所や警備員の手配も必要ですわ。
さもないと治安が低下して強盗や誘拐などが発生しますわよ!」
「あ、それは困りますね」
「災害ならともかく、治安の悪化で国の人口が1000人を下回った場合、自動的に国が崩壊するのですから気を付けなければなりませんわ」
「『災害ならともかく』というのは?」
「まだ復興の余地がある、という事です。逆に治安がそこまで悪化した場合、人が寄り付かなくなりますから復興の可能性はほぼゼロですわね」
まぁそれはそうか。
だれも治安の悪い所に敢えて移り住もうとは思わないだろうからな。
犯罪組織の根城っていう事ならありなんだろうけど、そんな国を作りたい訳でもなければ魔王になる気も無い。
なので犯罪対策はしっかりしておかないといけないな。
というか、今更だけど俺は何時まで立ち話を続けてるつもりなんだ。
もっと色々話も聞きたいしどこかで落ち着いて話をしよう。
「遅くなりましたが、お茶の一つも出してませんでした。
よろしければ話の続きは向うの花畑にある東屋で行いませんか?」
「そうですわね」
「リース。悪いけどお茶とお菓子を用意してもらえるかな?(出来れば交易品になりそうなもので)」
「分かったわ(なら単価が高くて日持ちのするものが良さそうね)」
リースにお茶をお願いしつつオバサン達と一緒に移動する。
「そう言えば、おば、お姉さんの名前をまだ伺っていませんでした」
「そうですわね。私としたことが失礼しました。
私は法国が執務官、レッゲリンと言いますわ。後ろのは従者のヒムラーとゲッペルスです」
オバサン改めレッゲリンさんが名乗ると後ろの二人も静かに会釈をした。
にしても、また新しい単語が出てきたな。
「無知を承知でお聞きしますが、法国というのはどちらにあるのですか?」
「ここより南東に進んだ先にありますわ。
ですがその様子では四大国家の事もご存じないのではないの?」
「ええ、お恥ずかしながら」
「詳しく話していると日が暮れてしまうので端的に言えば、地上の神様それぞれに認められた国がありますのよ。
その神様の司るものから武国、法国、商国、愛国と呼ばれていますわ。
私の出身の法国は知識と法の神コーラン様に認められた国ですのよ」
そう言えば地上にも神様が4柱居るって話だったな。
国は4つだけとは限らないだろうけど代表的な国が神様1柱に付き1国あるって感じか。
「ところで、この国はどの神様に認められたのでしょう?
神様の加護を受ける為にも、その神様を祀った神殿も早めに建てることをお勧めしますわ」
「そ、そうですね。善処します」
神殿……うちだと3つ建てる必要があるのかな。
それとも1つの神殿に3神を祀っても良いんだろうか。
というか、3神から認められてる、なんて話したらまた「ありえないですわ~~~」ってなりそうだから黙っておこう。
と、そこへリースが紅茶とクッキーを持ってきてくれた。
「さあ皆さん。お茶をどうぞ」
「あら、いい香りね。頂くわ」
「甘いのがお好きな方は砂糖もハチミツもありますので仰ってくださいね」
「……は?」
差し出された紅茶を嬉しそうに受け取ったレッゲリンさんだったけど、その後の言葉にピシリと固まった。
「どうされました?」
「いえ。その、いまハチミツと聞こえたような気がしますが……」
「ええ。つい先日ミツバチと仲良くなりまして。ここの花畑の事を話したらぜひ移住したいという事だったので招待したんです。
そうしたら大層喜んでくれて、お礼に定期的にハチミツをくれることになったんです」
出会ったのは建国祭が終わった直後くらいだから、もう半月くらい前か。
時間が経つのは早いな。
「あ、噂をすれば丁度近くに来ましたね。
ビット、お客様にご挨拶して」
「ビビッ」
「ぎゃあああっ」
ビットの姿をみて椅子から転げ落ちるレッゲリンさん。
従者の2人も慌てて武器を取り出してるけどどうしたんだろう。
ちなみにビットは全長30センチほどのミツバチ(?)だ。
黄色と黒の縞模様が綺麗で胴体部分は細かい毛で覆われているので撫でると気持ちいい。
「あ、もしかして蜂が苦手でしたか?」
「は、蜂って『アサシンビー』じゃありませんか!?」
「え、ああ。確かそんな種族名でしたね」
「単体でも危険度Bランクの魔物ですわよ!!」
「大丈夫ですよ。この子たちは味の違いも話も分かる良いやつですから」
「味の違いとかどうでもいいですわ!それより、『たち』って事は沢山いらっしゃるの?!」
「ええ、もちろん。蜂ですから。
あ、彼らもこの国の住人の一人なので無暗に危害を加えないでくださいね」
「あ、あ、あ、ありえませんわ」
わなわなと震えながら何とか椅子に座り直すレッゲリンさん。
ビットの事が怖いみたいなので、残念だけどビットには別の所に行っててもらうことにした。
「ちなみにここには他にも何体か従魔が暮らしてますが、その様子では会わせない方が良さそうですね」
「ほ、他にも。そう言えば先ほどから住民をほとんど見かけませんが、いったいどちらに?
まさかほとんどが魔物だなんて言いませんわよね?」
「ええ、大丈夫ですよ。
姿が見えないのは人口比率で言えば圧倒的に魚人族が多いので、ほとんどの人が海中に居るからです。
それもあって地上の施設はそんなに多くは無いんですよ」
「なるほど、そうでしたの」
俺の回答にほっと胸を撫でおろすレッゲリンさん。
この国は魔物の国じゃないから。どっちかと言えば農業とか生産中心の国だから。
あ、それで言えばだ。
「ところで、先ほど地上の神様についての話がありましたが」
「ええ」
「農業の神様はどなたになるのでしょう?」
「おりませんわ」
……はい?
後書き傭兵譚
8月22日
なあ、この世界で価値のあるものって言ったら何があると思う?
命?誇り?愛?
まあ確かにな。否定はしないさ。
そうじゃなくて金銭的に価値のあるものって意味だ。
宝石や貴金属なんかのヒカリ物ももちろん価値が高い。
だがそれ以上に価値が高いものは嗜好品。つまり珍味や香辛料なんかだ。
これらは金持ちが特に好む癖に流通量が極々少ないせいで黄金よりも高くなっている。
なぜ流通量が少ないか、だが。
一つは香辛料の多くは栽培方法が見つかっていないことが挙げられる。
昔は隠れた集落なんかで密かに栽培されていたそうだが、今ではほとんど聞かない。
そしてもう一つの理由が、そういったもののほとんどが凶悪な魔物が関係しているということだ。
あるものは魔物の好物であったり、またあるものは生産そのものに魔物が関係している。
前置きが長くなったが俺達が今回狙っているのもそういったものの一つ。
『ハチミツ』だ。
ハチミツは蜂が生み出すことは広く知られている。
それと同時に蜂が昆虫型の魔物の中でも特に危険度の高いことも知られている。
Aランクの冒険者でさえうっかり蜂の巣にちょっかいを出せば生きて帰ることは出来ないだろう。
そんなハチミツをどうして狙うかというと、だ。
今回、とある島で異常気象が発生しているという情報を手に入れたからだ。
何でも今年に入ってからほとんど雨が降っていないらしい。
そのせいで花が全然咲かないから蜂たちも弱っているそうだ。
それじゃあハチミツも少なくなっているんじゃないかと思うだろうが、もとより少しでも手に入れば巨万の富になるんだ。狙う価値はある。
だというのに……なんだこれは。
島一面に花が咲いているじゃないか。
ガセネタを掴まされたのか!?
いやまて。空気は確かに乾燥している。地面もだ。
それなのに花は咲いている。意味が分からない。
そして、問題の蜂達だが。
見える範囲で2匹。少ないな。これだけ花が咲いているなら普通なら10匹くらいは余裕で見つかるはずなんだが。
やはり弱っているという噂は間違いじゃなかったのか?
いやまだ結論を出すには早い。もう少し調査をしてからだ。
そう思っていたら異常なものを見つけた。
異常レベルで言えば今日一番。いや俺の人生で一番かもしれない。
仲間たちに確認しても俺だけ幻覚を見ている訳ではないらしい。
なんだあれは。なんなんだあいつは。
周囲を20匹以上の蜂に囲まれてにこやかに笑っている青年がいた。
あまつさえ蜂の体を撫でたり頭の上に載せたりしている。
従魔術の類で使役したのか?いや、そんなことは無理に決まっている。
なら人の姿をした魔物なのか?その可能性は捨てきれない。むしろそう考えるのが自然だ。
!!?
マズいマズいマズい。目が合っちまった。
奴の周囲の蜂達が一斉に戦闘態勢を取ったのがここからでも分かる。
にげる?無理だ。
俺達よりも蜂の方が圧倒的に速いんだ。
なら戦うか?
もちろん対蜂用の装備は用意してきた。
だがそれでもあの数に一斉に攻撃されたら勝ち目はないだろう。
青年がゆっくりとこちらへと近づいてくる。
一か八か声を掛けてみるか。もしかしたら逃がしてくれるかもしれない。
……良かった。
青年は普通に人だった。
魔物かと疑って悪かった。
しかし、それならどうやって蜂達を従えたんだ?
え?花が咲かなくて困っている蜂達を見て、気の毒に思って島中に乾燥に強い植物を植えて花を咲かせたら、喜んでもらえた?
いや、色々と意味が分からないんだが。
ちなみに井戸も掘っておいたから今後は水不足に悩むことも少なくなるだろうって。
そ、そうですか。
それでこれからどうするんですか?
え、仲良くなった蜂達を自宅に招待するんですか。
はぁ、そうですか。
……ところで俺達は何しに来たのか、ですか?
そ、そりゃあ勿論。俺達もこの島の窮状を聞いて何か出来ないかと来てみたんですよ。
どうやら一足遅かったみたいですがね。へへへっ。
それじゃあ俺達はお先に失礼します。
はぁ~~~。
よし。今日の事は全部忘れて真っ当にクエストをこなす事にしよう。
やっぱ人間地道に稼ぐのが一番だよな。うん。




