お祭りの準備
一応ゲームの中なので、未成年でもお酒は飲んでも問題はありません。
あと他人の撮影もフレンド以上なら大丈夫なんです、きっと。
色々あった、というかあり過ぎた夏祭りの翌日の朝。
アルフロにログインするとリースは来ていないようだった。
ホッとしたような残念なような複雑な気分だ。
まぁそれは横に置いておこう。
明日は遂に建国祭当日だ。
なので今のうちに準備が完了しているか各所を回ってチェックしていこうと思う。
料理に関しては作り置き分は既に村の拠点倉庫に大量に保管されているのでそれを出すだけだ。
リース曰く、メインディッシュは当日のお楽しみということでここにはない。
続いて飲み物だけど、いつものようにウィッカさんがお酒を用意してくれるはず。
と、ウィッカさん発見。
「ウィッカさん。例の水中でも飲めるようにする研究ってどうなりました?」
「ふっふっふぅ。出来てるわよぉ。自信作だからカイリくんも試しに飲んでみて」
「分かりました」
そうしてウィッカさんが取り出したのはゼリーの入ったチューブだった。
色は琥珀色だから元はウィスキーだったのかもしれない。
でもゼリーかぁ。
結局液体のままお酒を飲むのは諦めたってことなのかな?
そんな疑問も抱きつつ、物は試しとチューブを押して中のゼリーを口に含んでみた。
「!!?」
びっくりした俺の顔をみてウィッカさんが上手くいったと嬉しそうに笑った。
「どうかな。ちゃんと飲めてるでしょ?」
「そう、ですね。これなら水中でも飲んでるって感じになると思います」
見た感じはゼリーなのに口に含んだ瞬間、まるで熱した鉄板にバターを置いたように一瞬で液体に変わっていく。
ビールのCMみたいにゴクゴク飲んでのど越しを楽しむっていうのは難しいだろうけど、ちゃんと味わって飲むのであればこれで十分だろう。
「でもこれどうやってるんですか?」
「ちゃんと化学反応みたいなのを考えれば唾液で溶けて水に溶けない状態になってるって言いたいんだけど、ゲームだからね~。
口の中に含まれたって判定で半固体から液体に変化するっていう特殊効果を付けるのに成功したのよ。
あ、もちろん食べられる材料だけでね。
お陰で余計な手間がかかってるんだから」
「ご苦労様です。これで明日は盛り上がること間違いなしですね!」
たぶんシャガラ様を始め神様たちにも満足してもらえると思う。
「ちなみにこれってどんな飲み物でも行けるんですか?」
「炭酸は無理だったわ。普通の果実水なんかは大丈夫よ」
「なら子供たちにも用意出来ますね」
さてこれで飲み物は大丈夫として、お次はレイナかな。
ここ数日裁縫小屋に篭って何か作ってたけど出来たのかな。
ほぼレイナ専用となった裁縫小屋を訪れるとレイナが何かやりきった顔で出迎えてくれた。
「あ、カイリさん。丁度いい所に来てくださいました。明日用の衣装が出来上がったので試着をお願いします」
そう言ってグイグイと部屋の中に引っ張り入れられる。
そこにあったのは、なんというか、その、うん。
「ねえレイナ。これはどこの魔王様が着るのかな?」
「凄いですよね!この世界の古い文献を参考にしたんですよ。
『七海の覇王』と呼ばれた方が過去に居たらしくてですね。
その方は当時、混沌とした海の世界を知力と武力、そして人徳によって統治し平和をもたらしたそうなんです。
まさにカイリさんにピッタリじゃないですか!!」
目をキラキラさせて語るレイナ。
だけど。
改めてその衣装を見ると全体に黒ベースの皮っぽい素材で出来ていて、膝や腰の辺りには波を表すような模様が青いラインで入っている。
ベルトも戦隊モノの変身ベルトのようなごっつさだし、マントは表が黒で裏地は青になってる。
王冠は海藻とサンゴを組み合わせたような作りになっていて、個人的にはこれだけで十分なんだけど、レイナの様子を見たらそんなことを言い出せる雰囲気じゃないな。
「でもこれを着るの?俺が?」
「はい! 絶対に盛り上がること間違いなしです」
「あははっ。そ、そうかな」
あかん。これは強制イベントだ。
仕方ないので衣装を受け取って着替えてみる。
サイズは……ゲーム仕様で自動でフィットしてくれるみたいだ。
そして姿見に映るその姿は、格好いいかと聞かれたら格好いいと答えるだろう。
ただしダークサイドの格好良さだけど。絶対に魔界の貴公子とかそっち系だろっ。
パシャッパシャッパシャッパシャッ
「あ、あの。レイナさん?」
「すみません。そこで左足を半歩下げてください。腕は軽く腰に当てる感じで」
パシャッパシャッ
「次はその椅子の背に手をついて。そうです!そこで視線だけこっちに」
パシャッパシャッ
何故か突然撮影会が始まってしまった。
というか俺なんか撮ってどうするんだ?
レイナだから変なサイトに投稿したりはしないと思うけど。
結局30分ほどポーズを変え、持ち物を変え撮影を繰り返すことになった。
よろよろと裁縫小屋を出た俺は、サクラさん達の様子も見に行くことにした。
確か花火を打ち上げてくれるって言ってたよな。
ウィッカさんに聞いたら島の南側で準備しているとのことなので向かってみる。
「あ、カイリさん。いらっしゃい」
「明日が本番ですよね! こっちは準備オッケーですよ」
そう言って迎えてくれたサクラさんとツバキさんの後ろには何故か海岸沿いに砲撃陣地が形成されていた。
「準備って戦争をするんじゃないよ?」
「分かってますよ。これは花火を打ち上げるための砲台ですって」
「それならなんで水平に構えてあるのかな」
「雨風が砲身に入らないようにするためです」
「向こうで人獣の子供たちが玉乗りに使ってる砲弾みたいなのは?」
「本物の花火の前のお試しで撃ってみる為に用意したんですよ」
「ふぅん。で実際のところは?」
「いやぁ。せっかく造ったんで砲撃戦ごっこがしたいなぁと」
「……まぁいいけどね」
今のところ南から攻めて来る軍勢は居ないから実際に使われることは無いだろう。
北の海岸ならまだ分からないけど。
「花火本体はどう?」
「はい。本職の方には負けるけど十分なものが出来てますよ」
「打ち上げ高度、展開半径共に中央島からでも見えるレベルに達しています」
「それはまた真下から見たら凄いことになりそうだな」
「安心してください。打ち上げるときは真上じゃなくて仰角75度くらいで行いますから」
「あ、それはいいね」
真上だったら首が大変なことになることだろう。
これでこっちも問題なしっと。
「あ、火薬の扱いには十分に注意してくれよ。
俺達はともかく人獣の子供たちが遊んで爆発とか大惨事だから」
「そうですね。厳重に管理しておきます」
あとは会場の方はユッケ達が準備してくれてるし、招待状を送るべきところには送ったし、地上のみんなには水流のネックレスを配ってあるし、今やるべきことはもうないかな。
後書き日記 リース編
8月18日
午後になってアルフロにログインした私はまずはグレイル島の様子を窺う事にしました。
カイリ君は……どうやら明日のリハーサルの為に農場の方に行ってるみたい。
良かった。
流石に今はどんな顔をして会ったらいいか分からないですからね。
明日の建国祭では間違いなく顔を合わせることになるので、それまでに覚悟を決めておきましょう。
それに私もこれから明日のメインディッシュを用意しないといけないのですし、浮かれてばかりもいられません。
と、思っていたらレイナから呼び出しが掛かりました。
何でしょう。
裁縫小屋に入った私を迎えたのは色とりどりのドレス。
っていつの間に作ったんですかこんなに。
もしかして明日はみんなでドレスアップするつもりですか。
なるほど。ということは、ドレスの試着の為に呼んだんですね。
あ、呼んだのはそれもあるけどメインは別の事?
レイナは裁縫小屋の奥の部屋へと私を招き入れました。
そこにあったのは……なんとカイリ君の写真集!?
人獣たちと戯れている姿やカウクイーンと畑仕事をしている姿にご飯を美味しそうに食べてる姿。
そしてこちらは、明日の衣装と思われる服を着て決め顔をするカイリ君!!
うっ。
何という破壊力でしょう。
これがリアルだったら思わず鼻血を出してしまったかもしれません。
まだ心臓がドキドキしている気がします。
でもあれ?ちょっと待って。
こんな写真を撮っているって事は、レイナもカイリ君の事が好きなんでしょうか。
出会いからしてピンチの所を颯爽と助けてくれた訳ですし、それ以降も何かと面倒見が良くて優しい彼の事を好きになってしまうのはある意味当然と言える気がします。
まさかまさか強力なライバルの登場です。
この写真を見せたのも宣戦布告のつもりなのかもしれません。
くっ。負けませんからね!!
……違いました。
レイナは私がカイリ君の事をずっと前から好きだったと思っていて、いつか私にプレゼントしてあげようと撮り溜めてくれていただけだったみたいです。
今日はスペシャルな一枚が撮れたから是非見せたくなっただけだったそうです。
早とちりでライバル宣言した私、ものすごく恥ずかしいです。
穴があったら入りたいっていうのはこれですね。
うぅぅ。




