みんなの成長具合
皆様からの大量の「バグだろ」つっこみありがとうございます。
でもひとまずこのまま進めさせてください。
建国の承認についてもまた後程。
地上へと戻って来た俺は用も済んだし東の村まで帰ろうかと思ってミズモに声を掛けようと思ったんだけど、肝心のミズモの姿が見当たらないな。
あの巨体だから近くに居ればすぐにわかりそうなものだけど、もしかして地中に潜ってるのかな?
もしかしたら俺を迎えにいってすれ違いになったのかも。
でもそれならどこかに穴が開いててもおかしくないんだけど、はて。
仕方ないから周りの人に聞いてみようかなと思ってみたら何故か誰も彼もが空を見上げてるな。
そんなに珍しいものが空を飛んで……居たよ。
「ミィーーー♪」
細長い胴体に4対の羽を付けたミズモが楽しそうに空中を泳いでいた。
ミミズっていったい何だっけ。
そんな俺の考えを他所に、ミズモが俺を見つけて滑るように降りてきた。
そのまま埃一つ立てずに静かに着地。同時に広げていた羽も体にフィットするように仕舞われた。
うーん、重力も空気抵抗も感じさせない見事な動きだ。って感心している場合じゃないか。
「ただいま、ミズモ」
「ミィ♪」
「飛べるようになったんだな。凄いな」
「ミィ!ミィ!」
褒めてあげるとくいくいと頭を揺らして喜びを表現する。
こういう素直なところは進化しても変わらないようだ。
でもてっきり進化するならより地中に特化するかと思ったんだけど、違ったんだな。
「ミミッ」
「ん?さっき頭の中に神様の声が届いて新たな力を手に入れるとしたらどうなりたいか聞かれた?」
「ミィ。ミィミィ」
「なるほど、そういうことか」
どうやら「いつでも俺に会いに行けるようになりたい」と答えてくれたみたいだ。
ミズモは普段この島から離れられないから、俺が召喚した時か遊びに来た時しか会えない。
それを克服する為に飛行能力を手に入れたってことか。
「寂しい思いをさせてごめんな。これでもういつでも遊びに来れるな」
「ミ……ミィ」
「あ、まだ長距離は無理か。でも特訓すればいつかは行けるようになるんじゃないか?」
「ミ!!」
力強く頷くミズモ。この調子なら本当にすぐにグレイル島にまで飛んで来れそうだな。
「じゃあ今日のところは東の村まで送っていってもらおうかな」
「ミィ♪」
そうして俺はミズモの背中に乗って東の村に戻っていった。
村の子供たちがミズモの姿を見て大興奮したのは言うまでもない。
あ、でも子供たちを乗せて飛ぶのは程々にな。大人たちが心配するから。
さて、これでここに来た用事も済んだし、帰るか。
って……あれ?何か忘れているような……うーん、まぁいっか。
何かあってもきっとミズモが上手くやってくれるだろう。
俺は子供に囲まれているミズモに手を振って帰っていった。
竜宮農場へと戻って来た俺を迎えたのは、このゲームを始めてからずっと一緒に居てくれるヤドリン達だ。
でも、あれ?
「みんなは見た目変わってないんだな。てっきりミズモみたいに進化してると思ったのに」
「きょっ」
「ちゃんと進化は出来てる? 腕刀の切れ味が5割増し?
確かに、言われてみれば数センチ腕の長さが伸びたような気もするな」
「ぴっ」
「おぉ~コウくんは頭の明かりが7色に光るようになったのか。
パーティーの時なんかは会場をライトアップしてくれると盛り上がりそうだな。
ということはヤドリンもどこか変化してるのか?」
「……くぃ」
「……大切なのは中身だって? 確かに。ヤドリンが言うと説得力あるな」
なるほど。3人ともミズモほど見た目には大きな変化はないけど、ちゃんと強くなってるって事だな。
出来れば北の魔物と戦う前に一度確認する機会を設けたいところだが、さて、むしろ南の海だと前回みたいにレイドボスでも見つけない限り戦いにならない可能性が高い。
あ、それならいっそのこと北の海に武者修行に出るのもありか。
北の魔物に大挙して襲い掛かられたら困るけど、3対1なら多分勝てるだろうし。
「今のみんななら北の海でも戦って行けるよな。ちょっと腕試しに出かけないか?」
「きょ」
「え、無理? ダメじゃなくて?」
俺の提案にイカリヤが腕をバッテンにして無理だと伝えてきた。
「どういうことなんだろう。え、行けば分かる?」
論より証拠と、腕を引かれるままに北の海溝端へとやってきた。
うーん、特に変化はないような。
死糸花たちも以前と変わらず元気に咲いてるし。
「ぴぃっ」
首を傾げているとコウくんが海溝の外に向けて光を放った。
すると海中に巨大な網のような線が浮かび上がって来た。
ただ網と言っても目が粗くて魚なんかは捕まりそうにない。
「この網っぽいのが無理な理由なのか?」
「きょっ」
試しに網の空いている部分を通ろうとしてみる。
するとまるで網が意志を持つかのように行く手を遮って来た。
押し通ろうとするとボクシングのリングに張ってあるロープのように硬い弾力が返ってきた。
どうやらこれが例の結界って事なんだろう。
「あれ、でも前は普通に通れたよな?」
「ぴっ」
「え、レベルが低いうちは問題なかった? なら今は強くなり過ぎたから通れなくなったってことか」
「ぴぃ」
コウくんの話では最初通った時はもっと網目が細かかったけど問題なく通れたらしい。
今はだいぶ目が粗くなったけど、それ以上にレベルアップしてしまった為に通れなくなったようだ。
目が粗くなる = 神様が言ってた穴が広がる = 強力な魔物が通れるようになるって事なんだろう。
ならこの網の様子を監視しておけば、いつ頃に完全に結界が無くなるかが分かりそうだな。
よし、今後は定期的に確認しに来ることにしよう。
もしかしたら穴が広がりきる前に強めの魔物が死糸花の警戒網をすり抜けてやってくる可能性もあるしな。
「死糸花たちも引き続き警戒頼むな」
死糸花達に声を掛けつつ、北の様子を確認した俺達は畑まで戻ることにした。
そうそう、行くときは素通りしたけど、城造りは土台部分と城壁に当たる部分が北側だけ8割方完成していた。
先日作り始めたばかりだから、この速度は驚異的だ。
ユッケとダームさんを中心にかなり頑張ってくれているみたいだったので、リースの料理を多めに差し入れしておいた。
あ、ダームさんは地上に戻ればお酒も用意しておきますので。
根を詰め過ぎないようにしてくださいね。
あと見た目よりも堅実さをお願いします。国を守る城塞になってくれることを期待してますから。
どことなくダームさんの目が虚ろだったのが心配だけど、きっとキリの良いところで休憩してくれるだろう。
さて、神様たちの話では畑や農作物にも祝福をくれたって話だったけど、どうなってるのかな。
「「ちぃちぃ♪」」
「「みぃみぃみぃ♪」」
「うわぁ。凄い『みぃズ』と『ちぃズ』が大量発生してるな。
というか、あれ? 畑の作物を食べちゃってないか?!」
上から見下ろすと、『みぃズ』と『ちぃズ』が畑の中を螺旋を描くようにクルクル踊りながら、畑の作物を体内に取り込んでいた。
もしかして蝗害ならぬ精霊害が発生してるのか?流石にそれは無いと思いたいけど。
まぁもしそうだとしても美味しそうに食べてくれてるから良いかな……。
と、そんな心配をした俺の元に近くに居た魚人族の人たちが声を掛けてきた。
「あ、主様。じゃない、王様!
見てくださいです。あれを」
「うん、見えてるよ。これじゃあ収穫量が激減しそうだね」
俺がそう言うと慌てて首を横に振る魚人たち。
「あ、いえ。見た目ほど減っては居ませんです」
「そうなのかい?」
「はい。どうやら精霊たちは上手い具合に間引きをしてくれてるみたいなんですよ。
お陰で収穫量は若干減りましたけど、品質は大幅に上がってますです」
「なるほど、そういうことか」
以前は土壌改善や歌いながら作物の成長を促すくらいしか出来てなかったけど、今は更に高度な畑の管理を出来るようになったってことなのか。
いや、それだけじゃないな。
あっちにニンジンの足やほうれん草の手が付いた精霊や、シイタケを帽子のように被ってる精霊が居る。
向うにはスギナを綿毛のようにして海流に乗って泳いでるのも居るし。
間引いて取り込んだ分を自分の体の一部にしているみたいだ。
「なんか、どことなく皆に動きが似てないか?」
「くぃ?」
「きょ?」
「ぴぃ?」
「ほら、ニンジンをくっつけて歩いてるのは何処となくヤドリンに似てるし、ほうれん草持って泳いでる姿はイカリヤっぽいだろ?シイタケを頭に付けてるのだってコウくんの真似っぽいし」
「「!!」」
どうやら気付いてなかったっぽいな。
でも。そうか。
精霊は国民とは違う気がするけど、これで国力っていう意味では大幅に強化されたな。
あとは北の結界が壊れる前に防衛戦力を整えられれば御の字だな。
と、その前に建国祭か。
無事に神様たちとの繋ぎも出来たし、当日は盛大に開催しよう。
後書き冒険譚 ???
8月15日
……なあ兄弟。
どうしてこうなったんだろうか。
俺達は確か大旦那様に最高の土産を携えて帰る為に金銀財宝が眠っているという隣の島に渡って来たんだよな。
それがだから、どうしてこうなったーーーーーっ!!
ズドドドドドッ
ズドドドドドドドドッ
ぬおおをおおををっ。
くそっこのずっと俺達を追ってくる魔物の大群はなんなんだ。
数体なら反転して戦うことも選択できるが、100体近いとなると数の暴力で圧し潰されるのが目に見えている。
それになんだ。
チラッと見た限り、どいつもこいつもむちゃくちゃマッチョで居やがる。
何をどう鍛えたらニホンザルっぽい見た目でマウンテンゴリラのようなムキムキになるんだ。
向うの亀なんて、亀のくせにウサギと並走してきてるし、絶対あれ普通の亀じゃないだろっ。
まあそれでも幸い足の速さは全速力の俺達と同程度みたいだから、まだ何とかなっている。
だがこのままだとジリ貧だ。
こうなったら左の岩山を駆けあがるぞ。
ウモオオオオッ
ズドドドドドドドドッ
くっ。だめか。
平然な顔をして追いかけてきやがる。
やはりここは奴らの庭だった。
この岩山だって奴らからしたらいつもの散歩コースなのかもしれない。
ならば森に飛び込め!
枝から枝へと飛んでいけば流石にある程度はまけるだろっ。
って、亀ーーーーっ。
なぜ亀の癖にそんな軽快に飛んで来れるんだよ。サルが着いてこれるのは分かるが、亀なら亀っぽく地面を走れよ。いや、走ってる事がそもそも亀っぽく無いんだけど。
そっちの豚っぽいのも、どういう運動神経してやがる。
はぁっ、はぁっ、はぁっ。
流石の俺達もそろそろ体力の限界だ。
膝を突いた俺達を魔物たちが囲む。くっ、これまでか。
と思ったが何故か魔物たちは俺達を攻撃してこない。
って、ここは最初に上陸したポイントか?
何か看板っぽいのが落ちてやがる。
なになに?
『ようこそアスレチックフィールド【ダカラ島】へ』
ダカラ島?たから島じゃないのか。
思わずガックリと両手を地面に突いてしまった。
そんな俺達に魔物たちが手を差し伸べる。
更にはタオルとスポーツドリンクの差し入れまで。
どうやら彼らはただの魔物ではなく、この島で運動する喜びに目覚めてしまった奴らだったようだ。
ははっ。それなら先に言ってくれればいいのに。
なに、余りに見事な走りっぷりに我を忘れて追走してしまった?そうか、なら仕方ないな。
と納得したところで俺達の頭上を何かが物凄い勢いで飛び去って行った。
何だあれは。見たことのないフォルムだが竜の一種だろうか。
周りに聞けば数日前からやって来た者で、ここに居る誰よりも精力的に鍛錬を行っている猛者だという。
ただ、どこかで見たことがあるような……
あのミィミィ鳴いている声にもどこか聞き覚えがあるんだが。まさかな。




