海の神様たち
落ちていった先は暗闇ではなく、地面がぼんやりと青く光り、また一面を覆いつくすように色とりどりの草花が咲き乱れる場所だった。
そして俺を迎えるようにその場に居たのは、ひらひらした布(羽衣?)を纏った女性と、魚のえっと……そうだハタハタだ!その魚人と、あと巨大な水竜だった。
ここに居るってことは多分みんな神様なんだろう。
「初めまして。俺はカイリと言います。
えっと、水神様は?」
「私です」
にっこりと笑いつつ女性がそう言って淑やかに礼をした。
「今日は良く来てくれました。
見てくださいこの場所を。つい先日までは濁っていたというのに、今ではすっかり元通り綺麗になったんですよ。
さ、立ち話もなんですから、どうぞ座ってください」
「は、はぁ」
何というか、意外とフレンドリー?
最初こそ後光が差す感じだったのに、話始めるとすっかり近所のお姉さんだ。
まあその方が話しやすくて良いんだけど。
そしていつの間にか用意されたテーブルと椅子。
既に着席している水神様と魚人の神様に倣って座ることにする。
あ、流石に水竜様は座れないようだ。
そのお陰で(?)椅子が1つ余っている。
俺が席に座ると、水神様が桃の入った籠を出しながら話始めた。
「まずは自己紹介と行きましょうか。
私は水精霊で水神のミクマリよ。清水と出会いと子宝、そして春を司る神なの」
水精霊で水神?
なるほど、どうやら神様は神様って種族じゃなくて元となる種族があって、何かの条件で神格化したとか、そういう感じなんだろう。
「続いて我は水竜で流神のシャガラである。
水流と成長と流転、そして夏を司る神である。
そう言えばお主は我の寝床に一度遊びに来ていたな」
「え?」
水竜で思い浮かぶのは前回のイベントで泉の奥に潜った先にあったあそこか。
あそこに居た水竜がまさか神様だったのか?
そんな俺の思考を読んだのか水竜は目を細めながら言葉を続けた。
「以前寝床で会ったのは我の眷属よ。
あそこで我と会うには眷属を倒すか逆に見初められるかすると道が開くようになっておる」
「なるほど、そうだったんですね」
「ゴミの一つでも捨てるようなら食い殺すように伝えてあったが、お主と来たら、フフッ。
今思い出してもあの投げ込まれっぷりは笑えてくるな」
投げ込まれって言ったらリースとデートコースを周ってたときか。
「って、見てたんですか!?」
「あの島付近の出来事なら大抵の事なら分かる」
「そういうものなんですか」
と、色々話が盛り上がりそうになったところで魚人の神様から待ったがかかった。
「おいおい、わてにも話をさせい」
「あ、失礼しました」
「わては魚人で魚神のハタイや。
魚介と秩序と交流、そして冬を司ってるんよ。
にしても、カイリよ。おまえさん最初に会いに来るとしたらわての所やろ?」
「え?」
「え?やない。考えてもみぃ。
魚人族にだっていくつも国があったやろ。
その国々を誰が承認したと思っとる? そうや、わてや!
おまえさんならホッケ族の王族とも懇意にしとったやろ。そこからわてを紹介してもらうのが筋っちゅうもんちゃうんかい」
あぁ。言われてみれば。
アライ女王にお願いすれば早かったのか。
ユッケとも良く一緒に居るんだから、先に気付くべきだったのかも。
それなのにこっちに来たから怒って、いや拗ねてるんだな。
「まぁまぁ。順番で言えば私の方が先に関係を築いたんだから、最初にここに来たのは間違いとは言えないじゃない?」
「うーん、まぁそうやなぁ」
「ふっ。順番など些細な問題であろう。
それに、カイリがここに向かっていると聞いて慌てて我に掴まってここに飛び込んできたのは誰だったかな」
「ちょっ。それは内緒にしといてぇな」
「がはははっ」
ミクマリ様とシャガラ様のお陰で空気が緩んだので、さっきの紹介の中で気になったところを聞いてみることにした。
「ところで、春夏冬と来たので、秋を司る神様もどこかにいらっしゃるのでしょうか」
「ああ、おるで。ボシスっちゅう海を司る奴でな。闇と再生も司ってる。
まぁなんちゅうかめんどくさい奴や」
「めんどくさい?」
「ああ。分かりやすく言えば寂しがり屋のボッチ好きや。
干渉されるのが嫌いで一人で居るのが好きなくせに、いざ放置されると拗ねるんよ」
「うわぁ。それは確かにめんどくさそうですね」
「更には仕事をよくサボるんや。そのせいでわてらの集会所でもあるここが汚くなってたりな」
「そうねぇ。ちょっと用事で外に出てて春祭りの時に戻ってきたらあれだもの。びっくりしたわ。
その後、文句を言ったら逆ギレして北の海に引きこもっちゃったし。
カイリさんが掃除してくれなかったら、最悪この周辺が汚染されて危ない状態になってたかもしれないわね」
「我の力では押し流すことは出来ても浄化には時間がかかるからのぉ。
前任の神が問題を起こして急遽代替わりしたとはいえ、あれで良く神になれたものだと思うぞ」
ふむふむ。この世界には4人いや4柱の神様が居るんだな。
そして神様によって得意分野が違うから仕事を分担することで、この世界を守ってるって感じなのか。
あれ、でもそうすると、神様が1人居ない現状ってヤバいんじゃないか?
「あの、そのポシス様が居ないとこの先どうなるんですか?」
「大丈夫よ。すぐにどうにかなるものでもないわ。
そう、数十年分の仕事を溜め込んで隠してたりしない限りは、ね」
ふふふっと黒く笑うミクマリ様。
どうやら数十年分のゴミがあのヘドロまみれの湖底の原因だったみたいだ。
そりゃ怒りたくもなるよな。
「って、俺がヘドロの処理をしていなかったらどうしてたんですか?」
「そうねぇ。あまりやりたくは無いけど、地上の神や空の神、もしくは異界の神に応援を頼むことになってたかもしれないわね」
「あ、他にも神様っているんですね」
「もちろん居るわよ。私達は見ての通り水や海にまつわる神なの。
同じように各領域を4柱ずつの神が管理しているわ。
異界の神まで4柱なのは偶然なのでしょうけどね」
「他の神様とは仲が良くないんですか?」
「そうでもないわよ。持ちつ持たれつってところね。でもこちらの汚点を曝け出すのはちょっとね」
「まあそうですよね」
「しかし。海神が空神と仲が良かったのは意外だったのぉ」
「せやな。それさえ無ければ北にとんずらされることもあらへんかったやろうしな」
「えっ?」
なんか今、何かが引っ掛かったんだけど。
空神のお陰で北に逃げたってことは、背中に乗せていったのかもしくは。
「あの、空神様って黒いドラゴンだったりしますか?」
「おぉ、よく分かったの」
「やっぱりそうですか」
どうやらうちの農場がある海溝を創ったのは、ドラゴンの姿をした神様だったらしい。
てっきり将来的なラスボスっぽい立ち位置なのかと思ってたら神の試練の方だったか。
後書き日記 リース編
8月13日
マンガ肉の素材を求めてサクラさん達と一緒にやってきたのはとある小島でした。
えっと、見るからにほとんど魔物が居ないのですが、大丈夫なのでしょうか。
と思ったら、この島のメインはダンジョンだそうです。
早速、転送装置のようなダンジョンの入口を抜けて中に進みます。
って、ここはどこですか?
さっきとは全く違う広々とした大地が広がっているんですけど。
太陽もあれば小川も流れているので地下に降りたって事は無いと思います。
ダンジョンらしく別次元みたいなところなのでしょうか。
まあゲームですし、どういう仕組みかはそんなに問題ではないですね。
大事なのは目の前の大自然の中を悠然と歩いている恐竜たちです。
今見えるのはどうやら温厚な草食竜なのでしょうけど、子供でも全長2メートルはあります。
大人だと5メートルくらいありますね。
皮膚も岩のように厚くて堅そうですから、私の攻撃では歯が立たない可能性が高いです。
なのでサクラさん達に討伐は任せて、私はサポートに回りましょう。
サクラさん達は……あぁ余裕ですね。
最初の階層という事もあってやはり大きいだけで危険は少ないようです。
ただ倒した恐竜は地面に横倒しになってるだけで素材は回収出来てないですね。
え、ここの特殊ルールで剥ぎ取り用のナイフを使わないといけない?
そんなナイフは持って……あ、いつの間にかアイテムボックスに入ってました。
取り出してみれば刃渡り15センチほどの肉厚のナイフですね。
【剥ぎ取りナイフ(ダンジョン限定品)
魔物から素材を剥ぎ取る為のナイフ。
ダンジョン内のあらゆる魔物に対して有効。
小型の魔物であれば切り裂く事で、中型から大型の魔物であれば突き刺した後、5センチ以上切る事で、魔物1体に付き3回まで素材を回収でき、回収を終えた魔物は消滅する。
このダンジョン内でのみ使用可能。ダンジョンを出ると同時に回収される。
また手放してもダンジョン内ならいつでも手元の戻すことが可能。
】
ふむ、この恐竜の魔物は中型以上だと思いますので早速試してみましょう。
まずは突き刺してって、あっさり根本まで突き刺さりました。凄いですね、このナイフ。
ダンジョン限定品じゃなければ持って帰りたいです。
ただ、あんなに大きかった恐竜がたった3回素材を回収しただけで消えるのは納得出来ませんが。
それさえ無ければ最高ですね。
あれ?そう言えば説明文を見る限り、持ち帰り以外に特に制限事項は無いみたいです。
とすると……
私はサクラさん達にお願いしてポジションをチェンジしてもらいました。
そして試しにまだ元気な魔物に対してナイフを突き立てます。
あぁやっぱり、よく切れますね。まるでコンニャクに包丁を突き立ててる感覚です。
無事に素材も回収出来てます。
生きたまま素材を剥ぎ取るのはちょっと酷い気もしますが、ここは心を鬼にして3回ザクザクと剥ぎ取ります。
するとあら不思議。まだ元気だったように見えた魔物が消えるではないですか。
何とも不思議な光景ですが、説明書き通りですしバグではないと思いましょう。
サクラさん達が若干引き気味ですが、倒してから剥ぎ取る2度手間が省けて実に効率的ですからこのまま行きましょう。




