ミズモとお出かけ
走り去っていった牛角たちが村人に迷惑をかけないことを祈りつつ、子供たちを連れてミズモが居る畑へと向かった。
ミズモが管理しているジャガイモ畑は、当初任せられていた時から4倍近くまで拡張されている。
それだけ村人にもミズモの作ったジャガイモが評価されているってことだから嬉しい限りだ。
「ミズモ~居るか~」
「ミ?」
「「ミミミ?」」
俺が声を掛けると畑の中央からひょこっと顔を出すミズモ。
そして同時にいくつも顔を出すミズモの同族たち。
どうやらこの辺り一帯の隧道ミミズたちが集まってきているらしい。
その中でも一回り大きいミズモが他のミミズの纏め役を担っている。
「ミィーーー」
「「ミミミミィィィーーー」」
うーん、増えたな。
先月様子を見に来た時には10体くらいだったのに今では30体を超えている。
これじゃあヒュドラを通り越してメデューサヘッドのようだ。
こんなの見たら村の人達もびっくりするんじゃないだろうか。
そんな俺の心配を他所に子供たちは笑いながらミズモ達に飛び掛かっていった。
「いぇ~い。ミミズブランコ~」
「わーい」
「ミィッミィッ」
ぶら下がったり、背中を滑り降りたり、騎乗したり。
ミズモ達も慣れたもので子供たちが怪我をしないように配慮しながら相手をしてくれている。
どっちも楽しそうだからいいか。
「ほっほっほ。楽しそうじゃの」
「ほんと。良かったですね」
「あ、おじいさん。おばあさん。お邪魔してます」
いつの間にかおじいさん達がそばに来ていた。
目を細めてニコニコするおふたりの様子からして、村人全員に受け入れられているんだろうな。
「最近、何か困りごとはありますか?」
「いやいや。毎年頭を悩ませていたミミズの被害もなくなり、豊作でありがたい限りだよ」
「そうですねぇ。今年の収穫祭では水神様によい報告ができそうです」
「そうですか。それはよかっ……ん?」
水神様?
「あの、おばあさん。水神様というのは?」
「あら。春祭りの時にお参りに行ってなかったかしら」
「え……あぁ!!」
言われてみれば。
神社があるんだから神様も居るよな。
あの時お参りした時も貢物を献上したら無事に受け取ってもらえていたし、姿は見えなかったけどどなたかは居たはずだ。
どうすれば会えるかは神社の巫女さんに聞けば分かるかもしれないし、とにかく一度行ってみるか。
それに湖の様子も見に行きたいし。
ってか、たしかあの湖も『水神湖』って名前じゃなかったか? すっかり忘れてたな。
「おじいさん。おばあさん。ありがとうございます。
お陰でやるべきことが明確になりました」
「そうかい」
「それは良かったねぇ」
牛角たちは……帰ってこないか。仕方ないなぁ。
「ミズモ。島の中央まで行くけど一緒に行く?」
「ミィ♪」
声を掛けるとミズモは嬉しそうに俺の周りでとぐろを巻いた後、俺に背中を向けた。
どうやら乗れってことだろうな。
よいしょっとミズモに跨るとググっと持ち上がって3メートルくらいの高さになった。
「じゃあ皆さん、行ってきます」
「「いってらっしゃ~い」」
みんなに見送られながら村を出て島の中央へと向かった。
ミズモの乗り心地は想像以上に良かった。
馬車みたいにガタゴト揺れることもない。代わりに揺りかごの様にゆらゆらと揺れている。
何せミズモは足で歩く代わりに蛇のように胴体をくねらせて進んでいるからだ。
速度は自分の足で走るよりもちょっと速いくらいかな。
っと。
街道の先に魔物が居る。
「ミズモ」
「ミィッ」
ブオンッ、グチャ
ミズモが尾を鞭のように振り回して魔物たちを踏みつぶしていった。
以前俺が戦った時も苦戦はしなかったとはいえ、圧倒的な強さだ。
元々ミズモもこの島の魔物の1体だから極端に能力に違いは無かったはずなんだけど。いつの間にかレベルがだいぶ上がってるって事なんだろうな。
レベルの上がった理由っていうと農作業と食べ物の質くらいしか考えられない。
農場のみんなも食べ物による成長が著しいから間違いないだろう。
あれ? そう考えると、もしかして俺達が関わる前ってみんな栄養失調気味だったのか?
今って世界的にも食料事情が改善されてるし、今後は人だけじゃなく動物や魔物もレベルアップしていくのかもしれない。
ま、その辺りは運営が考えることか。
「~♪」
ミズモの鼻歌を聞きながら街道を突き進む。
そんな気楽な旅行だったせいだろう。
中央町の門番に慌てて呼び止められることになった。
「くっ。と、止まれ! 誰か。急いで応援を呼んで来い!!」
「くそっ。どうして突然フィールドボスがっ」
「全員盾を構えろっ。絶対に町を入れるな。門を死守するぞ」
「「おおっ!!」」
「……?」
一瞬後ろを振り返ってみたけど、もちろん誰もいない。
やっぱりミズモを見て警戒されているようだ。
「あのぉ」
「なっ。人間!?」
「貴様、まさか魔人か!? なぜこの町にやってきた」
魔人?
人獣と同じように魔族とはまた別の種族ってことか。
この反応からして魔人の場合は魔物寄りで、人の敵って位置づけみたいだ。
ひとまずミズモの上から声を掛けてもダメっぽいからまずは降りるか。
「よっと」
「ちっ、来るか!」
「いえいえ。攻めに来た訳じゃないですから。
自己紹介させてもらうと、俺はカイリ。人族であって魔人ではないです。
それでこっちはミズモ。俺の従魔です」
「ミィ」
「何、そいつは従魔なのか。フィールドボスじゃないのか?」
「元々は普通の隧道ミミズですよ。最近は成長著しいだけです。なっ」
「ミィミィ」
身体を撫でてあげると嬉しそうに俺の顔にすり寄ってきた。
その様子から危険性がないのが伝わったのか、門番の人達から警戒心が薄れたような気がする。
「それで、カイリと言ったか。この町に何しに来たんだ」
「はい。えと、水神湖の様子見と、あと神社にお参りに来ました」
「……水神湖の?」
「……まさか……」
ざわざわし出す門番さん達。
もしかして水神湖に何かあったんだろうか。
そう思ってたところに今度は町の中から馬車が出てきた。
いや、馬車じゃないな。これは荷台? いや、御輿かな。
後書き日記 リース編
8月12日
カイリ君が国を興すという話をした後、各種族の国への連絡はサクラさんとツバキさんが行ってくれることになりました。
やっぱり私達のクランの中で一番この世界の国を渡り歩いているのは戦闘職のお二人ですからね。
それに連絡と言っても王城に乗り込む訳じゃなくて冒険者ギルド経由で報告してもらうだけだそうです。
そして残った私達も折角だから何かしたいねって話になりました。
そこで真っ先にやることを決めたのはレイナ。
カイリ君に王様らしい服を作ってあげるそうです。
そう言えば最初に出会った時からカイリ君の服を見て色々と思うところがあったみたいですからね。
やっぱりカイリ君も男の子だから、あまり普段着る服には頓着しないのでしょうか。
……今度一緒に買い物に行って服をコーディネートしてあげたら喜ぶかな。
と、それはまた後で考えるとして。
やっぱり各自の得意分野を活かすのが良さそうですね。
ウィッカさんはそういう意味で考えればやっぱりお酒ですか。
水中でも飲めるお酒を研究する? あ、確かに飲み物を水中に持っていくのは無理がありますが、やっぱり祭には酒でしょうって言われても私まだ未成年ですよ。
兎も角、魚人族の人たちでも飲める方法を考えてみるそうです。
もし手が貸せそうならいつでも言ってくださいね。
さて、私はやっぱり料理?
建国際で振る舞われる料理って何でしょう?
宮廷料理は……調べればどういう料理かは分かるでしょうけど、簡単に作れるものでは無いと思います。
もし用意するならどこかの国の料理人を招待した方が良いでしょう。
となると、ゲームならではの料理? と言ったらあれでしょうか。
……マンガ肉。
リアルじゃまず無理なのに漫画やゲームでは最もポピュラーな肉料理です。
縁起物かと言われたら違うとは思いますが、盛り上がるのは間違いないですね。
よし、折角ですから挑戦してみましょう。
ただ、あの肉って何の肉でしょう。
骨の太さから考えて大腿骨部分だとは思うのですが、そのサイズの足を持った生き物って言ったら全長3メートルとかになるんでしょうか。
きっと、というかほぼ間違いなく魔物ですね。
サクラさん達が戻ってきたら討伐を手伝って貰う事にしましょう。




