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久々の第3者視点。
というか、キリの良いところで投げ込まないと出すタイミングを逸してしまいそうです。
カイリが建国することを決めたころ。
アルフロ全体でも8月のイベント告知と9月の大型アップデート予告が行われていた。
9月に行われる大型アップデートで実装される新機能は
・進化システムの導入
・変身システムの導入
・中央島の解放
・コロシアムの解放
となっている。
進化システムは、2次職から3次職のように上位クラスへとアップグレードするものだ。
先行PVではド派手なスキルを放つプレイヤー達の映像が公開されている。
現在は2次職までは公開されているが、第3の島のボスに勝てない人もまだ居るのが現状だ。
秘境と呼ばれる地域もまだまだ難易度が高すぎて近寄ることすら出来ていない。
エンジョイ勢は楽しみが増えると喜び、攻略組はこれで更に先に進めると期待していた。
続いて変身システム。これは進化に似て非なるものだ。
これは言葉の通り変身。
「鳥になって空を飛びたい」
「人魚のように海を自由に泳ぎたい」
そういった願望を実現できるものになっている。
流石にスライムのような不定形魔物や植物になることは出来ないが。
このシステムを聞いて喜んだのは言うまでもなくエンジョイ勢。
新たな遊び方が増えると期待が膨らんでいた。
中央島はこれまで多くのプレイヤーから絶対に何かがあると噂をされていた場所だ。
コロシアムもその中央島にあることが公表された。
そのコロシアムでは1対1の個人戦、もしくは6対6のチーム戦が行えるようだ。
解放後は最強を決める武闘大会も定期的に開催されるとのこと。
そして8月のイベントもこの中央島で行われる。
イベントの内容は題して『仮装盆踊り大会』だ。
イベントの最大の売りは、9月から正式実装予定の変身システムの先行体験が出来るところだ。
盆踊りにはこの変身システムを使って参加することになる。
その為の変身候補のパンフレットも早い段階から公開されることになった。
パンプレットを見たユーザの反応は様々だ。
ただその中で、
「あ、これサクラエビさんと同じ奴じゃね?」
「こっちはツバキンギョさんの奴だ」
「ぼ、僕もこれに変身すればサクラたんとペアルックになれるんだな!」
「ばっかお前。お前がエビの姿に変身しても気持ち悪いだけだって」
「そんなことは……あるかも」
そんな感想もちらほら聞こえてきた。
やはり先日の採掘イベントでNPCとは思えない豊かな表情を見せていたサクラ達は多くの人の記憶に鮮明に残っていたようだ。
恐らく盆踊りの時にはそれらの変身をするプレイヤーが大勢いる事だろう。
当のサクラ達はこの内容を見て逆に違う姿になって参加しようと思っていた訳だが。
そしてカイリとリースはあまり興味をそそられていなかった。
「これ、変身システムのお披露目ってことは、別に俺達は参加するメリットってないよな」
「そうね。お祭り自体は楽しそうだけど、それならリアルでお祭りに行くのとそんなに変わらないよね」
「リアルのお祭りって言ったら8月17日の風雲神社の夏祭りだな。
リースはもう誰かと行く約束してるか?」
「ううん。まだよ」
「なら一緒に行こうか」
「あ、はい。わかりました」
そんな会話をするふたりを他のクランメンバーは微笑ましく見守っていた。
「ちょ、聞きました今の。カイリさんってすごいナチュラルにデートに誘うんですね」
「うーん、もうちょっと照れたりしたほうが可愛げがあるかもねぇ」
「いやいや、よく見れば微妙に視線を逸らしてるしあれで実は恥ずかしがってるんじゃないかな。分かりにくいけど」
「あのふたり、先月に比べて明らかに距離が近くなってるよね」
その話し声が聞こえたかどうかは分からないが、カイリはみんなの方にも話を振った。
「そうそう。早めに建国記念の式典を開こうと思ってたんだけど、これタイミング的にイベントと被りそうだな。
まぁまだ神様が見つかって無いから何とも言えないけど、もし被るなら向こうの祭に対抗するように盛大に花火とか上げてみようか」
「あ。それ面白そう。中央島からなら、この島で上げた花火もギリギリ見えるかもしれないし」
先日のイベントの時は運営に色々とフォローしてもらったところもあるからな。
今度は完全に自分たちで1から10までやりきってみよう。
そんな思いもカイリの中にはあった。
「でも花火の材料って火薬ですよね。どうやって入手するんですか?」
「先日の採掘イベントの島で手に入るよ。火薬そのものは島から持ち出せないけど花火に加工したら問題ないみたい。
その証拠にイベント中に作られたらしい花火がオークションで高値で取引されてるからね。
他の人はともかく、俺達は島のあちこちに拠点があるから転送門で簡単に行けるし」
「なるほど、なら空いた時間で花火の研究もしてみるね」
そうしてまたカイリ達は他のプレイヤーとは違う路線で頑張ることを決めたのだった。
後書き開発室
「さて諸君。8月のイベントについてだが……」
「くかーーーくきーーーふへーーーー」
「エロエロエッサイムエロエロエッサイムエロエロエッサイムエロエロエッサイム」
「あー今日の夕飯は三ツ矢の出前にしようかな」
「聞けよ」
ダンッ!
現実逃避をする開発部の面々に声を荒げる部長。
それもそのはず。9月の大型アップデートに向けて連日徹夜続きの為、全員のテンションがおかしなことになっているのだ。
「喜べ。今回は仕事が減るほうの朗報だ」
「なんですと!?」
「そんな馬鹿な!!」
「はぁ。今日が地球最後の日か」
「お前らな。
まぁ話が進まないから無視して先に進めるが。
企画部の方から7月のイベント結果から、プレイヤー達自身にイベントの運営を任せるのは十分に可能だという判断が出た」
「「おおぉぉ~~~」」
「なので8月の夏祭りイベントに関しては屋台の大部分をプレイヤーに任せることになった」
「「よっしゃあ~~~!!!」」
「何気に数が多いし、屋台って似たような店が多いのに個性出す必要があるから悩んでたんですよ」
「屋台さえ無くなれば、あと大きいのは盆踊りと花火だけですね!!」
「これなら今月こそは1日くらい家に帰れるかもしれんぞ」
「くぅ~~。なんたる奇跡!」
涙ながらに喜ぶ面々。
喜んでいる内容がブラック企業に同情されるレベルだが、彼らにとってはもう当たり前になってるので気にもしていないようだ。
最近では『ほかの会社と違ってうちはシャワー室完備なんだぜ』と自慢しだす始末。
まあそれはともかく。
「ところで、前回活躍してもらった彼らはどうするんですか?やっぱりメインで動いてもらう感じですか?」
「いや、むしろ前回頑張ってもらった分、今回は完全に客側に回ってもらう予定だ」
「とか言って結局巻き込まれる未来しか思い浮かばないんですけどね」
「……否定しきれないのが彼らの凄いところだな」
「それならどういう風に巻き込まれるか予想してみませんか?」
「おっ、それ面白そうだな」
「たとえば……」
カイリ達が8月のイベントに全く参加する気がないことに気付くのはイベント直前になってからであったとか。




