固有の領土+住民+法=○○
若干説明っぽい回になりました。
小難しいのは苦手なので極力サクッと行きます。
改めて周囲を見渡すとイカリヤ達はいつも通りだけど、一部の魚人からは畏怖のような視線を感じるな。
次は我が身とでも思っているのかもしれない。
俺としては別に恐怖政治を行うつもりはないんだけど、口で言うだけでは安心出来ないか。
「こうなったらキチンとしたルールというか法を整備していくべきかな」
俺がそう言うと、待ってましたとばかりにユッケが進言してきた。
「それならいっそ国を興してしまうのは如何でしょうか」
「国?」
「はい。ヌシ様が国王と成られれば先ほどのような事態が起きることも無くなるかと思います」
「それは確かに、王に盾突く一般市民ってあり得ないと思うけど。国ってそんなに簡単に興せるものなのか?」
「世界に認知させるには必要な事は多いですが、そうでなければ最低限の領土と国民が1人でも居れば十分です。
王が宣言し民が従えばその時点で国となります」
つまりマイホームパパは一国一城の主を名乗っても良い訳か。
逆にぼっちだと王にはなれない。まぁなる意味もないけど。
「国を興したらやらなければならない事とかあるのか?」
「国王にはありません。逆に国に住む民には王に従う義務が生まれます」
そうか。なら特に問題はないな。
皆が俺に従う気があるかって話はあるけど、無くて好き勝手やりたいっていうなら出て行ってもらうしかないだろう。
ふぅ。
かなり成り行き任せな気もしなくもないけど、人が増えた時点でいつかはしないと行けなくなってた事だから、それがちょっと早まっただけと考えよう。
「さて、みんな。ある程度話は聞こえてたか?
これから俺はこの海溝全体を領土とした国を興そうと思う。
もちろん、国になったからと言って、生活がこれまでと大きく変わる訳じゃない。
善行を行えば称賛されるし、悪行を行えば相応の罰を受けてもらう。
その線引きが多少明確になる程度だろう。
いきなりな話で悪いが反対する人が居たら名乗り出て欲しい」
「「……」」
うん、流石に誰も名乗り出ないか。
むしろこの状況で名乗り出れるのは相当に意思の強い人だけだろう。
俺だっていくら反対だと思っていても、ここに居る全員を敵にまわすと思えば口をつぐむ。
だからちょっと卑怯かなとは思うけどこのまま進めさせてもらおう。
「よし、では現時点を持ってこの地を俺の国とする。
国名はそうだな。農場の名前から取って『竜宮王国』とする」
「「ははーーっ」」
ざっと全員が膝を折って最敬礼の姿勢を取った。
……ふむ。勢いで国を興してしまったけど、ここに居る全員の責任を負う立場になったんだな。
そう考えると感慨深いものがある。
でもまぁ何というか。元々農場を作ってただけなのに気が付けば国になってるとか人生分からないものだな。
農民から国王になったって考えると大出世だけど、いまいち実感無いし。
っと、ぼーっとしてる場合じゃないな。
まだまだやるべきことは山積みだし、むしろこれからが大事なところだろう。
「さて、まずは最低限の国の枠組みやルールを伝えるから、そうだな。
我こそはこの国の、もしくは種族やグループの代表だと思う者は俺に付いて来てくれ。
それ以外の人は一度解散だ。後から代表の人に説明を受けて欲しい。
ヤドリンもこっちに残って何かあったら対応を頼む」
「くぃっ」
この場をヤドリンに預けて北へと移動すれば、付いて来た魚人族はざっと50人程度。
2000人くらい居たと見積もればその内の2.5%。40人に1人くらいの割合か。
中には一匹狼みたいな人も居るだろうから100人ぐらいのグループも何組かは居そうだな。
俺は向こうから見えないくらい離れた所で止まり、みんなが話を聞く姿勢になるのを待ってから話し始めた。
「まずはみんなにお礼を言いたい。良く代表としてすぐに立ち上がってくれた。
これで誰も来ないようなら全員追い出そうかと思ってたからね」
それを聞いて一様に安堵する代表者たち。
「最初に言った通り、国になったからって特別方針転換する訳じゃないから安心して欲しい。
要は今回みたいなことがあった時に迅速に対処できるように仕組みづくりをしていこうってだけだ。
それでだ。最初に王の権利として、みんなの階級分けをさせてもらう。
階級って一言で言っても貴族階級とか軍の階級とか色々あると思うけど、個人的に貴族に良い印象がないから軍の階級を参考に説明をする。
軍の階級っていうのは大雑把に言うとトップに元帥が居てその下に将官、佐官、尉官、曹長、軍曹、一般と続く。官位はそれぞれ大中少に分かれる。
ここまではいいか?……よし。じゃあ続けるぞ。
今挙げた中で元帥にはヤドリン、イカリヤ、コウくんの3人になってもらう。
3人は俺が居ない時の代理としてすべての権限があるものとする。
続いて将官は他の俺の従魔たち。それから普段地上に居るクランメンバーは客将扱いだ。
現時点で彼らが皆に何かをすることはないと思うから、今は自分たちよりも上の立場なんだと理解してもらえればいい。
佐官については後で説明するとして尉官はここに集まってくれた皆、つまり各グループの代表になってもらう。
大まかに10人までのグループの代表を少尉、100人までのグループを中尉、それ以上を大尉と名乗れる事とする。
ただ間違えないで欲しいのは、大尉だからと言って他のグループの中尉や少尉に命令が出来る訳じゃない。
あくまでも自分たちのグループの代表が誰かを明確にするためのものだ。
言ってしまえば村長や町長の立ち位置だな。
尉官の人達は自分たちのグループの中でのみ自由に下の階級の人を指名して構わない。
グループ内での指揮系統を明確にするために活用してほしい。
ここでも間違えて欲しくないのは、不当な差別を行うために階級を付ける訳じゃないからな。
いじめや村八分が起きてたらグループ全体の評価が下がると思ってくれ。
そして後回しにした佐官だけど、佐官にはこのグループを飛び越えて指示を出せる者という位置づけとする。言わば中間管理職だな。
佐官に任命された人には各グループへの指示出しや喧嘩の仲裁の他、外からの移民の受け入れ許可を出す権利も与える。
今回みたいなグループ単位での国外追放については将官へ要請できるものとしよう。
言い換えれば領主みたいな立ち位置だ。
なので国や俺に対して忠義に厚い人に任せたい。
現時点では、そうだな。
ユッケになら任せても大丈夫だと思うんだけど頼めるかな?」
「は、はい!お任せください!!」
ユッケがビシッと飛び上がらんばかりに返事をした。
かと思ったらめっちゃ幸せそうに照れ始めた。
そんなに嬉しかったのかな。
周りの人達も羨ましそうに見てるし。
「話が長くなったから細かい事は後日詰めていくとして。
国の方針を一言で纏めると、
『同じ国民同士、感謝を忘れずに仲良く助け合っていこう』
『国の外の人達に迷惑を掛けず礼を持って接しよう』
これだけだ。
みんななら俺の期待に十二分に応えてくれると信じている」
「「はい。お任せください!」」
よし、これでまた何日か様子を見て少しずつ改善を繰り返して行けばいいだろう。
後書き日記 コウくん編
8月1日
マスターが無事にお勤めから帰ってきました。
どんなことをされて来たのか聞いてみたところ、鉱山ダンジョンでデートツアーと水田作りだそうです。
鉱山とデートと水田……うん、流石マスター。私の理解を超えちゃってます。
ほんと凄すぎます。
こちらでの目新しい事と言えば……あ、水田で思い出しました。
先日持ち込んで品種改良を進めていた稲が無事に育っていますよ。
もう何回か改良を行えば最高のブランド米に育つと思います。
他のお野菜も……
そうして最近ほとんど会う時間が無かった分を取り戻すように色々お話した後、マスターはミズモさんや他の従魔のところにも顔を出してくると言って出かけて行きました。
あれ?なにか伝え忘れたような……あっ。
そう言えば魚人族の人が何人か畑の南側に来ているんでした。
お腹を空かせていたので、収穫物を提供する代わりに畑仕事を手伝って貰ってるんですが。
まぁ、今のところ問題ないですし急いで報告する必要もないですね。
8月3日
マスターが許可したこともあって、先日からどんどん魚人族の人たちが移り住んで来ています。
幸い土地は十分余ってますし畑はまだまだ需要よりも供給量が大幅に上回っているので大丈夫です。
ただ、何人かの方が反目しあっているのが目につきます。
口論している怒鳴り声も聞こえてきてちょっと、いやかなり不快です。
ユッケさんにも手伝って貰って仲裁して回ってますが、このままだと殴り合いの喧嘩に発展しそうです。
嫌いなら顔を合わせないように離れて暮らせばいいのに。
そう言ったら「なんで俺達があいつらの為に移動しないといけないんだ」と双方が口を揃えて言う始末。
はぁぁぁ。
なんだか段々態度も大きくなってきてる気がします。
最初来たときは涙を流さんばかりに感謝していたはずなのに、ほんの数日でここに居ることが当たり前とでも思ってしまっているのでしょうか。
……思ってるんでしょうね。じゃなかったらこんなバカな喧嘩なんてしませんから。
8月5日
遂にマスターが怒ってしまいました。
あの優しいマスターが怒ることがどれほど酷い事か理解できていないんでしょう。
そして私達としても今後はマスターを怒らせないように事前に処理しましょう。
イカリヤさんとヤドリンさんも思いは一緒です。
ぽいっとゴミを捨てると、なにやらゴミが騒がしいです。
うーん、このままだと逆恨みでマスターに害をなす危険がありますね。
キッチリ処分した方が……いや、優しいマスターはそこまでは望んではいないかもしれません。
なら闇魔法で暗示を掛けてここでの事を忘れさせるくらいに留めておきましょう。




