増える住民
前話では誤字失礼しました。
指摘してくださった皆様、ありがとうございます。
あと、
更新ペースが週1になってしまっているのが個人的にはちょっと厳しいかなと感じてます。
今月もまだまだ忙しい日々が続くので毎日更新に戻せるのは当分先になりそうです。
家に帰って来た俺は軽く休憩を挟んでからアルフロへとログインした。
「あっ」
「お?」
ほとんど間をおかずにログインしてきたリースとばったり目が合ってしまった。
リースの正体を知ってしまったから、若干気まずいけどお互い様か。
俺は気にしても仕方ないので努めて明るく声を出してみた。
「おはよう。えっと、さっきぶり」
「はい。さっきぶり、です。
せんぱ……カイリく……えっと、なんて呼べば良いんでしょう?」
「まぁ今まで通り名前で良いんじゃないか?
リアルの事をゲーム内に持ち込むのはマナー違反だって言う人も居るし。
俺としてはリアルの方でも名前で呼んだり気軽な口調で話してくれる方が嬉しいかな」
「あ、はい。じゃなくて、分かったわ。カイリ君」
改めて霧谷さんに名前で呼ばれているって思うと照れてしまっている自分が居るけど、ま、まぁすぐ慣れるよな。
「そう言えば前にもほぼ同じタイミングでログインしたことがあったけど、あの時も良く考えれば直前まで一緒にいたんだから偶然って程でもなかったんだな」
「家に帰ってからの行動パターンが一緒って考えれば凄い事な気もするけど?」
「確かに。ちなみに今日は家に帰ってシャワー浴びて軽く休憩してからログインしたんだけど」
「私もシャワー浴びてました」
「同じだな」
「同じだね」
プッと顔を見合わせて笑い合う俺達。
このままおしゃべりをしていても良いのだけど、お互いにやりたい事もあるしやっぱりちょっとぎこちない。
これは少し時間を空けた方が良さそうだな。
「じゃあ、俺は畑に行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。私も新作づくりに精を出すことにするわ」
手を振って別れた俺は竜宮農場へと向かった。
農場に着いた俺をいつもの皆が迎えてくれる。
「みんな、ただいま。特に問題はないかな」
「くぃ」
「きょっ」
「ぴっ」
「主様~。お帰りなさいませ~」
ヤドリンの岩宿を撫でつつ、イカリヤの足に腕を絡ませ、コウくんが上からスポットライトの様に明りを灯してくれる。
ユッケもすっかりここの一員になってるな。
それにしても改めて農場を見渡すと大分充実して来たんじゃないだろうか。
育てている食材も、ニンジン、ほうれん草、シイタケ、スギナを始め、麦畑もあれば稲畑も出来た。
大豆とジャガイモはミズモの畑で作っているし、大根とカブと砂糖はカウクイーンの畑で作られている。
水中を見上げればコウくん主導の元、魚の養殖が行われているし、ヤドリンのお陰で貝も充実している。
もちろんまだまだ足りないものは多いけど、最初の岩の大地が広がっていた時を思えば目覚ましい進歩だろう。
こんな広い農場を維持できるのも皆のお陰だから感謝してもし切れない。
ってか。あれ?気のせいかな。
「なぁ、ユッケ」
「はい、何でしょうか」
「前に見た時より魚人族が増えてないか?
というか、ホッケ族以外も大勢いるように見えるんだけど」
「あ……はい。実は海難に遭って放浪してた人たちが『海の勇士』の噂を聞いて避難してきた後、そのまま居ついてしまったと言いますか、農場の南側に村を作ってしまったと言いますか。
辿り着いた時にはボロボロだったので、死糸花様にお願いして入れてもらったんです。
中には地元で食い詰めて流れてきた人も居ますが、とにかく悪い人たちじゃないんです」
あわあわと説明をするユッケ。
勝手にそんなことをしてしまって俺に怒られるんじゃないかと心配しているのかな?
別にそれくらいじゃ怒ったりしないけど。
それに死糸花たちが通したってことは悪い人たちじゃないだろうしな。
そう思ってたら何人かの魚人がこっちへと泳いで来た。
彼らは俺から少し離れた所で一列に並ぶと、
「そちらに御座しますはヌシ様でいらっしゃいますか」
「ヌシ様……あーうん。なぜか魚人族の一部からはそう呼ばれるようになったな」
「ははぁ。あっしら、南の海域生まれの魚人でございやす。
大勢で押しかけてもご迷惑かと思い、代表して挨拶させてくだせぇ」
「ああ、よろしく」
コハダ、アジ、アナゴ、エビ、サバ、スズキと次々と挨拶をしていく魚人たちを見ながら思ったのは。
「寿司ネタ、かな」
「は?」
「あ、いや。こっちの話」
一瞬頭の中に『寿司くわねぇ?』ってフレーズが流れてきた。
そう言えば昔そんな歌があったなって思いだしてしまった。
まぁそれはさておき。
なんだろう。畏まっているというより、若干怯えられているような距離感を感じるんだけど。
今も若干距離が離れてるし深々と頭を下げる姿勢を維持してる。
挨拶が済んだら戻るのかと思ったけどそうでもないし。
ってそうか。俺の方から名乗ってないか。
「もう知ってるかもしれないけど、俺はカイリ。
異界からの移住者の人族で、この竜宮農場の主で、魚人族からは海の勇士とかヌシ様とか呼ばれてる。
あとこの上の島も俺を含めた何人かで管理してる状態だ。
他にもラムラリア島やホッケ族の国の郊外とか、いくつか飛び地で畑を管理してたりもするけど、それはいいか」
「まさか本当に……」
「あの噂は本当だったのか……」
うわさ?
「うわさって何かな?」
「はっ。いえ、それよりもその、あっしらはこのまま住まわせて頂いてよろしいので?」
「んん?好きに住めば良いんじゃないのか?」
困ったな。さっきから微妙に噛み合ってない気がする。
そう思ってたところで俺の裾をユッケが引っ張った。
「えっと、ヌシ様。この農場はヌシ様がお作りになったものですよね?」
「うん、まあそうだな」
「海溝の南北を守る死糸花様を植えたのもヌシ様ですよね?」
「そうだな」
「であれば、この海溝全てがヌシ様の領土と我々魚人族は考えます。
ですので、ヌシ様の領土に勝手に住み着いているので、ヌシ様が一言出ていけと仰ったら、彼らはこの地を出て行かなければなりません。
ですが彼らの多くは帰る場所もなく、ここを追い出されたら魔物の襲撃に怯えながら放浪することになります」
なるほど。
『海の勇士』とは呼ばれているけれどどこに逆鱗があるかも分からないから恐る恐る接してるってところか。
俺としては別に畑を荒らしたりしなければ気にしないんだけど、向こうとしてはそれ程軽い話でもないんだろう。
であれば、さくっと許可を出せば終わりだな。
「俺としては畑の南に住んでもらっても構わないぞ」
「ありがとうございやす。ですが……」
「ん?まだ何かあるのか?」
「ただで住まわせて頂くという訳にも。税はいか程納めやしょうか?」
税……税か。
ホッケ族の農地で収穫出来たものを納めてもらってるし、それと同じような感じで良いかな。
「じゃあ、皆さんも自分たちで畑を耕すと思うので、そこで収穫出来たものの2割を納めてもらいましょうか」
「に、2割ですか!?」
「あ、多かったか?」
「逆です、少なすぎです! 普通は良くて5割です」
「そんなに多いのか。
うーん、でもそんなに貰ってもな。
あ。ならうちの畑仕事も手伝ってもらおうか」
「へい、それはよろこんで!」
「ヤドリン達も色々教えてやってくれ」
「くぃ」
よしよし。これで問題解決かな。
あ、労働力が増えるなら畑の拡張とかも視野に入れても良いかもしれないな。
まだまだ育てたい食材は沢山あるし。
後書き日記 リース編
8月2日 (続き)
プールから帰って来ました。
はぁ~~。
肉体的な疲れもありますが、まさか先輩がカイリ君だったなんて。
まさに青天の霹靂というものですよね。
本当は帰ったら直ぐにアルフロにログインしようと思ってましたが少し休憩してからにしましょう。
カイリ君に会う前に心の準備もしたいですし。
って、なんで同じタイミングでログインしてるんですか?!
……な、なるほど。
言われてみれば偶然のような必然のような。
でもそれって凄いことですよね。
農場に向かうカイリ君を見送って私も調理場へ。
ふぅ。何とか違和感なく乗り切れたんじゃないでしょうか。
よし、気分を入れ替えてっと。
まずはランプとバラがせっつくので炒飯を作りましょう。
炒飯なら大火力の方が良いですからね。
そうして炒飯が出来上がった頃に他のみんなもログインしてきました。
あ、そうだ。みんなに相談してみましょう。
……え?
みんな気付いてたんですか?!
ただリアルの話を他人が指摘するのはマナー違反だから温かく見守ってたと。
むぅ。そう言われると何で教えてくれなかったんだと怒る訳にもいかないですね。
それでその、私はこれからどうすればいいんでしょう?




