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少女との出会い

アイテムボックスから鍬を取り出した俺は、早速開墾スキルを発動させて何も植えられていない畑の端から耕し始めた。


「よっ」

ザクッ


おぉ、鍬が軽い!

やっぱ水中と地上だと、地上の方が圧倒的に体が軽く感じる。

スキルのお陰であまり気にならなかったけど、やっぱり水の抵抗って大きかったんだな。

それに地面も凄く柔らかくて、あっさりと鍬の刃が全部地面に刺さってしまった。

掘り返すのも軽い軽い。

あんまり軽いもんだからあっという間に畑の端まで辿り着いてしまった。


「おぉぉ!」

「兄ちゃんスゲェ」


子供たちが遠くで感心してる。

って、しまった。子供たち置き去りにしてしまった。

慌てて戻って謝る事にする。


「いやぁ、悪い悪い。

余りに楽しかったんで、つい先走っちまった」

「た、楽しい?兄ちゃん変わってるな」

「畑仕事なんて大変なだけで楽しくなんてないよ」

「だよなぁ~」

「そうか?あー、まぁそうか」


仕事だし労働だからな。

きついし疲れるし、好きでもなければ辛いだけか。

収穫と違って成果物が出来る訳でも無いしな。


「なら何か楽しみを作ろう」

「どうやって?」

「うーん、そうだな。

俺の場合は最初、歌いながらやってたな」

「うた?」

「そ。お爺さん、お婆さん。この村に伝わってる歌って何かありますか?」

「もちろんあるよ。わし等も若い頃はよく歌いながら耕してたもんさ」

「懐かしいですねぇ。最近はとんと歌わなくなってましたが、久しぶりに歌ってみましょうか」


よっと腰を上げたお婆さんたちを間に挟んで子供たちも一列に並ぶと、お婆さんの歌に合わせて揃って鍬を振るった。


『地の恵み、川のせせらぎ、風の歌♪

我らはここに、種を植え、春の芽生えを、心待つ♪

さぁ行こう。花咲き乱れるあの山へ♪

(えにし)紬ぎし、谷越えて♪』


お婆さんの歌に合わせてザクッ、ザクッ、と掘り進む。

1番が終われば2番3番と続き。

歌が1周したら今度は皆で一緒に口ずさみながら。

そうして気が付けば畑1面を耕し終えていた。


「お疲れ様~。どうだった?」

「うん。なんか凄かった!」

「いつもだったらこんなに動いたらヘトヘトになるのにね~」

「はっは。お婆さんの歌には不思議な力があるからね」

「ふふっ。さ、みなさん。一休みしましょう」

「「はーい」」


みんなで揃って移動する。

その間もさっきの歌を歌ってるから気分はピクニックだ。

そうして向かった先は公共の休憩所みたいなところだった。

俺達の他にも先客が何人か居たので、挨拶を交わしつつ空いている縁側に座る。

すると炊事場の方から数人、お茶を持ってきてくれた。


「畑仕事ご苦労様です」

「皆さん、お茶をどうぞ~」


そう言ってお茶を配ってくれるのはおばさんと、同い年くらいの女の子。

女の子の方は村の人とは種族が違うし、プレイヤーかな?


「どうぞ」

「ありがとう。なぁ、君はプレイヤーだよな。

何でこんなところでお手伝いしてるんだ?」


俺がそういうと女の子はきょとんと首を傾げた後、はっと思い当たったようだ。


「あぁ、あなたもプレイヤーなんですね。

村の人達と種族が同じみたいだったから、驚きました」

「最初の種族選択で『その他』を選んだらこうなるみたいだな」

「あれって、ギャンブル要素が強いって聞きましたよ。

大丈夫だったんですか?」

「まぁ何とかね」


答えながら貰ったお茶を飲むと、抹茶と青汁をブレンドしたような独特の苦味が口に広がる。

俺が顔を顰めてると、ふふふっと笑われてしまった。


「やっぱり苦いですよね。

でも滋養根と活力草っていう2つの薬草から作ったので疲れた体には最適だと思いますよ」

「言われてみれば。疲労がだいぶ和らいだ気がするよ」


薬草かぁ。頑張ればうちの畑でも育てられるかな。

それと体に良いと言われるとこの苦味も、むしろあった方が良い気がしてくるから現金なものだ。

落ち着いて村の様子を眺めていると、彼女以外にもちらほらプレイヤーが村人たちと一緒に活動しているのが見える。


「みんな宝探しに行かなくていいのかな」


そう呟くとまた笑われてしまった。


「それ。自分にも当てはまりますよね」

「あ、言われてみれば」

「多分私も含めて、大変そうな村の様子を見て放っておけなかったんだと思います」

「なるほどね」


確かに、村に残っている人は世話好きが服を着て歩いているようなものかもな。

攻略組とか競争好きな人達は我先にと島の奥へと向かっただろうし。


「君は……ってまだ自己紹介もしてなかったな。

俺はカイリ。ジョブは農家だ」

「そうなんですね。農家の人に初めて会いました!

私はリースって言います。ジョブは料理人です。

あの、農家なら香辛料とか育ててないですか?」

「香辛料か。残念だけどまだ無いな。

見て分かると思うけど、2期組でまだ10日も経ってないしな。

まだ基本の野菜しか畑には育ってないんだ」

「あぁそうなんですね」


俺の答えにがっくりしてしまう、リース。

陽介も言ってたけど調味料不足が深刻なんだな。


「俺としてはこの島でそういった植物の種が手に入ることを期待してるんだ。

もしくはイベントポイントで交換できるものの中にあるかもしれないし」

「そうですよね。

あの、もし種が手に入って育てられたら、分けてもらう事って出来ますか?」

「もちろん。その代わり、料理が出来たら食べさせてくれ」

「分かりました!」


よろしく!と握手を交わしてお互いにフレンド登録を済ませる。


<特定の条件を満たしました。イベントポイントを10000ポイント贈呈致します>


「は?」

「え?」


お互いに顔を見合わせる。

どうやら同じ通知がリースにも届いていたようだ。

イベントポイントが手に入る条件っていったい何だ?


後書き日記(続き)


村のお手伝いをしてみようと思った私ですが、村の現状をきちんと把握しないと独りよがりになってしまいますので、まずはぐるっと村を見て回る事にしました。

ふむふむ、なるほど。

村を観察して分かったのは、まるで私たちの為に席を用意してくれているんじゃないかと言いたくなるように、10代後半~30代の人が居ません。

多分宝探しは魔物も居るでしょうし、それなりに戦闘力が求められるから、生産職や戦いが苦手な人用に運営が用意してくれたのかもしれませんね。

その証拠に私以外にも何人か村人と一緒に活動している人を見かけました。

であれば、遠慮なく自分の得意分野でお手伝いをしてみましょう。


そうして私が向かった先は最初に煙が出ていた、他よりちょっと大きめの家。

村長宅かと思いましたが、公民館のような場所でした。

そこに居た40過ぎくらいのおばさんに話を聞いた所、ここは共同でお昼を用意したりお茶を出して働きに出ていた人を労う場所だそうです。


「お茶……!?」


そういえば料理の事ばかりに頭が向いていて、そっちまで考えが及びませんでした。

私は早速お手伝いを申し出ました。

二つ返事で了承してもらえたので早速台所へ。

お茶の材料は……滋養根と活力草。

え、これってHP回復薬と筋力増強薬の材料じゃないんですか?

そう驚いたらにっこりと笑われました。

どうやら、同じように勘違いする人は多いそうです。

『医食同源』なんて言葉もあるように、食は医に通じる、逆を言えば経口薬の材料は食べられるってことです。

そういえばハーブ塩の原料も薬草ですしね。

自分で淹れたお茶を確認してみると、


【薬草茶:レア度1、品質1。

滋養根と活力草を煎じたお茶。

微量のHP回復と一時的な筋力強化の効果がある。

品質が低いため苦味が強く飲みづらい】


飲んでみると……うぐっ。確かに苦いですね。

青汁と抹茶の苦みをブレンドしたような感じです。

おばさん曰く、茶葉の状態や淹れるお湯の温度、蒸らし時間で味も変わるそうです。

おばさんが淹れてくれたお茶を飲んでみると、普通の緑茶くらいの苦みで、これなら普通に飲めました。

品質は3。同じ茶葉を使っているのにこの差。

年の功というか、練習あるのみですね。


そうして3回目にして品質2の薬草茶が淹れられるようになった時、外から子供たちの声が聞こえてきました。

どうやら畑仕事をしてきたみたいですね。

では早速、私の淹れたお茶を披露しましょう。

あ、でも、子供にはまだ苦いかな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 抹茶と青汁って味の方向性が被ってますよ。 特に大麦若葉の青汁と抹茶だと混ぜても大した違和感ないのではないかと思います。 ケールの青汁なら青臭いので結構違うかな? むしろあく抜きしてな…
[良い点] 更新乙い [気になる点] >>やっぱ水中と地上だと圧倒的に体が軽く感じる。 これまでの流れで、何が言いたいかは予想はつきますが ココだけ見ると通らないかなって [一言] 歌ァ!! 誰かPC…
[良い点] この作品を例えで言うなら、一粒で二度美味しい作品です。 こう、ダブル主人公って感じがして好きな作品なので応援してます(^^)
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