イベント最終日
ふと、温泉のノゾキネタを盛り込めなかったなと思いだしてしまいました。
イベント最終日の7月30日。
リアルの予定を済ませて夕方頃にアルフロにログインすると、よく分からない光景が広がっていた。
いや、場所は昨日と変わらず第9階層だし、突然洪水に見舞われたとかそんなことは無いんだけど、なぜか冒険者の姿があちらこちらに見えた。
っていうか確かこの人達、昨日も来てた人だよな。
その疑問は間違いじゃなかったらしく、向こうも俺の姿を見つけた挨拶してきた。
「あ、カッパさん。ちっす」
「カッパさん。お帰りなさいです」
「「お邪魔してま~す」」
「は、はぁ」
……何事?
俺が留守の間に何が起きたんだろうか。
そう思い応援に来てくれていたホッケ族のユッケに聞くことにした。
「ユッケ。これはどういう状況なの?」
「えっとぉ。何でも昨日お世話になったから恩返しがしたいと言われまして、それならばと畑仕事を手伝ってもらった次第です」
「恩返し? 俺何かしたっけ」
思い当たることと言えば、昨日休耕地の土壌改良を手伝ってもらった時くらいだけど、あれは俺が礼をいうべきところだよなぁ。
ま、分からないなら本人達に聞けば良いか。
「みんな、レアメタルの採掘は良いのカッパ?」
「はい。お陰様で昨日のうちに自分たちで使う分は確保できましたので」
「そうカッパ。それはよカッパ。
でも恩返しって聞いたけど、どうしてカッパ?」
「どうしてって。第10階層のボスを突破できたのって間違いなくカッパさんがくれた食事のお陰ですから」
「そうっすよ。俺なんか生産職で戦闘面ではいつも足手まといだったのに、カッパさんのご飯で特殊スキルが開眼してめっちゃ活躍出来たんすよ!!」
「いやいや、俺の提供した料理にそんな特殊効果は無いカッパ」
多分偶然スキル習得までの残り経験値が1だったとかそんなところだろう。
「あとはまぁ、あわよくばまたカッパさんの食事にありつけたら嬉しいな~っていう打算もありますけど」
「それめっちゃ分かるっす。さっき出してもらったお茶と団子もむちゃくちゃ美味かったっす」
「それは料理してくれた友達に伝えておくカッパ」
リースのご飯は美味しいからな。
また食べたいって気持ちは分からなくもない。
そんな話をしていたら、今日も上の階層から冒険者たちが降りてきた。
さて今度はどっちの人たちかな。
ちなみに昨日来た冒険者は結局、今ここに居るように畑作りを手伝ってくれたり、そこまで行かなくても畑談義で盛り上がった人たちが6割、素通りする冒険者が2割、畑から作物を奪おうとした不届き物が2割くらいの割合だった。
不届き物は漏れなく死に戻って頂いた訳だけど。
もしかしたら復讐に来たりするかなって思ってる。
そして降りてきた冒険者はどこかで見た顔だった。
というかダンデじゃん。
そう言えば昨日は来なかったな。あいつの事だから嬉々としてくると思ってたのに、海賊討伐の方に参加してて疲れて寝落ちしたとか、そんなところかな。
「いらっしゃいカッパ」
ここで俺がカイリだってバレる訳には行かないからな。きっちり役を演じ切らないと。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ダンデは俺を見ると嬉しそうに駆け寄って来た。
「おお。噂通り、カッパだ。
この前はありがとうございました!」
「この前……?」
いつだ?
「ほらっ。花クジラの時。俺達の船に花を括り付けた銛を投げてくれたじゃないですか」
「あぁっ」
って、しまった。返事しちゃった。
それは別のカッパで自分じゃないって言い張ることも出来たのに。
このままじゃ、なんであそこに居たんだ、とか諸々追求されかねないな。
なんとか誤魔化さないと。
「というか、ここに居るって事は、てっきりカイリの従魔かと思ってたんですが違ったんですね」
「残念ながら俺は誰の従魔でもないカッパ」
「そっか。ちなみにカイリの事はしってます?」
「もちろんカッパ。彼は魚人の界隈では有名人カッパ」
これは不本意ながら本当の事。
ユッケ達が他の魚人たちに自慢してまわったらしいからな。
気が付けば尾ひれも背びれもついて噂話が世界中の海を回遊しているらしい。
それを聞いたダンデは「やっぱあいつは凄いな」と嬉しそうに呟いていた。
「あ、そうだ。この水田ってあなたが育ててるんですよね。
もし良かったら種籾を分けてもらっても良いですか?」
「もちろん良いカッパ。君も農家カッパ?」
「いや、俺じゃなくて友人。というかカイリにプレゼントしたら喜んでくれるかなって思って」
「なるほど。それはきっと喜んでくれるカッパ」
既にここで育ててるってのとは別に、やっぱりプレゼントされると嬉しいからな。
後で有難く受け取っておこう。
それにこの反応を見る限り、カッパの中の人が俺だとは気づいてなさそうだ。
「この後は第10階層に行くカッパ?」
「ええ。午前中も行ったんですけど、今からもう一回行ってこようと思ってます」
「ならこれでも飲んでいくと良いカッパ」
「これは……」
「甘酒カッパ。アルコール度数ありバージョンと無しバージョンがあるカッパ。
どっちも体の芯から力が湧き上がってくる美味しさカッパ」
「おおっ!!有難く頂きます」
ダンデ達は甘酒を飲み干すと口々にお礼を言って第10階層に降りていった。
ふぅ。ある意味最後の難関を突破したな。
「「じーーーーっ」」
「分かってるカッパ。畑を手伝ってくれてる皆も1杯いかがカッパ」
「「いただきま~す♪」」
そうしてイベント最終日は予想外に賑やかに終わりを迎えた。
【イベントに参加の皆様へ。
このアナウンスをもちましてイベント『伝説の霧隠れ島にてレアメタルを手に入れよう』は終了となります。
アナウンス終了10秒後に皆様をそれぞれの拠点へと転送致します。
イベント島の倉庫などに保管されている素材なども拠点もしくは各個人のアイテムボックスへと転送致しますので、後程ご確認ください。
それでは皆様、本イベントに参加いただきありがとうございました。
】
よし、じゃあ俺達も……って、そうか。
俺達は自力で帰らないといけないんだな。
後書き没ネタ
イベントダンジョン第5階層。
そこにあるのが何かといえば……
ボス部屋? もちろん、それもある。
休憩所? そうだな。店員さんも可愛いしお茶も美味しいが他にもあるだろう。
温泉が気持ちよかったな~って、そうなんだが、正直になったらどうだ?
そう。女湯だ!
ノゾキサイテー? 否ッ!断じて否である!!
登山家になぜ山を登るのかと聞いたら「そこに山があるからだ」と返ってくるように。
男子になぜノゾキをするのかと聞いたら「そこに女湯があるからだ」と返ってくるのは当然のことである!
むしろ女湯が露天風呂になってる時点で運営もノゾキを容認しているようなもの。
そうだとも。
たとえ後ろ指さされることになろうとも、我々を止めることなど出来はしないのだ。
……ところで、さっき抜け駆けして突撃していった奴らからの消息が絶たれたのは気のせいか?
ふ、ふふっ。多分防音がしっかりしていると、そういう事なのだろう。
まさかノゾキひとつで命まで取られることはないだろうしな。
…………よし、行くぞ、同志A、B。
それにしても『のぞきをしたい方はこちら』と親切に看板が立っているところとか、やはりノゾキは推奨されているということだな。
抜き足差し足……。暗い通路を気配を殺して進んでいく。
うーむ、俺達忍びとしてもやっていけそうな隠密具合だ。そうは思わないか、同志よ。
「?……っ!?」
後ろを振り返ると暗闇の中ぼんやりと同志Aの姿が見えた。
それはまるで出来の悪いマリオネットのように、虚ろな目をして関節という関節に糸を巻き付け天井に釣り上げられていた。
くっ。お前の死は無駄にしない。行くぞB……B?
「ヒィッ」
今度は昆虫の標本のように全身を針に刺され壁に縫い留められている同志Bの亡骸があった。
まさか、こんな即死トラップの連続なんてありえないだろ。
くっ。しかしここまで来て引き返すなんてありえない。俺ひとりでも行くぞ……?
真っ暗な闇の向こうに光る8つの目。
それはこのイベントダンジョンに潜り始めて何度もお目にかかったものだ。
「な、なんでここに第8階層の徘徊ボスが居るんだよ!!」
「キシャーーーッ」
「ぎゃあああっ」
……
…………
………………
またトラップルートから悲鳴が聞こえてきた。
「……はぁ。また馬鹿な人達がノゾキをしに向かったのね」
「看板が立ってる時点で罠だって分かりそうなものですよね。
ちなみに、あのボス蜘蛛はどうやって呼んできたんですか?」
「あぁ、あれ? あれは前にカイリ君がボスは魔力の篭った石が好きとか言ってたじゃない?
それを聞いて以前そういう料理とも言えないモノを作ったのを思い出してプレゼントしてみたら懐かれちゃった」
「食べ物で餌付けって。まるでカイリさんみたいですね」
「うっ。それきっと誉め言葉じゃないよね」
仕方ないじゃない。まさか本当に黒い塊(愛の試練)を食べるとは思わなかったんだから。




