千客万来
遅くなりました。m(_ _)m
今月中は3つくらい山場が重なってるせいで執筆時間が全然取れなさそうです。
シルバーウィークも気が付けば終わってたし。
そして今回からカイリ復活です。やっと今回のイベントも終盤に来ました。
【特殊クエスト『輸送船を襲う海賊を討伐しろ』をクリアしました。
報酬として討伐に参加した皆様には海賊が奪った鉱石がイベント終了後にアイテムボックスへと送られます。
また特別報酬として以下の機能を変更します。
・イベント中のアイテムボックスに鉱石を収納できない制限を7月30日最終日に限り解除します。
・鉱石ダンジョンのボス部屋ならびに第11階層以降のレアメタルの採掘率を大幅に引き上げます。
】
このアナウンスを俺は第9階層の水田の中で聞いていた。
「第11階層、ね」
まったく。
このイベントも無事に終わりを迎えるかなって思ってた所にこれか。
ま、俺だけ楽をさせてもらってたからな。
最後のもうひと頑張りって事だろう。
そう思っている間にも上の第8階層側の階段が賑やかになって来た。
ちなみに、今日まで冒険者たちがこの階層まで降りて来たことはない。
というのも、第8階層から第9階層へ向かう階段の入口に何の変哲もない岩を置いて隠しておいたからだ。
まぁ隠したと言っても壁際にこれ見よがしに岩があるので調べれば簡単にばれる。
ただ、その岩も含めて入口の周囲は採掘可能ポイントも無いのでこれまで放置されていたんだろう。
ボスからレアメタルがドロップしたのもそれに拍車をかけたんだと思う。
でも第9階層以降があるって分かったからには真っ先に調べられるだろう。
今のうちに畑を拠点登録して立札とか立てて勝手に略奪とかされないようにしておかないと。
カンッカンッカンッ
言ってる間に階段の上からツルハシの音が響いてくる。
続いてドタドタと駆け下りてくる大勢の足音。
「よっしゃ、来たぜ。第9かいそ、う?」
「俺達が一番乗りじゃあぁぁ。って、なんじゃこりゃあ!!」
第9階層に来るや否や、驚いたり呆然としたり叫びだしたりする冒険者達約20人。
まぁダンジョンの中に突然畑が、それも田んぼが広がってたらびっくりもするか。
そんな彼らに声を掛けようとして、ふと今の自分はカッパの姿なのを思い出した。
……こういうのってやっぱキャラになりきるのが良いのか?
「やあ、よく来たカッパ」
「「……」」
あ、あれ?
もしかしなくても滑ったかな。
でもまぁ、乗り掛かった舟だし、沈没すると分かってても突き進むか。
「どうしたカッパ? なにをそんなに驚いているのカッパ?」
続けてそう尋ねていくと、ようやく冒険者達の焦点があって来た。
「カッパだ」
「いや、見たまんまだろ」
「魔物、なのか? それとも魚人の一種なのか?」
「魔物とは酷いカッパ。俺はここを拠点に畑を作ってるだけカッパ。
それよりお前たちは何をしに来たカッパ?」
「俺達は……って、そうだ。第11階層を目指してるんだった」
「そ、そうだったな。危ない危ない。畑とカッパで目的を見失うところだったぜ」
ふむ。どうやら戦闘好きプレイヤーみたいだな。
畑を見ても特別食指が動く気配が無いし。
「そうカッパ。次の階層への階段はあっちカッパ。
第10階層にはボスが居るそうだから気を付けるカッパ」
「お、おう。ありがとうカッパ」
「じゃあな。畑仕事頑張れよカッパ」
そう口々に俺に声を掛けて次の階層へと向かう冒険者達。
どうでもいいけど、その語尾は俺の事を言ってるのか言葉が移ったのかどっちだ?
ともかく彼らはまっすぐに階段を下りて行った。
続いて第2陣がやって来た。
今度はさっきの倍の40くらいの団体さんだ。
やっぱり俺と畑を見て驚いている。
「それで、お前たちは何をしに来たカッパ?
次の階層への階段はあっちカッパ」
最初の挨拶を済ませてそう尋ねると、彼らは最初の一団とは違い、階段へは向かわなかった。
代わりに更に俺に話掛けてきた。
「な、なあ。これってどう見ても稲、だよな?」
「うん、そうカッパ」
「おお!
じ、じゃあこの島のお米ってここで採れたやつが出回ってるのか?
ダンジョンの中を探せば他にも水田があったりするのか?」
「第5階層の休憩所には卸してるカッパ。
でも島全体までは知らないカッパ。
ダンジョンのここ以外も行ったことがないから知らないカッパ」
「そ、そうか」
俺の回答に一喜一憂する冒険者達。
彼らはさっきの一団と違ってレアメタルよりもお米に気があるみたいだな。
そう言えばガチの戦闘職というよりも趣味に重きを置いてる感じがする。もしかしたら生産職の人も居るのかも。
それなら多少融通してあげても良いかな。
「ここと同じような地形があって開墾スキルがあれば、稲が育つ可能性はあるカッパ」
「おお!」
「ただ耕してから収穫まで早くても3日はかかるカッパ」
「ぐっ。それもそうだな。くそっ」
イベント期間はもう明日しかないからな。
これまでを考えればイベント終了後も来れる可能性はゼロではないけど、島のコンセプトを考えればイベントが終わったら霧に包まれてしまうはずだからどうなるかは保障できない。
でもやっぱり、この反応を見る限り生産に理解のある人たちであることは間違いなさそうだ。
「種籾で良ければ多少分けてあげてもいいカッパ」
「本当か!!!」
「おお落ち着くカッパ」
「お。おぉ。すまん」
突然詰め寄らないでほしい。
流石にビビる。
「でも勿論タダでは無いカッパ」
「まぁそうだろうな。いくらで譲ってくれるんだ?」
「お金は別に要らないカッパ」
「じゃあ、カッパだからキュウリとか」
「持ってるカッパ?」
「いやすまん。無いわ」
ないんかいっ!
思わずツッコミを入れそうになったじゃないか。
期待させやがって。キュウリ欲しかったのに。
そんな俺の怒りのオーラが伝わったのか若干狼狽えたようにそいつは続けた。
「か、代わりと言っては何だけど、これはどうだ?」
「えっと……銅?」
「カッパだけに銅、なんつって。はははっ」
「……」
「「…………」」
ダンジョン内に冷たい風が吹き込んできた。
一緒に来た連中まで呆れてるじゃないか。どうしてくれるんだ。
「はぁ。じゃあ対価の代わりにちょっと畑作りを手伝ってもらうカッパ」
「って、スルー!?なんかフォロー無いの?」
「そういうのは仲間に期待するカッパ。
それよりみんな付いてくるカッパ」
「お、おう」
ぞろぞろと冒険者達を連れて向かった先は収穫が終わった畑。
そこを指さして皆にこう言った。
「そこの休耕地に向かって、みんなが持っている極力レアなスキルを使ってみて欲しいカッパ」
「?いいけど、それにどんな意味があるんだ?」
「土壌改良カッパ」
「土壌改良?それって生産系スキルじゃなくても出来るのか?」
「分からないカッパ。でも普段とは違う刺激を与えることで、突然変異を期待してるカッパ。
まぁ要は実験みたいなものだから、上手くいかなくても怒らないカッパ。
とにかくやってみて欲しいカッパ」
「……よし、分かった。どんなスキルでも良いのか?」
「この区画の中で納まるなら攻撃スキルでも魔法でも生産系スキルでもいいカッパ」
「分かった。なら俺から行くぜ!『風神剣』」
冒険者が抜き放った刀から烈風が吹き畑の土を削っていく。
「どうだ?」
「すぐには変化は出ないカッパ。同じのでも違うのでもどんどんやってみるカッパ」
「なら今度は俺が行くぜ『地獄花火』」
「じゃその次行くわ『スプリングフィールド』」
「なんかスキル自慢大会みたいになってきたな『瞬間発酵』」
気が付けばみんな見せ付け合うようにスキルを使っている。
楽しそうだし、好きにやってもらおう。
俺としてはこれで作物の品種改良と同じように少しでも特殊な土が手に入ったらめっけもんだし。
そうしてしばらくすると、みんな魔力が切れたのか肩で息をし始めた。
「みんなご苦労様カッパ。
いっぱい頑張ってくれたお礼に種籾の他にツミレ鍋を食べて行くと良いカッパ」
「おっ。ありがてぇ」
「「いただきま~す」」
「ん~~。労働の後のご飯はうまいぜ!」
「ほんとそれな。たまには汗を流すのも良いもんだな」
「ってかこれ。空腹度だけじゃなく、消費した魔力もグングン回復するんだけど」
「マジだ。ってか魔力の最大値も一時的に1.5倍になってんだけど」
「あの、カッパさん。この鍋もカッパさんが作ったんですか?」
「いや、これは友人が作ってくれたカッパ。
第10階層はボスが居るはずだから、これで頑張るカッパ」
「「ありがとうございます!!」」
冒険者達は口々にお礼を言って第10階層へと降りていった。
彼らがボスに勝てるかは分からないけど、もし戻ってきたらまた何かご馳走しても良いかもな。
それくらい気持ちのいい奴らだった。
ザワザワザワッ
っと、言ってるそばから次のお客さんが降りてくるようだな。
まったく運営が情報開示してくれたお陰で千客万来だな。
さて、次の人たちはっと。
「おい、見ろよ。こんなところに稲があるぜ」
「マジかよ。これ売ったらめちゃ良い稼ぎになるんじゃね?」
「ああ。どうやら誰かの拠点になってるっぽいから、そいつぶっ倒して根こそぎ奪っちまおうぜ」
畑を見るなり、そうのたまってるし。
おやおや。
どうやら招かれざる客って奴だな。
後書き日記 リース編 (つづき)
運営からのアナウンスを聞いて心配になってこっそり第9階層へとやって来ました。
あ、来たのは私だけじゃなくレイナも一緒です。
まあ、そうは言ってもカイリ君の事だから全然心配は要らないんでしょうけど。
冒険者の人たちに見つかって何でいるのかって聞かれたら面倒なので隠れていましょう。
って、ウィッカさん!?
サクラさんにツバキさんまで。
ふふっ。みんな考えることは一緒ですね。
そうこっそり笑いあっていたら、さっそく冒険者の人たちが上の階からやって来ました。
か、カッパ?
かっぱって、カイリ君。
れ、レイナも笑っちゃ悪いですよ。本人はいたって本気っぽいですから。
ウィッカさんなんてわざわざ消音の魔法まで使って大笑いしてるし。
サクラさん達はそんなに我慢するくらいなら素直に笑った方が良いと思いますよ。
まあ録画しておいて、打ち上げの際に話のネタにでもしましょうか。
さて、それはともかく冒険者たちはどうするか……って何事もなく素通りですか。
あれ、でもあの人たちの中の何人かはうちで美味しそうにお餅食べてたからお米は好きだと思うんですけど。
も、もしかして水田とか稲を見て、お米やお餅が思い浮かばなかった?
まさかですよね。
ともかく何事も無くて安心しました。
そう言えば第10階層のボスってどんな魔物なんでしょう?
レアメタルに興味が無かったから見に行ってないんですよね。
後で時間があったら従兄に聞いてみましょう。
彼もきっとどこかのタイミングでレアメタルを求めて第11階層に向かうでしょうし。




