奥の手は最後までとっておくものだよ
うーん、女王様のキャラ付けがいまいち……
海賊たちの母艦と思われる巨大戦艦が姿を現したことで、戦況は第2局面を迎えたと見て良いだろう。
この先は海賊討伐というよりも攻城戦の色合いが強い。
そこで冒険者連合艦隊も次の作戦へと移行していった。
「作戦『575』を発動するぞ」
「あいよっ」
ダンデの号令に艦隊の配置が入れ替えられる。
中央には中型艦が並び、両サイドに小型艦のほとんどが離れる格好になった。
「主力艦隊は敵の砲撃を防ぐために防壁を維持しつつ前進」
「遊撃部隊Aは鶴翼陣形で敵小型艦を抑え込め!」
「遊撃部隊B。しくじるなよっ」
「委細承知!!」
中央の主力艦隊が多少間隔を空けて前進を開始する。
当然敵の砲撃の良い的ではあるが、数が多い分、砲撃も分散する。
集中砲火を受ければ厳しいだろうが、分散してくれている分には十分防げるのだ。
また、小型艦は小型艦同士で混戦状態になっている為、砲撃で狙われる心配はあまりない。
あまりと言うのは、時々流れ弾が飛んでいくからだ。
どうやら砲撃の精度は高くはないらしい。
そうして戦場の中央に視線が集中したところで、後ろに控えていた小型艦が移動を開始する。
狙いは敵母艦の背後に回り込んでの奇襲だ。
今回の戦場は全体的に霧が立ち込めているので、奇襲に適した環境と言える。
無事に敵母艦に取りついた彼らは鈎縄を使って母艦へと乗り込んだ。
その姿は今まで海賊たちが襲撃してきた姿を模倣したものだ。
「よっしゃあ。切り込めーーっ」
「っ!て、敵襲!!」
「なっ。いつの間に乗り込んできやがったんだ」
「くそっ。応戦しろ」
母艦上で冒険者VS海賊の戦いが始まる。
しかしホームは海賊側。
当然人数は海賊の方が数倍多い。
その為に当然冒険者たちは劣勢に追い込まれていく。
「ちっ。流石に楽には勝たせてくれないか。あっちはどうなってる?」
「んーー、もう一息ってところね」
「よっし。ならド派手に行くか『メテオストライク』」
「こっちも行くよ『轟雷』」
魔導士たちが放つ魔法が船の前方へと降り注いだ。
ほとんどは防壁の魔法に防がれることになるが、彼らの目的は十分に果たせたと言っていい。
なにせ防衛に手を回した結果、砲撃の量が明らかに減らしたのだから。
その光景はもちろん主力艦隊側からも見えていた。
「よし今だ。全艦全速前進。敵巨大戦艦に突撃だ!!」
「「おおっ」」
それまで前面で囮になっていた主力が一気に加速した。
今回の作戦名『575』とはつまり、主力(5)による囮 ⇒ 遊撃(7)による攪乱 ⇒ 主力(5)による総攻撃だ。
冒険者組の目論見は見事成功したと言って良いだろう。
巨大戦艦と言えば機動力の低さもあるが、接舷されると自慢の大砲群が役に立たないというのもある。
こうなってしまえば船というより砦のようなものだ。
もちろん、それでも防衛側に有利と言えるがそれも乗り込まれる前までだ。
数人は乗り込む途中で撃退出来たが8割方は甲板上に上がってしまった。
「さあ、観念してもらおうか」
「くっ」
人数的には6:4とやや冒険者側有利という程度だが、本丸に乗り込んだ(乗り込まれた)というのが精神的に王手が掛かった感覚をもたらしていた。
前後からジリジリと包囲を狭める冒険者に対し、中央に固まる海賊たち。
その様子を見て『大海賊王』のキャプテンが1歩前に出た。
「降参しろ。流石にこの状態からの逆転は無理だろう。
お前達が奪った鉱石を差し出せば、命だけは助けてやる」
「……」
「……」
「(キャプテンが言うとどっちが悪者か分かんなくなるな)」
「(まったくだ)」
場が別の意味でざわついた後、海賊側からも代表と思われる女性が一歩前に出てきた。
「ふんっ。馬鹿だね。往生際の良いいい子ちゃんだったら、海賊なんてやってないよ」
「「そうだそうだ!」」
「あんたこそ、『大海賊王』なんて言っておきながら、やってることが甘いんじゃないかい?」
「「そうだそうだ!」」
「ぐっ」
女性の言葉に他の海賊たちもダンダンと足踏みをしながら呼応する。
流石のキャプテンもその勢いに思わず後ずさるのだった。
「それに……」
ふふんと鼻を鳴らして笑う。
「追い詰めたのはむしろこっちの方さ」
「なに!?」
「お前達、やっておしまい!」
「へいっ」
海賊たちが何かの装置を起動させた。
すると、バンバンバンッと母艦の周囲で破砕音が響く。
「なんだ、何が起きた!?」
「分かりません。あっ。奴らの立っている所だけ上に登っていきます」
「ばっ。馬鹿野郎。こっちが落ちてるんだよ」
キャプテンの言葉通り、海賊たちの居るところを除いて足場が支えを失ったかのように崩れていった。
同時に巨大戦艦の側面もまるでタガが外れたように外側へと倒れ、そして。
ドガーーンッ
大爆発。
それは接舷していた船たちを巻き込んで朦々と黒煙を上げていた。
それを見た冒険者たちは顔を青褪めさせる。
「くそっ。やりやがった」
「まさか自爆しやがったのか」
「あああっ。俺達の船がぁ」
そう嘆いている間にも全員が海へと投げ出され、元は甲板だった木の板に何とかしがみついて溺れるのを免れている状態だった。
「あーはっはっはっは。良いざまだね」
そこへ追い打ちをかけるように海賊たちの声が響く。
見ればいつの間にか降りてきた彼らはちゃっかり隠してあった自分たち用の船に乗り込んでいた。
「待てっ。逃げるのか!」
「ふふん。戦略的撤退と言ってもらいたいね。
追って来れるものなら追ってくればいいさ。
今度は要塞化した拠点で出迎えてあげるからさ。
あーはっはっはぁ」
高笑いを残して去っていく海賊たち。
残された冒険者たちは自爆攻撃から逃れた味方の船によって何とか救助されるのだった。
後書き小話 もしもカイリが居たら編
その1
「イカリヤ、進行方向にゴミが多数。邪魔だから全部ぶった切って来て」
「きょっ♪」
ズバババンッ
「きょ(ふっ。またつまらぬものを切ってしまった)」
その2
「コウくん。あいつらのせいで日当たり悪いから魔法で吹き飛ばしちゃってくれ」
「ぴっ♪」
カッ!! ドガァァン!!
「ぴぴ(一仕事終えた後のツミレは美味しいね♪)」
その3
「ヤドリン。あの砲台、新しいヤドカリ達の住処に丁度良くない?」
「……くぃ」
ヒュッヒュッヒュッヒュッ(投石)……ドガドガドガッ。
「……(3秒ルール。3秒ルール)」
……
…………
………………
「うーん、運営が俺達を隔離したのは間違いじゃなかったな」
「きょっ」
「ぴっ」
「くぃ」
イベント後にダンデから聞いた海戦の様子を元に、俺達が居たらどうなっていたかを考えてみたけど、どう考えても一方的な蹂躙劇しか待ってなさそうだ。
「くぃ?」
「ん?俺だったらどうするのかって?
そりゃ、普通に考えて水中から船の真下に潜り込んで、片っ端から開墾撃で穴を開けて行くだろうな。
向こうには水上を攻撃する手段はあっても、水中まで届くものはほとんど無いだろうし。
その辺りは運営、どう考えてるんだろうな」
今のところ、このゲームは地上がメインだけど、今後海上や海中での活動が必要になる場面も出てくるだろう。
今回の採掘だって半分は水中だったのはその辺りを見越してテスト的な位置づけだったんじゃないかと俺は見ている。
まぁ、実際運営が何を考えているかは分からないけど。




