全砲門開けっ!!!
記念すべき第100話ですが、主人公は出てきません汗
7月28日薄曇り。南南西の風、風力は1。
いつものように霧が薄っすらと立ち込めているが、波も穏やかで絶好の海日和である。
この日、イベント島の南東沖に大小合わせて100隻以上の船が東西に分かれて睨み合っていた。
西側には中型艦と小型艦が半分ずつ。それぞれの船に揚げれらている旗は色もデザインも様々だ。
対して東側は小型艦が8割を占めており、揚げれらている旗は黒地にドクロで統一されている。
もっとも、ドクロのデザインは船毎に個性が出ているが。
その様子を見て西側艦隊中央に陣取っていたダンデが感嘆の声をあげた。
「実に壮観だな」
「ああ」
答える『コロンビア旅団』団長もうずうずしているようだ。
しかし誰を置いても一番にこの光景を心待ちにしていた男が居た。
「ようやくここまで辿り着いたか。
俺が求めていたのはこれだったんだ」
『大海賊王』のキャプテンである。
何を隠そう彼らは海戦をこそ求めてこのゲームを始めたのだ。
このゲームは開発段階から大洋に浮かぶ島々を開拓していくPR動画が公開されていた。
その中にはもちろん、島から大海原へ乗り出すシーンや船同士の一騎打ち、船団同士の艦隊戦の様子も映されていた。
しかし蓋を開けてみれば、確かに島の開拓は間違っていないものの、一般的な島間の移動は定期船に乗るだけで、ほとんどの人が自前の船で航海なんてしなかった。
自分たちだけ船を造っても戦う相手が居なければ宝の持ち腐れだ。
せめて現地の海賊船や幽霊船でも出てこれば良かったがそれもない。
一時、世界の北側に何かがあるかもしれないと船を漕ぎだしてみたものの、明らかに攻略不可能な魔物や海流の壁があった。
結果としてずっと、いつかこの時が来ることを夢見ていたのだった。
「皆、済まないが先鋒は我々『大海賊王』が務めさせて頂く」
「ま、仕方ないな」
「貸しだぜ」
『大海賊王』に周りの船から次々に声が掛けられていく。
みんな『大海賊王』の事はずっと前から知っているから快く送り出していた。
「総員戦闘配置!」
「総員、戦闘配置」
「目標敵海賊艦隊!」
「目標、敵海賊艦隊」
キャプテンの言葉を副長が復唱すると、乗組員全員の気合が入った。
後ろから追従している他の船団も楽し気にその様子を眺めていた。
「砲撃用意!」
「砲撃よーい」
ガシャンッ
「放てーーーっ!!」
ドドーーン!!
突然どこからともなく大砲を取り出したと思ったら豪快に砲撃を行っていた。
砲撃を直撃された敵海賊船は木っ端微塵に粉砕され、周囲の船も突然の揺れに必死に耐えていた。
それを眺めていた冒険者たちは全員目が点である。
「……は?」
「おいおいおい」
「大砲って、え?火薬が発明されてたのか?」
「というか、ファンタジー世界で火薬兵器ってありなのか!?」
そんな周囲の困惑を他所に『大海賊王』は一層盛り上がりつつ更なる追撃の準備を行っていた。
「第2射用意、放てーーーっ!!」
ドドーーン!!
まるで黒船来航のような圧倒的な光景であった。
あわやこのまま一方的に戦いが終わるのかと思ったところで、またあり得ない光景が展開された。
ガキンッ!!!
海賊船に直撃コースだった砲弾が見えない壁に弾かれた。
「バリアーか!」
船の性能はともかく、乗っているプレイヤーのレベルはトップクラスの海賊たち。
魔法のあるこの世界では当然、遠距離攻撃を防ぐ防御魔法は一般的に普及している。
たかだか金属の塊が飛んでくるぐらい、不意打ちでさえなければ防ぐのは難しくはない。
「ふっ。そうこなくてはな」
不敵に笑うキャプテンの視線の先では、海賊たちが鬨の声を上げて全速力で突撃を開始していた。
それを見たキャプテンも次の1手に移った。
「総員、連環陣で応戦だ」
「がってんだ!!」
号令に合わせて小型艦が左右に離脱しつつ、中型艦が間隔を空けて前進を開始する。
普通に考えれば小型艦で敵の突撃を食い止めつつ中型艦が弓や魔法を浴びせて制圧するのが常道だ。
このままでは中型艦がもろに突撃を受けて沈む危険もあるし、何より間隔が空いてしまっているので船尾に回り込まれる危険さえある。
後ろで様子を見ていた他の冒険者たちも、これはそれなりの被害が出るだろうと心配しつつ、すぐに駆け付けられるようにと前進を開始した。
「弓隊、魔法隊。射程に入り次第、直撃コースの船を集中攻撃!」
「ラジャーーッ」
相対速度は時速100キロを超える中、『大海賊王』の船から降り注ぐ魔法により海賊船は沈没こそしないものの、直撃コースから若干ずらされた。
その結果、突撃してきた海賊船のほとんどが中型艦の腹を掠めるように通り抜けようとして……壁に激突していった。
「ギャーーーっ」
「なんじゃこりゃっ」
「船と船の間に丸太で壁を作ってやがる」
「はっはっはぁ。海戦という意味では邪道だがな。
かの有名な連環の計を真似てみたんだ。やっぱ三国志は偉大だなっ」
次々に沈没していく海賊船を見て、キャプテンが鼻も高々に大笑いしていた。
しかし、海賊たちもみすみすやられるだけではなかった。
……ーーン!!
「ん?今誰か砲撃したか?」
「いえ、連環陣の最中は船が揺れるので砲撃は控えているはずです」
「それならって」
ズガーーンッ!!
「2番艦大破ッ!!!」
突然爆炎を上げる2番艦に騒然となる『大海賊王』の面々。
「なんだとっ!?いったい何が起きた?」
「どこかから砲撃を受けているものと思われます!!」
ドドドドーーン!!
「ちっ。艦前方に防壁展開しろ」
「アイアイサーッ」
ドガガガガッ
更なる砲撃音に慌てて防壁を張ったところに連続して砲弾がぶつかっていく。
それはまるで『大海賊王』の数倍の大艦隊からの砲撃であった。
「やつら、奥の手を隠し持っていやがったのか。
兎に角このままだとただの的だ。連環を解除して散開するぞ」
「ヤーッ」
その時、戦場に1陣の突風が吹いた。
それによって周囲に立ち込めていた霧が一瞬だけ晴れる。
結果、霧の向こうに隠れていたものが全員の目に映った。
「あ、あれはまさか」
「超巨大戦艦かっ」
「良く作ったもんだ。まるで島だな!」
「くっ。負けたぜ。あれこそ漢のロマンだ」
サイズにして中型艦の10倍以上。
人工物で木造で水上に浮いていることから船と呼ぶべきか、要塞と呼ぶべきか悩むところだ。
その超巨大戦艦の甲板上には数十基の大砲が並べられていた。
先ほどの砲撃もあそこから放たれたものと思われる。
最初に撃ってこなかったのは射程の問題か、それとも奥の手に隠しておいたのか。
とにかくあれを攻略しなければ冒険者たちに勝ち目は無いようだ。
後書き海賊団
時間は海戦の少し前にさかのぼる。
その頃、海賊の拠点では、右へ左への大騒ぎになっていた。
「冒険者たちが大挙してこちらに向かって来ています」
「くそっ。奴らの狙いはここか」
「追手は上手く撒いてきたはずだが、誰かヘマりやがったな!」
ちなみにそう言った奴が尾行された張本人だったりする。
「とにかくこうなったら返り討ちにするっきゃねぇ!」
「だな。輸送船を一方的に蹂躙するのも良いが、ギリギリの命の奪い合いも悪くない」
「おおよ。俺達の実力を奴らに見せつけてやろうぜ」
「「おおっ」」
そうして海賊たちは自分たちの船に乗り込み、拠点の前へ布陣した。
程なくして西の海から大船団が見えてくる。
船の数こそ海賊たちの方が多いが、規模で言えば中型艦を多く擁する冒険者たちに軍配が上がる。
ならば機動力を活かして連続したヒット&アウェイが上策な気もするが、問題は自分たちに連携などという言葉が似合わない事だ。
ことここに及んで足の引っ張り合いはしないものの、隣の船とも信頼関係が結べている訳ではない。
あくまで同じ盗賊、海賊ロールを楽しんでいる者同士で集まっているだけなのだから。
「おい、誰から行く?」
「お前行けよ」
「やだよ。先頭はどうしても集中攻撃食らうだろっ」
そうこうしている間に、冒険者側の船の一部が前進を開始した。そして。
ドドーーン!!
「ぐわああぁ」
「ぎゃあああっ」
まさかの砲撃である。
「くそっ。奴らも大砲を作ってやがったか」
「防壁展開いそげっ!」
「このままじゃタダの的だ。一気に突撃して奴らを沈めるぞっ」
「おっしゃあ。当たって砕けろじゃあ!」
砲撃に追い立てられるように突撃を開始したのは約20隻ほど。
彼らは防壁を最大出力で展開しつつ、敵前衛艦隊へと突き進んだ。
しかしそれはほとんど成果を出せずに半数が海の藻屑になっていった。
その様子を後ろから腕を組んで眺める一団が居た。
先頭には煌びやかな衣装を纏った女性が立っている。
「やはり海戦となると、あのような小舟では話にならんな」
「はっ。女王陛下の仰る通りで」
「海の王者が誰であるか見せ付けてやろうぞ」
「ははぁっ」
「『クイーン・タイタニーク号』発進じゃ」
「『クイーン・タイタニーク号』発進!」
女王の合図とともに超大型戦艦が戦闘海域へと乗り出してきた。
「全砲門開け。目標、敵前衛艦隊」
甲板および船の側面に備え付けられた大砲が狙いを定める。
とは言っても戦艦の周囲には濃い霧が残っている為にぼんやりと見える船影が目印だ。
「放てーーーーっ」
ドドドドドーーーーーン
「ぎゃああ、うるさいのじゃあぁぁ!!」
至近距離から大量の砲撃音を受けて、慌てて耳を塞ぐ女王だった。




