Ⅶ-楽太郎31歳
落下防止ネットは思いの外耐久性がなかった。シックスを受け止めた後は、無残にも破れてしまったからだ。楽太郎は黙々と縫い始めた。そしてやはり14日後。
また人が落ちてきた。間に合わないと判断し魔法で受け止めた。また面倒臭そうなタイプの人間が落ちてきたなぁと楽太郎は思った。その人物は胸に国の紋章が刺繍されている服を着てる。それだけなら国の重鎮とも取れるが、指輪にまでそれがあった。確か14年前に初めて王族を見た時に王位継承の証だ、と当時の王子が見せびらかしていた気がする。それと酷似していた。
取り合えずベットに寝かせ、お馴染みの継ぎ足しスープを作り始めた。今回のは魔物の肉を追加したので更に豪華なスープだ。例によって溶け込んだが。スープが完成しても起きなかったため先に食事を済ませ、彼の分を別皿によそい保温魔法を掛け、継ぎ足し用のスープに封をして楽太郎は寝た。
寝てから数時間後、物音がする。魔物が動く音じゃない…何か人が貪り食う時の音だ。音を立てずに起き音のする方を見ると…
「うぐ…うぐ、美味しい、美味しい」
泣きながらスープを飲んでいたのをそっと見守り、寝床に戻る事にした。
再び目を覚ますと問題の人物がじっと、こちらを覗き込んでいた。楽太郎は器にスープをよそうと手招きをし共に食事をした。
「あの…貴方は名のある料理人ですか?」
「んあ?違うが、何でそう思うんだ?」
「はい、こんなにも濃厚な味わいがするスープなのに濁りが一切ないのは相当な腕前と見たので…
」
「そんなわけ無いよ、ただ下拵えをして煮込んだだけさ」
それから楽太郎はその人物に【Seven】と名付けた。どうやら料理に興味があるようで、楽太郎の手技を1つたりとも逃さない勢いで観察していた。1年経つと、楽太郎の料理のほとんどを覚え自分で魔物を解体出来るようになった。その頃になると、困った笑いを浮かべながらセブンは身分を明かした。
「僕はこの国の第1王子でした」
「だろうな。昔、その指輪を王子がしているのを見たことがある」
「やはりラクタロウさんは、我が城で料理人を?」
「いや…」
楽太郎は15年前に転移された勇者達の話をしその内の1人だと話した。もちろん、暗殺のことは伏せたが。そして何と、セブンの父親は自分をイジメていた理事の息子だとわかった。
魔王を倒した後、当時の国王から日本に帰るか此処に残るか問われ、半数が帰り残りは残った。理事の息子は騎士団長となった。その2年後、護衛中に魔物に襲われ王子は死亡。命がけで戦った騎士団長も瀕死の重傷を負い周りの他の護衛は死亡。このままでは王族存続の危機と判断した国王は、元勇者で武功も知名度もある騎士団長を婿養子に取り、第2王女と結婚させ難を逃れた。
成り上がりを物にした後、事件が起こった。王になった騎士団長はハーレムを作り、何と最初に孕ませたのが後宮で侍女として働いていた女だった。その女から生まれたのがセブン。そして4年前に、第2王女が男子を産んだため身分の低い女から生まれたが、王族継承権を持つセブンが邪魔になり処分するためダンジョン視察と称して暗殺…ということだ。
「母は後宮で侍女として働いてました。その時に料理を作ることもありましたので料理には興味があったんです」
「ふむ…そういう事か。なぁセブン。お前、外の世界で食い歩きの旅をしてみろ。世界が広がるぞ」
「何故ですか?」
「生まれてからずっと城に籠り出てもダンジョンに籠る…勿体無いじゃないか。外に出て未知なる美食を求めてもいいんじゃないか?」
「それはつまり…【美食屋】になれと?」
「そんな所だな。ワクワクしないか?城では食べれない地元ならではの食材…料理…」
「確かにワクワクします!」
「それでいつか…お前のお母さんを迎えに行けばいい。力を付けた息子が来たぞ てな」
セブンは雷に打たれたような衝撃を受けた。王族に対して武力で攻撃するのではなく、食を絶たせて降参させるその考えに!食べ歩きの旅と称して、仲間を集めて力を付ける…最終的には【美食會】と名付けて反撃の狼煙を上げるその方法に!
食の…引いては食材の流れを国に行かせなくしたら?それこそ白旗、無血開城が可能になる。この人はやはり凄いとセブンは思った。
しかし当の楽太郎はそんな【兵糧攻め】など露にも考えていない。ただ世界食べ歩きをして、流れ板の真似事をして腕が確かになったら、料理屋を開いて母親を引き取ればいいと思っただけだ。
楽太郎から餞別として調理器具一式と【魅惑のスープの一部】、クリスタル眼鏡を受け取ると、楽太郎が作ったエレベーターで地上へ上った。
セブンは後に表向きは全世界食堂チェーン店【ラッキーセブン】のオーナーとして君臨し、裏では【美食會】と称し世界の食の90%を牛耳ることになる。幹部にのみ出されるスープは絶賛との噂。
新しく調理器具を作る楽太郎の元にもまた人が落ちてきた。