Ⅵ-楽太郎29歳
ファイブと一緒に作った落下防止ネットを設置して14日後。爆発音と共に肉塊が落下し、ネットが何かをキャッチした。
「ゴブリン…いや少し大きいから異常種か?」
大方、上層階でこのゴブリンを倒そうと爆薬を使い吹っ飛ばしてその肉片が落ちてきたのだろう。そう推測する楽太郎だったが、
「うー、うー」
「に、人間なのか⁈」
何とその肉塊は人間だった。四肢は千切れ臓物は出ているが生きていたのだ。楽太郎は暇があればゴブリンを解剖する変人だ。体の構造は熟知している。気が付くと楽太郎は、蒸気を沸かし辺りに菌を寄せ付けない環境を作り始めた。そして、裁縫道具と刃物を煮沸消毒した。
「持ち堪えてくれよ…」
魔法と現代医術の組み合わせた手術は2日に及んだ。血が足りない所は、生理食塩水で代用し皮膚が足りない所は魔法で培養した人工皮膚を使った。魔物の腸を加工した管を、胃に繋ぎ水に溶いたお馴染みの栄養素が豊富なスープを少しずつ流し込んだ。
1ヶ月後、唸っていた人物…【Six】と名付けた者は目を開けた。
「よかった…聞こえていたらウィンクしてくれ」
シックスはぎこちないながらもウィンクをした。さらに3ヶ月も経てば、シックスは舌足らずだが話すことができ指先なら動かせるようになっていた。シックスの話では、ここの第3階層に貴重な鉱石を冒険者が発見。ある貴族がそれを欲し、偶々別の用事で作業していた彼女はその発破作業に巻き込まれて落ちてきた…というものだった。
「大変だったな。ま、治したのは俺だ。最後まで責任を持つさ」
楽太郎はシックスに付きっきりで看病した。身体中がボロボロだったのにも関わらず驚異の回復を見せた。
(もしかしたら、ここでの食事は回復力を底上げするのかもしれない。そうでなかったら、ワンを始めとする負傷者があんなに早く完治するわけが無いよな)
這うことから始まり、ハイハイ、掴まり立ち、自立…あまりにも早い回復だった。これは1秒でも無駄にしないと全力でリハビリに取り組んだシックスの努力の末だろう。そしてシックスは医学に興味を持ち始めた。楽太郎は自分の持てる全ての知識、写本を見せた。ゴブリンの亡骸を使って腑分けも見せた。
「この世界で医術がどこまで発展しているか俺は知らん。だがこの知識、受け継いでくれるか?」
「あい、ちぇんちぇ!」
「おいおい、俺は無免許医だがそんな風に呼ばれても嬉しくないぜ」
そして2年に及ぶリハビリを終えシックスは全回復した。手には写本が数冊ある。
「ここでは学びきれない事を外で学んできな」
「しょんな…ちぇんちぇ以上の、ちちきなんてありゅのでしゅか?」
「あぁ、あるとも。頑張ってこい」
「あい!」
シックスはクリスタル眼鏡を受け取ると、楽太郎が作ったエレベーターで地上へ上った。後に【奇跡の天才魔法医】としてその名を轟かせ、その一方であの発破事故の真相を追う者として日々を過ごした。
そして楽太郎の元にはまた人が落ちてきた。