Ⅲ-楽太郎23歳
トゥーがダンジョンを出て行った後、楽太郎はゴブリンの解剖をしていた。転移する前は、持病の症状が出るたびに病院に通っていた。有名な無免許医の漫画も好きだった楽太郎は、解剖学を学ぼうと思ったのだ。ゴブリンは、人間と大きさは違うが内臓などは同じ。同士討ちで死んだゴブリンを見つけては腑分けし記録する。そんな事を14日間してた時…
「またか」
2度あることは3度ある、と言われるようにまた人が落ちて来た。杖を振るいその人物を捕らえた。何やらガチャガチャと喧しい物を腰に下げている。楽太郎はトゥーと同じように継ぎ足してスープを作り始めた。
「った!」
「そんなバレバレの息の殺し方があるか」
目を覚ました青年を見る。今までで一番の年長者だ。自分より年下だが肉付きはまぁまぁ。何故、落ちて来たのだろうか?
「積もる話もあるだろう。食いな」
「お、おう」
器を渡して食べ始める。キョロキョロと落ち着きなく周りを見る青年。そのあと、ポツリポツリ話始めた。
自分は中堅の冒険者パーティにいてシーフとして活動していたこと。パーティメンバーがレベルが上がるごとに、自分を邪険に扱ったこと。そして今日、ダンジョンのトラップを見破れなかった責任を取らされ突き落とされたこと。
「成る程な…で?さっきは何で俺を襲おうとした?」
「それはその…一刻も早く此処を出てあいつの元に帰ろうと思いまして…」
「あいつ?」
「はい、実はそのパーティにヒーラーの幼馴染が居るんですよ。前回のクエストで怪我しちゃって、今回は同行してなかったんです。心配で…」
楽太郎はそれを聞くと、奥から大きい水晶を持ってきた。
「これに君の魔力を流しながら、その幼馴染を思うといい。そうすれば、今の彼女が映し出され会話が可能になる。これで一先ず、安否を知らせるといい。ヒーラーなら水晶も持ってるだろう」
「うわぁ…これ【水晶念話】じゃないですか。しかもこんな大きい」
「じゃあ、邪魔者は消えるよ」
待つ者がいるというのはいいな。お父さん、お母さん…どうしているかな…
ガシャン!
「どうした⁈」
「あ、すいません…水晶は弁償します…」
そう言うとシーフの青年は倒れてしまった。何があったのだろうか?悪いと思いつつ、水晶の破片から履歴を探る。…あぁ、彼は裏切られてしまったのか。しかも今回の件に1枚も2枚も彼女は噛んでいる。見られていないと思って、あんな光景を見せられたんじゃ…この青年…【Three】と名付けよう。の心は壊れてしまうだろう。
楽太郎の予想通り、スリーは次の日から食事を取らなくなった。無理やり食事を取らせて半年後、スリーの目に炎が灯った。
「俺に盗みのテクニックを教えてください」
「何のことだ?」
「ここにあるもの…全て一級品と見える。それにあの【水晶念話】も普通じゃ絶対に手に入らない。それこそ王族の城から盗まない限りは…。俺は世界をひっくり返す盗賊になりたいんだ!そして見返してやるんだ、俺を裏切ったあいつに!俺はこんなに凄いんだぞ!て。こんなにも凄い物を盗んだ貴方ならさぞ凄い盗賊に違いない。だから、お願いします。俺に盗みのテクニックを教えて下さい!」
酷い誤解と楽太郎は思った。此処にあるものは全て、暇つぶしに作った物だ。盗んだものではない。だがせっかく、やる気を出しているのだ。協力しよう。
「いいだろう。お前は俺の跡を継ぎ【Three】と名乗れ。そして教えてやるがこれを守れ。
・女を手籠にせぬこと
・盗まれて難儀する者から盗まないこと
・人を殺めないこと
守れるか?」
「はい!」
それから楽太郎は、転移する前に好きだった大怪盗の話をしその鮮やかな手法を教えた。2年後にはスリーは立派な盗賊…否、怪盗になった。
「うん、もう大丈夫だろう」
「ありがとうございます、ラクタロウさん。このご恩は忘れません」
「気をつけてな」
「はい」
スリーはクリスタル眼鏡を受け取ると足音を立てずに階段を上って行った。のちに世間を騒がす愉快な怪盗の話が出るまでそう時間はかからなかった。
誤解されたままの楽太郎の元にまた人が落ちてきたのもそう時間は掛からなかった。