Seven story 【Ⅲ】
トゥーの屋敷は貴族が住むには少々贅が足りないような気がする屋敷だった。だがよく観察すれば、外敵から身を守るには最適になるように改装されており見た目より機能美を重視しているようだった。門番の男にトゥーに取り次いでもらうように頼んだ。本来なら正装しているとはいえ、正体の知れぬ自分なら門前払いだがその男は嫌な顔せずに走って報告しに行った。暫く待つと先ほどとは違う男…執事が屋敷の中へ招き入れてくれた。
案内された部屋には既にトゥーがいた。
「初めましてトゥー様。私は《ラッキーセブン》の店主セブンと申します。本日はある方から書状を預かったので来ました」
書状をトゥーに渡すと、ピクリと眉が動いた。そして読みふける。
「いいでしょう。資金を援助しましょう」
「本当ですか!」
「但し、あの味が出せるか…試させていただきます」
執事に案内され厨房まで来た。幹部が見守る中、セブンはすべての力を出し切った。出来上がったものは肉のステーキと野草のサラダ。本来貴族には出さないものだ。トゥーは懐かしむようにそれを食べる。
「確かにこれは、あの方の味です。いいでしょう、資金を援助します」
「ありがとうございます!」
「条件として偶にでいいので、作りに来ていただけますか?」
「勿論です」
ワンの【武力】トゥーの【財力】を得たセブンは更に《美食會》を発展させる。そして、当初の予定通り裏で食の流通を90%を自分の手の中に収めた。この頃になるとセブン自身が、屋台を牽くことは少なくなり事務的な仕事が増えきたが、これは敵対する組織から身を守るためでもあった。ある日、特別な連絡方法で面会を求める者がいるとナナから報告があった。特別な方法というのは表立って会えない時に使う。例えば他所の農協からこちらに寝返りたい時などだ。
来た人物はシルクハットをかぶった紳士だった。彼は兄からの手紙を預かったといい、封を切るとワンからで、王国に魔王軍進軍する段取りが書いてあった。
「成る程、ありがとう。ところで貴方の事を知りたいのですが?」
「私はスリー・ランプ。しがない奇術師ですよ」
だがその男は隙が無い動きでその場を後にした。セブンは手紙の裏を取るついでにスリー・ランプについても調べるように指示をする。すると魔王軍の事は本当で、スリー・ランプはここ数年で売れているマジシャンだということが分かった。もっともそれはスリー・ランプの表の顔だけだが。そして魔王軍 進軍当日。セブンは、食の流通に圧をかけ王族には食料が行かないように手配した。そして裏では備蓄という扱いにしトゥーには有り余る食料を流した。
王国と魔王軍の戦いは1か月で決着がついた。どうやらあの愚王はかなりのお粗末な政治をしていたようで、それから解放されると分かると王族を守る兵士からは士気があまり感じられなかったそうだ。
謁見の間の物陰から数回しか会っていない自身の片割れを見る。酷く醜く見える。そんな者にもワンは情けをかけ贅沢をしなければ死ぬまでは暮らせるほどの金品を与えて国から追放。そしてセブンは数年ぶりに母と再会した。母は酷くやつれていたが、子供の頃に自分に見せてくれた笑顔は変わらずにいた。
「セブン…これからこの国は生まれ変わる必要があると思う」
「はい、あの愚王が行った政策は貴族中心でした。それは悪いとは言えませんが偏りすぎです」
「そこでだ。本来なら侵略した私がこの国を治めるべきだろう。しかし、魔界だけで私は手いっぱいでな。そこで人間であるセブン、貴方にこの国を治めてほしい」
そういうとワンは椅子から立ち上がりセブンに頭を下げた。《ラッキーセブン》のオーナーであるセブンの事を知らない国民はいない。更に血筋的にも王族の血が入っているセブンが王となるのに反対意見は出なかった。最初は、家臣たちが付いてきてくれるか心配だったが、愚王に比べ善政をしいるセブンを支持する声が多数あり今はセブンをサポートしてくれている。
各貴族からの就任式の祝いの品に、注目株の宝石商会からのもあった。中には【水晶念話】とメッセージが。
『兄妹のみ登録済み 8』
こっそり懐にしまい、妻と母のいる宮に向かった。
母は驚くであろうな。まさか魔王と兄弟分になっていると知れたら…
気軽に歩けなくなった立場になったが、その足取りはとても軽かった。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします<(_ _)>