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Six story 【Ⅱ】

 貴族からの依頼が増えつつある頃に私は《奇跡の天才魔法医》と呼ばれるようになった。他では治せない病、怪我を治せてきているからだそうだ。とんでもない。私は先生の足元にも及ばない。先生はバラバラだった私をたった2日で元の身体に戻すほどの腕前を持つ。私は良くて切断された腕か脚をつなぐので精いっぱいだ。

 ある日の事、急患が来た。ダンジョンの一部にガス溜まりがあり、それを知らずに火系の魔法を使い爆発に巻き込まれて全身殴打した男性。腹部に石が入り込んでいるのを確認したので手術することにした。麻酔と精神安定の魔法と拘束魔法をかけて手術に挑もうとした時、声を上げてしまった。その患者は、あの爆破事故の時に先客にいた冒険者だった。


もしかしたら、何か知っているかもしれない


 手術は成功し彼は目を覚まし私を見ると心底驚いていた。それはそうだ、死んでいたと思った人間が目の前にいるのだから。


「な、あ、その!」

「おちちゅくのよさ…ちゃあ、ちっていることちゅべてはなちなちゃい」

「な、何も知らない!俺とアンタは初対面だ!」

「へぇ、ちょういうこというんだぁ。ねぇ、おなかのきじゅみて」

「?」

「ぬってあるでちょ?そのいとがきれたら…」

「切れたら…」

「ぜ~んぶでちゃうかもにぇ」


 もちろん嘘だが、男はペラペラしゃべりだした。あの日、鉱石採掘というのは建前で始めから私が目的だった。依頼主はこの国の上位の貴族。その貴族の名前を聞いて思い出した。確か昔、自分の息子を私がよく組むパーティーに入れさせて箔を付けさせろとか言ってきた人物。

 今もだが、貴族は面子を気にする。手っ取り早いのが冒険者の真似事をして、同行させたパーティの功績を自分のものにするものだ。私達は、メッキみたいな箔は剥がれやすいので…とやんわり辞退したのだがそれが気に食わなかったらしい。あの出来事で私を殺すとか…短慮すぎる。


「あいがと。ちりたいことはちれたわ」

「あぁ、だから!」

「あんちんちて。あんたからきーたとはいわないち、あんたのちりょうもかんぺきにするのよさ」


 その男性冒険者からの情報を聞いてまずは、かつての仲間が心配になり調べてみた。彼らは私がいなくなった後、私と同様に何らかのトラブルに巻き込まれていた。リーダーのスィスは馬車にはねられ足に麻痺が残り実家の道具屋を継いでいた。賢者ゼクスは実験中の事故により両腕が使い物にならなくなった。聖女シェースチは巡礼の途中、何者かに劇物を顔にかけられかつての美貌は失われてしまった。全て裏ではあの貴族がかかわっていることだ。

 私は自分を、仲間をこんな目に合わせた貴族に復讐したかったがそれよりも仲間を治したいと思った。私はもうスラムを長いこと空けることはできないから、治療で訪れた患者のコネを使い転移魔法を安く利用した。久しぶりに出会った仲間は、みな目に光がともっていなかったが私の口から事件の真相を聞くと目に炎が宿った。そして、各々に適切な治療を施しリハビリに精を出したおかげで全盛期並みの力を取り戻した。

 殺すのではない、生かして自分が何をしたかをあの貴族に存分に思い知らせた。勿論、これが犯罪だと分かっている。先生の教えを悪に使っている。だけど我慢できない。

 復讐を成し遂げた翌日、その貴族の執事がやってきた。


「お願いします。旦那様を助けていただきたいのです」

「なら、ここにきゅるのがしゅじなのよさ」

「それがその…動かすことができない状態なのです」

「どゆこと?」

「はい、旦那様は先日

馬が暴れて道に投げ出され腰の骨を折り

倒れたところに馬の脚が振り下ろされ両腕が潰され

興奮した馬は更に旦那様のお顔にしょんべんをぶっかけられ

上級ポーションをかけようと思ったら火級ポーションでして全身大やけど

を負ったのでございます。急いで屋敷に運び入れ、専属医師に診せると手の施しようがなく動かすのも危険な状態というのです。お願いします、旦那様をお助け下さい!」

「…ちゅじゅちゅりょうはあたしがこうちょうする。それでもいいの?」

「旦那様が助かるならもちろん!」


 シックスはその貴族の手術をした。日を分けての手術だったが無事に成功。最後の手術から3日後、その貴族は目を開けた。だが、その眼は怯えた目だった。


「あたしは、あんたのあくじぜーんぶちっている」

「ナ、ナンノコトダ」


シックスは証拠を出し慰謝料と称し手術料を請求した。


「ちゅじゅちゅりょうはあんたのざいさんの1/3よ」

「?!」

「もんくはいわしぇない。あんたはあたし達のじんちぇをうばったもどうじぇん。うったえたかったらうったえていいのよさ。そのときは、このちょうこをばらまくから」


 貴族は諦めた目になりシックスの提示した治療費を一括で支払った。その金額は仲間と分けても生涯遊んで暮らせるほどだった。シックスはそのお金のほとんどを自分の医院の設備費に充てた。助けられる命は助けなくてはいけないからだ、例えどんなクズでも。

追伸:誤字報告ありがとうございました(^_-)

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