Four story 【Ⅰ】
♢2年前♢
あぁ憂鬱だ
いつからだろう、この仕事に対して後ろ向きな姿勢を取り始めたのは?獣人でありながら、私はギルドの受付嬢に憧れていた。命のやり取りをする冒険者に少しでも、生存率を上げる為に的確にサポートするその姿に憧れたのだ。ギルドの受付嬢になるのは並ならぬ知識が必要だ。
私は子供の頃から必死に勉強して成人すると同時にギルドの採用試験に申し込んだ。しかし、軒並み不採用。理由は【獣人】だからと言うもの。獣人は魔物と人間と魔族が混ざった位置いる種族。そんなふわふわした中途半端な位置の私は、扱い難いと思われ不採用の烙印を押された。でも夢は諦めきれずに所構わず応募して、なんとか採用してもらえたギルド。それが今むかっている職場だ。
ギルドの受付嬢の仕事が大変なのは重々承知していた。しかしこれはあんまりだろう。明らかに過剰なノルマに、上司からのセクハラ、労働時間、職場のネチネチした嫌がらせ。最低ランクのFでも熟練してからでないと、ランクEの依頼を任せられないのが国から通達されている条件にも関わらず、上司の指示は
「構わないから受理しろ。早くうちから【Sランク】が出ないと困る」
と言われ受理し、その冒険者が失敗すると違約金を懐に収め失敗の原因を冒険者と私のせいにした。さらに、私の身体を必要以上に触ってくる。これが周りの職員には媚を売る『発情期の獣』と言われ、ネチネチとした嫌がらせを受けた。未決済書類などを押し付けたりだ。これを処理するために残業すれば、
「やる気がない、やる気があれば定時で終わる」
なんとか早く終わらせ帰ろうとすれば
「早く終わったのに他を手伝わないのかね?君は。思いやりがないね。流石は獣人だな」
仕方なく手伝い始めると、全て押し付けて帰る。ある日のことだ。疲れて帰ると、他のギルドが目に付いた。そこにはいま噂の『神足のトゥー』がいた。ギルドに対して礼儀を欠かさず、ランク下の冒険者に剣のアドバイスをしていた。
(あぁ、いい人だな。ギルドの雰囲気も此処より良さそう)
隣の畑は育ちがいい、という諺で微々たる違いしか無さそうだが私にはそう見えた。
次の日、いつものように出勤するとギルド長に呼ばれた。何かやらかしただろうか?不安に思いながら、向かうとそこには新しい受付嬢がいた。
「悪いんだがね。君の様に要領の悪い者はギルドにとってお荷物なのだ。新しく彼女が入るから引き継ぎを頼むよ」
「よろしくお願いしますね、せ〜んぱい」
その日は引き継ぎをし、ギルド長は新人と数人の職員を連れて歓迎会をしに行った。私には歓迎会どころか送別会もない。あるのは押し付けられた仕事のみ。それを済ませるとフラフラとギルドを後にした。それからの記憶はないが、どうやら着の身着のままあるダンジョンまで行き崖から身投げした。そこで出会ったのがラクタロウさん、マスターだ。
マスターは、私を褒めてくれて労ってくれた。暫くご厄介になっているときにトゥーさんの話題を出した時にピクリと反応した。聞いてみるとなんと、トゥーさんの師匠だったことがあるそうだ。幼い彼女をあのレベルまで育て上げるマスターはすごい。そして食い気味に
「そうなんですか!ラクタロウさん、私もトゥーさんみたくなれますかね?」
「フォー…君の頑張り次第としか言えないな…」
確かに私には獣人だが力がない種族…なら
「私、自分みたいにブラックギルドで働いている職員を救いたいんです。どうかその知恵を教えてください!」
目をまん丸にして驚いたようだが、マスターは協力してくれた。私がギルドを作り救う方法を教えてくれたが、どれも型破りな物だった。例えば『日を7つで1まとめにした時、2日は完全に休みにすること』や『労働時間は教会の鐘が9つなるまでとし、内1つは休憩時間にすること』などだ。普通じゃ考えられない。それを可能にするには人員は何人いればいいだろうか?
「いきなり全部は取り込めないだろう。だから、焦らず少しずつやるんだ。ダンジョンの攻略も一歩から、というだろう?」
教えてもらいながら、魔物を倒す力を付けていった。地上に出た時に活動資金を得るためだ。そして2年の月日が経ち力が十分についた頃、私はマスターの元を巣立った。




