Ⅹ-楽太郎37歳
エレベーターが下にも動くようになって楽太郎は暇を持て余していた。住処の掃除はもう済んでいるし、素材の整理もナインと共に完了している。相変わらず地上に出るという考えは楽太郎にはなかった。落下防止ネットに埃が溜まってきたな、と目につきこの際だから洗う事に決めた。水系の魔法を使えば一瞬で済むがどうせなら手洗いすることにした。
取り外し、さぁ洗おう という運の悪いタイミングで人が落ちてきた。魔法を使いその人物を捕らえた。今回は珍しく革製だが鎧を装備している若い男だった。毎度の如くスープを温め始めた。
そういえばもう20年か…この世界に来て。両親はどうしてるか…あの時に諦めず地上に出れば良かったかな…
「はぁ、なに考えているんだろう俺」
「ラクタロウさんは私達にとって救いの神です」
「うん…なんでここにいるのかな?エイト」
「里帰りです」
「」
エイトは持参した食材でサラダも作り始めた。そしてパンを薄切りにし表面をトーストし並べた。
「ふふふ、このパンは『ラッキーセブン』一押しのパンですの」
「確かにいい匂いだ」
グゥー
どこからか腹の虫が鳴った。革の鎧の男が欲しそうに見ていた。
「あら起きたのね。おいでなさい、貴方は同志よ」
「いいんっスか?」
「えぇ、いいですわよね、ラクタロウさん?」
「あぁ」
かなり久しぶりに食べたパンは美味しかった。このダンジョンでも小麦もどきはあったのだが、どうしても酵母菌が手に入らなかったからパンは本当に久しぶりだ。
「で?貴方はなぜ落ちてきたのかしら、【10番目】さん?」
「ちょ、なんすかその名前?」
「ここに落ちてきた者は数字で名前が付けられるのですわ。私は【Eight】。最近【Nine】と名乗る錬金術師が魔界から話題に昇りましたからね。恐らく彼女もここの出身者…8の次は9。順当に行けば貴方が【10番目】で間違い無いですわ」
「エイトだって⁈あの世界の6割の鉱石を牛耳ってるって噂の【∞】商会の会長サマだっての?」
「正確には6割5分、ですわ。あと数週間で7割を占めるでしょう」
「マジっスか…」
(ほんと、マジか)
【Ten】が落ちてきた理由は今までで一番マヌケだった。度胸試しで1人で何層まで行けるか仲間と賭け、落ちてきたそうだ。
「…何と言いますか、呆れましたわ」
「確かにな。偶々、俺がいて命拾いしたが…」
「あはは…面目ねーっス」
「こういうのが増えると困るな…よし、暇つぶしに鍛えてやる」
「へ?」
「そうですわね、精神共々鍛えられなさい。そのまま私たちの仲間では、恥ずかしいですわ」
楽太郎は、テンを裸にひん剥き蜜を塗った。瞬間、蜂型の魔物がテンを襲う。
「ほら頑張れー、足を動かさないと刺されるぞ」
「ひぃぃ!」
時には素手でゴブリンに挑ませたり、水に沈めたり…2年も経てばテンからはチャラチャラしたオーラはなくなり、誠実なオーラを纏うようになっていた。
「ラクタロウさん、この2年間お世話になりました」
「チャラチャラした男がこうも変わるかね〜」
「あははは、あのシゴキを受ければ変わりますよ。僕はエイトさんが言っていたフォーさんのギルドに行ってみようかと思います。そこでやり直します」
「そうか、お前の人生だ。好きにしな」
「はい、本当にありがとうございました」
テンはクリスタル眼鏡をかけ階段で地上を目指した。少しでも鍛えたいらしい。
「健全な肉体には健全な精神が宿る…か」
おまけ〜
「ちなみにですがラクタロウさん。この果実を発酵させればパンの素は出来ますわ」
「あ、そうなんだ。それは知らなかったなぁ」
「【ラッキーセブン】には他にも『三日月パン』という何層もの重なったサクサクとしたパンもありまして、絶品ですの。他にも『揚げ潰し芋挟みパン』など冒険の片手間に食べれる物もありまして好評ですの」
「ほう、気になるな」
「では、お近くの【ラッキーセブン】まで」
「CMか!」