プロローグ
頑張って連載します。よろしくお願いします。
この島には、たった一つだけ、外の世界に通じる電話がある。
岩井洋二は、その電話の番をする公務員だった。
***
「洋二さん、おはよう!」
青いランドセルを背負った小学生の男の子が、洋二に向かって挨拶をしてくる。
「イツキくん、おはようございます」
電話ボックスの前に置いたビールケースの上に座ったまま、洋二は片手をあげて応じる。
雲一つない、この島らしい朝だった。
もう日の出は迎えていて、朝の青い太陽がコンクリの布かれた道路を白く染めている。
電話ボックスの二階に昇れば、穏やかな波がさざめいて綺麗に光る光景を目にすることができるだろう。
石油ストーブの上に置かれたやかんから、水蒸気が立ち昇り始めたのを見て、洋二は腰を上げ、インスタントコーヒーの粉をマグカップに入れる。
お湯を注げば、一瞬、じゅわ、という音がして、コーヒーが出来上がる。
ミルクと砂糖を入れて、少し息を吹きかけて冷ましてから、少しだけ口に含んで飲む。
ほう、と自然と息が漏れるようであった。
もう一度外に出て、ビールケースの上に座る。そのとなりに置いてある小さなテーブルの上にマグカップを置き、ふと自分が今出てきた建物を見る。
備え付けられたシャワ―と、泊まるための部屋。あとは簡素なデスクと、石油ストーブ以外には時計もカレンダーも何もない、交番のような大きさの建物。
誰も、洋二ですら正式な名前を知らない、この建物こそが、この島と外の世界とをつなぐ唯一の場所。
そこは『電話ボックス』と、島の者から呼ばれる。