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9話 体育

「ねぇ、何で着替えるだけなのにわざわざ俺の後ろに隠れるのさ?」

「え?なんとなく…ですね」


 着替えてる間にいらないことされたら死ぬほど凹む自信があります。



「俺らのクラスメートにそんなことする奴いねぇよ」

「だねぇ…。でも、まだ授業始まって二日目。始業式とか昨日はずっと俺らと一緒だったから、他の奴らのことを知らないのも致し方なしじゃない?」

「まぁ、そりゃそうなんだが…」


 よし!着替え終わった!



「着替え終わっても習の陰なのな」

「だねー。とっとと着替えていこう」


 お二人もさっさと着替えて、教室から出て行ってしまう。おいて行かれないようについていかねば。



「あ。そういえば。僕たちは体育どこでするんですか?」


 なんとなく最精鋭の皆さんは隔離されているような気がするのですけど。



「普通に外でやるみたいだよ?」

「だけどどうせこのザマだよ!って感じだろうさ。見てろ」

「あい」


 下駄箱で体育用の靴に履き替え、いざグラウンド…って、あれぇ?めっちゃ広いグランドなのに人がいないような。



 一応、ちらほらいるけれど、中へ帰る人ばかり。



「もしかしなくても。ですか?」

「だね」

「だな」


 うわぁ。すごい。最精鋭の皆さんとは体育を一緒にしないのか…。かなりクラスあるはずなんだけどなぁ…。時間から合わないようにした?それとも、体育館に詰め込んだ?



「「前者」」


 なるほど。雨が降ったら僕らは体育館に移動する。それすら嫌だと。つまり…貸し切り!



「カイの前向きな考えが眩しいよ。タク…」

「お前が汚れてるんだ。諦めろ」


 ?汚れてる?習先輩は何をしようと思われたのだろう?



「気にしない方が幸せだぞ」


 真剣な目でこっちを見てくる拓也先輩。了解です!



「今更なのですけど、五教科は「受けなくていいよ」と先生方から皆さん言われているのに、体育、家庭科はダメなのですね?」


 皆さんなら「いいよ」って言われそうなものなのだけど。



「体育はうちだと「どうせ勉強ばっかで体ろくに動かさないんだろ?この時間ぐらいやっとけ」思考だからね。参加して規定単位取らなきゃ駄目なんだ」

「ま、いい気分転換になるから、文句は言わねぇよ」


 ありがたいです。体育までボッチとか死にます…。



「というか一人で出来る体育なんてそんなないだろ…」

「だね…。パッと出てくるの陸上か体操くらいだよ?メジャーな遊びはたいてい球技だし」


 確かに!延々走りまくる拷問とかはあんまりないっぽいですね!やったー!



「で、家庭科はどうなのです?」

「落差すげぇな」

「言っちゃだめだよ。家庭科も同じ。「勉強ばっかやってて、家事全然できないとか言わせねぇよ?この時間くらいやっとけ」思想。だから出る必要があるのさ」


 なるほど…とか言ってる間に先生来ちゃいましたね。



「みんなおはよう!僕は広幡(ひろはた)雷谷(らいや)!よろしく!」


 テンションたかぁい。低いよりいいけど…。始めて見る先生だ。



「もしかして、新任の先生ですか?」

「あぁ!元気だけは誰にも負けない!そんな気概でやっていくから、よろしく!」


 どおりで。先生はほどよく日に焼けた細マッチョなかっこいい人。見た目と口調が合わさりすごく元気な人に見える。



「で!今日は!バスケをしようと思う!正味、何でもいいんだけどね!パス練習から始める。ボールはここ。お手本を先生が見せるから、受ける相手に…えっと。ごめん。名前覚えてない。背の高い君!来て!」


 習先輩が指名された。



 お手本実演。…先生もうまいけれど、普通に先輩もうまいんだよね…。すごい。



「よし!じゃあ、二人組作って練習各自練習!」


 逃げられないうちに拓也先輩の服をキャッチ!逃がすものか…!



「落ち着け。どこにもいかないから、落ち着け!」

「無理です!」


 だって逃がしたら悲惨なことになるじゃないですか!



「男子って19人だったっけ?」

「ですよ」

「ありがとう、習!だから、一つ3人班作ってくれ!」


 先生と習先輩でやるわけではないんですね。じゃあ、習先輩も入ってもらって…。



「習!荒療治してもいいか?」

「俺、カイの保護者じゃないよー」

「りょーかい!賢人(けんと)!来てくれ!」


 ふぁっ!?えっ!?習先輩入れた三人か、二人でやらないのです!?



「ちょっとは交流関係広げとけ。特に賢人は勉強詰まったときに頼りに出来るぞ」

「え、え」


 で、でも…。急すぎません?



「放ってたら広げないだろ」


 ぐふっ。

 

 

「賢人はいい奴だから安心しろ。少し壊れてるけど、習よりはマシ」


 !?習先輩に対しての言い草がひどすぎる…。



「そうでもないんだな。真っ向から挨拶するのは初めましてだな。俺は『西光寺(さいこうじ)賢人(けんと)』。姉がいて紛らわしいから下の名前で呼んでくれ」


 心読まれたあげく、自己紹介をぶち込まれた!えっと、えっと、こういう時は落ち着いて…。は、はっ、はっ…。



「過呼吸になるなし。ほら、吸って吐け。よーしいい子だ」


 お、落ち着いてきました…。お世話おかけして申し訳ないです。



「すみません。『矢倉(やくら)櫂斗(かいと)』です。賢人先輩。よろしくお願いします」

「あぁ、よろしく」


 差し出した右手を取ってくださった。いい人だ!



「判定ガバガバだな。大丈夫なのか、こいつ?」

「わからん。とりあえず、やるぞ」

「あい」


 お手本を思い出しながらパス回し。お二人はかなり安定しているから失敗する様子がない。パス回しのボトルネックは明らかに僕だ。



 それでも、失敗はしないぞ…!



「荒療治なら、俺とも何か喋った方がいいのだろうが…」

「ふぇっ!?」


 あっ、ボールがすっ飛んだぁ!?



 拓也先輩が速攻で拾ってくださったぁ!?申し訳ない…。



「無理に話すよりかは、何か聞いてもらう方がよさげだな。櫂斗。何か質問ないか?」


 いい人だ。失敗しても気にかけてくださるいい人だ。



「えっと…、何でもいいです?」

「あぁ、構わない」


 やった!じゃ、じゃあ。気になるのですが…。



「何故、皆さん習先輩や清水先輩を立てているのです?」

「そう見えるか?」

「見えます」


 僕が最初に習先輩にベタっと引っ付いたから、習先輩が護ってくださったけれど…。別にそれをガン無視していってもよかったはず。僕は困るけど。



 だのに、先輩方は普通に従っておられた。



「なんでだと思う?」

「わからないから聞いているのです」


 質問で返さないでほしいです…。あ、あぁ、でも。



「魔法が関わっているとは微塵も思いません」


 習先輩たちが魔法を使って行動を誘導したとか、魔法が強すぎるから従ってるとか、そういうものだとは思いません。



「そうだぞ」

「だな。さすがにタクや俺の魔法は今は見せられないが…、そういうことではないぞ」


 では、何故です?まさかカリスマ性とか言いませんよね?



「そうだぞ?」


 !?あっ、ボールが…。今度は賢人先輩が普通に取ってくださった。



「僕から見たら皆さん、カリスマがあるのですが」

「かもな。事実、俺や姉…、西光寺(かおる)望月(もちづき)光太(こうた)天上院(てんじょういん)(しずく)は代議員だった。それなりにまとめた自信もある」


 すごぃ。自覚があるということはそれだけのことをしたってこと。やったと思っているだけだったら空しいけれど、先輩方なんだからそんなことはないはず。だから…、

 

 

 すごぉい…。あぁ、語彙力溶けてる。



「だけどな、習や清水さんには負けるんだよ。接したらわかる。あの二人の人を惹きつける力は天性のものだ」

「俺らがいいとこ国王でも、あいつらは皇帝だしなぁ…」


 拓也先輩。国王より皇帝の方が偉いという思考はダメですぜ!



「知っとるわ。一般的なイメージの話。中国の歴史絡めて王、皇帝の違いを話そうか?」

「長くなりそうなのでいいです…」


 気にはなるのですけれど。それより習先輩たちの方が気になります!



「ま、早い話、あいつらが一番、思考がぶっ飛んでんだよ」

「またそれですか?」

「それで片付くんだよ」


 頷きあう両先輩。僕だけ蚊帳の外だけど、ボールはくるくる僕らの間を回ってる。



「早い話、あいつらは切り捨てられるんだよ。優先順位の低い順に普通に切り捨てていく」

「いわゆる、統治者に必要な資質があると?」

「だな」


 だとしてもそれは統治者(・・・)ですよね?リーダーにはいいかもしれませんが、友人としては良くないのでは?いつ切り捨てられるかわかりませんし…。



「そこがあいつらのすごいところなんだよ。ある程度以上の付き合いがあれば。切り捨てる前にやれる手はすべて打つ。それでなお切り捨てられるならば仕方ない…そう思わせれるんだよ」

「色々あったせいか、当人らは全力でやっているし、傍からもそう見える。だのに、本当に大切なものを護れる余力は無自覚に残す…なんて芸当が出来るしな」

「賢人」


 ちょっと怖い目で拓也先輩が賢人先輩をにらみつける。



「わかってる。あいつらはあいつら。だろ?」


 賢人先輩は「わかってる」とばかりに頷きながら言う。蚊帳の外感ver2!



「習先輩たちの大切なものって何です?」

「そりゃ互いだよ」


 あれ?お子さんではないのですね。大抵の親はお子さんが一番。お二人も例に漏れないと思っていたのですけど。



「違う違う。あいつらは自分らが一番上だぞ。子供はその下だ」

「だが、習は清水さんが。清水さんは習がいないと、子供のが大事…になってたよな?」


 一瞬だけ心配そうな顔で拓也先輩に賢人先輩が問うたけど、拓也先輩が深く頷き、あからさまに賢人先輩が安堵する。



 夫婦の連れがいなければ子供の方が大事になる…ってことはそれって、



「お二人の素の自分の命のランクは低いけど、自分の大事な人が自分を大事にしてくれてるから、同じくらいに大事にしようっていう思考の産物ですか?」

「そうだぞ」


 ふぁー!どんだけあの人たち相手のこと好きなんですかね…。「爆発しろ!」と言いたいけど本当に爆発されると僕が困っちゃうから言えないジレンマ。



 こういう時は…、あれですね。「永久に幸せなまま爆死しろ」でいいや。



「たぶんなんも言わなくてもあいつらなら一緒にいそうだけどな…」

「だろうな。その分、どっちか死んだらもう片方も後を追うように死にそうなのだが…」

「あいつらなら死ぬなら同時だぜ」


 なんだかそんな気がしますね…。



「皆!次はシュートの練習!フォームを見せるから集まって!」


 ボールをゴールにシュート!超!エキサイティング!…とか言ってないでちゃんと見てなきゃね。



「とりあえずはレイアップシュートとかじゃなくて、ジャンプシュートね。立ってジャンプして、投げて、入れる」


 こっちを見ながらしゃべっておられるのに投げられたボールはポスっとゴールイン。すごいなぁ…。



「ゴールはめっちゃあるから、二人組ごとに一個使って!」


 了解です。ゴールが余ってるのは最精鋭の皆さんと体育を他のクラスがやらないせいだろうにゃあ…。



「投げる人固定して、一人がゴール下。もう一人が明後日の方向に行ったボール回収でいい?」

「構わない」

「僕もです」

「じゃあ、櫂斗からな」


 はーい。…って拓也先輩が回収してくださるんです?え。それって僕がすかったら、賢人先輩としばらく二人きり…って、さっそく失敗したぁ!



「取って食わないから。安心しろ。俺に質問…は厳しいか。勝手に話すから聞くか?」

「お願いします」


 拓也先輩が返ってきたけれど、先輩も「その方がいいだろ」って顔ですし。



「まず、俺は双子だ。で、俺は双子の姉の保護者ポジションだな」

「なお、あんまり聞かん模様」

「そうなんだよなぁ…」


 お、お疲れ様です…。



「一応、本当にやばいのは避けているみたいだけどな」

「一人実験は止めてくれよ…」


 一人実験が駄目なのは一人でやってると想定外のことにテンパって、しょうもないことで怪我する可能性があるから…でしたっけ?



「あぁ。だが、姉はその場合はやる。「一応」というのは、毒ガスが発生するような実験は一人ではしないってことでしかない」

「毒ガスが出るような実験だと、換気ミスってたら吸いすぎて倒れて、誰にも気づかれずに次の日。無事死亡があり得るからだぞ」

「後、単純に糞迷惑だ。部屋で済めばいいが、建物に毒ガスが充満しかねん。空気より重い気体なら「大丈夫ですか!?」って、しゃがんでくれた人まで吸って倒れうるぞ」


 大惨事ですやん…。



「だから一人でするなって言われるんだよ。ガスとか出なくても、機械が不調を起こした場合、すぐに修理すれば復帰できるのにその処置を知らないばかりに出来ずにおじゃん。とかあるからな」

「薫さんはその処置を知ってるから、起きないんだけど」


 うわぁ。



「交代するぞ」


 あい。ゴール下で待機。ゴールを通って落ちてくるボールを拾って、返す。それの繰り返し。投げ返すときに僕がミスしないかだけが懸念事項。



「姉の白髪は一人でやってた時に事故ってやらかした産物。だから、俺が言わなくても経験から学んでくれる気がするんだよな…。はぁ」

「安心しろ。薫さんはお前がいなきゃやってるよ」

「姉が鳥頭だと!?」


 賢人先輩が拓也先輩に噛みついた。賢人先輩って、シスコン?



「そうだぞ「あぁ!?」そっちじゃねぇ。いや、タイミング悪かったか。すまん。櫂斗の方。こいつら、シスコン、ブラコンだよ。だから薫さんも賢人の言うことをある程度聞くんだ」


 ?ということは…。



「薫先輩はもしも賢人先輩がいなければ、ガッチガチに対策して毒ガス出る実験一人でやるってことです?」

「イエス、イグザクトリー」


 えぇ…。明らかに話しぶりからして毒ガスばらまいて迷惑かけてるはずなのに…。



「だから賢人がストッパーとして期待されてるんだよ。てか、変わろうぜ。絶対入るわ」

「おう」


 あい。言い草が自信過剰な人っぽいのに、実際、全部入ってるんだよなぁ…。羨ましい。



 ほかの先輩方も常に入ってる。フォームを整えるくらいしかやることがない。魔法使ってないっぽいのに…。



 回収係になったけど、やることがない。賢人先輩も問答無用で全部ゴールに叩き込んでる。



「魔法は使ってないよ。使ったらこんなもんじゃなくなるし…。あぁ、いい機会だから見る?ついでに地雷コンビも把握できるし」


 ?確かに見せていただきたいですが授業中にやることではないのではないd



「先生!女子とドッチボールしていいですか!」


 すか?っていう前に聞いてる!?



「ん?いいよ!」


 いいの!?カリキュラムが…。



「あ!でも、向こうの先生に」

「いいわよ」

「らしいからいいよ」


 醍醐(だいご)先生!?



「矢倉君。本当はあんまりよくないのだけど、あたしが持ってる子は全員最精鋭だし…。なに教えるのよって感じなのよね。だから、いいのよ。楽して給料もらえるしぃ。面倒ごとはこの子らがなんとかしてくれるだろうしぃ」


 あれ?魔法のこと喋ってるのです?



「あぁ、何人かはな。広幡先生は知らないはずだが、自主性を重んじてくれるんだろ」


 なんか知らないけど高校にしては超珍しい男女混合体育が始まりそう。

お読みいただきありがとうございます。

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