89話 この間の事件のまとめ破
「最初の景気のいい話として、やっとこさ作ったでかい港を起点とした物流網が稼働し始めた」
「喫緊の課題でしたので、魔法を使ってでもごり押したんですがねぇ……」
いつもやっておられるのでは? 僕は訝しんだ。それはそれとして、喫緊の課題ですか。どういうことです?
「そうだよ?海洋国たる日本は外部からの輸入は船に頼らざるを得ない。そんな時、一気に運べるでかい船はかなり魅力的」
「ですが、あまりにも大きすぎる船は停泊できる港が限られてきます」
「だから、どこかの大きな港でちょっと小さい船に積み替えてまた運ぶってことをするんだけど…」
「こういう港をハブ港といいます。早い話、ハブ空港の港版だと考えていただければ」
あー。聞いたことありますね。東アジアのハブ空港として有名なのは仁川でしたっけ?
「そうそう。で、日本の港のハブってどこだと思う?」
「え。そりゃ、普通に考えれば日本の大きな港……神戸か横浜だと思うんですけれど」
話の流れ的に違いますよね? となると、きっと海外……中国の上海か、韓国の釜山。もしくは台湾のどっかでしょうか?
「です。お考えの通り釜山です。日本海側はおろか、瀬戸内海、岩手らへんのハブになってくれているそうですよ?」
「あの。確認ですが、日本って海洋国家でしたよね?」
「そうだよ。さっき言ったじゃん」
ですよね。……何で海洋物流の大本が海外にあるんですか!? まだ友好国だからいいですが、あそこいつ北にぼこされるか分かったもんじゃないでしょう!?
「だから喫緊の課題なんですよ」
「理由としてはすんごい簡単。さっき言ってた設備の問題。大きい船がそもそも入れない。一言で言うとインフラが悪い」
「また、港が24時間営業じゃないんですよね。大量の物流があるのに昼間だけじゃ捌ききれません」
なるほど。では、何でそんなしょぼいんですか。
「失政定期」
「ですね。全国津々浦々に港を!という政策はまぁ、理念としては良かったんでしょう。が、今は船が大型化しています。それに対応できないんです」
「そんで、景気が悪いから緊縮……お金を出さない政策をとりまくって、こういう投資をしなかった。そのツケだね」
うわぁ。うわぁ……。
「まぁ、頑張ってはいるんだろうけどね……」
「動き始めてはいます。が、致命的に動きが遅いんです。現状、障壁は日本を守ってはくれますが、ハブ港たる釜山は守れません」
あれ? あの。空港は……?
「そっちもやってるから大丈夫。空港は関空を大拡張させた。航路と被りかねないのがあれだけど」
「そもそも、地盤沈下してるんじゃありませんでしたっけ?」
「そこは抜かりありません。固めました。従業員も確保しました」
あっはい。魔法が強すぎて草も生えません。
「では、港は?」
「鹿児島県の志布志、愛知県の名古屋近辺、青森県の八戸だね」
名古屋はわかりますが……いっちゃあれですが、他は微妙ですね?
「できるだけ分散させたいからね」
「メインはハブとしての役割ですしね。別のところに運んでいくのであれば、近郊に超大都市は無くてもいいのです」
なるほ……ど? それだと鹿児島は兎も角、青森は微妙では。超大型船で来たとして、そこで分割して運ぶにしてもせいぜい、東北一円と北海道と、ロシアくらい? ……十分では?
「だね」
「人手はどうされたのです?人足りない人足りないって言われていますが」
お金で殴るにしてもそもそも人がいないのでは、どうしようもないでしょう?
「そ。そこが課題だった。普通に働く人を確保する分にはそれなりに給料を出せば来てくれるんだけど」
「来てくれますか?今のこの社会で」
名古屋は兎も角、志布志と八戸は日本の端っこもいいところ。過疎化が叫ばれまくってる中で、言っちゃあ悪いけれど多少、給料がいいくらいで人は来ませんよ?
「一応、7, 800万を出すことにしてるから来てはくれたよ」
「だいたいの単純作業はロボットに押し付けてるので、まだペイできます」
おっしゃっているからそうなんでしょうけれど……。初期導入費やら設備維持費やらをお忘れではありませんよね? しかも港とかいうロボット……というか金属製品全般にはくっそきつい湿度+塩害とかいうクソ環境。八戸では雪が、志布志と名古屋では台風がありますよ?
「うん。それでも、何とかできるようにはなってるから。積み下ろしとかは基本的に人工知能を積んだクレーンが自動的にやる予定だし」
人型ロボ! とかではないのですね。ならなんとか……なるのかな。なるのか。
「でも、それでしたらもっと早々に稼働できそうなものですが」
それこそ、資源地帯のように。
「ロボット使うとはいえ、そのロボットの点検やら万一ぶっ壊れたときに代替できる人の確保、肥大化待ったなしの航路管理……そんな専門職の確保に時間がかかったんだよね」
「それは資源も同じでは」
資源も掘るだけではないでしょう? 資源の精錬は化学つよつよな西光寺さんがいるから、どうとでもなったんでしょう。でも、その施設の運用やドローンの維持は明らかに専門職では。
「そ。その辺りの問題や土地の確保に手こずったのもある。あっちを優先したしね。でも、やっぱり一番は港だけの問題じゃないからだね。さっき、物流網って言ったでしょ?」
「あ。確かに」
おっしゃっていましたね。先ほどの話からして、港は動き始めればハブとして動けますが、物流網として動くのはきついですか。
「あ。お尋ねするの忘れてたんですけど、ドローン運輸も始められていましたよね?あれはまた別なんですか?」
既存の宅配業者をぶち殺す勢いでシェアを広げていますが。
「その一環ではあるね。大規模港を作ったから、まずは各地方の中枢に近い港を整備して、そこもその地方のハブにする」
「そして、港を作るほどじゃない。もしくは、内陸すぎる……そんなところに陸上のハブを作ります。足りていなかったのはこの港から陸上ハブへの運搬網です。ここは別の運送会社にお任せしてなお、足りませんでした」
足りませんでしたか。……まぁ、それもそうでしょうね。港から陸上のハブ……に運搬するなら使えるなら電車か大型トラックを使いたい。でも、電車なんて線路がいるからそうぽんぽんと使えるものじゃない。し、大型トラックドライバーはそもそも人が足りない。
……うん? 大型トラックドライバーさんですら人が足りないのに、船乗りさんって足りてるの?
「求人倍率的には足りてたし、もっと省力化を進めるから足りるはず」
「ですが、足りなくなっても困りますし、大型トラック運転手の資格も含めて、援助や昇給も行っています」
そこまでしてようやく、まともに動けるようになったと? いやでも、資格ってそんなすぐに取れるものじゃないでしょうに。
「そ。だから、既存会社の買収や、ブラック企業はぶっ潰して再雇用とかしたんだよ」
「してたんですか」
「してたよ」
マジですか。そんな動きはあんまり見られなかった……いや、なんか会社がつぶれまくってるってニュースはあったような。それに比例して鶴月グループ……習先輩たちがいいように使ってる望月先輩のグループが大きくなってる。とも。
「そこまでやると独占禁止法が絡んできそうですが」
お話を聞いている限り、国外から日本の巨大ハブ三港への運搬は別としても、それ以降はずっと噛んでますよね? 引っ掛かりそう。
「かもね。でも、そん時はそん時だね」
「言われたらさすがに何とかしますよ。…独占禁止法は言っていることはまともですから」
あ。するんですね。
「そりゃそうでしょ。少なくとも物流網の独占は良くない。しかも、根幹の。一応、鶴月海上輸送と鶴月陸運に分けて入るけど、こいつらが運賃10倍にしたら、スーパーの市場価格が明日から5倍とかになりかねないんだから」
圧倒的に不健全ですね。終わってると言って差し支えない。ですが、何故ここまで急がれたのです? 釜山が云々は巨大ハブ港の話でしかないでしょう?
「まぁ、2024年問題ってのがあったからね……」
「物流網が破綻するとは言われまくってましたから。その事前対策です」
「なるほどです。では、他に景気のいい話は何かないのです?」
「インフラの復旧に大量にお金をぶち込んだよ」
こっちは魔法でやらないんですね?
「やった」
「????」
それ、景気がいい話になるんですか……?
「しゃあないじゃん。今からお金をぶち込んでもそもそも動ける土木作業員さんたちがいないんだから」
「そして、インフラの交換は後回しにされがちかつ、日本の場合、戦後復興とともに一気にインフラを作ったので、どこもかしこも耐用年数が似たり寄ったりなんですよ。今は資源のおかげで景気が良くとも、一気にお金が出る……となると出し渋る可能性は十分にありますから」
??? 出し渋る……ってそれ、将来の話ですよね? 何で今の話なのに将来の話が出るんです? そして、魔法で修理されるのであれば、全部また同じような時に死にかけるのでは。
「あ。もしかして、過去を改変する「のはしないよ。てか、出来ない」……んですか」
「だよ。少なくとも俺らの世界では、過去改変しようと過去に介入した瞬間、世界線が改変失敗した世界と成功した世界に分岐する……らしい」
らしい。ですか。
「うん。やる気はないのに、なんかそんな感じのことを神様がおっしゃってた」
「ついでに、私たちが改変しようとすると、改変に成功した世界では私たちが消し飛ぶとも」
えぇ……。いや、でもそれってあれでは。習先輩達も神様クラスの力がある。だから、今の力を持つ習先輩たちは一人しか存在できない。というだけでは。自分VS自分とかいう戦いを防ぐために。
「まぁ、詳しいところは不明だね」
「ですか。では、どうされたのです?過去改変が出来ないのに、魔法で全部一気に直すと、耐用年数が同じタイミングで来ますよ?」
それが出来ないから魔法でなんとかしよう! ってお話だったのでは。
「過去改変は出来ませんが、別にいい感じに調整すればいいんですよ」
「いい感じ……です?」
「そ。修理度合いをいい感じに調整して、関連資料も同時に改ざんする。過去の資料の改変は出来ないけど、今の資料の改変は出来る」
「改ざんした資料に、「この資料は前からあった」と見た人に認識させる魔法をかけておけばなにも問題ありません」
力技じゃないですかーやだー。てか、記憶操作とか難しいんじゃなかったんですか?
「もとからあったと認識させるだけなので、大丈夫。性格改編や記憶改変じゃないし」
「なので、その分、記憶に齟齬を抱える人が出るかもですが」
「大丈夫の定義ッ!」
それは大丈夫って言わないんですよ!
「まぁ、齟齬が出た人がいればわかるようにはしてるから……」
そっちのほうがだるそうなんですが。やっておられるってことは、そうでもないんでしょうね……。
「ま、そういうわけで、インフラの復旧は出来たよ」
「後、他に景気のいい話は」
流れるように次に行ってくださった。僕が聞くってわかってたんでしょう。
「お金を投げてインフラ強靭化の継続かな?」
「資源開発した時点でやっておられませんでしたっけ?」
搬出とかにいる! って。……あれ? やっておられたっけ? ベルトコンベアかパイプラインで誤魔化して、人や物資を運べる道は出来てなかったような。
「自己解決止めてください」
「言ったら思い出しました!」
でも、あるあるだと思うんです!
「「それはそう」」
同意を得られた。大勝利。……誰にとは言わないお約束。
「さっきカイが考えてた通りだよ。人や物資は運べないから、運べる道を作ってる。これはお金をぶん投げて、鶴月土木とかに投げてる」
「土地の取得が必要な場合は、常識的な範囲内より上乗せしてお金でぶん殴ります」
「またお金で殴るんですか」
魔法と同じくらいの頻度で出てくるんですけど。お金で殴る。
「資本主義社会においてお金で殴るってのは一番、強いからねぇ……」
「別にルビを振ったっていいんですよ?お金を殴ると書いて、誠意を見せる。なんて」
ルビ振ってもやってることなんも変わらないんですよ。
「しゃぁないでしょ。「誠意を見せろよ誠意を!」って怒鳴るクレーマーの真意の10割は「満足するまで金寄越せ」だったりするんだから」
「お金で買えないものも、取り戻せないものもあります。が、大抵のものと交換できるって点ではお金は最強なんですよ。……貨幣経済が機能する限り」
物々交換でお金は意味ないですものね……。
「そういうこと。まぁ、そんな感じで必要な部分の道路を作ってる」
「例えば……奈良縦断高速ですかね。奈良市を通る縦断する高速はありませんから」
「京奈和道計画の一部ではあるんだけどね。完成はしてないからちゃっちゃか進めないと」
なるほどです。奈良の渋滞は有名ですもんね。そこなら利益は出そうです。
「渋滞解消は怪しいけどね」
「何しろ、渋滞の根本原因は名阪連絡ですから。少しでも安く、早く運びたい大型トラックが名阪国道終点の天理まで走って来まして、後は下道走るからですし」
あ。割とどうしようもない理由ー。
「他の道はどんな感じなんです?」
「基本的に日本列島改造論を骨子に全土に高速道路を敷かせようとしてる」
うん? てことは和歌山の南とか高知の南西とかですよね。絶対、その辺、採算とれなさそうですが。維持管理費もただじゃないんですよ!? でも、資源があるからワンチャン……?
「そ。資源があるからワンチャンある。し、人口自体を分散させたい。そうしようと思うと、やっぱり日本のどこからでもある程度の時間とお金でいい感じの大都市にいけるようにしとかないと」
「過疎化は止まりませんか」
「そ」
過疎化の大体の問題は人がいないこと。仕事場ねぇ! 遊び場ねぇ! そもそもお金あんまりねぇ! そんな問題の根源はだいたいそれ。
人がいなくて採算取れないところに前者二つがあるはずもなし。そして、人がいないから税金もとれるわけがない。
……山がちすぎて人が住めるまともな平野がねぇ! って自治体もありそうだけど。
まぁともかく、お金が無くて投資が出来ないから不便。不便だからますます人が来ないしいなくなる。なんだこの負の連鎖。
「でも、インフラ整えても、根本をなんとかしないとどうしようもないのでは?」
都市圏には人がいる。だけど、その人も少子高齢化で減っていく。そこをどうにかしないと。
「なら、次はそっちの話をしようか」
お願いしまーす。
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