86話 ニワトリさん
「これにて模試は終了です。お疲れさまでした」
終わった。ようやく記述模試が終わった。結構ごりっと体力削られてるけど、僕の行きたい菊桜大学は英数理に加えて国語まである上に、もっと時間長いんだよね……。耐えれるかな。
マーク模試も長いから、その経験で耐えれたりしないかなぁー。耐えれるといいなぁー。なお、テスト一個の時間は全然違う模様。やんなるね。
「お疲れ。カイ。出来はどう?」
「それなりですね。うん。それなりです」
全部解ききることは出来なかったけど、ほぼほぼ埋めれたはず。合ってるかどうかは知らない!
「なら、上々じゃない?」
「ですね。これから先、張河と名楽の大学対策模試も始まってきますので、本命はそちら感ありますが」
「そうなんですよねー」
本番の前に模試があるのはありがたい。けど、これより長いんですよねー。耐えねば。あ。
「聞くまでもないでしょうが、お二人はどうです?」
「大丈夫」
「同じくです」
「さすがです」
「うぃー。私もだぜぃ!」
「文もだよ!」
聞いてない二人がやってきた。先輩たちは普通に完答してそう。強い。
「一応、言っとくけど俺らと比べて出来ない……とかで病んじゃだめだよ?」
「そこは大丈夫です!ご心配なく。大学受験についてはもう一回入試をしたら半分入れ替わるなんて言葉を知っていますから。何回受験しようが絶対受かる先輩方と比べて落ち込んでる暇があったら、本番にそのたまたま受かった50%に入れるように頑張るまでです!」
「ならよかった」
敗北主義者っぽいけど、そんなの気にしてられません。主席になりたい! なんて望みもなければ、なれる気もしないし。一番大事なのは行きたいところに行けること。
「へい。しゅー。対策会議しよーぜぃ!」
「あ、そうだね。ごめん。カイ」
「了解です。先に帰りますね」
一緒に帰りません? って言おうと思ったけど、わらわら集まってこられた先輩と会議されるみたい。「ごめん」って言われたということは、僕がらみじゃない。
残念だけど、帰りましょ。自転車に乗って、晩御飯と朝ごはん買いに行くどー! 夏だからむしっとしててくそ暑い道をぎーこぎー……うん? あれ? こんな道を通ったっけ?
「通っていないかと」
え。何でこの声が……!? 慌てて周囲を見渡す。……ん?
「小鳥?」
「はい。カイさんの想像通り、森野習兄の妹、小鳥です」
「声の主じゃない」
「です。私も唐突にここに来たので、困っているんですが…」
「下ですよー」
あ。はい。声に従って目線を下におろすと、伊勢で見た鶏さんがいた。
「「お久しぶりです」」
「はい。お久しぶりです」
声からわかってたけど、この言葉でこの前の鶏さんだと確定した。してしまった。
「えぇと、何故にこうなっているのです?」
「お二人と私がここにいる理由ですか?それはあの人達から頼まれたからですね」
何で習先輩たちは鶏さんをぱしってるんですか!?!?
「外部世界が荒れていますからね。その対応に私達の代わりに行ってくれています。その対価と考えますと安いものですよ」
「それほどに危ないのですか?こちらも、習先輩たちも」
「こちらに関してはあちらがしっかりやれば無害です」
無害なら何故にここまでがっちり守ってくださってるんだろう。ここ、明らかに僕らのために特別に用意されたスペースのはず。
「それが対価ですから。彼らの親御さんも保護していますよ?手が届くのは日本国内だけなので、全員とはいきませんが」
あれ? 鶏さんはそうおっしゃいますが、この空間に親御さん達がおられませんが…。
「親御さんと面識ないでしょうから、分けています。親御さん同士はアークラインがやらかした際に面識がありますから、まとめていますが」
なるほど。気をつかっていただけたのか。ありがとうございます。
「いえいえ。外に関しては……私は相性が悪いのでしんどいですが、彼らならほぼ問題ないでしょう。少々時間はかかるでしょうが。のんびりしていってください」
お心遣いありがとうございます。
「相性というのは、権能の問題ですか?」
「ですね。小鳥の言う通りです。私、鶏さんはた」
「「おっしゃっていただかなくても存じていますとも」」
何故に自身のことを鶏さんとぼかしてくださっているのに、さらっと一撃でわかるようなことを言おうとされているんですか!? 天然さんなんですか!?
「ではないと思います。えぇと、せっかくですし、現状を説明しておきましょう。今、この世界の外では遠くの方で起きた戦争の余波が届きつつあります。この世界の外には別の世界……それも平行世界ではなく、完全な異世界。それがありまして、その異世界間には海のようなものがあるというのは知っておられますか?」
「はい。そんな感じだと聞いたことがあります」
「同じくです」
前提条件の確認をしてくださるのはありがたい。ここで食い違ってると後が壊滅するからね。
「で、その争いというのは互いにいがみ合っている世界が相手を滅ぼそうとする絶滅戦争です」
「何でそんなことになってるんですか」
「世界の構造が悪かったとしか言えませんね。異世界同士の距離が近すぎたのです」
えぇ……。それなら、離せばいいのでは? 海に浮いているようなものならば、距離は離せそうですが。
「そこに欠陥があったのです。普通、それは可能です。ですが、あそこは球と球がほとんど重なりあった構造をしているので、外れることもできないのです」
マジで欠陥ですやん……。
「です。そして、重なり合っているせいで互いに悪影響が出ます。双方の世界から重なってる部分を取り除きますと、もはや世界として成立しません。故に、自身の世界の存続を望むならば、「相手の世界を滅ぼしてこっちを存続させるしかないなぁ」となるわけで」
大戦争勃発と。……よくそんな環境で知的生命体が発展できましたね。
「発展はしていませんよ?……あぁ。察しました。戦争と言いましたが、人間VS人間ではありません。神と神の戦争です」
うわぁ。うわぁ……。
「そしてさらに悪いことに、その世界は欠陥を抱えているくせして、世界としてはかなり良質です。それこそ、私たちが属しているこの世界やアークライン程度には」
「それがどう関係してくるんです?」
予想は付きますが、それが合っているとは限らないので尋ねておこう。
「その世界の神が強くなります」
「大惨事不可避じゃないですか」
「ですです」
だから余波とはいえ習先輩たちが出張っておられるのか。やば。
「そうなります。来るのは世界を破壊せんとする衝撃波や怨念のようなものです。お二人に分かりやすくするとすれば……、津波と細菌兵器になりますかね?熱消毒が効かないタイプの」
やっぱりこの方、天然さんなのでは。権能の情報がするっと入って来てますよ!?
「失礼しました。ですが、問題ないでしょう?」
「ま、まぁ、それはそうですが」
しょっぱなのお声で誰かはもう察せておりますし。
「あの、質問なのですが。そんな大惨事が起きているのならば、周囲の異世界群は動かなかったのです?」
「よい質問です、小鳥。動きましたよ。ですが、いい具合の解決策が存在しなかったのです」
「別の世界を用意するとかは……」
「無理です。神は属している世界が滅びると滅びます。逆は常に正しいとは限りませんが、世界が滅ぶと神は滅ぶのです」
その世界がバグり散らかしてるのは世界がなんか知らないけど重なり合ってるから。その重なりを解除する方法がない以上、滅ぼすしかない。そして、世界が滅ぶと神が滅ぶ。うん、意味ないですね。
「現状維持は駄目だったのですか?」
「世界が荒れると神の側にも悪影響があります。あの世界ですと……慢性的な腹痛や頭痛、肩こりで済めばいい方でしょうね」
そりゃ、現状維持は選択できませんよね。一個でもしんどいのに、それがずっとなんて。
「です。故に他の異世界群に出来ることは被害を最小限にしておくことだけです。フルパワーで両方滅ぼすことも出来なくはないですが、採算が合いませんので」
「だから放置していたのですか」
「放置……とはまた違いますね。余波を受けにくいよう、海の流れを調整して流していました」
「それは全ての異世界群が、ですか?」
「ですね」
潰しに行くより海流の流れをいじるほうがつかれそう。絶対、色々と干渉してるだろうし。
「思っていらっしゃる通りですね。ですから、彼らが出る羽目になったわけですし」
ちょっと疲れたような鶏さんの声。えーと、つまりどういうことです?
「もともとすごく遠いところにありましたが、他の異世界群の圧力が強すぎて、この世界の近くまでその異世界が来ました。それでもまだ遠かったので普通の戦いの余波なら届きませんでした。が、その異世界が戦いで滅んだ余波が来ているので、対応する必要があります」
「「把握しました」」
だから唐突に習先輩たちが出ないといけなくなったわけですね。…そうなると津波っていう表現は正しいわけですね。遠くで起きた地震の津波が今、日本に来そうーという感じですか。
「彼らなら問題なく対応してくださるでしょう」
「今更ですが、異世界間スケールの問題に対応できるのですか?」
出来るからお任せしているのでしょうけど……、日本に結界を張ったのはとは、スケールが文字通り桁違い。そんなに魔法って強いものなのですか?
「魔法は世界による世界改変ですよ?出来ないことはありません」
「例外はないのですか?」
「例外は対価不足と拮抗のみですね。……魔法の仕様をお話しておきましょうか。彼らから聞いているでしょうが、それはあくまで彼ら目線の話。私から見た……鶏さんから見た魔法をお話ししましょう」
そこは鶏さんとぼかしてくださるんですね。
「魔法を扱うには対価……いわゆる、魔力が必要です。が、その魔力にも世界に伝わりやすさ……効率みたいなものがあります。魔法の扱いにはこの魔力の量──魔力量と、その伝導率──魔力効率が絡んできます。これらが、この人はこの魔法が得意で、あの人はあの魔法が得意といった得手不得手や強さに関係してきます」
それは初耳な気がします。
「そして、魔力量も魔力効率も鍛えることは可能です。が、人によっては魔力量も魔力効率も絶望的な人もいます。その人は魔法を扱えません」
「僕らが魔法を使えないのは魔法を扱う許可がないからだと聞きましたが……」
「彼らが気づいている、いないかは別としまして……、言葉を選ばずに言いますと魔力効率がゴミだからですね」
マジで言葉を選んでおられなくて草。
「では、許可が出たというのはどういうことなのです?」
「彼らが召喚された際に与えられた魔法の道具、シャイツァーが原因です。あれは道具の形をとりますが、本質は異なります。あれはあの世界の神の権能の一部です」
「あぁ、それで魔法を使えるようになったんですね」
神が魔法を使えないわけなし。権能を取り込んで、その部分の魔力効率が上昇したと。それを「許可が出た」と称されていたわけなんですね。
「そういうことです。シャイツァーによって使える魔法に偏りが出るのも権能によって特異不得意があるからです」
「ふと思ったのですが、昔の人は魔法が使えたのですよね?今の私たちが使えないのはなぜなのでしょう?」
「今でも人によっては使えるようですが……。魔法は便利である一方で、権力者たちにとっては不都合なものでもあります。何しろ距離があろうが素手で殺しに来れるんですから。その関係で、魔法が秘匿され、魔法があまり一般的でなくなりました。それが原因でしょう」
なるほどです。……うん?
「あの。魔法が世界の改変なのに、世界は改変を許容するのですか?」
「世界は基本的に対価さえもらえれば、改変を許容しますよ。例えその結果、世界が滅ぼうとも。そして、この世界の外もこの世界の外という世界です。魔法は対価さえあれば十全に発動しますとも」
??? え。待って……あぁ、小鳥も聞きたそう。
「同じことを聞こうとしているので、先にお答えしますね。「対価を貰っても滅んだらどうするんだ」ということですよね?確かに、皆さんの感覚では不思議ですか。ですが、矛盾はしないのですよ。世界にも滅びたくないという意思はもちろんあります。ですが、こちらが出す魔力量が莫大で、命令が効率よく伝わるなら世界は逆らえないというだけです。滅ばないようにあがけるならあがきますとも。今、この世界がしているように」
え。何かしてるんです? 僕らに一切、実感ないんですけども。
「世界はあるだけでエネルギーを生産しています。基本的にそれは無に帰るのですが、望ましいことをしてくれる人や、その世界の神に限っては、そのエネルギーを渡して補助をしますよ。それが神であるなら、例えどれだけ距離があろうとも」
いつもは勝手にゼロになるものを使っているだけだからこちらに影響しない。そういうことなんですね。
「そうなります」
「あの。鶏さん。その世界の補助って、普通の人間ならば限界射程ってどこまですか?」
微妙に小鳥の声が震えてる。どうかした……あ。あ。
「そうですね。普通の人間ならばその世界だけです。彼らならば、この世界と関係のある神の権能がありますのでそれなりに」
「習兄と四季義姉は……」
「そりゃあ、勿論、無限ですとも。お二人からお聞きしているかどうかは知りませんが、あの二人は権能というレベルではなく、神の魂が混じっています。そして、その世界の神の誕生にも関わった。ならば、紛れもなく神でしょう」
小鳥がうぼあぁ。って顔になってる。そうだよね。知らない間にお兄ちゃんが神様になってたらそうなるよね。てか、僕にしてみてもお世話になってた先輩が神様だったんだけど。
……気にしないでおこう。
「彼らのほとんどはシャイツァー持ちですので、世界の外でも多少の補助は受けれますね。唯一、違うのは礼子だけです」
「違うと何かルールが異なったりするのですか?」
先ほどの説明からして、おそらくないでしょうけど。
「推測通りですね。普通の人はシャイツァーによる効率の補助がないだけです。魔力量と魔力効率が重要というルールは変わりません。それは礼子も同様です」
「礼子もなのですか?」
「です。正確に言うならば、習、四季の身内補正で世界から多少の支援を受けられはしますが……、それだけです。いかに彼女がアークラインでは神獣と呼ばれていたとしても、それはあくまで「一般人からすれば神に見えるほど、魔力量と魔力効率が優れていた」にすぎないのです」
ですよね。なら、神様のほうが明らかに礼子ちゃんより優れているということですよね?
「そこは場合によります。神と言いましても全能神でなければ、全てを出来はしません。すなわち、全ての事象を最高効率で引き起こせません。魔力量なら明らかに高位神が勝りますが、魔力効率でいえば一部、礼子が勝るでしょう」
「あれ?高位神なのですか?」
「いくら何でも付喪神……物に憑いた小さな神には負けませんよ」
…確かに。失礼ですが、付喪神さんたちはファンタジー系列では弱めの神様として扱われますものね…。
「鶏さんから見てやべー人とかいますか?」
「そりゃあ勿論、習に四季ですね。伊達にアークラインの表と裏の最高神にして創造神の魂を取り込んでいません。かなりの効率であらゆる事象を引き起こそうと思えば起こせるのは、私から見てもやばいとしかいえませんね」
そこまでやばいのですか。あのお二人……。
「後、地味に愛理もやばいです。あの子は勇者の転生体かつ、権能を取り込む機会があったので他より取り込んでいる権能が多いというのもありますが……。何で本人が呪いだと認識して鎌を振るって魔力をちょい出すだけで、実体非実体の区別なく、鎌を振るうだけで切断、接合が出来るんですか。何故、パッシブで自身にかかる悪性状態異常を無効化できるんですか」
あの子も隠れてないけどやばい子でしたか。…でも、それくらいなら神様ならば普通にでき……あぁ、適用範囲が広すぎるのか。
「です」
「とおっしゃるわりには鶏さんも空間歪曲とかされていますよね?」
確かに。そういう権能はお持ちでないはずだけど…。
「そこは神の嗜みですよ。効率が悪かろうがごり押すのです」
聞かなきゃよかった。ごり押しなんですか…。
「残念ながら。おや、無事に終わったようですね」
おぉ。口ぶりからして被害もなさそうですね。
「そうなります。彼ら全員でうまく協力することで、最小限の消耗で済ませたようです。最大でもフルマラソンを走ったくらいでしょうか?」
走ったことないので辛さがわかりませんが、そんな酷い消耗ではなさそうですね。
「です。保護を終了して構わないという連絡が来ましたので、自宅へ直接お送りいたしますが、構いませんか?」
「「はい。構いません」」
「了解しました。では、お送りいたしますね。お疲れさまでした。また」
「「はい。また」」
あ。そうだ。
「小鳥も。またね」
「はい。また」
一瞬だけ、目を丸くしたけどちゃんと小鳥も挨拶を返してくれた。
と思ったら、光景が一瞬で切り替わって家に着いた……のはいいんですが、ここリビングなんですけど! 僕、靴脱いでないんですけど! てか、自転車も部屋にあるぅ!
あぁ! しかも買い物もまだだ! あぁでも、今からなら多分、もう遅い。諦めて掃除して、晩朝カップ麺コース。これしかない。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字そのほか何か、もし何かありましたらお知らせいただけますと嬉しいです。




