84話 白浜観光
たんまり食べてご馳走様。美味しいからってちょっと無理して食べすぎたかもしれない。ちょっとお腹が……。
いつものことだけど、愛理ちゃんはよく食べるなぁ……。僕が食べた分は勿論、それ以上の量を食べてるのにまだ食べてる。まだ追加購入したのは残ってるけど……、そこに礼子ちゃんや瑠奈が食べきれなかった分まで増えて、いけるのかな?
「さっきからこっちの網でも焼いてるけど、まだ食べれる?」
「…ん。余裕」
余裕らしい。そりゃそうよね。愛理ちゃんが自分のお腹の容量もわからずに無駄に追加で焼かせるとも思えないし。
「まだ焼いてるけど、次にどこに行くか決める?」
「…ん。そうして」
「アイリちゃんもこう言ってますし、そうしましょう」
了解です。えーと、白浜ですか。それなら、
「有名なのは『冒険世界』ですよね?遊園地やら水族館、動物園が複合してる上、パンダまでいるっていう」
「だね。後、一応、テーマパーク的なものには『白浜動力遊園』があるね」
「どこにあるのです?」
そちらは聞いたことがないんですけど。
「ここですね」
「ありがと、小鳥」
何で会話が始まったばっかりなのに両方の遊園地の地図を出せるんだろ。……まさか、読んでた?
まぁいいや。えっと、位置は……。海に近いな! でも、冒険遊園からは3 kしか離れてないのね。何で似た系統の観光地を密集させてるんだろ。観光名所が近いってのは戦略上いいけど、確実にお客さん食い合うでしょうに。
「その辺はわかりませんね。後は色んな名勝があります。熊野水軍の舟を置いてあった三段壁。波の浸食で独特の風景を呈する千畳敷。独特な島の形状で有名な円月島が有名ですかね」
「だね。後は……ちょっと戻れば紀州ユーロポートがあるし、山の方に行けば熊野古道。海沿いをちょっと行けば、串本マリンパークやホ・エールに熊野神宮や那智大社があるね」
ちょっと……ですか? あれ、ユーロポートはともかく、那智大社は尋常じゃなく遠いのでは。
「安心してください。カイさん。ユーロポートすら白浜から直線距離で50 k。串本も同じくらい。那智大社に至っては道沿いに100 kですから」
ちょっとの定義が乱れる! 50 kとなると車で1 hくらい。それはちょっとではないです。
「なんか皆の顔的に、この辺のがよさげだね。それなら遊園地的なの二つか、景勝地を巡ることになるけど……」
「景勝地にしときます?既に泳いでちょっと疲れてることを考えますと、色々やって遊ぶ系の遊園地は不向きでしょうし」
ですかね。今のところそこまで疲れは感じていませんが、後でどっと出てきそうですし。
「アタシはそれで構わないわよ。でも、ひとつだけ。千畳敷も円月島も、夕日が奇麗なところじゃなかったかしら。いくらテレポ出来るにしても、さすがに時間はどうにもならないわよ?」
「それはそうです。ですがまぁ、千畳敷はそれなりに広いそうです。見て歩けば時間も潰せるでしょう。先に三段壁か千畳敷に行って、後で円月島に行けばいいかなと」
「円月島は無人島で、乗れるような島でもないしね」
なるほどです。それなら、夕刻は円月島がよさげですね。みんなもそれでよさげ。
「どっちから先に行くかはその場のノリだけど……」
「三段壁からでいいのではないでしょうか。地下洞窟の見学は時間をかけすぎると邪魔ですし、上側は崖なので近づきすぎるとあれですし」
落ちると怖いですものね……。
______
買ったものを全て焼き切って、無事に愛理ちゃんもご馳走様。まさか食べきれるとは…。
「…ん。買ったのは腹八分目だから」
「お、おぅ」
あれでかー。あの量で腹八分目なのかー。それなら追加分あっても余裕だよねぇ…。
「さて、さっそく行く……といいたいところだけど、」
「せっかくですし、市場の中を見ていきましょうか」
あぁ、確かに。僕らは既に愛理ちゃんの付き添いで見てますけど、他の子は見てませんものね。
かるーく市場を巡回して、美味しいアイスを食べたら魔法で瞬間移動。ほんとに便利。今回のここの思い出は「これから食われる魚の大水槽」と美味しいアイスとバーベキューかな? 割と盛沢山。
いやまぁ、食べたばっかりで食指が動かないってのがあるんだけど。
それが終わったら三段壁へ。ここは……建物の裏手かな? 監視カメラを誤魔化せば済みそうなところね。
「さて、ここは岸壁にも近づけるんだけど……」
「柵がなくて危ないですから、ちゃんと柵がある展望台に行きましょう」
はーい。おー。めっちゃ海! って感じがする。さっきまで白良浜で泳いでたり、温泉で海を見たりしてたけど、この高さから見るとやっぱり違いますね!
それなりの高所から一切遮るものが無い海が見える。浜や温泉とは水平線の遠さが段違いで、ずーっと向こうまで海が広がってる。そして、陸地側を見れば切り立った崖。
ごつごつしてなんかかっこいい。けど、落ちたら絶対痛いよね。あれ。途中のでっぱりとかにぶつかるよ。
「なぁ、父ちゃん。危ないって言ってたのはあっちとかか?」
「そうそう。普通に行けるんだけどね」
ですね。普通に人影があるような気がしますし。
「足を滑らせて落ちるリスクがあるもの。こっからでも下は見れるし、それでいいでしょ?」
「だな」
十分、景色は楽しめますものね。それで死ぬのは嫌ですし。まぁ、僕と小鳥以外は落ちたところでどうとでもなるんだけど。
「ところで愛理ちゃん。何で微妙な顔してるの?」
「…ん。対策されたとはいえ、名所」
……? よくわかってないと察したのか、愛理ちゃんはどこかを指さした。その先には「いのちの電話」と書いている電話機がある。
そっか。こんだけ高ければ飛び込みをするために来る人もいるかぁ。
「…そういうこと。悪霊は兎も角、そうでもない霊はどう扱ったものかと思って」
「なるほどね」
僕に霊感はあんましないからわかんないけど、愛理ちゃんだと見えるかぁ。
「…監視カメラとか、いのちの電話とか、置いて数は減ったらしいけどね」
それでも0にはならないか。…まぁ、リソースは有限だものね。
「そういや習兄、四季義姉。なんか恋人の聖地がここにあるらしいけど、行く?」
「行こうか」
「ですね」
よくわかんないですけど、ついてきます。展望台からちょっとだけ戻るとハートのモニュメントが置いてある。なんかいかにもって感じ。
「鍵がつけられるし、溜まってくると外して神社に奉納してくれるらしいよ」
「ありがと。小鳥。なら、つける?迷惑にならなそうだし」
「ですね。ガロウ君とレイコちゃんも付けますか?」
唐突に話を振られた二人は「うぇっ!?」なんて可愛らしい声を漏らした。けど、顔を見合わせ、礼子ちゃんが無言のままこくっと頷くと、牙狼もこくっと頷いて、「やる」って言った。
ほんとーに初々しいなこの二人。いちゃいちゃしなれてないってのが、よくわかる。
せっかくだしと、ペアになって一つずつ購入。習先輩たちは並んで即座にえいやっと鍵を付けた。早い。なんか感慨もへったくれもないけど、それが逆に「既に最後まで一緒って決めてる」感を強めてる。
牙狼と礼子ちゃんは恥ずかしがりながらも、しっかりとした手つきで鍵をかけた。ずっと一緒にいれるといいね。
「さて、では次は下に行きましょうか」
はーい。入場料1500円を払ってもらって、いざエレベーター。風情もくそもないけど、ある方が楽。
順路があるらしいから従って移動。なんか不思議な天井の模様を見たら、展望台から外を見る。
やっぱり、上から見るのとは全然、印象が違う。岩壁に開いた穴で、沖からくる波がぎゅっと縮まるからか、波が高い。そして、前方に広がる海はそこまで広くなくて、本当に真正面に立たないと見つけらないだろうなぁとういう印象。ほんと、隠れ場だ。
弁財天さんがいるところで「がんばるので合格できますよーに」とお願い。一応、ここも恋愛関係のお願いが出来るようにはなっていたけど、さすがに学生だからみんな学業祈願。そこを越えたら、熊野水軍の生活場? を再現したところを見る。
そして、洞窟の最奥で高くなった波が崩壊するところへ。海が荒れていないのに、洞窟の最奥だから迫力も音もかなりのもの。これ、大荒れの時とかどうなるんだろね。
そして最後に潮吹き岩。これは……お、水がぶしゅーって出てきた。起きてる現象自体は水が海水ということ以外は噴水でも見れるもの。だけど、これが自然に起きてて、かつ、こんな岩だらけの場所ってところが、なんか特別感がある。
「というか、特別なんですよね。書いてますけど、奇麗に出てくれるのはまれらしいですよ?運がいいです」
ほんとに運がよかったんでしょうか。清水先輩とかが何かされたんじゃ……。きっと、答えてくれないでしょうけど。
これで1周。エレベーターで上がって見学終了。僕は鍾乳洞に入ったことがあるけど、当然だけど、受ける印象が全然違うね。
鍾乳洞はどっちかというと地下水なんかが染み出てじわじわと形成されていったもの。だけど、ここはじわじわ形成されているのは同じだけど、波っていう激しいものにさらされてできた場所。壁や天井のあちこちにその荒々しい残痕や波模様が見られた。
「さて、次は千畳敷に行きますよー」
はーい。割と近いけれど、いつも通りテレポート。おー! 今度は断崖絶壁じゃなくて、なんか平たい岩がずらーっと並んでる! でも、まっ平じゃなくて、あちこち凸凹してる。
「三段壁からは1 kも離れてないはずなのですが……」
「マジで?小鳥。すごいね……」
そんな距離でこんなに風景の違う、海岸の景勝地があるのってやばくない?
「千畳敷は三段壁と違って、展示されているような場所はありません」
「だから、入場料がいるようなところもなし。適当に見て回ってくれていいよ。興味のある所に行こう」
はーい。気になるところと言えば……凸凹の部分かな。どうなってるんだろ。
滑らないように、落ちないように気を付けながら正面へ。特に地層にめっちゃ興味がある! ってわけではないけど……。なんかすごいってのはわかる。写真とかで見て知ってたけど、本当に層になってるんだね。地層。
「だねー!」
「…ん」
「あ、愛理ちゃんと華蓮ちゃんも来たのね」
「アタシもいるわよ」
あ、ごめん。瑞樹ちゃん。…なんかこの三人が集まるのって珍しいような。
「…そうでもない」
「ねー」
「わね」
そうなのね。……もしかして、僕がいない時も含んでる? まぁ、いいけどさ。
「一緒に来る?」
三人とも頷いた。瑞樹ちゃんは兎も角、二人はこっちでいいの? ……いや、いいから来てるのね。
習先輩は清水先輩、瑠奈ちゃんと一緒。牙狼、礼子ちゃんは幸樹に小鳥と一緒。瑠奈ちゃんは兎も角、後者も後者で珍しい。
「適当に散ることもあるさー。ねー。海のそばいこー!」
「了解」
華蓮ちゃんに誘われて海へ近づく。海から遠いところは濡れてなかったけど、近づくにつれて濡れて滑りやすくなる。そして、岩の色も砂岩の茶色から、濡れて灰色に変わっていく。
そして、ところどころに潮が引いたせいで海と切り離された水溜まりが出来てる。たまーに貝とか魚が取り残されていて、磯遊び的なことも出来るのね。ここ。
「おねーちゃん!魚捕まえたー!」
「…ん。でも、わざわざ海に手を突っ込んで取らない。…子供が真似する」
「確かにー!」
さすが華蓮ちゃん。水たまりじゃなくて、マジで海からとったのね。手で。なぁにやってんのさ。
「瑠奈ちゃんと一緒にいるときにそんなことしてないよね?」
「するわけないよー!」
華蓮ちゃんはぷんすかって音が出てそうな感じで頬を膨らませる。じゃあ何でしたし……って、愛理ちゃんがいるからか。おねーちゃんがいるから羽目外してもいっか! みたいな。
となると、瑞樹ちゃんも……?
「しないわよ。アタシは。アタシは同行者によって性格変わらないわよ」
「うそー。おとーさんとおかーさんといるときはー?」
「変わってないはずだけど……。え。カレンお姉さまがそういうってことはそうなの?」
そうなんじゃないかな。多少、甘えるとかそういう感じだろうけど。
「どっちでもいーよー。ミズキはミズキだしー。それよか、せっかくだし、色々いこー!」
「だね」
るんるんと進んでいく華蓮ちゃんに連れられて海沿いをぐるっと。ほんとにどこもかしこも段々の部分、層になってるねぇ。見ごたえがすごいや。ただ……ところどころに落書きがある。
橋の下とかシャッターでたまに見るスプレーじゃなくて、直接、岩を削ってる感じの。直せないのかな、これ。
「…魔法を使って復元できる。…でも、したところで意識が変わらないとまたされるから、しないらしい」
「対症療法にしかならないかぁ。でも、割れ窓理論だったか、割れてる窓があると治安が悪いからハードル下がる……なんてのもあったよね?それをなくすってのはありじゃないの?」
「落書きが消え去った理由が説明できないでしょうに」
それもそっか。魔法でやりました! なんて、胡散臭すぎるものね。
「あ。それなら魔法による強引な意識改革は?」
「いつも似たよーなこと言ってるけどー。何が駄目でー、何がおっけーかの線引きはどーするのさ」
「確かに」
一口に落書きと言ってもここみたいな論外なものもあれば、暇だからするようなもの、ちゃんと持ち主に許可とってアートとしてやるようなものもある。「落書き禁止」とだけいうとそれら全部を封じてしまう。
「文化財への」なんて枕詞も無意味。文化財修復に必要な一時的な書き込みだって、人によっては落書き。だからすんごい魔法ゴリ押しはめんどくさいわけだ。
「ていうかこれ、どこまで続いてるの?」
千畳敷と三段壁は距離にして1kも離れてない。このまま行ったら三段壁に行くのでは?
「三段壁と千畳敷が明確に区切られてる以上、どっかに区切りはあるわよ」
「ね。カイさん。千畳敷はこんな感じの砂岩でできていて、三段壁は見た目からしてThe 岩なんですよ?」
それもそっか。どっかでぐちゃって砂岩だけの層が消えるか。砂岩ってことは、もともと海底だったんだろうしね。
そも三段壁ほどこっちごつごつしてない。とはいえ、皆無ということはなく。なんかロッククライミングができそうなくらいに切り立った部分もあるもんね。
そして、そういうところが一番、どんだけ年数重ねればこうなるんだろみたいな光景が見れる。
ある程度見回ったら、飽きてきたのか勝手に全員が最初の場所に集合。まだ日没まで時間はあるけれど……。
「日没ギリギリに行って場所取り大会にボロ負けするのも馬鹿らしいし、今から行くよ」
はーい。さて、最後のところはどんなところなんだろうか。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字そのほか色々、もし何かありましたらお知らせいただけますと嬉しいです。




