82話 温泉
買ってもらったかき氷をぱくぱく。ただの氷のシロップ掛けなのに、なんでこんなにおいしいんだろう。
習先輩と清水先輩は早くも互いに「あーん」して食べさせあってる。全く顔を赤くせず、流れるような動作なのが普段からやり慣れてる感がある。ほんと、仲がいいんですねぇ。
って思ってたら習先輩がちょっとわたわた。でも、清水先輩の耳元で何かを言うと、明らかに清水先輩は恥ずかしそうに頷いた。何やってんだろ。お二人。
「説明してあげるわ」
「瑞樹ちゃん。他のみんなとの絡みはいいの?」
「増えたからへーきよ」
「さいで」
いつものパワーワード。確かに、いつの間にか全く同じ見た目の瑞樹ちゃんが増えてるけどさ。どう誤魔化すんだろ。双子でごり押すのかな?
「えぇ。二人の内容は単純よ。単にお父さまからかき氷を貰ったお母さまが、珍しくスプーンにカプっとかぶりついたのよ。それを見て、目を丸くしてるお父さまに向かってスプーンを口から出しながら挑発的にぺろって舌を出して笑ったのよ。で、それを見たお父さまが……以下、察して」
「了解」
今夜云々とかそういうやつだ! そりゃ言葉を濁すよね。愛理ちゃんならドストレートに最後まで言い切りそうだけど。てか、愛理ちゃんはお父さんとお母さんのそういうのもっと頂戴! っていうかなり稀有なメンタルしてるけど、瑞樹ちゃんや他の子はどうなんだろ。
「確かに、アイリ姉さまなら言いそうね。遠慮する可能性もあるけど。後者に関しては、アタシは別にどっちでも。もちろん、仲が悪いよりは良いほうがよくはあるけれど……。前世、いきなり断たれた家族との時間よ?それが続いてくれれば嬉しいわ。コウキも似たようなもんでしょうね」
理由が重い。
「カレン姉さまはもっと頂戴派ね。愛の力を使って孵ったらしいから。ルナ姉さまは多分わかってない。けど、分かってないからこそ純粋に、仲がいいのを喜ぶでしょうね。レイコ姉さまは中立寄りの頂戴派。ガロウ兄さまだけじゃないかしら。よそでやれってのは」
「よそだと多数派になりそうなほうが少数なんだねぇ」
「わねぇ」
いかにも習先輩の家族らしい。
そんな仲のいい習先輩達はお子さんたちとかき氷をシェアしてる。
「真横の瑞樹ちゃんはかき氷シェアに参加しないでいいの?」
「あっちが食べてるからいいわよ。共有してるもの。他で何も食べてないから、純粋に味わえるわ」
あ。やっぱりそうなのね。感覚を共有してるって言ってたから、味覚もかな? と思ってたけど、案の定なのね。
「味覚を共有しないとかはできないの?」
「出来ないわけでもないけれど、難しいわね」
出来ないわけではないのね。でも、言い方的にはかなーり難しそうね。
唯一、牙狼と礼子ちゃんは参加してないね。二人で一緒にいるから周りの流れに気づいてない。逆に周りはなんかいい感じ? の雰囲気になっているのに気づいてるから割り込みにいかないという。
んー。相変わらず初々しい。礼子ちゃんよりも牙狼のほうが意識してるんだよね。かといって、礼子ちゃんが意識してないというわけもなく。ちらちらと互いに見てる。けど、声掛けできないっていう。
「初々しいですねぇ」
「だねぇ…」
すっと横に来た小鳥と一緒に並んでかき氷を食べる。食べきるよりも先に融けるよ?
「それはそうと、小鳥は何でこっちに来たの?」
さっきまで一緒に向こうで食べてたよね?
「瑞樹がいるとはいえ、こういう場面ですと、カイさんが放置されるんじゃないかなと思いまして」
「なるほど。気を使ってくれてありがと」
別に一人でも大丈夫だけど、多少、疎外感はあるからね。相手してくれるだけありがたいよ、ほんと。
「あ。苺味のかき氷食べます?」
「ん?いいの?でも、あっちでブルーハワイは食べてるよね?」
微妙に清水先輩が嫉妬深いとはいえ、小鳥は習先輩の妹だし。
「ですね。でも、それはそれ。です。買いに行ってくれたお返しだと思ってください」
「そ、ありがと。なら、ありがたく」
「いえいえ。では、上を向いてください。落とすので」
「了解」
スプーンは人数分しか持ってきてないしね。致し方なし。
「さすがに目の方からスプーンを出すと落とした時にあれなので、顎側から行きますねー。この位置で……うん、よさそう。じゃー、カウントダウンしますねー。喉の奥直撃だけは気合で避けてください」
「うぃ。落としたら即スプーンどけてね」
「はーい」
これでもムリゲーな気がするけど、まぁ、頑張る。
「3ー、2ー、1―、0ー!」
舌で氷が感じられた瞬間、口を閉じて顔を起こぶべっ。やっぱりスプーンにぶつかった! し、微妙に喉の奥に流れちゃって冷たぁい!
「えっ、うえっ、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。そっちこそ、大丈夫?」
スプーンがすっ飛んだり、なんか指を痛めたりしてない?
「大丈夫です」
スプーンを持ち替えて、さっきまでスプーンを握っていた右手でぐーぱーして、わかりやすく無事を見せてくれる。
「そ、よかった」
「はい。ところで、氷は味わえましたか?」
「うん」
かき氷で苺と言えばこれ! っていうド定番の味。
「ならよかったです。まだ要りますか?」
「ううん。いらない。ありがとね」
自分の分もあるし。いっぱい食べるとお腹が冷えちゃう。
「さっきも聞いたけど、僕のも食べる?」
「習兄に貰ってますし……とはいうものの、2回も誘ってくださってますし、いただきましょう。えーと……あぁ、そんなに量は要らないのでこうしましょう。スプーンの逆側突っ込んでもいいです?」
「どうぞー」
賢いなぁ、さっきまで海に入ってたし、なんだったらトイレも行ってるしで、手は奇麗。日焼け止めクリームとか砂とか心配しなくていいもんね。ベストだわ。一回で取れる量は少ないけれど。
「シロップ割と掛かっててまだ手を付けてないとこらへんからおとり」
「そうしまーす」
よし、無事に取れて、食べれたね。
「うん、美味しいですね。かき氷でみぞれと並んで誰だお前って定番の味がします」
「みぞれはほぼ砂糖シロップ定期」
「じゃあ、ブルーハワイってなんでしたっけ?」
……なんだったっけ? ググろう。
「えぇ…教えてあげるわ。ブルーハワイは青を基調としているシロップよ。味の定義はないらしいわ。サイダーやラムネっていう青っぽい飲料だけじゃなくて、モモとかのフルーツのこともあるみたい」
「「定番じゃないじゃん」」
「わね」
存在が定番なだけで味は変わることあるのね。
「ちなみに青は青色一号から来てるみたいね」
「やっぱり?」
なんかの着色料だよね、そりゃ。じゃないとこんな奇麗に色付かないもん。
「後、とてつもなく無粋なことを言っとくと、かき氷シロップの原材料は砂糖orブドウ糖と着色料と香料よ。臭いで味を感じてるのね」
「らしいね」
「ね」
そっちはどこかで聞いたことあるけど、不思議だよねー。いかに人間の感覚がいい加減なのかよくわかる。いや、この場合は精度がいいのかな? 匂いだけで味を再現できるんだから。
…じゃあ、苺とかを食べたことのない人にかき氷を食べさせたら何味になるんだろう。説明できないだけで苺シロップなら苺になるのかな。
「どうなんでしょうね」
「わかんないわね」
「だよねー」
とか話してたら完食。さて、次は何をしよう。また泳ぎに行ってもいいけれど……、習先輩たちがどうされるか次第かな。
「さて、習君。まだまだ海で遊べはしますが、どうします?」
「海の家でご飯はあんまり食べたかないし、ちょい早いけど上がって、温泉でも入る?午後の予定はそっから決めない?」
「私はそれで構いません。みんなは…」
僕はお二人がそれでいいのでしたらそれで。
「よさそうですね」
「だね。じゃ、かき氷を食べた子から撤収準備進めてこー。ゴミは一か所に集めといて」
はーい。設置したものをさっさと片付けていく。ほんと、片付けの時に胸に来るこの寂寥感はどうにかならないのかな。
「それじゃ温泉に行こうか」
「ホテルではなくて、有名なところに行きたいと思うので、少し歩きます」
了解です。海岸沿いは海水浴客で混んでいるから、途中で堤防を越えて道を進む。当然、道は車が通るから少し怖い。
…家族でこういうところに来ると、横に並んで道を塞ぎがちだけど、習先輩たちはその辺、気を使っておられるのかMaxで3人。3人でも十分、邪魔にはなる。でも、察知能力が高いからか、後ろから人が来ても邪魔になる前に端に寄ってる。
そんなところで格の違いを見せられても。
「ねぇ、あれ?」
「は、違いますね。足湯です」
「浜の中にも温泉はあるらしいけど、目的地はそこじゃないよ。まだもうちょっと南」
結構、歩きますね…。宿が白良浜の北端だとすると、今の位置は浜の南端。それでもまだ行くのですね…。
ちっちゃいトンネルを無視して、漁港っぽいところを通り過ぎて、浜の端から端と同じくらいの距離を歩いてようやく到着。さすがに遠い…。
「…ねぇ、何でわざわざここまで来たの?」
「ここがすごく有名だからだね。詳しくは中に入ってから!」
「すぐに説明できる理由としては由緒正しい。というのがありますね。そこの看板にもあるように、ここの温泉は奈良時代からあります。そして、有名であるがゆえに、時の天皇陛下が入られたことがあるそうです」
わざわざ入りに来られたのですね。平城京なのか、平安京なのか知りませんが、どっちからでも遠いでしょうに。
「まぁ、湯治でしょうね。来られる理由としては。とにかく、入りましょう」
はーい。受付で入湯料500円を払って、タオルを買ってそそくさと脱いで準備完了。
「なんか男子だけで集まるの久しぶりな気がするな」
「かもね」
それなりに集まってる気はしないでもない。けど、習先輩は清水先輩。牙狼は礼子ちゃんといることが多いからねぇ。
「じゃー、行こうか」
がらっと浴場と脱衣所を隔てる扉を開くと、目の前は海。視界の上半分を青い空と海が占め、もう半分を温泉が占めてる。…ここ、温泉が海に突き出してるのね。
「言葉を失うってのはこういうことを言うのかな?」
「だね、コウキ。なんていうか言葉にし難い奇麗さがあるよね」
ですねぇ。
「さて、ここにいると邪魔になるし、さっさと入ろうね」
「シャンプーとかはないのです?」
「ここの排水、どうあがいても直接、海に流れるからね」
把握しました。環境汚染対策ですか。なら仕方ないですね。
「足元悪いから気を付けろよー。特にカイさん」
「わかってる。でも、ありがと」
足元は露天風呂にありがちな岩場。温泉は2層に別れていて、奥の方は海ぎりぎり。そこまで行こうと思うと、ちょっと足元に注意がいるね。
「せっかくだし、向こうまで行くよね?今日は行けるみたいだし」
「日によって行けないとかあるんです?」
「海が荒れてると無理らしいね。波が思いっきり入ってくるから」
なるほど。そういうこともあるんですね。…こんなにも海が近いなら納得ですが。
「行きましょ。せっかくですし」
「だよね。よかった」
心なしかテンションが上がっておられる習先輩を先頭に奥へ。そして、お湯の中へ。
んー、あったかい! そして、海が近い! お湯すれすれに顔が来るように姿勢を調整すると、お湯面? がほぼ海面に一致してるように見える!
「やばいですね」
「でしょ?この光景が最大の理由。海にせり出す天然の岩風呂。他では見れない! って感じがいいでしょ?まぁ、俺も初めてなんだけど」
ほんと、いいですねぇ…。まだ時間も早いからか他にお客さんもいなくてよき。そこまで広いわけでもないしね。
目の前が海なんだから、汽笛を鳴らして走る船までの視線を遮るものもあるはずもなく。同様に、潮の匂いも、波の音も何物にも遮られずに届く。そんな海を象徴するものがお湯に入りながら楽しめる。なんて贅沢なんだろう。
僕らの間に会話はない。でも、たっぷりとこの風景と温泉を満喫していて、退屈ということはない。のだけど、温泉は温泉。いつまでも入っていたくてもさすがにのぼせてきたから離脱。僕と同タイミングで男子組はお風呂から出て、女性陣待機。
「そういや父ちゃん。風呂から塔みたいなの見えたが、あれって何だ?」
「あれ?あれは……調べた感じ、ホテルの海中展望塔みたいだね」
「ほえー……うん?てことはあれ、使われてるのか?」
「そうみたいだよ。てか、人いたでしょ?」
「…てことは見えるんじゃね?」
…確かに。こっちから人影が見えたってことは、向こうからも見えるよね。
「だろうね。でもまぁ、そこまではっきりと認識できないから大丈夫でしょ。それに、お風呂の位置関係からして男性用はともかく、女性用は見えないでしょ」
思ったより理性的な反応。あそこにいたかもしれない人の記憶全部消し飛ばさなきゃ。ってなるかと思っていましたのに。
「俺をどんな人だと思ってるの、カイ…」
「清水先輩が大好きな人です」
口には出しませんが、好きすぎて独り占めしたいと思ってる人だとも思ってます。
「おぉう……、ま、その辺は帰ってきたら四季に聞けばいいよね」
「ですね」
さらに待つことしばし、女性陣が帰還。さっきまで水着っていうもっと刺激的な姿を見てた。だのに、ちゃんとした服を着てるのに、刺激的に思えてしまうのはなんでなんだろう。湯上りの魔力かな。
「四季、そっちのお風呂はどうだった?」
「入口から、木でできた小さいお風呂、小さい岩風呂、海すれすれの岩風呂でした」
「そっちから塔は見えた?」
「?見えませんでしたね」
あ。やっぱりそうですよね。その対策はちゃんとしてますよね。
「カイさん。塔がどうしたのです?」
何で小鳥は座る僕の顔の横に顔を持ってくるのさ。石鹸の匂いはしないけれど、なんか甘いような柔らかいにおいがするんだけど!?
「気分です」
「さいで」
なんかからかわれてる? まぁ、いいか。
「塔は外からお風呂が見えないかの確認」
「なるほど。気になりますよね」
「そ」
記憶を飛ばすべきかどうかの判断基準として重要だからね。
「さて、お風呂も入ったし、ご飯食べに行くよー」
「はーい」
とは言ったものの、どこで何を食べるんだろ。
お読みいただきありがとうございます。
誤字、脱字、その他、もし何かあればお気軽にお知らせくださいませ。




