80話 海
日焼け止めは自分でちゃっちゃと塗って準備完了。自分じゃ塗れないところは習先輩に助けていただいた。
女子は女子、男子は男子と別れるかと思ったけど、そんなことはなかった。
僕が自分で背中以外を塗っている間に、習先輩と清水先輩はさっさと塗り終わられてた。お二人とも恥ずかしがるなんてことはなく、慣れてるって感じがほんと……なんていうか、いい。
幸樹と瑞樹ちゃんも互いに背中に塗ってた。前世から兄妹だったからか、手つきに優しさがあった習先輩達と違ってめっちゃ淡泊。
そんな二組の流れを受けて、牙狼と礼子ちゃんもペアに。でも……うん、まだやってるね。超初々しい恋人だわ。
でも、礼子ちゃんのほうが少し積極的かな? 「ほら、やってください」って牙狼を引っ張ってる。
お。牙狼、腹くくった。日焼け止めを手に広げ、背中に手を触れた。……ちょっとロード入って、「ガロウ?」って声かけられてるね。うーん、ありがち。「おぉ、柔こいなぁ」とか思ってたんだろうなぁ。
「何で眺めてんですか。愛理ですか?」
「何故に愛理ちゃん?」
「…失敬な。わたしはお父さんとお母さんだけ」
「察した」
愛理ちゃんは習先輩と清水先輩が仲いいのを見るのが好きだったね。で、僕は小鳥にその延長って思われたと。
「質問に答えておくと、ああいうのって見たくならない?完全に純度百パーセント、ガッチガチに他人でも邪魔でさえなければほっこりするでしょ?」
「理解できるような出来ないような。微妙なとこです」
「…小鳥姉はお父さんとお母さんのをよく見てるからじゃない?」
「あぁ。なるほど。身内のがよく見るから、その辺の感性が逝かれてるのか」
ぽんっと手を打つ小鳥。残念ながら、僕にはその辺はわからないんだよね。一人っ子だし。
そんなこと言ってたら礼子ちゃんの番。礼子ちゃんも牙狼と同じくちょっとだけ固まったけど、立ち直りが早かったからか、牙狼に変に思われなかったみたい。
あの二人は礼子ちゃんのが慣れてる感じがあるなぁ。
「…ん。まぁ、色々あったからね。その関係でレイコはガロウに触れたり、恋心的なものを消化したりする機会は多かったはず」
「なるほどねぇ」
あ。終わったみたいね。そして、見ている間に他のみんなも塗り終わり。
「水中眼鏡やシュノーケルは全員分置いてあるので、使いたければどうぞ」
「浮き輪はそんな数ないんだけど…。あ、カイって浮き輪使いたいタイプの人?」
「いらないですね」
「了解」
休憩する分には楽になるけど、正直、動きを阻害されるから邪魔になるんですよね…。
「じゃあ、一応、準備体操くらいはしとこうか」
「ですね」
はーい。慣れ親しんだラジオ体操第一を一通り。多分、ここまでがっつり準備運動する人はいないだろうけど、備えあれば患いなし。
「じゃあ、ルナは俺らが見てるから、みんなは適当に遊んでおいで」
「一応、海はみんな初めてだったはずなので言っておきますが、あまり遠くには行かないでくださいね。できれば視界内にいてくれるとありがたいです。正直、みんなの身体能力だと溺れるとかあまり心配していませんが…」
合流が大変になりますものね。さて、泳ぐぞー!
海にばしゃっと。相変わらず、足元が一瞬でヒヤッとする感覚は慣れないなぁ。けど、冷たくてうれしい。
「しょっぱーい!」
「華蓮ちゃん、何でいきなり海水を舐めてるの…」
「定番かなーと思ってー!既にしょっぱいのは、海辺に行ったときに知ってるんだけどねー!」
お、おぅ…。あんまり飲みすぎないでね? 海の水は超奇麗かと言われると怪しいから。
僕の周りにいるのは小鳥に華蓮ちゃんに幸樹に瑞樹ちゃん。なんか僕らの周りだけ多いな。まだ入ったばかりだからかな?
「気のせーじゃないよー!」
「そうね。一応、護衛としてそばにいるわ。攻撃が来たらコウキが盾になってくれる」
「任せて」
おぅ…。ありがと。気を使ってもらって。
「だからと言って、アイリおねーちゃんやガロウ達が「ってのは言わなくてもわかってるよ」そかー」
来てくれないから薄情だ! なんて言わない言わない。むしろ、来てもらってるのが申し訳ない。
「正味、こんくらいの海なら溺れもしないから、護衛はいらないよ?」
「何言ってるのよ。溺れるよりかは、攻撃のほうに気を配ってるのよ」
だよねー。言ってみただけ。
「ちなみにわたしは、護衛対象が散らないようにそばにいます」
「そんなことだと思った」
「とは言ってはいますが、ぼっちでいてもさみしいだけなので、都合がいいってのもあるんですけどね」
確かに。僕ら以外となると、ルナを見張ってる習先輩夫婦+観察してる愛理ちゃんか、恋人の牙狼礼子ちゃんだもんね。混じりにくいことこの上なし。
いやてか、さらっと観察してる愛理ちゃんって言ったけど、マジで観察してるね。楽しいの…?
「楽しくないと、しないと思うわ」
「同意」
「ねー。まー、アイリおねーちゃんが体の数に対して一番色々としてくれてるからー、遊んでもらってるほーがいーよね!」
「体の数に対して」とか言うパワーワード止めて。確かに、瑞樹ちゃんは魔法で分身出来るけどさ。
「なら、近くで遊んでくれてもいいんだよ?」
「具体的に何するのー?」
「わよね」
「ね」
え。…あぁ、海で遊んだことないって言ってたね。そうなるか。
「とりあえず、泳ごう?水中眼鏡とシュノーケルは用意してくださってるんだし」
みんな、頭の上につけてるしね。やるにはそれが一番いいはず。
「使い方は知ってる?てかまず、泳げる?」
浮き輪持ってないから、大丈夫だとは思うけど。…ん、大丈夫ね。元気な頷きが帰ってきた。
「使い方も聞いてるよー!」
「わたしも大丈夫です」
小鳥も知ってるなら心配いらないか。
「なら、それ使ってまずは泳ごう。人にぶつからないように適当にね」
まだ朝で人も少ないからしばらくは岸に近めなところでいいかなー。沖に進むと人が少なくなるからか、はたまた押しては返しを繰り返しにくくなるからか、岸より冷たくなって気持ちいいんだけど。
足がつかなくなるからなぁ…。小鳥以外はどう考えても僕より運動神経いいから心配はほぼいらないだろうけど、小鳥はちょっと気にかけてあげないと。
とはいえ岸すれすれだとすぐに岸に打ち上げられるし、もっとちっちゃい子の遊ぶときに邪魔になるから、いい感じの距離をすいすいと。
シュノーケルの使い方に関しては、ほんとに心配いらなさそう。まぁ、油断したら即座に水が口の中に来るんだけど。
ん? なんかつつかれてる。何? 華蓮ちゃん……って、指さしてる先にゴンズイいるじゃん。ちょっと立って注意しとかなきゃ。
「華蓮ちゃん。わかってると思うけど「わかってるよー!」それならよし」
あれ、毒あるからちょっかいかけないでね。小鳥は、
「わたしも知ってます」
「了解」
あいつら、ちっさいからネット張ってても入ってくるんだよねぇ。この海水浴場はちゃんとネット張ってくれてるけど、あれの役割はクラゲや鮫の侵入防止って面が強いからねぇ。後、遊泳区間の案内か。
とはいえ、ネットあるからあそこまでは大丈夫かと言われると、そうでもないんだけど。余裕で深さあるもの。
今度はちっこい魚がいるね。名前はわからないんだけど……!? え。素手で捕まえた!?
「華蓮ちゃん!?」
「出来ると思ったからやったよー!まー、食べはしないからリリースするんだけど」
「よく捕まえたねぇ…」
「しゅばっとやれば行けたよ!小鳥おねーちゃん!」
いや、無理だよ。すんごい子供のころ、やろうとして逃げられまくった記憶しかないよ…。僕。さすがの運動神経だぁ。
「きゃっ!?」
「え。小鳥!?」
「大丈夫よ。小鳥姉さま。ただの海藻」
「だろうと思ったけど、ぬめっとしてびっくりした!」
「わかる」
立ってたから海藻が足元に偶然、来ちゃったのね。なんかぬめっとしてるから尋常じゃなくテンション下がるよねぇ…。
「なら、沖に移動するね。一応、確認だけど脚はつかなくても大丈夫?」
頷いてくれたから大丈夫ね。なら、クロール的な泳ぎ方で沖へ。少しひやっとしてきた。もうちょっとだけ泳ごう。んー、この辺にしとこうかな? 水深はだいたい1.8 mかな? これ以上は華蓮ちゃんがつらいだろうし。まぁ、つま先立ちしても普通に底には届かない時点で、あんまり変わらない気がしないでもないけど。
習先輩たちは…ん、見えてるね。しかも手を振ってくださってるから、こっちにいるのも把握してくださってる。安心して遊べる。
「こんなとこまで来てどーするの?めっちゃ泳ぐのー?」
「それもいいけど、僕や小鳥が確実に皆においてかれるから、飽きるまでくるくる回ろうかなと」
「どーいうこと?」
「じゃあ、ちょっと見せるね」
安全のためにシュノーケルは外して…っと。まぁ、手に持っとけばいいか。息を止めて潜水! 海底に手はつくけど、水面まで十分な距離がある。思った通り! というわけで、体を一気に丸めて一回転。そして、海底を蹴って浮上。
「こんな感じ」
「あー。鉄棒で回る感じなのねー」
「そんな感じかな?」
「シュノーケル取ったのは何で?」
「間違ってもシュノーケルで呼吸しないようにするため。このシュノーケル、水面から見る用に設計されてんだから、潜れば容赦なく水が入るよね?それで呼吸しちゃうと息が出来なくてパニックになりかねないから」
てか、むかーし、やった。浅瀬だったけど、顔を水につけて遊んでたら魚か何かがいて、思いっきり顔を沈めちゃったんだよねぇ…。
「なるほど。じゃ、忠告には従っておくわ」
「だね」
「さっそく行くよー!」
おー。お子さんたちは行動が早い早い。そして、運動能力も高いなぁ。幸樹や瑞樹ちゃんは一連の流れがスムーズ。華蓮ちゃんもそうだけど、華蓮ちゃんはなぜか一回転でとどまらず何度も連続で回ってる。
何でそんなに息も三半規管も持つんだろう。
「それなりに楽しいですね」
「でしょ?まぁ、数回やったら飽きるけど」
「自分で言っちゃうんですね…」
仕方ないじゃん。小鳥。だってそうだもの。誰かと何かを競うこともなくクルクル回るだけとか、そのうち飽きるよ。
「もうちょっとだけ沖に出てみて、潜水限界でも競う?もちろん、僕と小鳥だけで」
「まぁ、華蓮たちを入れると確定でわたしらがドベかドベ2ですものね」
「じゃ、ボクらはボクらでしよー!」
残る二人も頷いてくれたし、さらに沖へ。刻んでいこう。水深2 mくらい? に到着。
「溺れたときに助けられるように、三人は上で待ってもらっていい?」
「あ。それならー。いー考えがあるよー!」
華蓮ちゃんはそういうと弓を取り出して、矢を発射。僕からすれば、いきなり何してるの!? ってところだけど、幸樹や瑞樹ちゃんが何も言わないから平気なんだろう。
しばらく待っていると矢が浮き輪とともに帰還。うーん、滅茶苦茶。
「おとーさんのところに矢で伝令を飛ばしてー、魔法で浮き輪を偽装工作しながらとってもらったの!」
「なるほど」
矢を瞬間移動させることなら華蓮ちゃんもできるもんね。唐突に浮き輪が消えるのだけは誤魔化せないから、そこの対策お願いしたのね。
「溺れそうになったらこれ使おー!」
「だね。ありがと」
「ありがとね」
僕と小鳥が一番使いそうだけどね! さて、では、さっそく。まぁ、2 mなら余裕だね。華蓮ちゃん達は言わずもがな。小鳥も普通にOK。
刻みながら沖へ。だけど、4回目くらいで小鳥が届かず。早々に決着がついた。
「わかってはいましたが、ふつーに対格差が辛いレギュですね…!」
「確かに。ごめん」
底に手がつけばOK! となると、身長ある僕のが有利よね。
「じゃあ、底に腹ばいになれる深度を競う?」
「いえ、さすがに疲れましたので、いいです。あの、浮き輪貰っていいです?」
「どうぞ」
「ありがとです。華蓮ー。浮き輪頂戴」
浮き輪を貰った小鳥はすぽっとその中に納まる。
「カイさんも掴んでていいですよ」
「ありがと。華蓮ちゃん達はどうする?」
「とりあえず、決着つけてくるー!」
「了解。行ってらっしゃい」
手を振って送り出し……たはずなのに瑞樹ちゃんが真横にいるバグ。魔法なのはわかってるんだけど。
ネットぎりぎりまで猛スピードで泳いでいった三人は、そのままの流れで潜水。見張りを付けるとは一体。
「あ、駄目ね。当然のように全員、ついたわ」
「だろうね。腹ばいは?」
「やったわ」
あの辺、かなり深いはずなんだけどなぁ。
「そのまま潜水時間勝負すればいいんじゃない?」
「やってるわ。小鳥姉さま」
「無茶はしないで……って、瑞樹ちゃんはちゃんと浮上するよね?」
分身だから死んでもいいかーって、生存本能を意志の力で塗りつぶして延々と潜るとかなしだよ?
「わかってるわよ。実際、出来るけど、反則もいいとこよ。ちゃんと限界ってところであがるわ」
ならよし。ちゃんとゲームになるね。
「けど、長いですねぇ」
「だねぇ」
潜り始めて既に1分は経ってるはずなんだけど。
「魔法使ってる?」
「使ったら勝負時間が酷いことになるから使ってないわよ。わたしは。二人はわかんないけど、たぶん同じよ」
…………長いなぁ。あ。上がってきた。よかった。多分、6分くらいかな? 幸樹はまだだけど…っと、幸樹も上がったね。
華蓮ちゃん<瑞樹ちゃん<幸樹の順。まんま体格順。
「わたしもだけど、いい感じのとこで打ち切ったみたいね」
「そのほうがいいよ。こんなところで死んでも嫌だし」
「ですね。やったら?とは言ったけど、極論、ただの我慢大会ですしねぇ。しかも、チキンレースじみた」
やりすぎると死ぬもんね。その表現は適格。
「ついでに遠泳勝負もしようってなってるんだけど、いいかしら?」
「ん?いいよ?でも、僕らはついていけないよ?」
「カイさんの言う通りですね。明らかに体力足りないよ?」
「そこは大丈夫よ。適宜、わたしを増やすし、無理はしないから」
「そか、ならいいけど」
おー。泳ぎだした。ここの瑞樹ちゃんがあっちに伝えたんだろうけど、まーじで魔法すごいな。
「わたしらは戻りましょうか」
「だね。そろそろ肌寒くなってきたし」
海が冷たいから、無理しないで上がろう。
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