7話 授業開始
この小説はフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありませんのでご注意ください。
「今日も駄目なの?」
「どうもガッっと来られそうで…」
有宮先輩とか、百引先輩とかが。習先輩や清水先輩、拓也先輩に隠れてなければいいように弄られてしまいそう。
「そんなことないです…と言いたいですが」
「あの二人は良くも悪くも空気読まねぇからな」
「「悪口言われた気がする(ぞ☆)」」
ひえっ。口に出してないはずなのに、なんかヌルっとお二人が来た!?
「言ってないよ。安心して」
「そか」
「ならよっしー!」
その場でクルリ回って幼馴染のところに行くお二人。それで納得してしまうのですね…。
「現に言ってないもの」
「私たちが勝手に矢倉君が思っていることを推測しただけです」
「口に出してなきゃ、「言った」ことにはならないでしょ?」
確かに。…あ。チャイム。やったぜ。今日も先輩の庇護を受けよう作戦大成功!
「おはよう。朝礼を始めるぞ。朝の連絡は…特にないな。受験生だから頑張れ…ぐらいは言っとくか。これから腐るほど聞くことになるだろうがな。以上。授業の準備をしろ…ん?次、俺だよな。…教材あるし、始めていいか?」
何故かじっとこちらを見つめてくる近衛先生。何故に僕?
「え?だって授業受けるのお前だけだし…。後、授業が始まったから前においで。そこよりもこっちのが聞きやすいだろ」
ゑ?
「みんな、移動してやってくれ」
「了解です。先生。じゃ、俺移動するわ」
「だな。習、清水さん。俺らも移動するから一緒に来てやって」
「「了解」」
え、え。待って。なんでそんなスムーズに動けるのです?
「ほら、行くよ。カイ」
「荷物は持っていきますね」
!?いや、さすがにそこまでしていただくわけには。自分で持ちます!
…うぅ、移動したら後ろからの視線が辛い。
「自由時間なら席は自由で良いけど、それ以外は矢倉、前な」
つまり僕はここ確定ということですね。了解です!やってやらぁ!
「いきなり気炎を上げだしたな…。ま、授業始めるぞ。教科書ひらけー」
了解!
______
「ということになる。というわけで、解いてみろ」
了解です!例題直下の問題なんてたいていは例題を真似すれば解ける!いざ!
えーと、これをあーして、こうして…。よし、出来た!
「矢倉。答えは?」
「え?√3です」
「正解。他のは?」
「2と、1+√2です」
「答えは大丈夫。途中計算は…」
近衛先生が僕のノートをガン見してくる。最初だからちゃんと書いてますけど、書いたのを目の前で見られるのは恥ずかしい。
「いけそうだな。次。ここに書いてるのはこれこれこうで…、で、こう。ポイントはここ。で…、ほい」
「あい」
解けと。ええっと、これはこうだから…。よし。行けた。
「解けたか?答えは?」
「え?ええっと…。√2/2です」
「他は?」
「5と、10と49です」
「計算…も大丈夫そうだな。次」
え。あ。はい。あれ?僕しか見てもらってないけど…。いいのかな?三年生の内容だから先輩たちも習ってないと思うんだけど…。
でも、先輩だしいいのかな。
「で次はここをこうしてああやって、こーやって、こうなって…、ほい」
「了解です」
なんかめっちゃ見られてる…!真横に来て僕が手を動かすのを見ておられる。気にしちゃだめだ。気にしない。気にしない。ここをこうやって、ああやって…、こうして…こう!で、次もこーして……できた!
「正解。じゃあ、次「待ってください」どうした?休憩するか?」
めっちゃ気を遣ってくださるやん…。
「いえ、そうではなく。あの、先輩方はいいのですか?先ほどから僕ばかりなのですが…」
「最精鋭か?そもそも別に良いって聞いてるしなぁ…」
えぇ…。
「不安か?なら試そう。こんなこともあろうかと」
紙を出してきた…!?
「八重桜が一角、菊桜の類題だ。森野。大問3を。清水。5を解いてやってくれ」
えっ。ごめんなさい。
「大丈夫大丈夫。俺らのことを心配してくれたんでしょ?」
「ですからこれくらい、大丈夫ですよ」
これくらい(菊桜の類題)。これくらいのレベルがおかしいです。
お二人が解いてるのは…3が、
『四面体OABCの各頂点からその点を含まない三角形(頂点Oなら三角形ABC)へ垂線を降ろした時、垂線が三角形の重心を通るならば、四面体OABCは正四面体であることを示せ』
で、5が、
『xy平面上に点A(x, y) = (0, 0), 点 B (x, y) = (1, 1), 点C (x, y) = (2, 2)というABC三点がある。最初、P君は点Aにいるものとする。このとき、サイコロを投げて次の条件に従い移動する。
条件
P君が点A, 点Cにいる時、サイコロの目が偶数ならその場にとどまり、奇数ならば点Bへ移動する。
P君が点Bにいる時、サイコロの目が0, 4ならば点Aへ移動し、1, 5ならばその場にとどまり、2, 6ならば、点Cへ移動する。
サイコロをn回投げた後で、P君が点Aにいる確率を求めよ』
…ふむ。解こうと思えば解けそうだけど…。僕の不安を解消するためだけにこれを解けと?拷問では?
「解けました」
「同じく」
!?早い!?習先輩の解答は…あれ?意外と短い。菊桜の類題って言われたからめっちゃ長いのかと思ったけど。
「ここのはすぐ解ける時は解けるからねぇ…」
「だな。そして正解だ」
先生も見るの早いです。ちゃんと見たのですか!?
「見たぞ」
おぉう…。そして清水先輩は…。
「2/7+3/14×(-1/6)^n+|(1/2)^(n+1)《2分の1の(n+1)乗》ですね」
「正解」
も正解。すごい。数学IIIを一切使う必要のない問題だけど、そんなの問題にならないくらい早い。これがこの時間で解ける奴らが受ける必要がある?ってことなんだろうなぁ…。
えぐぅい。
「というわけだ」
「あい…でいいのです?ほかの皆さんは?」
「遅い早いはあるけど、十分解けるぞ。こいつら」
ならいい…のかな。ま、先輩たちがいいって言っておられるならいいのだろう。
______
「七条先生!」
「みなまで言うな。近衛先生から聞いている。えーと。臥門、これを訳せ」
さっと先輩に渡される紙。ついでに僕の方にも来る。
「先生。この短時間で訳せというのは、ほぼほぼこの文だけを見て訳せってことだ。ナンセンスだぞ?」
「んなこと承知してる。が、お前ならばいけるだろう?」
「ふっ。もちろんだ。この我を誰と心得る」
「臥門芯」
!?厨二な人にクッソまじめな返し!?
「そうとも」
それでいいのですね…。えっと、で、テキストは…ながぁい。時間をかけていいなら読めないこともない。単語がちょくちょくわからないけど。辞書があれば…まぁ、読めるかなぁ?訳さなきゃならないのは…。
“The Church was”
「『教会は聖地となっている穴の上に建てられた。だが、穴の歴史に教会は建てられてからしか関わっていない。この穴の歴史の特に印象的な部分に焦点を当ててみてみると、我々はこれまであまりにも我が国への宗教について無関心であったということになる──何しろ、この穴には教会があろうがなかろうが、この穴を構成する土を自らの血肉とすべく長蛇の列を形成していた人々を無視していたのだから』だな」
「そうとも」
はやぁい。
______
「鷹司先生!」
「うん。聞いてるよ。だから古典をもってきてある。天上院さん。悪いけれどこれを読んでくれないかな?」
「わかりました」
和歌じゃん…。しかも約100字でまとめろと。
「露は夜に菊の花に付き、昼になると日差しを浴びてはかなく消えてしまう。噂だけを聞いてあの人に恋焦がれてしまっている私も、夜は焦がれるばかりに寝付けず、昼になるとこの心を抑えることが出来なくて辛くて、露のようにはかなく消えてしまいそうです。…ですか」
「えぇ、そうです」
だから早いです。
「でも、これ…、百人一首では?」
「うっ、もしかして、知ってた?」
「一応、昔見た現代語訳から変えていますわ。「古文はそのまま訳せ」という教えからは外れてしまっていますが…」
先生…?
「それを理解してるならよきよき。というわけで次行くよー」
何がというわけなのか聞きたいけど、聞けない。僕にそんなメンタルはない。黙って授業受けとこ。
_____
「徳大寺先生!」
「何ー?あー。なるほど。りょーかいしたよー!」
何のために着ているのか分からない白衣。その胸ポケットから紙を取り出す先生。
「ちょーっと待ってねー」
なんて言いながら折りたたまれた紙を広げていく先生。何故先生はそのサイズの紙を無駄に折り曲げてしまったのだろう…。
「そしてこれをびりびりー。あっ。やべっ。ちょい失敗。まぁ、いいか。支障ないし」
ちょい(中ほどまで思いっきり破きながら)。先生、せめてハサミを使うか、折り目つけまくって定規を使いましょう?
「こっちの綺麗な方をどうぞ」
えぇ…。一切気にしてない。
「薫ちゃん!よろぴく!」
先生。それ死語です。てか、ナチュラルに先輩に破れまくった方を渡すんですね…。
「承知した」
あ。問題を確認しないと…!先輩方なら確認し終わる前に解きそう!内容は…、え。ナニコレ。知らない。タンパク…?次の分野じゃん!?
「Lys-Gly-Ala-Glu-Gly-Phe…だな」
「正解!」
知らないから暗号にしか聞こえない!すごい!
「リシン-グリシン-アラニン-グルタミン酸-グリシン-フェニルアラニンだよー!これくらいは出来るようになるから大丈び」
あ、うん。はい。
「てか、うち、すごくない?未履修範囲をねじ込むことで、最精鋭のみんなは既に全部できるって示すんだぜ?うん。すごい!」
自画自賛。この先生、時々ぶっ飛んだことを言い出すんだよね…。教え方うまいって評判なんだけど。
だが、小さくて可愛らしくはあるけど…、おばちゃんである。
「殺すよ?」
「あ。ごめんなさい」
思っただけなのに…。それでもダメなのですね。ごめんなさい。
あーでも、昔だったら先生のこの威圧の巻き込み事故を喰らって震えていたのだけど。先輩のを喰らったせいで何でもないように感じてしまう。
僕、成長してるなぁ…。
「そこに成長を感じるのはどうなんだろう…」
「精神力の強化とみれば、よいのでは…?」
「おい。元凶」
あ。習先輩たちが何か言ってたのに聞き逃した!
「たいしたこと言ってないから」
「聞いてなくて大丈夫ですよ。それよりも授業をですね」
「確かにそうだね。じゃあ、すすめよー。とりあえずグルコースの構造式は丸暗記するよーに」
あい。
______
「めっちゃ進んだからこれ以上進めても大変だろーから、今日はここまで!10分以上早いけど気にしなーい。一応、明日、成績に関係ないけど、理解度チェーック!に小テするから。そのつもりでね!あぁ、後、早く終わったけど言うまでもなく他は授業中だからわきまえた行動をとってね!じゃ、ノシ」
歩きながら分子模型から水素とかを抜きながら歩いていく徳大寺先生。あの模型、結構質がよさそうだから高いと思うんだけど…。壊さないでくださいね。
「昼休みなので聞きたいのですが、各授業で答えた人、実は一番得意な人だったりしません?」
「待たせたくない…って思っておられたからか、出来る人達ではある。でも、心配しないで。ちゃんとみんな理解できてるから」
「繰り返しになりますが心配無用ですよ。ですので、わからないことがあれば誰に聞いても大丈夫ですよ」
なるほど。では、習先輩、清水先輩、拓也先輩に聞きます!
「あぁ…。そりゃそうなるよね。でも、俺らがいないときは他の人に聞いてね」
「一応、各科目で得意な人を。現代文、古典、漢文は望月君と天上院さん」
あぁ、あのめっちゃ仲のいいお二人ですか。
「数学は西光寺賢人と、豊穣寺さんかな?」
双子の弟と…薫さんの数学版の人。
「物理化学は薫さんで…、物理は豊穣寺さん。化学は賢人だね」
「ですね。地理は…臥門君ですかね?あと、英語も」
あの厨二の人ですか…。
「根はまじめだぞ。あいつ。心配すんな」
「タクの言う通り。困ってる顔で突貫すれば問題ないよ。で、なんだけど。英語は俺と四季はダメだから聞かないでね」
「後、美紅さんと列ちゃん…あぁ、青釧さんと、蔵和さん。この二人も駄目ですね」
!?なぜ!?ホワイ!?
「魔法の関係。体質的なものだから調整もできないから…」
「英文見ても日本語にしか見えませんし、英語を書くつもりで書けば日本語なのに英語になりますからね…」
便利!あれ?でもその場合、文法問題とか穴抜け問題とかどうなるんだろう?いけるのかな?
「文法問題は…、”Yesterday, we “空欄” a friend“だと、「私たちは昨日友達と”空欄”」って見えるんだけど…、選択肢を見たら”came across” 「偶然会う」、”spoke” 「」、 “met with” 「」、 “hung out” 「」で一撃でわかるからね…」
「」って何です?
「文法的に不適なので書いていない…ということでしょう。”spoke”は自動詞なので”with”が足りませんが、逆に”met with”は”met”が他動詞なので”with”が不要。”hung out”は”with”がないので入れようものなら友達を掲げるとか、干してます」
何それ怖い。
「あ、でも、普通にしゃべっているときとかに文法ミスが発生してても、そこは若干おかしいけど言葉で聞こえるから大丈夫」
「なんで会話が成立しているんだ…?」とか、「何故成立しない…?」は起きないんですね!
「うん。だから、他の人に聞いてほしい…って、昼休みだね」
「ですね」
僕は既にご飯を買っているので買いに行く必要はありませんが…。先輩たちの何人かは出て行かれますね。
「…お父さん。お母さん」
!?この声は…愛理ちゃん?なぜ学校で…。
「あぁ、おいで」
習先輩の声で入ってくる昨日見た人たち。えーと、ひーふーみー…7人。お子さんたち全員ですね。ほんでもって着ているのはうちの制服。もしかして、この子たち全員うちの生徒です?
「「そうだ(です)よ?」」
うそん…。
お読みいただきありがとうございます。
誤字や脱字があればお知らせいただけると幸いです。