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6話 先輩とご飯

「先輩、この方は誰です?」

「あぁ「母です」」


 おぉ、習先輩の関係者であっても違和感のない続柄の人が……ん?んん?



 !?この人が習先輩のお母さん!?めっちゃ若く見えるんですけど!?



 小柄だし、ピチピチの肌してるし、こげ茶色の髪のせいか、童顔なせいか大人びて見える清水先輩よりも若く見えるのに、お母さん!?



小鳥(ことり)。カイは純粋だから嘘でも信じる。やめてやってくれ」

「嘘でしょ?さすがに…」

「アイリ達」

「あ。あー。察した。あの子らが兄ちゃんらの娘って言われて信じてくれる人なら、そうなるか」


 罵倒されてる気がする。



「してないよ」「してませんよ」


 初対面のはずの人にも心読まれたっぽい。なんということだ…。



「リラックスされていらっしゃるのか、顔によく出ていらっしゃいますから…。改めまして、わたしは森野小鳥。習(にい)の妹です」

「妹さんでしたか…!」


 今日会った習先輩の身内の中で一番まとも…というか信じられる続柄だ!



「わたしがやったんだけど、このリアクション出来る人に嘘ついちゃだめよね。絶対信じちゃうじゃん」

「そうだよ」


 あ。そうだった。驚いてるだけじゃ失礼だ。



「遅れましたが僕は矢倉(やくら)櫂斗(かいと)です。お好きに呼んでください。敬語も崩していいですよ」

「はい!じゃあ、習兄に合わせて、カイさんって呼びます!わたしの呼び方は…たぶん指定した方がいいですよね。習兄の友達はみんなわたしのこと小鳥と呼ぶので、小鳥と呼んでくださいね!あと、敬語もいらないです。先輩に敬語使われるのはむずがゆいです」


 おぉ…。さすが習先輩の妹さん。僕が困ることまで察してくれた…。



「ねぇ、カイさん。大丈夫なの?」

「たぶん。あ。でも…」


 ごにょごにょと話すお二人。いったい何の話をされているのだろう?あ。小鳥が一瞬、目を丸くしたかと思うと、かわいそうな人を見る目で僕を見た。



 僕でそうなるようなことは…心当たりがありすぎてわからない!



「習君。大体矢倉君察してます。が、」

「頓珍漢な方に飛んじゃってるっぽいかな?…自己評価下げるほうがマズいかな?」

「習兄。悩んでいる方がマズいよ。カイさん」


 !何でしょう?



「ご両親がお亡くなりになっていることを聞いたのです。あなたの人間性の話ではないので…」


 あぁ。それのことなのね。



「心配してくれてありがとう。でも、僕は大丈夫だから。気にしないで」


 既に折り合いは付けてある。少し悲しくなるけれど絶対にその話はしたくない!というわけじゃない。



「そんなことより、どうして小鳥はこっちに来たの?」


 何か用事があったんじゃないの?僕のせいですっとんでるけど。



「え?あ。そうだった。習兄。悪いけどわたしにも晩御飯を作ってくれない?」

「あれ?父さんたちは?」

「吉野にデート」


 吉野といえば桜。微妙に遅い気がするけど…。山の上。今頃が満開かな?めっちゃ混んでそう…。



「何も聞いてないんだけど?」

「たぶん浮かれポンチになって言った気になってる」

「うわぁ…」


 仲いいのですねぇ…。



「習兄と四季義姉(ねえ)が仲いいのは遺伝かもしれない。で、よき?」

「俺はよき」

「私もよきですが、娘たちは…」

「おk。聞く。妹、弟ども!しゅーごー!」


 廊下で叫んだところで…全員出てくるのね。



「…叔母さんの声ってわかってるからね」


 長女の愛理(アイリ)ちゃんが代表して言うと、追従するように首肯する子供たち。



 なるほど。それでもちゃんと聞いてるのはすごいと思う。



「愛理…。叔母はやめい」

「…ん。小鳥(ねえ)。わたしは構わない」


 手馴れた会話。定型なのかな?見た感じ、仲がよさそうだから、いちいち叔母って言って煽りたいわけではなさそう。でも、喋りたいからやってる!というわけでもなさそう。



 謎だけど、聞いていいかわかんないし黙ってよう。あれ、先輩は僕の話を…先生かな?リーダーっぽいし。



「全員良いらしい。唐揚げだけどいい?」

「食べさせてもらうのに文句は言わない」

「ならよしです。あ。矢倉君。矢倉君も一緒にどうですか?」


 え?「僕も一緒に晩御飯どうですか?」…と誘われている?これはまさか…。僕をバラシて料理しようってことですか!?



「何故そうなるの…」

「ですね…。山猫軒じゃないのですよ?」


 ですよね!ごめんなさい!



「では、ご相伴(しょうばん)にあずからせていただきたく。ですが、料理の手伝いはいたしますよ!」

「「え?」」

「え?」


 なぜそのような顔をされるのかがわからないのですが。ご飯を頂くならばせめて手伝いくらいはするのが礼儀では?あ。



「料理は僕、出来ますよ!一応、こういう時のためにと作った料理の写真を見せましょうか!?」


 拾い物とか加工が疑われないように顔なしのと、顔付がありますよ!ネットにも晒してないので画像検索をかけても引っかからないはずですよ!



「そっちは心配してない」

「ですね。なかなか奇抜な料理法をするので不安だったのです…が、切るくらいはお願いしますか」

「はい!」

「じゃ、キッチンに行こう。みんな、今日は待っててね」


 いつもは一緒にやられているのだろうか?なら手伝わない方がいいような…。でも、習先輩達なら僕の意思を尊重してくれそう。覚悟を決めてやろう!



 廊下を戻ってリビングに。後ろからお子さんたちもずらずらついてきてリビングに。料理ができるまでここでくつろぐつもりっぽい。



 いざ、キッチン。外から見ても広いっぽかった。実際、入ったら予想以上に広い。



 導線が出来るだけ絡まないようにしてるのか、人が立てる場所が広い。僕が縦に寝っ転がっても跨がずに往来できそう。そして。洗い場、台、コンロの一つ一つがでかい。



 全ての上に僕が乗れそう。洗い場で僕を丸洗いして、台で内臓を取り除いて野菜を詰めて、コンロの上にでっかい鍋を置いて油を満たして加熱することで、僕の丸揚げが作れると。



「だからしないって」

「です」


 だからなぜ心を。



「「読みやすいから(です)」」


 Oh…。そ、それはさておき。



「切るって何を切ればいいのです?」

「鶏肉とキャベツですかね」

「となると、先に鶏肉からですか」


 人数が多いから包丁をあんまり洗わなくていいように…、とか考えて先にキャベツから切るといつ切り終わるかわかんない。洗うのはあんまり手間じゃないんだから、鶏から切った方がいいはず。



「だね。冷蔵庫から鶏肉の塊出して、切っといて」

「重いので気を付けてくださいね。私たちは揚げる準備しておきますから」


 了解です。冷蔵庫を開けさせてもらおう。冷蔵庫は上中下にわかれてドアがついてて、それが横に二個ならんだめっちゃでかいもの。こんだけでかいならチルド室もあるだろうから…、上かな。



 はい、オープン!おぉ、色々、入ってる。調味料が各種取り揃えられてる。…あれ?でも肉がない。というかチルドがない。横か。



 閉めて、オープン!よし、正解!こっち全部がチルド室かな。すげぇ。鶏はこれだね。ひとまとめにしてくださってるのを引っ張り出して…あれ?なんか想定より重い?



「習先輩!先輩の家では一人前何グラムなのですか!?」

「だいたい200 gだよ?」


 想定とあんま変わない。あれぇ?でも11人だから精々2.5 kgくらいかな?って思ってたのに…。その重さじゃないような。



「それに入っているのは3 kgですね」


 予想より500 g多い。先輩たちは優しいから、お子さんたちがお代わりを要求したとき、ご飯だけじゃなくておかずもつけてあげる人なんだろうか。



「違うよ?単にアイリがめっちゃ食べる」


 !?



 びっくりしてリビングにいる愛理ちゃんを思わず見ると、表情筋をほぼ動いてない顔で見てピースしてきた。…普通に怖いんですけど。



「笑っててかわいいのに…」

「あれだけ「イエーイ」って笑顔でピースしてますのに…」


 俺と先輩方では見てる世界が違うらしい。えぇい、とりあえず鶏を切る!



 まな板を用意!包丁を用意!鶏を置く場所は…、



「このボウルにお願いします」

「了解です」


 いざ!うわ、めっちゃ切りやすい…。置くだけで…はさすがにないけど、ちょっと力を入れただけでずぶずぶ刃が沈む。



「あ。皮は?」

「揚げたらパリパリになって美味しいですから置いておいてください」

「了解です」


 じゃ、何も気にせず切る、切る、切る!切りやすいからめっちゃ早い!…包丁洗うときちょっと怖いけど。刃をスポンジでくるんで動かしたら切れてる!とかありそう。



「習君、こっちはそろそろ終わりそうなので、味付けして揚げ始めちゃいますね」

「了解。こっちもそろそろ終わるけど…」

「見るくらいしか仕事はなさそうですよ?」

「炊飯器でも弄ってるね」


 ?鍋に突っ込んで、揚げているやつをひっくり返して取り出して…ってあるはずじゃ……ナニアレ?



 コンロがあったはずだけど、なくなってる。代わりに油が入った容器が2つ並んでて、油が僕の側から習先輩の方に流れてる。結構深いから多分、表層と深層で循環流を作ってるのかな。その中ほどには流れに直角に流れをあんまり阻害しないように置かれた小さな水車みたいなのがある。表層の油は歯車のシャベル?に入れられて持ち上げられそう。



 そして、容器をつなぐように大きな水車がもう一個。先の水車の羽は油をすくい上げられるような形だったのに対して、こっちは穴が開いている。微妙に左右に振動しているから油は早々に完全にきられてる。そして、水車の上部に何か空間の裂け目みたいなのがある。



「揚げる準備をしまして…、入れますね」


 清水先輩が台から滑らせて肉を投入。滑って油の中に入り、流れに乗っていく。先輩は滑るのを確信してるのか、確認せずにお肉を台に置いていく。



 流れに乗ったお肉は水車で油ごと持ち上げられる。シャベルに入った油に揚げられながら、水車の向こう側に運ばれて、ひっくり返って油に着水。



 そのままドンブラコドンブラコと端っこへ行って、大きな水車に持ち上げられる。鶏肉についている油は微妙な振動で全部落ちて、そのままゆっくり上に。そして、謎の空間に入って消える。



 えぇ……。



「4分くらいしたら出てくるから大丈夫」

「見るのはいいですけど、指を切らないでくださいね?」

「はーい」


 待ってる間にちゃっちゃと切っちゃおう。これでよし。包丁を洗って…、相変わらずの切れ味。怖い。スポンジでくるんだら切れ目ついた…。



 キャベツを野菜室っぽいところから取り出して千切りに。



「一球でいいです?」

「1.5でお願い」


 一つを千切りにして、もう一個の半分も千切りに。…サラダバーでしか見ないような量になりそう。



 ま、使うからいいや。でりゃー!



「気合を入れるのはいいけど」

「指を切らないでくださいね」

「あい」


 同じ注意を二度受けた気がする!



 あ。鶏…は既に続々と大水車上部の空間から出てきてる。水車でもう一個の油の中に落とされると、ドンブラコと流れて、早めに水車でひっくり返されて端っこへ。習先輩が取り出して、終わり。



 唐揚げの半自動生産機だったのですね。取り出しも自動でできそうですけど、二度揚げまでしてますやん…。



「大水車の途中の謎のところは何です?」

「異空間。さすがに家の中だけで5分とか確保しようとすると天井が足りないから、飛ばしてる」


 異空間を作るなんて高等そうな魔法を料理に使う。出来るなら使えばいいと思うけれど、何も使えない身としては何とも言い難い。



「というか、魔法で直接作れないのです?」

「出来ることは出来るよ?」

「ですが…ね」


 珍しくお二人の歯切れが悪い。



「ま、いいか。四季、悪いけど」

「お安い御用です」


 いつの間にやら全部鶏を油に入れていた清水先輩が冷蔵庫へ。そして小さな鶏を持ってきた。あれ?小分けの鶏とかありましたっけ?



「この冷蔵庫も、魔法使ってますからね。広い方が取り出しやすいので大きくなってますが、魔力を流しますとこのように」


 大水車の上にある裂け目っぽいものが冷蔵庫の中に。清水先輩の手の動きに従って、内部が移動。チラッと見せていただいた限りでも、冷蔵しかしてないから絶対腐るまでに使い切れなさそうな量。



「この世界なら時間を止めるのは楽だからね。時間を止めてある」


 時間を止めるのが楽とは。わけがわからない。



「はい、揚げ終わり」

「了解です。では、盛りまして、ご飯もよそいまして、持って行っちゃってください!」


 揚げ終わったよ。と言われたぐらいから動き出したお子さんたちがご飯と唐揚げのお皿をもっていく。いっぱい食べるって言われてたアイリちゃんも、ほかの子らと変わらない量のご飯一杯と唐揚げとキャベツサラダ一盛のお皿一枚。



 まぁ、唐揚げのお皿はまだあるから後でもっていくだけなんだろうけれど。



「さて、習君。食べる前にちゃちゃっと作りましょうか」

「だね」


 清水先輩の掌の上に習先輩が指を置いて、動かす。



「「『『唐揚げ』』」」


 何をしてるのかわかんない間に置いてあった鶏肉、味付けに使ってた調味料、油が糾合されて、唐揚げが一つ爆誕。お手軽ですね…。



「いただいても?」

「どぞー」

「そのつもりですし」


 いただきます。ぱくっと一口。うん、普通!まっず!とも、美味しい!とも言えない。ただただ普通。すさまじく感想に困る味。



「俺らが作ったやつ、食べてみて?」

「いただきます」


 衣を噛むと、カリっといって中から肉汁があふれてくる。この時点でさっきのより圧倒的に美味しいですね。



「だから魔法で作らないと?」

「そういうこと。食事が虚無は嫌でしょ?」


 ですね。せっかく食べてるんだから美味しく食べたい。



「あれ、魔法使ってますけど、全部手でやった方が美味しいとかないですか?」

「ないですね。あれはあくまで私達作成の装置で、使用者もまた同じ。だからか、変わらないようです」


 なるほどです。さて、食事に集中しよう。







______


「ごちそうさまでした」

「「お粗末様でした」」

「お皿は洗っておきたいのでスポンジとかお借りしますね」

「「どうぞ」」


 許可ももらえたし、洗って帰ろう。愛理ちゃんは…いっぱい食べるから食べるのも早いかと思ったけど、そんなことはなさそう。



 炊飯器を横に置きながら、食べ終わったお皿を適宜キッチンに入って交換しているけれど、常識的なスピード。常識的な早さでいっぱい食べるって逆にきついはずなんだけどね…。



 よし、洗浄終了。



「先輩方、ご飯を頂いてすぐなのですが…、」

「ん?帰る?いいよ。送ってこうか?」


 !察したばかりか送迎まで提案してくださった!優しい。



「いえ、そこまでしていただかなくても結構です。男ですし、近いので一人で帰れます。そういうことは清水先輩に言ってあげてください」

「言わなくてもやってくれますよ」


 惚気られた。余計なお世話でしたか。では、



「さようなら、また明日お会いしましょう!」

「うん、またね」

「また明日です」


 全員に見送られて帰る。お米が届く前に帰れますように!朝ごはん抜きは死んでしまう。

お読みいただきありがとうございます。

誤字や脱字他に何かありましたらお知らせくださいませ。


補足1)

「浮かれポンチ」は関西の方言です。滅多に使われませんが…。

意味としては「浮かれていて危なっかしい人」…でしょうか。


嘲りも含みますが私や周囲は、大学に受かる、告白してOKもらった等、大変うれしいことがあったときに「浮かれてないでちゃんと回り見なさいよ。事故にあうよ」を「浮かれポンチになってないで、周り見いや。事故るで」と忠告も兼ねて使うことが多いです。


補足2)

「山猫軒」は宮沢賢治さんの「注文の多い料理店」からです。著作権の関係からか、ちょっと昔の言葉遣いですが…、ネットで無料で読めます。興味がわいた場合、ぜひ調べて読んでみてくださいませ。

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