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59話 サイクリング

 あれ? 自転車で真っすぐ北に行こうかと思ったけど、なんか道がある。先にこっちに行こうかな。こっちの方が気になる。



 自転車でも行けそうだけど、置いていこう。鍵開けたばっかりなのに閉める。ちょっと損した感じ。



道をまっすぐ北に道なりに進むと、海岸に出た。



「ドクタードクター」

「あぁ、石だな」


 この声は。あのお二人がおられるのか。相変わらず会話が成立してないですね…。



「おや、貴公はカイではないか」

「こんにちはです。臥門(がもん)先輩、蔵和(くらわ)先輩。旅島(たびしま)先輩はおられないのです?」


 いつも一緒におられるのに、見当たりませんが。



「あぁ、彼か。彼は「たまには二人でいるのもいいだろ。がんば!」と言い残し、永久の旅へと行った」


 相変わらず大げさな表現されますね…。どっかに行かれたとおっしゃればいいのに。…うん? であれば、


「僕もお邪魔虫では?」


 臥門先輩と蔵和先輩も習先輩と清水先輩や、望月先輩と天上院先輩と同じように、固定カプ。旅島先輩が気を利かせてくださっているなら、僕も利かせるべきだよね?



「蜘蛛、蜘蛛」

「列。ここは観光名所だぞ。二人になりたいからと追い出そうとするでない」


 露骨にしょんぼりする蔵和先輩。この人も結構、子供っぽいところがある。しかも、見た目が瑠奈(ルナ)ちゃんよりもそれっぽいから、庇護欲が湧いてくる。



「あー、後でゆっくりすればいいだろ?」


 ガシガシと頭を掻いた臥門先輩が言うと、蔵和先輩の顔は一瞬でぱあっと明るくなった。普通に演技のやつですね、これ…。



「というわけだ、気にしないでくれ」

「あ。はい」


 と言われましても、割と気にするんですが…。蔵和先輩、何も言ってこられないけれど、「早くどっかいけ」オーラを醸し出しまくっておられる。



「あぁ、そうだな。気にするなと言われても難しいだろう。俺がこの石について説明しよう!この石は『ニーラン石』という。神々が神の住まう国ニーランから船でこの島にやってくるとき、この石に縄をかけて船を泊めたという逸話がある、神聖な石だ」


 え。「どっかいけ」オーラ出てるのに解説されるんです? ありがたいですが……。いいのです? 先輩が説明されているから、いいのか。でも、蔵和先輩の不機嫌さが増えている気がします。



「だから、これはパワースポットなんだ。力を貰えるかもしれんぞ」


 力を貰えても、真横の蔵和先輩の不機嫌さはどうしようもないですよね? 何でこんな不機嫌なのかよくわからないですが。



「で、だ。さっきの蜘蛛は、蜘蛛→雲からの音読みで「うん」だ。同意していたんだ」

「あの、さすがにそれは無理があるのでは?」

「だよな。無理あるよな」

「二重の意味で、です」

「え」


 何故、ぽかんとされるのです。さっき、蔵和先輩が頷いておられたから、その解釈で合っているのでしょう。蔵和先輩も相変わらず強引すぎますね…。ですが、それよりも、



「強引に話を引き延ばそうとする意図が見え見えですよ?何故そうしたいのかは僕にはわかりませんが……、蔵和先輩の不機嫌さが尋常じゃなくなってきています」


 ほんとに。ニーラン石の説明をしてくださっている時はまだマシでしたが、「蜘蛛」の解説に入ってからは、なんかもう、加速度的に酷くなってます。



 必死に蔵和先輩から目をそらそうとしていた臥門先輩だけど、それを聞いて目を蔵和先輩の方へ向ける。その瞬間、



「好き!好き!」


 叫びながら蔵和先輩が臥門先輩に抱きついて、ぴょんぴょんと跳ねておられる。狙いは明らかに口。なるほど。



「だー!わかったから!人目あるから!」

「あ、僕はどこか行きますねー」

「沈んだ貴方!沈んだ貴方!」


 すみません、マジで何言ってんのかわかりません。でも、めっちゃ顔がご機嫌。



「Sank youから、発音繋がりでThank youとかいうのだぞ!」

「解説ありがとうございます。では、ごゆっくりー」


 解説はありがたいですが、そんなのしてるからまた蔵和先輩が不機嫌になるんですよ。あれだけ好き好きって思いを向けられていて、何が嫌なんだろ?



 いや、違うか。たぶん、こっぱずかしいだけかな。……ああやってあたり構わずやられると、そりゃ恥ずかしいですよね。開き直れればバカップルにしかならないんだろうけど、臥門先輩だときつそうな気がする。



(臥門)が臥門幼馴染三人衆の中では一番まともだよ」って、習先輩もおっしゃっていたし。ていうか、僕、さっきからカップルにぶつかる率高いな!?



 習先輩達は僕がついて行ったから別として、何故、更に二カップルとかちあうんだろ。単純に、このクラスにカップルが多い説。



「ひゃっはー!私達は風になるー!」

「止められないぞー!ふははははー!」


 びゅーんと百引(ひゃくび)先輩と有宮(ありみや)先輩が自転車で走って行った。やっぱり、事故は魔法で何とかするんですね……。そんでもって、その後ろを付いて行っておられる、幼馴染の3人も止めないんですね…。



 あ。違うか。若干、疲れたような、諦めたような顔されてるもん。この前とは別に、また止めたっぽい。



…そういえば、あの方々も一応、カップルなのか。(神裏)先輩は相手が二人おられるみたいだから、カップルと言っていいかは怪しいけど。ほんとにカップルが多いなぁ。



 さて、自転車まで戻ってきたし、今度はさっきも思った通り、北に行こう。しばらくびゅーっと何もない道を走って行くと、また分岐。今度は十字路。



 海へ曲がる道が多いなぁ。でも、気になるから行こう。ちょうど、駐輪場もあることだし。



 自転車を止めて、海岸へ出ると一本の橋が海へ伸びている。看板には西桟橋と書いてある。



 透き通るような青い海目掛けて、白い桟橋がずっと伸びている。かなり幻想的な光景。複数の人が桟橋の上にいるけれど、その美しさはあまり損なわれていない。



 桟橋にのって良いみたいだし、僕も乗ろう。足元はそれなりにしっかりしてる。海がほんとに綺麗だから、海中の様子がある程度わかる。黒くなってるところは岩かな? それともサンゴかな?



 うーん、どっちだろう。あ。魚だ。種類は分からないけど、割と大きい。捕まえられそうだけど…服を濡らしたくないから、無理だね。網でもあればって感じだけど、捕まえていいか分からないし。



 もっと奥に行こう。既に人がいるけど、しばらくすればどいてくれ……うん? 先端にいる人、髪の毛思いっきり白い。そして、服も白い。たぶん、白衣。ということは、



「あの、(かおる)先輩ですか?」

「ん?あぁ、矢倉氏か」


 あぁ、やっぱり薫先輩だった。てことは、隣にいるのは賢人(けんと)先輩…



「賢人ではないぞ」


 振り返りながら、いたずらっぽく笑う豊穣寺(ほうじょうじ)先輩。



「分かってますよ。さすがに」


 確かに賢人先輩はいつも薫先輩の傍におられるイメージがあるけれど、雰囲気とかが違いすぎますもの。



「見るか?」

「あ。お願いします」


 先端を譲ってくださった。ありがたく代わっていただいて、そこから海を見る。



 見渡す限り一面の海。どこまでも透明な海が続いていて、その奥に大きな入道雲が見える。梅雨なのに、こんな奇麗なの見れるなんて、めっちゃ嬉しい!



やっぱこういうところに来ると、こんな風にあたりを一望できるのがいいよね! 遠くに島がいくつか見えるから、全部海ってわけじゃないけど。



「一番でかい島が西表島(いりおもてじま)だな」

「あれがなのですか?」

「そうだ」


 知らなかった…。確か西表島は世界自然遺産だったはず。生物多様性が云々の。こんなところにあったんですねぇ。



「そして、あの島がこの桟橋を作った理由らしい」

「そうなんですか?」

「あぁ。彩」

『説明ですね。承知しました』


 豊穣寺先輩と薫先輩が説明してくださるんじゃないんですね…。薫先輩は西表島って言ってからこっち見ておられないから分かりますけど!



『理由は単純です』


 いきなり始まった! ちゃんと聞いておかないと。



『かつて、竹富島では農耕地が少なく、竹富島だけではその人口を養えませんでした。そこで、大きな島である西表島に水田を作り、そこで農耕をしていたのです』

「てことは、わざわざ船であっちまで行ってたの?お米を作るためだけに?」


めっちゃ非効率に思えるんだけどな…。



「米は大事だぞ。矢倉氏。魚だけ食ってても頭の活動に大事な糖類は取れんからな」

「最悪、玄米だけ食べていれば生きていけるくらい、米は重要だぞ」


 あ。そっちの説明はしてくださるんですね…。



「玄米だけって味気なくないですか?」

「玄米だけ食って生きろとは言ってないぞ。私らは」

「え?」


 …あ。確かに。そうでした。最悪、玄米だけ食べればいきれるってだけでしたね。



『そういうわけで、お米は大事なのです』

「じゃあ、何で西表島に住まなかったの?」


 そっちの方が効率いいでしょ? 石垣島には近いけど、毎日行くなら、そっちのが…。



『今は撲滅されていますが、かつて、西表島はマラリアの発生地だったのです。そのため、定住があまり進まなかったのです』

「マラリアですか……」


 有名な病気ですが、そんな怖い病気でしたっけ?



「矢倉氏。私達、日本人には意識しづらいかもしれないが……。今でもマラリアは熱帯で猛威を振るう感染症だぞ。一年に40万人以上がマラリアで死んでいる」

「大航海時代も第二次世界大戦でも熱帯に出る時、マラリアをはじめとする感染症がネックになったのは有名だろう?」


 そういえばそうでした。



『マラリアは蚊によって媒介される恐ろしい感染症です。第二次世界大戦繋がりで行きますと、大戦中、有病地への疎開が原因で、波照間島(はてるまじま)の住人にでかなりの犠牲が出ていますね』


 めっちゃヤバイ病気なのですね…。



『そんな病気への罹患を避けるため、西表島には住まず、竹富島に住んだのでしょう。ですから、この桟橋が必要だったのです。尤も、稲作の時期は近くのマラリアがない由布島(ゆぶじま)に住んだこともあるそうですが』


 なるほどです。この桟橋にそんな歴史があったのですね……。



「ありがとう、彩」

『いえ。お気になさらず。楽しんでいただけましたか?』

「うん。勿論。ありがと」

『それはよかったです。では、また何かありましたら』


 そう言うと彩はまた静かになった。そういえば、普通に僕のスマホにも彩は入ってるはず。何で僕、わざわざ豊穣寺先輩のスマホから聞いてたんだろ…。ま、それはいいか。それはそうと、



「お二人は海を眺めて何をされていたんですか?」

「うん?わたし達がただ、海を眺めていただけとは思わないのか?」

「思いません」


 薫先輩は明らかにそういうタイプじゃないですし、豊穣寺先輩も薫先輩と似た感じの人ですし。



「「そうか」」

「さて、それはそれとしよう」

「だな。わたしまでそう思われていたのは少々、ショックではあるが」


 え。



「何故意外な顔をするのだ…。わたしは薫に比べれば、そういう情緒はあるぞ」

咲景(さかげ)嬢。私とて、そういう情緒はあるぞ。優先順位が低いだけで」


 …それはほぼないのと同義では?



「わたしはある」

「だろうな。だが、私とほぼ同等の癖に。そら、ゲーデル曰く『世の中に完全なものは』「誤用は止めろ」そらな」


 してやったり。みたいな顔されても、ぜんっぜん分かりません!



「そもそも、ゲーデルって誰です?」

「ゲーデルは数学者の夢を粉砕した人物だな。かつて、数学者は『いずれ数学は全てを証明できる』という夢を持っていたが、それは不可能であることを示した。彼のすごいところはグーデル数という数を導入したことだ。それにより、数学において自己言及する命題が作れ、真でも偽でもない命題を」

「ごめんなさい、長いです」


 急に早口になった! それでも、なんとなく分からないでもない……いや、たぶんこれは分かってない。



「もっと簡単にお願いします」

「ゲーデルは『有限の算術をある程度含む系は、無矛盾であっても真偽が決定出来ない命題がある。その系が無矛盾であることはその系では証明できない』ことを証明した」


 ????????? 簡単に! ってお願いしたらわけわからなくなったんですが? 



「分からないですし、多分、聞いても理解できないので、何をしようとされていたか教えてください」


 申し訳ないけど逃げよう。理解できる気がしない。



「だろうな。私も正直、わからん。そも、これはコンピューターと関係あr「あると言っただろ?そも、このゲーデルの不完全性定理はコンピューターの発展の上で重要な数学基礎論の重要な定理で「あー。うん。わかった。関係あることが分かった」よし」……」


 薫先輩が頭を抱えておられる。でも、貴方もどっこいどっこい。興味のある話題に関しては。



「さて、本題に戻ろう。私達がここで何をしていたか?だったか。単純に、海を見ていたんだ」

「それだけですか?」


 それにしてはえらく真剣だったと思うのですが。



「見えないが、その先にある大陸を見ていたのさ」

「現状、この国は森野氏と四季嬢が魔法を使ったおかげで、不沈空母と化している。が、それが面白くない連中もいるわけだ」

「だから、どうやって報復しようかってのと、そもそも攻撃されない予防策を練るべきかと思ってね」

「なるほどです」


 結構、大事ですよね。一方的に殴られるだけとか、ドMでもなければやらないでしょうし。…まぁ、どうしようもない時があるのが外交とかの難しいところなのでしょうが。



「難しい時はあるが、現状、うちは不沈空母だ。強気に出ても構わん構わん」

「どうせ、止めれんよ。障壁が無くなった時が怖いが……、どうせその時にはわたしらは死んでる」


 それでいいのですか?



「私らは困らん。尤も、その辺の対策はするべきだろうから、頭を動かしはするさ」

「だな。ま、将来の話は置いておこう。不沈空母と化して手出しできないから、サイバー空間での攻勢が強まるって予測が出来るんだ」

『その防御と反撃は彩がします。全力攻撃されたとしても、彩が全力で止めます』


 そっか、サイバー攻撃は彩が対応できるのか。さすが、先輩方。そこまで考えられておられるのですね。



「備えておかねば意味がないからな」

「あぁ。起きてから対策するのは難度が段違いだぞ。しかし、ここでやれることはもうないよな?」

「だな。折角の修学旅行。いつまでもここにいる必要はあるまい」

「撮影スポットを占拠するのもよくないだろうしな」

「自覚あったんです!?」


 あったのに、ここにずっとおられたんです!?



「「あぁ」」


 あ。うん、やっぱりこの人たち、情緒があんまりないわ……。



「残念ながら、そろそろ集合時間だぞ。姉」

「おや、なら、次の機会にするとしよう。なぁ、咲景嬢」

「だな」


 いつの間にか来られていた賢人先輩の言葉にもお二人は動揺されていない。



「口ぶりが残念そうなのに、残念そうに見えないから、綺麗なのに興味ないとか思われるんだぞ…」

「「そうなのか」」

「「そういうとこだぞ(ですよ)」」


 反応がうっすいんです!

 お読みいただきありがとうございます。

 誤字や脱字、その他色々、何かありましたらお知らせいただけると嬉しいです。


 後、ほぼ1年前に言っていたコメディ小説がようやく完成いたしました。よかったら見てやってください。

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