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5話 先輩の家

「ここです。お付き添いくださりありがとうございました!」

「いいよ。気にしないで。すぐそこだし」


 そういえばそうおっしゃっていたような。



「お家がどこか教えていただいても?」

「いいよ?そこだよ」


 先輩が指さす先にあるのはこのあたりで有名な結構大きなお家。でも、あそこって…、



「道場じゃありませんでしたっけ?」

「ですよ。うちの実家の道場です」


 実家?……あ。あ。僕、この人清水先輩って呼んでたじゃん。ということは…、



「清水流ですか!」

「です」


 超有名な道場じゃん…。だからかな、あんな強い殺気が出せるのは。



「あれ?でも…。清水先輩が実家に住んでおられるのであれば、同居されていないのですか?」

「してるよ?」


 お嫁さんの家に住んでる…婿養子?でも苗字は森野で、習先輩のもの。よくわからぬ…。



「見せたほうが早いね。とりあえず、一緒に来て」


 やった。人見知りはするけれど、仲良くなった人には興味があるんだよね。僕。



 いそいそと騎乗するお二人の後ろに。一瞬、後ろから「割り込まれた…」って殺気を感じた気がするけれど、たぶん気のせい!



 橋を渡って、そのまま直進したところにある正面の大きな門をくぐ…らない。川沿いに進んだところにあるシャッターを上げ、中へ。



 シャッターをくぐった先は結構広い倉庫っぽいところ。ここに自転車を止めるのだろうか。後、一人二人限界そうだけど、お馬さんや自転車乗ったままってことを考えれば広い…かな?



「さて、色々見せる前に一つだけ。頑張って起きないようにしてるつもりだし、」

「起きても守るつもりですが…、面倒ごとに巻き込まれるかもしれません。それでもかまいませんか?」


 ?突然言われても何のことかよくわからない。でも、お二人の真剣な顔からして、冗談の類でないってことはわかる。とはいえ、答えは一つ。



「僕はお二人を信頼してます。ので、お家を見せてほしいです」


 仲良くしてくださった人のことはもっと知りたい。多少、不都合があっても教えてくださるなら教えてほしい。



 僕の言葉に先輩はコクっと頷き、壁の何かをいじり始めた。



「先輩?何されてるのですか?」

「シャッター降ろしてる。少しきついけど待って」


 ?シャッター閉めちゃうと出る場所がなくなるのだけど…。



「なぜ敬礼」


 了解のポーズです!



「なるほど。…とか言ってる間に降りたね。こっち来て」

「そっちは行き止まり……あれ?」


 坂ができてる!?さっきまで坂なんてなかったのに!



「俺らの後に来て。びっくりするから」

「アイリちゃんたちは合図をしてからお願いします」


 びっくりしてる僕を置いて坂を下りていく二人。おいて行かれてはかなわない。自転車を降りて続……あれ?



「あの、坂に差し掛かったはずなのに坂の感じがないんですが」


 自転車が勝手に進んでいく。その感触がない。



「前を見てみてください」


 前?……なにここ。視界いっぱいに広がる田園風景。ガレージの裏は道場があったはず。こんな場所があるはずない。そんなところにぽつんと立つ、大きな大きな平屋。



 ほんとにココドコ?



「俺らが作った世界」


 なるほど。先輩が作った世界…え?えぇと…。世界を作った?



「作ったとおっしゃいましたか?」


 頷く二人。聞き間違いじゃない。世界を作るなんてそんなの小説の中でしか…あ。あ。



 最精鋭の先輩方は「異世界に召喚されていたせいで、留年した」っておっしゃってた。接していて、少なくともお二方は嘘をつくように思えない。となると…、それは事実。



 となると、これは魔法か!



「すごぉい」

「嫌悪感とかない?」

「ないです!先輩、すごいじゃないですか!」


 ちょくちょくお話であったお子さん、馬関係で問題ないようにしてるってのは…、魔法使われたのか。書類とかどうとでもなりそう…。



 だからか。シャッター降ろす前に「いい?」って聞いてくださったのは。シャッターが閉まる前と後では、明らかに「最精鋭に入っただけの人」ではすまなくなる。



 日本の資源が増えたのとか明らかに最精鋭の先輩方の影響だもん。そんなんに触れてたら暗部から手が伸びてきそう…!



 おぉう、もうちょっと考えるべきだったかもしれない。でも、まぁ大丈夫でしょ。天涯孤独の身だし、先輩たちいるし。



「やっぱりこの人、いい人だね…」

「ですね。忘れないうちに矢倉君に向かいそうな分はこっちに曲げておきましょう」

「細かいのは置いといて」

「もちろんです」


 何を言ってるのかさっぱりわからない。早くここからどきたいのだけど、お二人は何かしてて聞けそうにないし…。



「これでよし」

「あ、習君。漫画とかで見る式神的なものをつけときましょう」

「…確かに」


 あぁ、聞こうと思ったのにまた何かされてる…。お二人の仲がいいからか、ちょくちょく目線だけで完結してる。言葉がざっくり省かれてわかりにくさがアップ!そのうえ、テンポも上がるからわりこめない。あ、終わった…っぽい?いまだ!



「先輩!」

「「ごめん(なさい)」


 頭を下げられてしまった。放置してごめんなさい。だと思う。そこまでされずともいいのに。



「案内しよっか」

「ですね。セン。ありがとうございました」

「だね、ありがとう。みんな出てくるまで待機。出てきたら自由にしてて」


 颯爽と飛び降りるお二人。頑張ってくれてありがとー、というように頭をなで…るのかと思ったら差し出した手をそろって食べられてる…?



「何してるんですか?」

「魔力をあげてる」


 魔法に続いてファンタジー要素がまた出た。きっと先輩方は魔力もすごいんだろうな…。



「ブルッ」

「ん。お粗末様」

「お粗末様です。矢倉君。自転車はそのあたりに置いておいてください」


 了解です。いかにも駐輪所という場所があったので、そこに自転車を置いておく。いつの間にか来たお子さんたちもそこに置いていっているから大丈夫なはず。



「遊ぼ!」


 自転車から降りて元気にお二人にとびかかる瑠奈(ルナ)ちゃん。体が大きいからそんなことしたら二人も倒れてしまいそうだけど、お二人はきっちり受け止め、そのまま抱っこする。



 頭を二人で軽くなでてから、



「ごめんね、ルナ。今はダメ」

「また後で」


 なんて断って降ろし、追加で頭を撫でる。瑠奈ちゃんは少しだけ不満げに頬を膨らませていたけど、納得したのかほかのお子さんと一緒に家へ入っていった。



「中にどうぞ」

「外は見ちゃだめですか?」

「え?かまわないけど…、見たままだよ?2年生の時に校外学習で行った田園風景。その再現」


 と言われると見たい。



「ちょっと走ってきても?」

「待って。俺も行く。危なかったら止める」

「私も行きます」


 二人にお付き合いさせてしまった。なら、てってこ見回って終わりにしよう。



 道はそんなに悪くない。セン…お馬さんが走りやすいように整えておられるのだろう。田園風景というには虫がいないけど、実る途中の稲穂、澄んだ清流はある。



 そういえば、坂で下に降りた──ここは地下のはず──なのに太陽っぽいのもあるのはおかしい。本当に魔法で作られているんだな…。広さはなかなか。僕が全力疾走して息が上がるくらいだから、道だけで400 mくらいあるかも。



「戻ります」

「もういいの?」


 はい。お二人に長々付き合っていただくわけにもいきませんし。では、いざ、家へ!



「お邪魔します」


 戸は二枚あって、それが両方スライドするタイプ。一番間口が広くとれる。中に入ると玄関…なのだけど広い。



 コの字に廊下が作られていて、12人くらいならコの上に無理なく並べそう。でも、靴を収納する場所がないような。だのに、愛理ちゃんとか先に入った子の靴がない。



「あぁ、靴は段差の下を叩いたら開く収納に放り込んであるよ」

「魔法です?」

「ですね。容量は無限のようなもので、雑に入れてもちゃんと収納され、」

「取り出すときも履きたい靴をイメージしておけば、勝手に出る。そんな収納」


 魔法みたい…って、魔法でしたね。すごい。



 靴をコの端に置かせていただいて、奥へ。玄関の次ってだいたい廊下のはずなのだけど、めっちゃ広い。



 でも、僕の家の部屋くらい幅がありそうなのに、歩くのに邪魔なものはない。廊下なんだろうなぁ…。廊下の左にトイレと手洗い場。行き止まりは…、ひっろいリビング。先輩一家全員が寝転がってもまだスペースがありそう。



 皆さんが全員座ってもまだ余裕がありそうな超でかいソファに、めっちゃ大きなテレビ。そしてこれまた広いキッチン。…外から見たとき、こんな空間あったかな…?



「ちゃんと作ってるよ」

「です。異界の中に異界は面倒ですからね」


 なるほどです。となると、この家は見た目相応の広さがあると。やっぱりもうちょっと見回るべきだったかもしれない。



「奥は何ですか?」

「奥?個人部屋とかあるとこ」

「見たいなら紹介しますが…」

「見たいです!」


 純粋に興味があります!



 微笑ましい光景を見るような顔をされていた気がするけど、ヨシ!見れるなら問題ない!



 奥にはまた広い廊下。左に広い空間。右にいっぱいのドア。左の空間には何もないけどタオル入れみたいなのがあるし、奥に浴室みたいなのがあるから脱衣所かな。



「うん、奥は浴室だよ」

「汚れても大丈夫なように外から入れるようになってます」

「あれ?魔法で綺麗にならないんですか?」


 ハイレベル靴収納とか、こんな空間を作れるならその配慮はいらないのでは?



「俺と四季は出来るんだけどね」

「子供たちも私たちが作る道具があればいけるのですが…、使い切っちゃっている可能性がありますからね」


 なるほど。先輩方がそうそうお子さんに渡す道具を切らすことなんて想像できないから…、念のためですね!



「ところで道具って何です?」

「道具?四季が出した紙に、俺が字を書いたモノだよ」

「こんな感じに作ります」


 丸めていた手を開くと、清水先輩の手の中に紙がどこからともなく出現。その紙を先輩が指先でなぞる。指先にインクが付いているわけでもないのに、紙に線が刻まれていく。



 不思議。



「これで完成。後は使いたいって念じて、魔力を流せばいい」

「字を理解している必要はありますが、使用に読み上げる必要はありません」


 なるほどです。今、先輩が書かれたのは『水』ですから…、水よ出ろー。で使えばいいのかな?



「そうなる。使ってみる?「はい!」…おぉう」


 少し圧が強かった。でも、後悔はしない!貴重な機会。体験してみたい。



「あ。でも、僕に魔力なんてあるんですか?」

「大体の人間が持ってる。けど、大体の人が出力方法を知らないから駄目」


 なるほど。では、その方法とは?



「そういうのは陰陽師とかの領分だから…」

「あまり詳しくないのですよね…。一応、異世界なら異世界語で呪文唱えれば行けるのですが」


 なら、それを教えてもらえば…。



「矢倉君だと…というか、私たちの父母も駄目でしたし、地球人はほぼ無理だと思います」

「異世界語で魔法を使うことが許可されてないんだと思う」


 ???



「私たちはいけるのですよ」


 習先輩が謎言語で言葉を20秒くらい発すると、手の上にぽわっと小さな光が出てきた。嘘をついてるとは思ってないですよー。



「わかってる。でも、一応ね」

「許可を出すのは世界なので、私達にはどうにも…ならないことはないのですが」


 !?



「どうにかなるにしても、使えないなら使えないでいいです」


 堕落しそうだし…。それより、



「なぜお二人はいけるのです?」

「俺らは向こうに神の招待で行ったからかな?その時に、あっちの言葉で魔法を使うことが許可されたんだと思う。紙は思いっきり日本語だけど…、それは魔法使用プロセスを踏んでるからいける」


 頭がこんがらがってくる…。



「使うには条件がいるってわかればいいよ。この紙ならいける。試してみて」


 一時の魔法なら堕落はしないはず。安心して使える!



「『水』!」


 口に出したら体からちょっと力が抜けて、紙から水が出てきて、浴室に落ちた。…できましたね。



「俺らの見立てでは大丈夫だったんだけど…、平気?」

「はい!ご心配ありがとうございます!ですが、大丈夫です!」


 魔法を使わせてもらえてテンションが爆あがりしている以外、普通通りです!



「最精鋭の皆様がこんな感じのことができるのですか?」

「いえ、人によってできることとできないことがあります」

「一部、出来ることは被っていたりするけれど…、誰かは誰かの上位互換…というのはないよ」


 ほえー。であれば、浴室直行の道は必要そうですね…。汚れが落とせない人もいそうですし。



「お二人の出来ることって何ですか?」

「ん?だいたい何でも」

「ですね」


 何でも?



「うん。俺だけで、四季だけでも、色々出来る」

「ですが、二人そろえばもっと色々出来ます」


 その一例がさっき見せていただいた紙づくりですね。仲のいいお二人のための力という感じがする。



「そういえば、このスイッチは何です?」

「ん?押してみて?」


 では、遠慮なく。ぽちっと…したら脱衣所から浴室と外をつなぐ入り口まで真っ二つにする壁と、入り口部分にのれんが出てきた。



「男女に分けたいときに使います」

「中に誰かいても、性別によって適切な方に飛ばす」


 だから問題なしと。ハイテク。



「ふと思ったのですがこの広さ、全員で入る前提ですよね?」

「うん。一回だけ入ったよ。ガロウやコウキが恥ずかしがって駄目だった」


 から、つけたと。…あれ?習先輩は恥ずかしがらなかったのですか?



「全員隠しているし…、たまに出てても四季じゃないし…」

「同じくです」


 子供には欲情しないから平気だと。じゃあ…、



「お二人で入られたりしないのです?」


 ……顔を赤くしてそらされてしまった。でも、こっそり頷いてくださったからあるみたい。



 お子さんが一緒の時は平気でも、二人だと恥ずかしいということは…、お子さんが一緒の時は割とお父さんとお母さんになってしまってるだけかな。らしく見えない要素を排除しちゃっているんだろう。



「こほん。浴室はもういいでしょう。次です」

「浴室の奥は子供たちの部屋。俺らの部屋もあるよ」


 この家族に人間は9人。ドアは11個あるように見えるのですが…。



「一個は大寝室。みんなで寝たいときはそこ使う」

「こんな感じですね」


 開けてもらった部屋。その中央には超大きなベッド。普通に全員、乗れそうだ…。



「俺の部屋はこんな感じ。さすがに四季の部屋はダメだよ」

「もちろんです」


 …普通。僕の部屋みたい。勉強机と、ベッドと、本棚。そして、クローゼット。でも、出入り口付近にトイレがある。



「トイレは各部屋にあるよ。渋滞したら大変だし」

「お手入れは魔法で済みますからね」


 増やしてもそのあたりの心配はあまりいらない…と。羨ましい。



「11個目の扉は?」

「俺の実家につながるドア。開けたら俺の部屋に出るよ」


 なるほ…って開いたのですけど。戸の先から出てきたのは…、女の子?

お読みいただきありがとうございます。

誤字や脱字、ほか何かありましたらお知らせいただけると幸いです。


次は5/1(金)の18時の予定です。

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