4話 先輩の子供たち
この子達は先輩の子供達…か。わけがわからないよ。……ん?いや、普通に考えてこんなに大きい子が居るはずがない。となれば養子…?
あれ?でも、養子を取るには20歳になってないと駄目なんじゃ…。
「普通養子なら親が結婚してれば未成年でもいけたりする。でもまぁ…、そのあたりよくわかんないから…、うん、まぁ、あれだよね」
こそっと耳打ちしてくださる習先輩。あれって何ですか!?
「ちょいちょいと弄って実子にしてある」
「おかしいですよね?」
明らかに年齢が…と思ってたら先輩が無言のままにっこり。
なるほど。これはあれですね。「問題ないようにしている」ってやつですね。わかります。…怖いから黙っておこう。
となると…、全員書類上は実子だけど、事実上の養子みたいなもの…かな?
「違うよ?数人違う。カレンはなんと言っていいのかわかりにくいけど…、半分くらい俺らが親。コウキとミズキはDNA鑑定すれば100%俺らが親だよ?」
つまりコウキとミズキという二人は実子だと?何をどうしたらそうなるんですかね。
「色々あった」
「処女懐胎でもされたのですか?」
「違いますよー」
!?習先輩と話してたのに清水先輩がこっちに来た!?そして習先輩はさりげなくお子さん達が俺の話を聞かないようにお子さんたちと会話しだした!?
息がばっちりあっててすごいなー。
「まぁ、私と習君ですので。それくらいは」
答えになってない…はずなのにしっくりきてしまう。言葉が説得力を持っている。そう形容するしかない。しゅごい。
「話を戻しますね。残念ながらあの子たちは私がお腹を痛めて産んだ子ではありません。ですので、処女懐胎とかはない……あれ?二人が出来たときは処女でしたから…ある意味、合っていると言えなくもないですね…」
余計カオスにする情報をぶち込まないでください!意味がわからなくて死んじゃいます!
「情報では頭に直接叩き込まれでもしない限り死にはしませんよ」
「で、ですが…」
「では、もっと情報を。洪水で押し流しましょう」
!?なんでそうなるの!処理しきれn、
「みんな!自己紹介を!」
聞き耳を持ってくださらない!あれ?顔が少し赤い…、あぁ、なるほど。恥ずかしいからあんまり触れてほしくないのかもしれない。
「…流れは?」
「アイリちゃんからもう一回で。では、お願いします」
あってるかわかんないけど、あってることにしとこう!
「…ん。わたしは森野愛理。…以下妹たちの紹介では、苗字は同じだから省く。…よろしくおねがいします」
ぺこっと頭を下げる150 cmくらいの女の子。外見的には二人の子って言われると…まぁ、そうね?ってところ。所々、微妙に似ているような似ていないような。目元とかは足して2で割った感じだし、瞳も…って、赤いね。
「充血してる?」
「…生まれつき」
そっか。怪我じゃないのね。ならいいや。よく考えたら互いへの愛情が深い先輩方が、子供たちの怪我を放置するわけないか。
「次はー、ボクだねー。ボクは華蓮。よろしくねー」
元気よく頭を下げる女の子。女子用の制服を着ているから女の子だってわかるけれど、着てなければどっちかわからない、中性的な容姿。かっこいい…というよりはかわいい子。
エメラルドグリーンの綺麗な髪と明らかに二人の子じゃないよねという要素があるけど…、この子がある意味「二人の子」らしい子。謎だ。二人に似てるかって言われると…、まぁ、似ていなくもない気がする…けど、これって似ていないって言うのでは?
「細かいことは気にしない方がいいよー」
細かい…のか?ま、まぁ。親しくなれば話してくださるだろう。気にしないでおこう。
「次は俺かな?俺は牙狼です。よろしくお願いします」
頭を下げる男の子。この子は髪が銀色だし、顔もそんなに似ていないし、なんか他の子と違って名前がキラキラなオーラを放ってる。けど…ちゃんと二人を親だと思って慕ってる。
謎。
でも、それ以上に…この子、猫をかぶっている気がする!丁寧に挨拶してくれたけど、本来はもうちょっと荒いような気がする…!
「確かに荒いけど…、ちゃんと場面はわきまえるよ。この子」
「でしょうね」
お二人が親ならそんな気がします!でも、
「僕には普段通り接してくれて良いよ?」
「えっ、でも…。…わかった。父ちゃんらと同じ感じで行く」
おぉ、素直に聞いてくれた。僕が苦手とするヤンキーを彷彿とさせる話し方だけど、なんか安心する!先輩方の子だからかな?
「では、次は私ですね。私は礼子です。以降よろしくお願いいたします」
この娘の髪は橙色。牙狼と同じく、容姿もそんなに先輩の子って感じではない。けど、この子も二人が好きそう。
「礼子ちゃんも話し方崩してくれて良いよ?」
「ありがたいのですが…、お母様と同じくこれが素ですので…」
なるほど。…あれ?お母様と同じく?
「清水先輩?」
「私も基本敬語ですよ?言いませんでしたっけ……あぁ、言ってないですね。私の口調もそんなものですので、よろしくです」
習先輩にも敬語でしたよね?距離感があるような気が。
「そう感じられるかもしれませんが、それはよそから見てるからですね」
「だね。四季の口調は丁寧っていっても、そんなかっちりしたもんじゃないよ。それに、たまに崩れるし…。そこが可愛かったりする」
唐突な惚気やめてください。非リアにはつらい。
「こんな感じで習君も承知してくださってますし…、何より、私は習君が好きで、習君は私が好きです。それでいいではありませんか」
キリッとした顔で言ってのける清水先輩。綺麗な顔立ちをされているから、なんだか凜々しくてカッコイイ。
「さ、さて、次をお願いします」
と思ったら顔を朱色に染められた。ギャップがすごい。
「あ「あぁあぁあ、取る気はないのであしからず」…罪悪感がすごい」
よっし!言い切った!拓也先輩曰く、上位クラスの威圧なんてくらいたくない!即死する自信しかない!
「えぇっと…どうしよう。ミズキ。これ、このまま続けて良いのかな?」
「さぁ?わからないわ…」
「大丈夫!続けて!どうぞ!」
二人にビクッってされたけど、気にしたら負けだ!
「えぇっと…、僕は幸樹です」
「アタシは瑞樹よ」
「「よろしくお願いします」」
仲良く揃って頭を下げる男女。二人とも顔立ちがよく似ているし、習先輩と清水先輩にも似ている。先に二人が言っておられた名前的にも、遺伝子的にお二人の子…という子供はこの二人のはず。
にしても…本当によく似ている。それに、先輩方の顔も比較的整っている方だけど、二人はそれ以上。うまいこと二人の良い部分だけを抽出しましたー!って言われても受け入れられる造形。
「で、最後が…、」
「瑠奈です!よろしくお願いします!」
元気いっぱいに頭を下げる女性。元気なのは良いこと。だけど、ギャップが…いや、この場合は違和感かな?うん、それであってる。違和感がすごい。
外見は妙齢に見える美しい女性。もう少し大人びていたら制服が「あの、無理しない方が…」って言われかねないレベル。そんな人が元気いっぱい。
…外見から受ける落ち着いた印象と、中身から受ける印象の乖離が大きい。
別に外見がこうだから性格もこうじゃないと駄目!っていう先入観を僕はあまり持っていないつもり。つもりなんだけど…、どうもチグハグなような…。
「その印象はあってるわ。頑張っているのだけどね…」
「色々あったので、キツいのです」
「のです!」
そうなのね。じゃあ、触れないでおこう。
「触れないの?」
「話す気になってくれたときにでも話してくれれば。そもそも初対面で全部はなされても困る」
重い話は聞きたくない…とかじゃなくて、単に覚えきれない。さすがに重い話は何度もさせたくない!
「それより、名乗った順に長女…なんだよね?」
うなずく三人。だよね!
「姉二人が初手から割とフランクなのに、妹達が敬語なことが気になる」
「…お父さんとお母さんが一緒だからいいかと思った」
「ねー」
特に深い理由なんてなかった。
「…一応、一歩引きがちな人に見えたから、こっちから踏み込んだ方が良いかな?って思った…って理由はあるよ?」
理由があった。そして見立てが正確。何故だ。僕、そんなにおどおどしてるように見えるかな…?先輩の時は…うん、まぁ、あんなザマを晒してたらバレるだろうけどさ。
「…人はよく見てるからね」
この子も普通に心読んでくるな。よく見てる…って言ってるから出来るのだろうけど。
「…わたしじゃなくても、余裕だと思う」
ぐふっ。いや、まだだ。先輩の他の子らなら…!
華蓮ちゃんは満開の笑顔で頷く。
牙狼と礼子ちゃんは視線を一度虚空にさまよわせてからコクっと。
幸樹と瑞樹ちゃんは申し訳なさそうに苦笑いしながら首を縦に。
瑠奈ちゃんは若干よくわかってなさそうだったけど、ちょっと考えた後に元気に頷いた。
全滅!これはひどい。泣きそう。
「ね、名前は?名前?」
落ち込んでても空気を読まずにゴリゴリ押してくる瑠奈ちゃん。
「ねー、名前は?名乗られたら名乗らなきゃ、駄目なんだよー!」
あれ?名乗って…ないわ。ナイナイ。
「ごめん。遅れたけど僕は矢倉櫂斗。自由に呼んでね?後…、皆のことは男の子は呼び捨て、女の子はちゃん付けでいい?」
頷いてくれた。やったぜ。
「こっちからの呼び方はどーする?」
「…さすがに叔父さんは駄目。だから「さん」で良いと思う」
愛理ちゃんの提案に全員首を縦に振る。うん、それでいいよ。「叔父さん」とか呼ばれても意味がわからないし。
「…そう?」
「そうだよ」
だべってるあいだに自転車置き場に……あれぇ?
「あの、僕の目がおかしくなりましたか?何故か自転車置き場の奥に白馬が見えるのですけど」
「正常だね。あの白馬はセン。俺らのお馬さんだよ」
わけがわからないよ。何故お馬さんがここに…?
「あの子は乗ってもらえるのが好きで…、普通に来るのですよね」
「一人でです?」
「えぇ」
それってマズいのでは…?お馬さんの扱いって確か軽車両だよね?それが一頭で公道走ってたら駄目じゃない?
「何を考えているかはわかるけど、その辺はどうとでも誤魔化せるから…」
うわぁ…。
「で、でも、乗ってるときはちゃんと交通法規を守るので!」
そこは信じてます!だって、最初に仲良くなれた方がヤンキーとか心が死んじゃうので!
「理由がすごい。ま、あの子も俺らの子供みたいなもんだよ」
「仲良くしてあげてくださいね?」
「え?あ、はい」
お馬さんも子供みたいなもの…か。やめて。情報量過多で死んじゃう。
「と、とりあえず自転車取ってきます!」
走って置き場へ!見つけた!置き場が固定されてるとこういうとき良いよね!そのまま自転車に乗らず出口まで押して走る!
「真面目だね…」
「場内は自転車に乗って走っちゃ駄目ですからね!」
一応、この駐輪場は道によってどっちに進んで良いか決まってますけど、それでも安全のために!
「良い心がけですね。では、習君」
「あぁ」
習先輩が軽やかに白馬…センの二つ付いた鞍の前方に跨がる。そして、手を差し出して清水先輩を引き上げ、後ろの鞍へ。
清水先輩なら一人でも乗れそうなのだけど…、気にしない方が良いんだろう。
「で、どうやって帰るのです?」
「このまま乗って」
「併走すると危ないので縦に数珠つなぎですね」
習先輩方は騎乗されているから一騎。でも、お子さんがひーふーみー…7人。そこに僕。合計9人の縦列。
「邪魔では?」
「そこはどうしようもないかな」
「ですねー。誰かが来られた場合はどこかで列を切ります。そして、待っても邪魔にならないところで待ちます」
なるほど。普通の対応ですね。なにかパッとした対応があるのかと思いました。
「あるにはあるのですが…、今日はなしということで」
「だね。じゃ、進んで?俺らは付いていくから」
え?
「僕に先に行けと?」
「列に混じってもいいの?」
たぶん皆さんは習先輩方を先頭に、年齢順に並ばれるはず。そんな中に僕が割り込む。…うん。無理だね。死んじゃう。
「この子、暴走したりしません?」
「あぁ。確かに。ごめん。その辺りの心配を忘れてた」
「ですね…。この子、賢いですから…」
そうなのですね、じゃあ大丈夫かな…。
?なぜにお二人は目を丸くされているのでしょう?
「俺らがセンは賢いって言うだけで納得できちゃうの?」
「はい!お二人が言うなら平気な気がします!」
習先輩がいなきゃ、今日、死んでたかもしれないし…。精神的な意味で。だから、大丈夫でしょ!
「さ!帰りますよ!」
川沿いをシャーって走って帰ろう!
注1)
習と四季の子供たちは養子縁組制度を利用したものではなく、ちょいちょいと何かした結果です。
特別養子縁組だと戸籍上は一応、実子になるようなので、念のため補足です。
注2)
馬は本文通り軽車両扱いなので、交通法規を守れば公道も歩けます。
が、糞などの問題があるので、もし馬に乗って散歩したくなった方がいらっしゃいましたら、問題を避けるため予定地を管轄する警察署に問い合わせすることをお勧めします。
なお、本文にもありますように、習達は生じる問題をちょいちょいと弄って問題がないようにしています。ですので、法規に照らした場合、おかしな点が出るかもしれないため、これを参考に動くことのないようにお願いいたします。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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