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39話 続南伊勢釣り

「…ん。来たね」

「来たよ」


 結構遠かった。何でこんな遠くに居るのさ。



 で、愛理ちゃんのは何だろ? 見てもよくわかんない。針はルアーみたいなのじゃなくて普通に針で、浮きなのかなんなのかよくわからないものが付いてるけど…。



「…投げ釣り。遠投して、遠くの方で獲物を狙う。そんな釣り。…重りが普通よりも重いよ」


 そっと差し出してくれた重りを持ってみる。確かに重い気がする。触りなれてないから言われたからそう感じてる気がしないでもないけどね。



「…ガロウに言われたと思うけど、投げるから出来ないところあるし、危ないかもだから周りに注意してね。…飛ばそうと思ってるから割と強い力掛かるから」

「わかってる」


 さっきえげつない想像したしね。絶対体験したくないし、させたくない。



「…ん。やり方は簡単。投げ方は勉強しないとだけど…、省略。…針には忘れずに餌を付けて。投げた時に取れないようにもしてね」


 それだけ言うときっと海をにらんで、仕掛けをポーンと海に放り投げた。



 めっちゃナチュラルに投げたけど、振りかぶっただけあってめっちゃ飛んでる。どこまで飛んでいくんだろう?



「…視界の外にまで飛ぶとかはないよ。さすがに。行って400 mだね」

「お嬢。それ、世界の猛者の飛ばす距離余裕で越えてますぜ…」

「…知ってる。でも、慣れたら仕掛けにもよるけど200は飛ばせる」


 200 mかー。歩いたら3分はかかる距離。そう考えると200でも長い。そんだけ飛ぶのかー。



「…この投げるのが醍醐味って人もいるね。わたしもその一人。魚取るなら魔法使う方が」

「それをいっちゃあおしまいだよ」


 愛理(あいり)ちゃんなら確かにそうなんだろうけど! それ言っちゃだめだよ!



「…わかってる。言わないよ」

「言ってるじゃんってのは」

「…なんていうのはナンセンス。そう言おうと思ったら止められただけだよ」


 え? ほんと……だったような。健吾さんをチラッと見る。頷かれた。おぉう…。



「ごめん」

「…ん。構わない。事実だし。ん、かかった」


勢いよく竿を真上に振り上げる愛理ちゃん。竿がグッとしなって海からバシャっと水しぶきが上がって、文字通り魚が飛んで来る。相変わらず力強いねぇ…。え?



 竿を置いてどうするの? 愛理ちゃん。



「…あんな勢い出来たら危ない」


 確かに。でも、あの勢いで来るようにしたのは愛理ちゃんだよ? まぁ、そんなツッコミは届くはずもなく。愛理ちゃんが鎌を構えると、魚が……ってカジキぃ! そりゃ危ない!



 愛理ちゃんとカジキが交差。次の瞬間、愛理ちゃんの目の前の器の中に解体されたカジキがぽとぽとと落ちた。



「…ん。なかなかの大物」

「大物だけど、漫画みたいなことする?」

「…出来るからやった方がいいかなって思った。当然だけど、魔法もなしにこんな無茶苦茶すると糸が切れるよ」


 知ってる。下手したら竿すら折れる。



「…ん。旬はずれてるけど、美味しいね」

「何もつけずに食べるの?」

「…小腹を満たすのにはちょうどいいからね。お父さん達に渡すならちゃんと旬のやつじゃないと」


 僕が言いそうな質問の答え先に言われた。…食べてみたいな。旬じゃないにしても。



「…どうぞ。醤油もマヨネーズもないけど」

「ありがと」


 なくてももらうよ。愛理ちゃんなら…って思ってたのは内緒。



「…二人がくれた飴持ってるからね」


 内緒に出来ないよねー。



「…ん。あ。あげないからね」


 愛理ちゃんが取られまいと見せてくれてた袋をいそいそとなおす(収納する)。愛理ちゃんらしくて微笑ましい。



 ま、もらいたいなら先輩達に直接頼むから大丈夫。ありがとね。



「…ん」

「あの、割り込んじまいますが、醤油ならありますよ?」


 え? 何で持ってるんです、健吾さん?



「釣ってその場で食べるためですよ。あの倉庫の隅にあったんですよ?」


 マジですか。全然目に入ってなかった…。



「お嬢。寄生虫の類は?」

「…魔法で見たけどいない」

「なら安心して喰えますな」


 ですね。怖いのはアニサキス。冷凍すれば殺せるし、しっかり噛んで傷を付けられれば死んでくれる。そんな生き物だけど、苦しみたくはないしね。そもそも、噛むのは奥の歯ですりつぶすレベルじゃないと駄目らしいし…。いただきます。



 …ふむ。美味しい。美味しいけど…ちょっとなんか違う。何とは言えないけど。大味っていうのかな?



「…旬の魚なら(サワラ)とかだね」

「狙って釣れる?」

「勿論」


 そういうと愛理ちゃんは徐に海をじっと眺め、海に向かって竿を投げた。あれ? 愛理ちゃん、今、餌付けてたっけ?



 とか思ってる間に着水。バシャっと水しぶきがあがり、続々と糸も着水……して行っている時に、愛理ちゃんが竿を真上にかちあげる。



 …なんか海の中から引っ張り出されてきたね。



「…ん」


 愛理ちゃんが小さく息を漏らしながら竿を操ると、引っ張り出されてきたやつに針が突き刺さり、さっきの焼き直しのように魚が飛んできた。



「…釣れたよ」

「お、おぅ」


 今の釣りって言うの? もはや狩りじゃない? 何故に糸で狙いの生き物かちあげて針で引っ張ってきてるのさ。たまに針が突き刺さっちゃう子もいるらしいけど、狙ってやることじゃないでしょ!?



「…針を直接刺すパターンもいけるよ」


 違う。愛理ちゃん。そういうことじゃない。賢いはずなのになんでたまに天然かますの!?



「?…あ、もちろん、魔法は竿だけじゃなくて、針と魚にもかけてるよ。魚にかけないと口の肉がもげるから」

「痛い痛い痛い!」


 釣りでやったら危ない事の人間verを魚でやらないで! …って、釣りってそういうもんだった。



「…ん。釣りってそういうもの。スポーツに昇華されてたり、直接、血が出てるようには見えなかったりするけど、言い方を換えれば狩り。リリースもできるけど、本質的には命を貰う行為」


 だね。だからこその「いただきます」。少なくとも釣って殺したなら、何らかの形で食べてあげたい。あ、さすがに毒あるのは無理ね。



「…ん。毒魚は素人が手を出すべきじゃない。それで死んだら元も子もない。…まぁ、毒あるのかないのか分かりにくい魚もいるし、釣ってみたら尻尾に毒ある魚だった。…そうなる可能性もあるのだけど」


 釣りで釣れそうなやつと言えば、オニオコゼとかになるのかな? さすがにゴンズイは釣れないだろうし。



「…釣れるよ?底の方を狙えば。実際、夜に釣っちゃって毒針に刺さる被害とかあるみたい」


 うへぇ…。ちゃんと注意すればいいんだろうけど、糸を持って引き上げる時とかミスったら刺さりそうだなぁ。



「そういう時は薬を塗ればいい」


 うぇっ!? あっ、落ち……、るかと思ったけど、腕ががしっと掴まれた。そのまま腕をグイっと掴まれ、背中の方にある硬いものに押されて引き上げられる。



「怖かった……」

「…一応、柵があるのに落ちそうにならないでよ。ビクッて跳ね上がりすぎ」


 ごめんね、愛理ちゃん。だって、アイリちゃん以外の声がしてびっくりしたから……。あと、ありがとね、愛理ちゃん。



「…ん。でも、わたしよりも西光寺叔父さんに言うべき。わたしは鎌で押しただけ」


 え? ……あ。さっき手を取ってくださったのは賢人(けんと)先輩でしたか。



「ありがとうございます」

「構わない。いや、むしろすまないな。姉がびっくりさせて」

「さすがに姉も申し訳ないと思っているぞ。弟よ。だが、まさかあそこまで跳ねるとは思わんだろ」


 ですよねー。ごめんなさい。全く気付いていなかったので、不意打ちとして成立しちゃってたのです。



「というか、何故お二人はこちらに?」

「仕事だな。あっちのは意外とすぐに終わった」

「だから、ちょうど来た森野氏達に送ってもらったんだ。時間はあるからな。邪魔にならない程度、アイリ嬢たちと遊ぼうかと思ってな」


 こちらに来られたと。こっちに来てからまっすぐにこちらに来られたのかな?



「アイリ嬢の横にしてくれって言ったからな。アイリ嬢が一番、突然横に人が出てきても驚かないから」


 僕がいてごめんなさい。



「姉ェ…」

「すまない。責める意図は毛頭なかった」


 綺麗な白い髪が僕の目の前でバサッと揺れる。あ…ごめんなさい。謝らさせるような意図は僕もなかったです…。



「そうか。それは助かる。…が、遊びに来たとは言え、釣りをしているのか…」

「…ん。する?」

「今晩のメニューは決まってる」

「…ん」


 それで納得するのね。先輩方は食べないなら釣らないって方針なのかな?



「ま、釣りをしているアイリ嬢たちのフォローは出来るか」

「止めろ」


 賢人先輩がめっちゃ食いぎみ。そんなにやばいことされるおつもりなのです?



「まさか。魚どもを飢餓状態に陥らせる薬……あぁ、魔法だぞ。それをばら撒くだけだ」

「止めてあげてください」


 確かに釣れるようになりそうですが! ですが! 海の中が地獄と化しそうです! お腹空いたからって手当たり次第に周囲を食い散らかすのが出てきそうなので!



「効果範囲の設定できねぇだろ…」

「出来るぞ。ある量以上を摂取すれば効果が出るようにしておけばいい。一か所にぶちまけたらその瞬間、そこにいたやつらに効果が出ても、しばらくすれば波に揺られて拡散して何もなくなる」

「…それだったら投げ込んだ方が早い」


 愛理ちゃん達だったらそうだよね。一般人からすれば明らかに(かおる)先輩が言っている方法の方が、効率がいい。やらないけど!



「…む」

「…おかえり、和葉(かずは)

「ただいまです。お嬢」


 何で和葉さん、敵意バリバリの目で薫先輩を見てるんでしょ?



「雰囲気が似通ってるので、キャラ被り気にしてるんだと思いますぜ」


 なるほど。でも、んなもの心配する必要ないと思いますが。髪の毛の色と眼鏡してるか以外の容姿は似てると言えば似てますが。片や化学が大好きな人。片や愛理ちゃんが大好きな人……あれ? 存外かぶってる?



「キャラ被りなど気にするだけ無駄だぞ。津崎(つざき)嬢。というより、初対面ではなかろう?アイリ嬢がいるからと、敵意を見せんでよろしい」


 ぴしゃりと言い放つと、薫先輩は「邪魔したな」と言って去っていく。



「ちっ…。薫!あなた、どこに行くつもりなんだ!?」

「お前がいるってことは森野氏や清水嬢が自由になったってことだろう?次の仕事場に送ってもらうさ」


 先輩方を足として使われるのです!? それっていいのです?



「…人による。居合わせたら頼む感じではあるね。…わざわざ呼びつけてまで足にする人はいない。…薫叔母さんは居合わせたら頼む率高め」


 なるほどね。じゃあ、賢人先輩はどうなの?



「…薫叔母さんと大体一緒にいる」


 それで察しろと。了解。率高めだね! あ。ワープされた。でも、さっきの口ぶり的に次の仕事場もこの辺だよね? ひょっとしたら自分で行った方が早かったんじゃ…。



「遊びたかったんでしょ」

「ですね。アイリちゃん達が叔母さんと呼んでいるので、ほんとうに叔母さんが甥姪と遊ぶようなノリで」


 なるほどです。そして、おかえりなさい。



「ただいま」

「ただいまです。…あの、矢倉君、色々方法あるので迷うのはわかりますが、何か選びませんと何もできないまま終わっちゃいますよ?」


 確かに! じゃあええっと……どうしよ。よし! 色々聞いたけど、困ったらこれ!



「健吾さん!和葉さんお勧めありますか!」


 レッツ丸投げ! 釣れなくても恨みませんからやりやすいのをお願いします!



「えぇ!?えーっと」

「であれば、サビキでしょうね。ここは群れが多いですから。落とせればいいので割とやりやすいです」


 了解です! 和葉さん!



「カイ。竿」

「ありがとうございます」


 習先輩が竿とか餌くれた、魔法で出してくださったのかな? まぁいいか。気にせずやろう。この位置ってちゃんと群れが通るかな。



「…通るよ。わたしは無視して遠投してるけど、通るよ」

「ありがと」


 ならここでいいか。餌もつけてくださってるから、籠に餌を充填。



「あ、落し方わかりますかい?」

「重りついてますから、離せば落ちますよね?」

「です。下手に投げようとしない方がいいですぜ」


 ですよね。餌と誤認させて釣るなら、餌の中に針を紛れ込ませないと。



「そろそろ来そうですね、習君」

「だね。カイ。落としていいよ」


 了解です。手を糸から離すと重りが落ちて行ってトポンと音を立てて沈む。ぶわっと桃色が広がると、そこに黒い塊が突撃してきて、竿がしなる。



「かかりましたね」

「魔法でのサポートとかは頼まれない限りしないから、頑張れ!落ちそうになったら別だけど」


 了解でっす! むっ、微妙に重い。無理にリールを巻こうとしないで、巻ける時に巻いていこう。きゅるきゅる……きゅるきゅる…きゅ、あ。見えてきた!



「網でフォローしてもいいですかい?」

「お願いします!」


 一人で全部引き上げられるかもだけど、堤防にぶつかって落ちられたりしたら悲しいからね!



 健吾さんが網で竿の下の方から浚ってくれる。おー! 釣れた! しかも全部の針にかかってる!



「外し方は知ってる?」


 ゑ? 外し方? …あ。



「…教えてない」

「なるほど。了解。と言っても、特にいうことはなくて、普通に抜けばいい」


 習先輩が口の脇を抑えて固定。空いている手で針を掴んで外された。そこまで難しくなさそう。



「奥の方に入っちゃっていたら針外しとか使うこともありますよ。まぁ、リリースしないので強引に外してもいいのですけど」


 え。鮮度とか落ちません?



「多少は落ちるかもですが、氷水に入れますしね」

「出来るなら丁寧に外してあげるほうがいいですがね」


 ですよね。む、割と奥の方に刺さってる?



「そういう場合は針外しですね。こうやって、こう」


 和葉さんが流れるように外してくださった。次、僕に出来るかなぁ。



「あ。そういえば。愛理ちゃん。毒魚掛かったらどうするの?」


 釣っちゃったらどうするか聞いてなかった。



「…諦めて糸ごと切るのが一番安全だと思う。…手袋しても貫通されたら意味ないしね。…毒がある部位を安全に切れるなら、ハサミで切ってから外すのもあり。…あ、糸切っても魚は針飲んでるから海に返さないでね」


 了解。となると、はさみと軍手くらいは用意しておいた方がいいのかな。…よし、全部外せた。



 もう一回、餌を入れて、籠を落とす!



「…タイミング今じゃないよ?」

「出来るだけ愛理ちゃんに頼りたくなかった」

「…なるほど」


 愛理ちゃんに頼っちゃうと確実に釣れそうだしね…。てか、愛理ちゃんまた釣ってるな。ほんとあそこまでよく投げるよ。



「アイリ。カイ。俺らは他の子らのとこ行ってくるね」

「…ん。コウキとミズキによろしく」

「釣りはしないのですか?」


 口ぶりからして本当に合流されるだけっぽいですが…。



「今日は見てるだけにしてようかなとは思ってる」

「です。まぁ、ルナちゃんのところに行ったら一緒にやってそうな気はしますが」


 なるほどです。…じゃあ、釣りしたいって言わない方がよかったかな。



「まさか。気にしなくていいよ」

「習君の言う通りです。気分が乗らないだけで海のそばでのんびりするのもいいものですから」


 ならよかったです…。僕に気を遣っておられるわけでもなさそうだし。



「遣ってないですね」

「うんうん。ま、そういうわけだから、またね」


 はーい。……あ、餌が全部どっかに行っちゃってる。動かしたりしといたらよかったかな。うん? あれ? なんかめっちゃ硬い!?



「健吾さんー!和葉さんー!硬いです!」

「あぁ、たぶん根がかりしてますね」

「地球釣っちゃってますねぇ」


 堤防に針が刺さっちゃってるんですね! えっと、これ、がちゃがちゃしてたら外れないかな?



「…外れる。けど、魔法で外す方が早い」


 ぽいっと愛理ちゃんが鎌を投げると、鎌が海に突っ込んでいってもぞもぞ。そうしたらすぐに抜けた。



「ありがと」

「…ん。手前にやりすぎると引っかかりやすくなる。…波で流されて堤防に引っかかることもあるけど」

「了解」


 さて、地球釣らないようにしながらもうちょっと頑張ってみるぞー!

『オニオコゼ』

 背中に毒針のある魚。でも、食べると美味しいらしいです。



『ゴンズイ』

 背びれや胸ひれに毒のある魚です。こいつも食べると美味しいらしいですが…。食べようとして針に刺さって毒を受けても私は責任取らないので、食べる際は自己責任でお願いします。

 また、海水浴場でも普通に見ます。群れでいてくれているので、気づかないことはないと思いますが、ご注意を。



 お読みいただきありがとうございます。誤字脱字その他何かあれば、お知らせくださいませ、

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