32話 続イベリア村
「…今度はガロウとレイコが汽車に乗ってた。お父さんとお母さんは二個前のコルデ ィリアに乗るみたい」
相変わらずよく見てるね。愛理ちゃんが話題に出したコルディリアとこっちの『ガルぺ』は形態の違うコースターだから、一概に比べることは出来ないけど、そこそこ怖いコースターだったはずなのに。
「コースターで論じるなら怖さよりスピードの方がいいのでは?」
「確かに。速さと怖さはかなり相関あるけど、そこからちゃんと周りが見えるかどうかは速さを見た方がいいね」
ありがと、小鳥。相変わらず心の中を読まれて返事されてるけども。
「わたし的にはコルディリアの方が怖かったので、コルディリアで怖がってなかった愛理ならさもありなんというか、当然な気がします」
「それはそう」
愛理ちゃんがコルディリアに乗ってるとき、外から見た時の顔が印象的だったから、今回はどうだろうと思って、顔を見たけど……。コルディリア乗ってる時とほぼ一緒だった。いや、正確に言えば普通に習先輩と清水先輩がいないときの顔とほぼ一緒だった。
まぁ、顔に表情が出てないだけで楽しくないわけじゃあないのは確かだけど。楽しくないなら、すぱっと言いそうだし、愛理ちゃん。
「…ん。言う。それで次は何に乗るの?」
肯定してる時の顔もほぼ同じ。でも、こうやって話題を振ってきてくれてるから、本当に楽しんでるんだろう。
「近くてまだ乗ってないから、スプラッシュにでも乗る?濡れちゃうけど」
「…ん。わたしは大丈夫」
「わたしも大丈夫です。あの混み具合だとまだパレードには間に合いそうですし、並んじゃいましょう」
だね。小鳥と愛理ちゃんの大丈夫の意味は多分、違うんだろうけど。
「濡れたくないならわたしの後ろに座ってくれればいい。…どうする?」
「こういうのって濡れるのが醍醐味ってところがあるから、僕は濡れに行こうかな。ただ、びしょびしょにはなりたくないから、着水するときに防御シートくらいは使うけど」
「わたしもカイさんと同じですね」
「…わたしに任せるのと何が違うの?」
え。違うでしょ。めっちゃ不思議そうな顔してるけど。
「愛理ちゃんだと完全に水を防ぎそうじゃん」
「ですです」
でも、シートだと完全じゃない。脇の方からちょっと濡れる。これくらいのを味わいたい。
「…なるほど。分かった」
「あ、これ、横に並んで乗れるの二人までだから、愛理ちゃんが前ね」
何も言わないと愛理ちゃん後ろに座りそうだけど、多分、後ろに座ると見えない気がする。まぁ、愛理ちゃんは150 cmはあるから、僕より圧倒的に低いわけじゃないけど。
「…ん。頑張る」
何を? ま、まぁいいや。順番が来たから乗り込んで、いざ!
最初はのんびりクルージング。こういう乗り物にありがちだね。電車が向こう側から来てる。こういう他の乗り物とすれ違う系もちょくちょくあるね。今回は……幸樹と瑞樹ちゃんが乗ってる。
イケメンと綺麗な子のペアだけど、顔がかなり似てるから、兄妹にしか見えない。
「…兄妹だよ?」
前も言ったかもしれないけど、顔も見てないのに心読むのやめてー。
「…あ、合ってるのね。思ってそうだから言ってみた」
あ、そっか。前に言ったときは口から声が出てたんだっけ。読んでたわけじゃなかったね。失礼失礼。…それでも割と怖いけどね!
ゆっくりコースを回っていると、コースの端の方から水が飛んで来る。でも、ちょっと涼しいって程度。びちゃびちゃにされると困るものね。
とか思っていたら、ジェットコースターでも聞いたカリカリという音が聞こえ始めて、乗り物が上に運ばれる。頂点に到達すると同時くらいに山の中へ突入。勢いよく滑り始めて山から飛び出し……!?
え。驚いた後、一拍置いて、ざざぁ! という水がシートにぶつかる音。え。マジで何をしたの。
見てた感じ、着水の瞬間、シートベルトをして、座ってたはずの愛理ちゃんがその場で急回転。回転の勢いで愛理ちゃんの方に飛んでいく水を弾き飛ばし、かつ、愛理ちゃんがいなければこっちに来そうだった水をこっちに運んできたんだけど。
「…あ、お父さん、お母さん」
ほんとだ。お二人も乗るらしくて、並んでおられる。順番的には次みたい。
「到着です」
係りの人に頭を下げて、習先輩達と交代。
「「楽しめてる?」」
「…ん」
「楽しめてます」
「楽しいよ。習兄!」
そんな会話を交わして回転している足場から離脱。お二人と会話出来たからか、愛理ちゃんの顔が微妙に綻んでる。乗り物に乗るより楽しそうに見えなくもない。
「…ちゃんと楽しいから大丈夫。…二人といるのは別枠」
「いや、そんな別腹みたいに言われても」
困る。けど、個人の感覚の話。そういうならそうなんだろう。
「…あ。水は普通にやったよ。あの程度ならシートベルトなくても平気だし」
え。シートベルト外したの!? 危ないなぁ。そんなの絶対、やっちゃダメなのに!
「…ん。わたし以外やっちゃダメ。迷惑かかるし、死ぬかもしれないから」
知ってる。遊園地って遊び場として楽しいところだけど、その安全性は指示に従うから確保されてるもの。やるなって言われてることやって怪我しても文句は言えない。
「…それで怪我して文句言う人は死んだ方がいい」
極端! 確かにそう思わないこともないけど、極端すぎる! 僕も小鳥も苦笑いしかできない。
「えーと、どうする?」
「…まだ時間あるから船乗る?」
さっきから絶叫系ばかりだけど、近いもんね。ご飯食べてから乗るとリバースの危険があるかもだし、早めに乗る方がいいかな。乗りたいし。
「僕はいいけど、小鳥は?」
「乗りましょか」
いざ乗船。景色を見るなら先頭がいいんだろうけど、正味、揺られたいだけだからどこでもいい。
乗って、バーが降ろされてスタート。最初はゆっくり。どんどん揺れが大きくなって恐怖が煽られる。
時間が経つにつれ、体が横向きになる時間が増え、最下点でのスピードが速くなっていく。揺れが大きくなってくると一回転しそうだけど、しない。そんなもどかしさが……、っ、え、今のでしないの? ということは、
「「「ぎゃー!」」」
やっぱり次で一回転するよね。他のお客さんと声が被った。って、もう一回するの!? 風が気持ちいいけどふわっと体が浮く。ちょっと気分がわるぃ……。
モーターの動力を切ったのか、後は自然にゆらゆらしながら速度が下がる。
「お疲れ様です」
案内員さんの声がちょっと心にしみる。微妙に酔ったから疲れたと言えなくもない。てか、
「小鳥、今更過ぎるけど、コルディリア乗った後、気分悪いって言ってたけど、大丈夫?」
「大丈夫です。確かにあれに近しいふわっと感で気分が少しばかり悪いですが……、愛理に迷惑をかけるほどではないです」
「そっか」
僕が言うと愛理ちゃんがなんだかジトっとした目で僕を見ている。
「えっと、どしたの?」
「…何で忘れてるのと思ったから」
だよね。そして、それを言われちゃうとなんも言えない。精進します。
「…そうした方がいいと思う」
愛理ちゃんが頷く横で、小鳥があいまいな笑みを浮かべている。ごめんね。
「で、ですが、ちゃんと心配してくださったのはありがたかったですよ!」
心配した子に励まされちゃだめだな。よし、今度からもうちょっと気を付けよう。
「移動したり、立ったりするのは大丈夫?」
「はい、それくらいなら大丈夫です」
そっか、なら移動しよう。ちょっと辛そうなら椅子があるだろうから、そこで休憩してもらってればいいか。
「どのあたりに行く?」
「終点直近がいいです。終点だと人が多すぎるかもしれませんし、ショーが参加型だったとき、誘われちゃうと拒否しにくいのでやです」
「…わたしはどこでも」
「そっか、じゃあ、終点よりちょっと前に行こっか。僕も小鳥が言った後の理由で終点はあんま好きじゃないんだよね」
人混みはまぁ、大丈夫。押しつぶされたくはないけど! 満員の通勤電車とかは絶対お断り。乗ったことないけど……。
この辺りがいいかな。ちょうど、椅子もあるし。
「小鳥、この辺で座ってる?人が来はじめるか、仕切り作り始めたら沿道に立てばちょうどいいと思う。というか、僕、場所取りしてようか?」
出来るかどうかわからないけど。そこで座ってるならちゃんと並べや。って言われると「はい、ごめんなさい!」ってなりかねないもん。
「あ、カイ達も来たのね」
「さっきぶりです」
逡巡していたら習先輩と清水先輩も来られた。
「お二人も見に来られたのですか?僕らはこの辺がいいからこの辺にいるのですけど」
「そうなのね。俺らはどうしよっかな。終点付近か最初がいいけど……みんなに合わせようかな」
「ですね。みんな、どうします?」
え? お二人の目線の先を見ると、お子さんたちが勢ぞろい。いつの間に。
「前!が、いい!」
「じゃーボクもー!」
瑠奈ちゃんと華蓮ちゃんが前。その他のお子さんたちはどこでもいい。
「じゃあ、前に行こうかな。一緒に見たい子らはおいで」
そんな言い方したら絶対全員行くじゃないですかー。でも、僕はここにいたい。だから、
「愛理ちゃん。僕らに付いてる必要はないから」
「行っといで」
「…ん」
一切、迷うそぶりもなく行ったね。分かってたけど、小鳥と二人きりにされてしまった。
「感情変化が薄い子が、嬉しそうにしているとこちらもなんだか幸せな気持ちになりません?」
「だね。幸せな人を見てると割と幸せな気持ちになるけど、愛理ちゃんとかの場合、それが顕著になるよね」
普通に大喜びしてるの見てても幸せのおすそ分けされてる感じあるけど、それが大きすぎるとちょっと引いちゃうからなぁ。
「始まりましたね」
「だね」
特に喋るわけもなくぽけっと休憩していたら、スタート地点にある建物の扉がパカッと開いて、中から演者さんや山車が
「カイさん。山車だとお祭りになります。フロートって言いましょ」
ありがと、なんて言うかわからなかったの。
演者さんやフロートが軽快な音楽とともに出てきて、最初の方で熱気が上がる。移動するにつれ熱気もこちらに移動する。けれど、終点の方を選んだからその熱気が到達するのはまだまだ先。場所が場所だから当然だけど、それがちょっともどかしい。
じれったい気持ちを抱えながらも待っていると、人々のじれったさみたいなのがパレード先頭よりも早く到達。ちょっと早くない?
「かもしれません。わたしもまだそんな気持ちにはなってませんので……」
でも、周りの人を見てる限り、逆に僕らが鈍感なのかも。あ、なんとか視界の端っこでチラチラと先頭が見えるようになってきた!
先頭の人が音楽に合わせて棒をくるくる回しながら、パレードを先導。先導者に続くは明るい音楽を流す、ここのキャラたちが乗っているフロートで、より深い非日常が始まることを告げている。
続いて、また演者さんとフロート。こっちは陽気な音楽と一緒に、演者さんとフロートが楽しそうに揺れて、収穫をお祝いしている気がする。
その次は勇ましい音楽が流れるフロートと演者さん。円形のモノの中で牛さんが猛々しい声を上げてる。闘牛モチーフっぽい。
その後に、特徴的な音楽と一緒にダンサーさんとフロートがやってくる。カスタネットの音がアクセントになってる、フラメンコ。パレードでも見れるのね。
続いて華やかなフロートと演者さん。後続に何もいないから、これが最後尾。終点まで追わない限り、これが行き過ぎればパレードが終わる。
だけど、演者さんもフロートも、寂しい音楽でサヨナラを告げるのではなくて、ちょっとしんみりするような、でも陽気な、「また会いましょう」そんな気持ちを届けてくれる。
そんな一団が終点に滑り込む。でも、各々のフロートが奏でる音楽は鳴りやまない。各々の音楽は毛色の違う音楽。適当であればぐちゃぐちゃになりかねないもの。だのに、うまいこと互いを引き立て、別の音楽に昇華させてる。
主役になっているのはここのメインテーマ。単体でも明るく楽しい音楽だったけれど、そこに勇壮さと情熱的な感じが付け加えられてる。終点の盛り上がりがこっちにまで届いてくる。少し、終点に行かなかったことを後悔しそう。
音楽は途切れることなく、演者さんのパフォーマンスもまた、同様。盛り上がりがさらなる盛り上がりを呼んで止まらない。そうして、音楽がどんどん盛り上がって終わりを予感させてくる。そして、最後のフロートからパッっと紙テープが吹き上がって、演者さん達が手を振り、音楽が止まる。すると、周囲が拍手で満たされた。
心揺さぶられる。そんなパレードだった。
「あぁ、ここにいたのね」
「うん、いたよ?」
さすがに、パレード見に来てたのにフィナーレ見ないで帰るなんてしないよ。こっからだったら、十分見えるから。
「てか、瑞樹ちゃんと幸樹だけ?戻ってきたの。他の人達は?」
というか、戻るの早すぎない……?
「なんだかんだで心配だったもの。人が現実に完全に戻り切る前に合流しとかなきゃ」
「そうそう。カイ叔父さんの質問に答えると、姉さんたちは演者の人らと遊べるから遊んでる」
そっか、ありがと。でも、遊ばなくていいの?
「アタシは割と興味ない」
「同じく」
おぉう……。どう反応していいかわからん。
「えっと、わたしは大丈夫。ちょっとコースターとかその辺の系列乗りすぎて酔っただけ」
「回復は……要らないわよね。要るならアイリ姉さまが既に使っているでしょうし」
「うん。だから、平気。それよか、何に乗ったの?どうせこのままご飯だろうから、習兄達が来るまで喋ろ」
だね、適当にだべって待ってよっか。
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美味しかった! お昼はパエリア。でっかい海老が乗ったシーフードパエリアと、スペインの有名なイベリコ豚を使ったパエリア。それにスープとサラダがついてた。
海産物は美味しいし、イベリコ豚は脂が甘くて口の中でとろけて最高だった。もちろん、具材がいいだけじゃなくて、料理法もしっかりしてて、ちょっとお高いけどまた食べたいって思える味。…お金、また払ってもらったけど。それより、
「瑞樹ちゃん、僕らと一緒で良いの?」
ご飯食べた後、せっかく、習先輩や清水先輩と一緒にいる機会があったのに。てか、僕と小鳥以外のお子さんたちは瑞樹ちゃん以外、先輩方といる。
「え?」
「え?」
何でこの子めっちゃ不思議そうな顔してるの……?
「あぁ、父さま達と一緒に居なくていいのかって?無問題よ。アタシの魔法はアタシを増やすもの。あっちにもアタシはいるから心配しないで。むしろ、アタシ邪魔じゃない?」
「邪魔じゃないよ。むしろ、会話あんまりしたことないから嬉しいかも」
「あー、そういえばカイさんは瑞樹と幸樹以外とはサシで喋ったことありましたね」
よく知ってるね、小鳥。そうそう、喋ったことあって、その時に魔法の話とか聞いた。
「そ、じゃあ、一緒にいるわ。でも、せっかくの観光地だし、いつでも聞ける魔法の話で時間を潰すのは無粋よね?遊びましょ。ついていくから行きたいとこ行きましょ」
行きたいところ…どうしよう。でも、アトラクションはもういいかな。酔うかもだし、小鳥がやばいかもしれない。あ、そういえば。
「アトラクションの逆側に城とかあったよね?そっち行かない?」
「いいですね、行きたいです」
「任せるわ」
了解、じゃあ、行こうか。
注
アトラクションに乗っている時は、係員さんの指示に従い、必ずシートベルトをしっかりしめて乗ってください。本文中にあるように外して乗るのはもってのほかです。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字その他何かありましたら、お知らせいただけますと嬉しいです。




