2話 最精鋭
やらかしたかもしれない。よくよく考えなくても、最精鋭って先輩じゃん。あんまり僕、喋るの得意じゃないじゃん。何であのとき、普通に喋れると思った!?
うぅ。お腹が痛い。もう薬飲んだから飲めないけど。
今日は始業式しかないけど、無駄に早く来てやった。ふふっ、さっさと机を占有して伏せっておこう。そうすれば、あれ?何でこの子この部屋に来てるんだろう?って目で見られずに済む!完璧!
いざ、入室!今日は自由席で良いみたいだけど、出席番号順に座っておく。これで「何でここに?」って言われても「出席番号順のところにしました!」で逝ける!
いや、逝ってどうすんの僕!?お、落ち着こう。席に座って、ねy…、ってドアが開いた?
「一番乗りー!」
「じゃないようだぞ。タク」
「ほんとだな」
あ。がっつり目が合った。この二人身長高い。たぶん180 mくらい。僕、170くらい。…蛇に睨まれた蛙とは僕のことか…。
「習、この子顔が死んでるんだけど?」
「話題の編入生さんだからじゃない?」
先輩方に話題にされてるんです?僕?なるほど、吊されるんですね。生まれてきてごめんなさい。
「めっちゃ怖がられてるぞ」
「噂がな…」
「その大部分、お前らが主体になって動いてる件」
ごめんなさい。ごめんなさい。僕、生まれ変わったらお金持ちの人が飼ってる猫になるんだ…。
「あの、大丈夫?」
「え?」
声をかけられた…けど、めっちゃ易しい目で見てくださってる?この人は…悪い人ではない?
「君も悪い人ではなさそうだけど」
!?心読まれた!?
「顔に出てるから仕方ないかな…。落ち着いてくれてるみたいだし、自己紹介を済ませてしまうね。俺は森野習。適当に呼んでくれて構わない。で、こいつが「俺にやらせろ」…ちっ。どうぞ」
仲悪いのです?
「仲は悪くねぇよ。親友だ。俺は矢野拓也。呼び方は自由にな。習はタクって呼んでる」
先輩相手にあだ名は無理です。
「先輩なので先輩呼びで勘弁してください」
お願いします。切実に…。よっし!頷いてくださった。
「で、君は?」
「え?」
あ。やってない!やらねば!
「僕は矢倉櫂斗です。ゴミとかでなければご自由に呼んでください」
「タク、落ち着いたように見えてこの子テンパってるよな?」
「だな。アイリちゃん並に悲惨な人生送ってるわけでもなさそうだし、じゃなきゃ言わねぇと思うぞ」
ぼ、僕が落ち着いてないと!?しっけしけな。僕はいつでも落ち着いて…、あれ?何で習先輩ごそごそ弄ってらっしゃるんです?ま、まさか、鞄から銃が…、
「『沈静』」
…あれ?なんか光ったと思ったのに…、何もない?
「落ち着いた?」
「え?僕は最初から落ち着いてましたけど…」
「たぶん大丈夫」
「了解」
失敬なことを言われている気がする…!
「さっきしっけとか考えてた…いや、何でもない。それより、」
?
「不安そうだし、今日はサポートにつこうとおもうけど、構わない?」
「え?良いんですか!ありがとうございます!」
やったー!防壁になってくださるー!
「どうせ、自己紹介は前でしなきゃならないと駄目だろうけど…、それまでは俺とタク、四季で塞いどく」
「俺らが説明しときゃ、気になっても後にしてくれると思うぜ。安心しろ」
ありがたやありがたや。!?ドアが開け放たれたぁ!?
「一番海苔…じゃない!」
「くっそ負けたー!って、アキが一番海苔ではない…なら、文らは引き分けだな!」
何で競争してるんだこの人ら。
「おはよう。百引さん。有宮さん」
「おはよ-」
クラスメートなのですね…。
「おはよー。その子は新しい人だね?」
「だよね!文のセンサーが反応してるぜ!」
「正解。だけど、緊張してるみたいだから、後にしてあげて?」
頼んでくれた。貴方が神か。
「おkおk」
「うぃうぃ。じゃ、アキ、あっちで話そうぜ」
了解してくださったー!
「最初に入ってきた背の高い女性が百引晶さん。後の背の低い方の女性が有宮文香さん」
わざわざ紙に名前を書いてくださるとは…。やはり神か。
「元気な人だよ」
「物は言い様だけどな…」
「「あぁ?」」
ひっ。なんかめっちゃ睨まれてる…!
「アキ、フミ…、廊下は走っちゃ駄目って言われてない?」
「そうだぞ、お前ら…、先生に怒られるのは俺らなんだぞ」
「調教はしっかりしねぇと駄目ってなぁ!」
調教。友達に使う言葉じゃないです…。
「ふっ。ならば瞬!私を見事乗りこなしてみろい!私はじゃじゃ馬だぜー!」
「頭痛が痛い」
「安心して。アタシもよ」
変わった…、ううん、元気な人だなぁ…。
「入ってきた三人のうち、唯一の女性が羅草愛さん。で、耳貸して?」
?
「胸で弄ると死ぬ」
「あの、先輩。無理に決まってるでしょう?」
関係性全然ないのに出来る分けねぇでしょうが!?ていうかセクハラですよ!?たしかに何もしなくても男装出来そうですけど…、ひぇっ。見られた気がする!
「気のせい。次の男子が神裏瞬。で、最後が久我謙三。幼馴染5人衆」
「ちなみにあいつらは互いで恋愛がいい感じに完結してるから要注意な?」
ふぁっ!?
「え?男性二名、女性三名ですけど…?」
普通に考えて余る…。
「一夫一妻をガン無視するらしい。百引さんと羅草さんは明らかに瞬が好き。有宮さんは微妙だけど、謙三よりかな」
「百引さんと羅草さんの間で話はついてるはずだ。あとは瞬が覚悟を決めるだけ。なお、決めなければ最悪食われる模様」
リア充乙!ハーレムとか死んでしまえ!
「このクラス、リア充多いのだけどね…」
「例えばさっき説明した間にすり抜けてった二人とか」
ふぁっきん!リア充爆死しろ!…ってマジで仲よさそう。
「男子が望月光太。女性が天上院雫さん」
「有名だろ?っていいたいが…、去年すっ飛んでるんだよな」
あ。ご心配なく。お二人は知ってますよ。
「確か『常華高校の非リアが選ぶ!え!?嘘!?あの二人付き合ってないの!?ランキング』殿堂入りされてましたよね?…え?マジでですか。あれで?」
わかるって感じにうなずかれた。マジすか。あれで?リア充爆死しろって言いましたけど、あれは引っ付いて末永く爆発すべきじゃないですかね…。
二人の間にある距離感は遠すぎて親密感がないわけでもなく、近すぎてべたっとしすぎというわけでもなく。なんか付き合ってしばらくした後だけど、まだお熱い恋人のような雰囲気がある。…彼女いたことないけど。
「ちなみに付き合ってるかどうかは謎」
「聞こうと思うと何故か流れるからな…。そのくせ、独占欲的なモノを発揮しやがるから手を出すなよ。両方に」
了解です。リア充はこれでおしま…
「まぁ、まだリア充はいるぞ」
いじゃないの!?お二人が見る先にいるのはめっちゃ和服が似合いそうな女性と、仲良さげにあるく男女の3人組。ハーレムか!?最初の瞬先輩に続いてまたか!?
「あぁ、違うよ。和服の人…青釧美紅さんと、座馬井条二が付き合ってる。もう一人は妹。座馬井律さん」
「え?妹ですか?」
じゃあ、双子…?
「じゃないぞ。双子じゃない兄妹」
!?なんで!?可能なんですか!?
「可能らしいよ。4月に産んで、産褥期が明けてからすぐ位に妊娠すればいける」
「ねらってやることじゃないがな…」
そりゃそうでしょうね…。ていうか出来ない。子供は天からの授かり物といいますし。
「ちなみに双子もいる」
「え?」
「ちょうど入ってきたな」
白髪のなんとなく研究者然とした女性と、真面目そうな男性のことです?
「あぁ。女性が双子の姉の西光寺薫。男性が賢人。髪は地毛。とはいえ、髪が白いのは悲惨な過去が…」
「というわけでもなく、単に化学が大好きでやらかしたからだぞ」
「単に」で済ませて良いことじゃないと思います!
「同感。薫さん。やはりやらかすのは駄目ですよ」
「だよな、死にかけるのはマズいよな習。それに…」
ひぇっ。見られた!
「あー。賢人、紹介は後にしてあげて。前で全体にしてくれる」
「了解。おら、姉言われてるぞ」
「姉も気をつけているではないか…。危険そうに見えてもマージンはちゃんと取っているのだぞ?」
恥ずかしそうに顔をかく薫先輩。綺麗な人でも照れると可愛らしく見える…。
「あぁ、今のところ誰かと付き合う気はないからあしからず」
「姉ぇ…」
「ふっ。それはそこに座ってる豊穣寺嬢も同じだ。構わないだろう?」
指さされて唐突に話題に巻き込まれた方が不思議そうな顔をされておられる…。
「あの人は豊穣寺咲景さん。早い話が薫さんの数学版」
「自分や他人に被害を及ぼしてないから上位互換とも言える」
拓也先輩ェ…。
「森野。わたしの好きなモノは数学というよりはプログラミングや情報処理…だから計算機系列だと思うが?」
「確かに」
納得されても僕にはわからんです。後、スルーするのですね。
「単に上位互換と言われたら否定するが、今のは「上位」は被害の意味だろう?その定義であればわたしも、だいたいのクラスメートが上位互換。否定はせん。後、説明がわからんのであれば、パソコンに興味があると思ってもらえれば構わん。自己紹介は不要。聞いていたから待とう」
ありがたやありがたや。
「割と変わった人らだけど…、」
「もっと代わった奴らがいるから大丈夫」
それは大丈夫というのでしょうか?言わないと思います。
「油田、油田」
!?
「あぁ、来たな」
通常運転なのです!?
「皆の衆、おはよう。姫もおはようと言っている」
「芯、たぶん言わなくてもわかるぞ」
いえ、わかりません。意味がわからないです。妙に仰々しい言葉遣いしている意味もわかません。
最初の人は女性で、小さい。可愛らしい人なのだけど喋ることが意味不明。二人目は言葉遣いが仰々しすぎる。放っておいたら「腕がっ!」とか言いそう。最後の人はまともだけど、理解できてる時点でやばいと思います!
「それなら、俺の方が芯並に理解できるからやばいのだけどね」
習先輩!?あれがわかるのです!?
「何故かわかるぞ。こいつ。アレを即座に解読できるのはあの男子と習、清水さんくらい」
よくわかりますね!?
「連想ゲームみたいなものだしね…。状況を考えたらたぶん「おはよう」になるはず。なら、油田は樺太にあるオハ油田を指してる。油田をぬいたらオハが残る。…ね?」
何が「ね?」なのですかね。僕にはわかりません。
「だよな。普通、油田っていったらバクー…アゼルの存在価値か、世界最大のガワールだよな」
すぐさま油田名を出してくるんじゃないです。
「タク、アゼルの人に失礼だからその言い方はやめとけよ。後、ゲーム脳乙」
ゲームにバクー油田が出てくるんです?…戦争系ゲームかな?それはそうと、
「先輩。最大は去年ガワールから静岡の相良油田になりましたよ?あの油田、量がなさ過ぎて採算がとれない油田だったはずなのですがね…」
謎。しかも質が良いらしい。うれしさ倍増。
「というか、他の資源も山ほど採掘されるようになってましたよね?」
枯渇してたはずの佐渡とかの金銀銅山が復活。採算は余裕でとれる。元々なかったはずの資源も何故か湧いた。何故か単体で高圧かかってて固体で存在してたヘリウム。天然ガス、ニッケル、タングステン、リチウムをはじめとするレアメタルがちらほらと。採掘が軌道に乗れば世界一の産出量を誇るようになるはず。
「そういえばそうだったな…」
「何故に忘れられるのか」
高校生には関係ないことですから仕方ないのでは…?
「いや、こいつには…」
「紹介まだだぞ。女性が蔵和列さん。聞いての通り独特なしゃべり方をする」
拓也先輩が「あ。こいつ逃げやがった!」って言っておられるのに、習先輩は無視しておられる。高校生が絡むわけないのですから習先輩が正しいはず。
「姫とか言ってた方が臥門芯。ファッション厨二病。で、最後が旅島順。まともに見えて下手したら三人で一番やべーやつ」
ツッコミどころ満載じゃないですか-。やだー。
「おはようございます」
「あ。おはよう。四季」
え?何故習先輩立っちゃうのです?それに、何で僕に挨拶しないように居てあげると言ってくれたはずだのに、こっちに連れてくるです?
女性の身長は175 cmくらい。高い。でも、先輩と並んで歩いてるとほぼ同じくらいで、何故かちょうどいいって言葉が湧いてくる。
雰囲気は大和撫子。綺麗な顔立ちをされているし、黒髪も美しい。それにちょっと凝視すると失礼だけど…、スタイルも良い。大きすぎるわけでも小さいわけでもない。
「カイ、清水さんは混じるって言ってたじゃねぇか…」
え?…あ!あぁ!言っておられましたね!男性二人だから男性だと思ってました!
「なるほど。ちなみに話をさっきの三人に戻すけど、蔵和さんと芯は付き合ってるかどうかはなんか微妙だけど、相思相愛だぞ。気をつけろ」
ふぁっく!
「タクさん、その情報は必要です?」
「必要だろ。馬に蹴られると悲惨だぞ」
人の恋路を邪魔するやつは…ということですね。わかります。なんか説明聞いてると「馬に蹴られる」ですめばハッピーってレベルな気がするのですが!
「あながち間違いではないのですよね…」
何故か女性にも心読まれてるのですが!
「顔に出ていますからね。それはそうと、タクさん。貴方自身もリア充ですが、言いました?」
裏切ったな!
「裏切るも何もリア充じゃないとは言ってない」
ふぁっく!ふぁっきん!ジーザス!神は死んだ!
「だが、俺の嫁はここに居ないから安心しろ」
なるほど二次元!
「三次元」
無駄に言い笑顔でグッと指を立てる先輩。ふぁっく!爆死しろ!
「はっは。それで荒れてたら駄目だぜ?」
「だね。四季。自己紹介してあげて」
「はいです。では、私は森野四季。旧姓清水です。呼び方は苗字であればどちらでも」
ゑ?
「旧姓…です?」
「はい。旧姓清水です。清水でも、森野でもどち…あぁ、森野だと習君と被るので駄目ですか。清水でお願いします」
旧姓。旧い苗字。そんな言葉を使うのは結婚したときだけ。…先輩方は強制留年で18歳を越えてる。え、じゃあ…。
「結婚されていると?」
「はい。私は習君のお嫁さんですよ」
ほんとです?
「あぁ、四季は俺の嫁だよ」
目を習先輩に向けたら良い笑顔で頷かれた上、ぐいっと清水先輩の体を引き寄せた。
え?えぇ?えぇっと…?マジです?
お読みいただきありがとうございます。
誤字や脱字、他何かありましたらご連絡いただけますと嬉しいです。