19話 球技大会(バスケ観戦)
「ご馳走様でした!」
「わたしも!ご馳走様!習兄、四季義姉!」
えっと、時間は……、
「うげっ、後、5分しかない!?」
「マジで!?行くよ、習兄、四季義姉、カイさん!」
だっと走り出す小鳥の後ろを走って追いかける。
「あっ、待って」
「声かけてる間にやった方が早いです!」
「だね!」
何故か動く気配のないお二人の会話。それが聞こえると同時、異界の出口が閉じ、向こうに見えていた教室が見えなくなった。
!? 出口がなくなった!? 先輩達は何をしたいのです!? 急がないと……。
「カイがそういう反応なのはまぁ、わかるけど……」
「なんで小鳥ちゃんまでそんな反応をするのですかね?」
お二人は呆れたような、それでいて不思議そうな顔をされておられる。
「何でよ!?急がないと妹たちのバスケに間に合わないでしょ!?」
「いや、転移できるじゃん。俺らなら」
「ですね。誤魔化すのは多少、面倒ですけれど、ちょいちょいと弄ればすぐですよ?」
「はっ!そうだった!」
リアルで「はっ!」っていう人、何気に始めて見る気がする。
「とりあえず、俺らの席に飛ぶ」
「小鳥ちゃんはそれから、自分のクラスに戻ってもよし、そこで見てもよし、です。では、この空間を閉じて、観客席に押し出します。心構えはいいですか?」
ゑ? 空間を閉じて、押し出す? 心構えとかどうやれば……あっ。
一瞬、浮遊感に襲われると、耳に喧騒が飛び込んできて、目にたくさんの人が入った。
え? 一体何がどうなったの? いや、たぶんおっしゃった通りなんだろうけれど、変化が急すぎてよくわからない。
今いる場所は、明らかにバスケがおこなれる体育館で、うちのクラスの席。皆さん、僕たちが来ることを想定していてくださったのか、特等席──最前列──だ。
そんなところにいきなり人が飛び込んできたのに、先輩方はおろか、周囲の誰一人として驚いているように見え……あぁ、違うわ。フィールド上にいる、愛理ちゃんだけ、目ざとく気づいて手を振ってる。他のお子さん達もそれにつられて手をぶんぶん。
「お、来たのか」
「そりゃな、タク。うちの子らが出るんだから、見ないって選択肢はない」
「ですね」
力強く頷く清水さん。フィールド上に届かせる気はないはずの声の大きさだのに、お子さんたちのテンションはさらに上がったように見える。
「うん?我らが王妹も来たのか。学友と時を過ごさずともよいのか?」
「うぃ。今日はこっちで兄夫婦と見る。というわけで、先輩達もよろしくぅ!」
小鳥が元気よく手を振ると、先輩達も優しげな顔で各々、反応を返す。……のはいいけど、芯先輩の小鳥への呼び方が仰々しすぎる。リーダー格の習先輩の妹だからってとこだろうけど。それより、
「小鳥、こっちでいいの?クラスで他に出てる子がいるなら、応援しに行った方がいいんじゃないの?」
「大丈夫です。うちの女子勢は既に午前で決着ついてます。男子勢は何個かありますが……、身内優先、です!そもそも、こっち来るときに既に「兄夫婦と妹たちを見るから、よろしくー!」って、言ってきてますし」
なるほど。社交性が高いだけあって、問題ないようにはして……うん?
「兄夫婦って言ったの?」
「はい。言いましたよ?」
それで大丈夫なの? 魔法で何とかしたの?
「いえ?だって、習兄、四季義姉、既に結婚できる年齢ですし。確かに、仲のいい友人たちに紹介したときはみんな「はぁ?」って反応しましたけど……」
あぁ、そっか。それは誤魔化さなくてもよかったんだった。信じてもらえないって点をどうにかすればどうにでもなるのか。
「です。まぁ、最初に何人かに信じてもらえれば、後は学校で喋っても、その子らが周囲の子を説得してくれるので、楽です」
楽。この子、良い性格してるぅ。で、そんなことより。
「習先輩。さっきの魔法は何なのです?誤魔化すのは疲れるからあまりやりたくないって聞いてましたが、思いっきり使ってましたよね?」
「うん。でも、それは調整がメンドクサイってだけ。今回は転移場所ハッキリしてたから、その調整が不要。後は、見てる人の知覚を弄って、最初からいた気がするようにさせればいいだけ。この調整が一番、厄介なんだけど」
だけど?
「皆が出て行ってから、待ち時間あったので……」
おぉう……。ごめんなさい。
「いえ、大丈夫ですよ」
「だね。四季と並んで座ってたから、調整は普段より楽だし」
なるほどです。あ、そういえば、先輩たちのシャイツァーって、一体何なの
ピーッ! 甲高い笛の音が鳴った。それを合図に俄かにフィールドがどたどた騒がしくなった。時間か。
聞こうと思った途端だっただけ、ちょっと残念ではあるけれど、飛ぶ前の時点で5分しかなかったんだから、しょうがないよね。てか、始まるまでが長かったような気がする。
「誰か遅れてたみたいですね」
なるほどです。ありがとうございます。清水先輩。……心読まれてるけど。
さっそく始まるジャンプボール。飛ぶ子は瑠奈ちゃん。あの中で今のところ一番、身長が高いから、妥当と言えば妥当かな。ちょっと、言動が不安だけど……。
ピッ! 笛の音でボールが跳ね上げられる。相手の子も結構ジャンプ力があったけれど、瑠奈ちゃんは速さ、高さの両面から凌駕してる。見事にボールを掻っ攫って、チーム側へ渡す。
それを即座に愛理ちゃんが拾って、ゴール下にいる華蓮ちゃんへパス。華蓮ちゃんを見ずに放たれたパスは見事に華蓮ちゃんに通る。キャッチして、その場でジャンプ。
そこから流れるように放たれたボールは、ほぼ真上に上がって、すぐに誰も手が届かない位置に上昇。そこからゴールに吸い込まれるように飛んでいって、バックボードにこつんと当たると、ゴールリングへ飛び込んだ。
軌道が意味不明だったからか、会場は混乱気味。だけど、審判さんが愛理ちゃんたちのチームに3点を加算すると、どっと湧いた。
歓声の中、再開できるように整列。審判さんが手を挙げると、相手の子がパスして、再開。ドリブルで愛理ちゃんを抜く……ことは出来ず、愛理ちゃんがボールを奪取。
危なげなく、ドリブルしながらコート端へ……行くかと思いきや、突然、ボールを回収するとその場でジャンプ。かなり適当にボールが放たれた。だのに、ボールはリングの上でワンバウンドすると、吸い込まれるようにリングに消えた。
立て続けの得点に少し会場がざわついてる。そんな中で、再開。相手の子らはパスを繰り返して、なんとか愛理ちゃんに近づかないようにしつつ、ゴールを目指そうとしている。
そんな努力をあざ笑うかのように、礼子ちゃんが後方から駆け抜けてきて、パスボールをカット。そのままドリブルでスリーポイントラインぎりぎりまで走って行って、お手本のようなシュート。ボールはリングにもボードにも触れずに、ネットを通って落ちてくる。
規格外としか言えない子らが3人いても、相手の子らはまだ諦めていない。すぐに整列して、再開。
愛理ちゃんを警戒しつつ、礼子ちゃんも警戒している。だけど、そんなにうまくないからか、ドリブルミス。ボールがフリーに。
それを見て瑠奈ちゃんがゴールへ駆け出す。愛理ちゃんがボールを回収して、華蓮ちゃんへパス。がむしゃらに突っ込んでくる子らを尻目に、華蓮ちゃんがボールをポイと放り投げる。
最高点がゴールの真上2 mくらいの軌道。絶対に入らないと確信できるからか敵の子らは一瞬、安堵の顔を見せる。けれど、瑠奈ちゃんがスリーポイントゾーンで大跳躍。空中でボールをキャッチして、ダンクの如くゴールへ叩き込んだ。
会場も盛り上がるというより、困惑気味。相手の子らの顔も心なしか死んでる。けれど、再開。棒立ちしてる瑞樹ちゃんが弱点だと思ったのか、そこめがけて突貫。だけど、瑞樹ちゃんが弱点なわけもなく、一瞬でボールを奪い取り、
「フォローよろしく!」
バク転で距離を取りながら、ゴールめがけてシュート。
放たれたボールはリングの端に命中して、跳ね上がる。それを回収に来た愛理ちゃんがキャッチ&ショット。数度跳ねると、ゴールに入った。
全員、規格外。それが分かってもまだ相手の子らは諦めないらしい。頑張って何とか点を取ろうとしている。
けれど、ゴールに行こうとしたら、高い身体能力を生かしてボールがパクられる。
ならばと、ボール持った瞬間、ボールを放り投げてみても、最高点に到達する前にカットされるか、届かない。たまに届いてもリングに弾かれて、回収される。
先輩達のお子さん達にボールが回ると、超長距離砲の華蓮ちゃん。スリーポイントダンクマシーンと化した瑠奈ちゃんの目立つ二大巨頭か、心なしか二人より控えめな三人がすかさずゴールに叩き込む。
結果、試合が終わるころには15分で60-0。同時進行で他のコートでもやってるから、実質的に25秒で1発くらいのペースでスリーを叩き込んでる。まさに蹂躙。
相手の子らも、頑張っていたけど、12分が経つ頃には心が折れてた。それでも、すごいと思う。7分半で心折れてもおかしくなかったのに、3分前まであきらめなかったんだもん。先輩方も褒めてた。
そんな光景を作り出した先輩のお子さんたちは、ちゃんと活躍できたからか嬉しそうな顔で、先輩達に手を振っている。
可愛らしく見えるけれど、観客席は少し引いている気がする。僕もちょっと引いてる。けど、小鳥はあんまり引いてない。
何故に。僕と同じように、先輩方と一緒に異世界に行ってたわけじゃないはずなのに……。
「そりゃ、あの子らですから。やるって言ってんだから、やるんですよ。自分たちの実力見せつけることが目的ですよ?そりゃ、普通の感性ならドン引きするようなことをしますよ」
達観してるだけだった!?
「それもありますが、単純に慣れの要素が大きいかと。わたしはあの子らがどんな魔法を使えるのかとか、聞いてますし。「まぁ、そりゃ、出来るよね」としか言えませんもの」
なるほどね。でも、魔法もしくは、魔法の経験が役に立つのは華蓮ちゃんくらいって聞いてたんだけど……。
「身体能力が高いってだけで、出来ることは広がるからね」
「ですね。シュートしても届かないなら、届かせることから始める必要があります。が、届くなら、入るように調整すればいいだけです」
滅茶苦茶な体勢からでも正確にパスを出したり、シュートしたり出来てますけど?
「その辺は慣れだね。あの子らは戦うとき、基本、自前の武器を振り回しているけど、何かを投げるといった経験は皆無じゃない。その辺を生かしてるんでしょ」
見てなくても人の位置を把握してるように見えますけど?
「それも慣れですね。気配で位置を察知できずして、どうするのです。……まぁ、カレンちゃんとミズキちゃんは別法使ってそうな気もしないでもないですが、たぶん、アイリちゃんたちと同じく、気配察知でしょう」
滅茶苦茶だぁ……。
「カイさん。諦めた方が早いです。それよか、習兄。四季義姉。「経験者で揃えてんじゃねぇ!」って言われたらどうすんの?あれだけ動けたら、経験者って言われてもおかしくないよ?」
確かに。あんなに正確にスリー叩き込めて、うまいことドリブルカットできて、パスやドリブルにミスがないとなると、経験者って言われてもおかしくない。暗黙の了解破ってんじゃねぇ! って言われたらどうするんです?
「事実、あの子らは球技大会が決まってから練習始めた初心者なんだけど……」
「その辺を理解してもらうのは難しそうかもしれませんね」
あれ、先輩達も考えておられなかったのです?
「いや、考えてなかったわけじゃないよ。ただ、改めて言われると「だよね」にしかならないって言う……」
「ですね。でも、この件に関して、私達が出来ることってあんまりないんですよね。精々、納得しないやつを洗脳で黙らせることくらいなのです」
困り顔で言うお二人。だけど、清水先輩の口からぽろっと出てきた言葉が物騒すぎる。顔が引きつってないか心配。
「安心してください。引きつってますよ。カイさん」
「だね」
「ですね」
おうふ……。
「そ、それはともかく、どうするのです?」
「「どうもしない」」
え?
「何故です?」
「あの子達……とりわけ、アイリやミズキがその辺のことを考えてないとは思えない」
「ですから、私達は手を出しません。出して、あの子達の算段を崩すわけにはいきませんから。まぁ、助けてって言われたら即、動きますが」
なるほどです。あの子らを信じておられるわけですね。
「そういわれればそうだね」
「ですね。でも、正直言えば、手を出したい気持ちを「信じる気持ち」で、抑えているという方が正確かもしれません。手を出せるなら、出しちゃう方が、私達の手の届く中で解決しますから」
恥ずかしそうに頬をポリポリかく清水先輩。お子さんたちの方が、お二人のことが好きだと思っていたけれど、お二人も、なんだかんだでお子さんたちのことを大事にされているんだなぁ……。
ピーッ!
とか思っていたら笛の音。休憩が終わって、次の試合が始まるらしい。
______
結果的に、相手に経験者がいようがいまいが、先輩のお子さんたちは全ての試合で48点以上を叩きだして、文字通り相手を叩き潰した。
周りが軽く引いてる中で行われてる表彰式では、礼子ちゃんと瑠奈ちゃんと以外は、あまりうれしそうじゃない。でも、終わりを告げられた直後、てててっと全員、走ってきて、頭を撫でられると、全員、幸せそうに頬を緩めてる。
「アイリ。経験者で固めるなって、見てないやつらに言われたらどうするつもり?」
「…女子が出る全競技それぞれで叩き潰す」
脳筋! まぁ、それに出ても一緒って言っちゃうのが一番早いかもしれない。
「何でみんなが一つの競技に出てるんだって言われたらどうしますか?」
「…家族で出たかった」
言葉はなんか可愛らしいものだけれど、籠ってる思いがでかすぎる。明らかに「なんか文句あるの?口にするのも憚られる目にあわせるよ」って裏で言ってる。他の子らも口には出してないけど、同じ思いであるらしい。
「そうですか」
清水先輩はそういうと、習先輩ともども、困ったような顔をして、全員を撫でる。なんか何の解決にもなってない気がするけれど、今年の球技大会は先輩達のお子さんたちがやけに強い。そんな印象を校内に与えて、終了した。
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