18話 球技大会(昼休み)
サッカーを見終わったら教室へ。観客席にご飯を食べるようなスペースはない。
先輩達が魔法使えばあるけど、隠蔽がメンドクサイからか外で使う気はないみたい。その代わり? 教室に帰ってくるなり早速使ってる。
目の前にたまに見せてもらっているのと同じ、異空間への入り口が広がっている。けれど、なんか無駄に広い。いろんな人が使うんだろうか?
「俺ら用だよ?」
え? お二人でですか? わざわざ時間の流れをゆっくりにしてるってことは……まさか、中でいちゃつくおつもりですか!?
「違います。普通に子供たちと使うんですよ」
少し呆れたような顔で言う清水先輩。ですよね……って子供たち?
「はい」
「んん?」
「「?」」
僕が首をかしげているとお二人もかしげておられる。何故だ。お二人なら心を読んで察しておられるだろうに……。
「心は読めてますよ。ですが」
「何で子供たちで、引っかかってるのかが分からない」
え? ……あぁ、本気で言っておられる。マジかぁ……。
「牙狼と幸樹、大活躍しましたよね?それでヒーローになって恐怖心を持たれないようにしよう!ってんなら、クラスでだべっているほうがいいのでは?」
ヒーロー不在のヒーローインタビューとか、わけがわかりませんし……。だから今日は来ないと思ったのですが。
「確かに。でも、」
「あの子達から何の連絡もなかったので、こっちに来るでしょ……ていうか来ましたね」
戸の開く音にそちらを向いた清水先輩につられてそちらを見ると、嬉しそうなお子さんたちがいる。
表情を読み取りにくい愛理ちゃんも得意げだ。
「カイから「クラスに居なくていいの?」って質問あったけど、いいの?」
「…ん。構わない。どうせ後でもう一回たむろされる。だったらその時にまとめてやった方がいい。…「ご飯をお父さんたちに持ってもらってる」って言えば、強引に引き留められることはあんまりない。…「お父さんたちに迷惑かかるから」とかいろいろ言ってもなお納得しないようなら、そいつは相手する価値もない」
最後。一気に言葉が乱暴になったよ!?
「…だってそうでしょ?」
愛理ちゃんの首がグリンっとこっちを向く。少しホラー。
「…………終わった後でねって言ってるのに、引き留めるような奴はきっと人の地雷原を土足で踏み荒らしても平気な奴。付き合わない方が賢明」
無言期間が長い。ホラーっぽいと思ったのが悪かったのだろうか。
「…少し複雑だっただけ。口に出してないから、問題ない」
ごめん。
「…平気。あ、さっき言ったような奴はいなかった。安心して」
そっか。それはよかった。
クラス編成の時にそういう子を集めたんだろうか? 先輩達のお子さんっていう、言っちゃ悪いけど、「なんか突然出てきた、高校生である最精鋭のお二人の子供たち」っていう地雷。地雷が爆発しないように安全な子を……って発想で。
「かもねー。まー、気にしてないけどー」
「食べよ!」
華蓮ちゃんと瑠奈ちゃんの言葉に早速弁当を広げ始められるお二人。あれ? なんか量が多いような……。
「あぁ、矢倉君と小鳥ちゃんの分も混じってますからね」
「カイも食べるでしょ?」
はい。ありがたくご相伴にあずからせていただきます。……断ったらどうするお、
「…わたしが食べる」
まだ途中なのに愛理ちゃんが心の声に割り込んできた。ちょっと引く。どんだけお二人のご飯が好きな
「…筆舌に尽くしがたいくらい?」
また心の声に割り込まれたー。ほんと、好きなんだねぇ……。
「子供たちは兎も角、小鳥もこっちに来るんです?」
あの子もクラスの集まりあるはずだけど……。
「俺の親が「お金用意しとくから、娘の分もよろしくね!」って言って、また旅行に行った」
またですか。仲いいのはいいですけど、頻度高すぎないです?
「もとから俺と小鳥が高校生になったら、あんま手がかからんようになるだろうから、旅行しまくるつもりだったみたい。小鳥が高校に入った瞬間、俺が失踪したから、その反動があるかも」
召喚されてましたものね。そんな状況じゃ、おちおち旅行に出れませんよね……。
「うん。精力的に俺を探してくれてたみたい。だから頻度には文句言えない。前みたいに旅行行くって言い忘れて、全部ぶん投げれらたら文句言うけど」
そんな風にいう習先輩の目は優しい。小鳥以外に会ったことないけれど、家族仲は良好らしい。
「お邪魔しまーす!」
む、小鳥も来たみたい。元気よくドアを開けると先輩達が一杯いるのに、挨拶にペコっと会釈しながら一直線にこちらへ突貫。そのまま躊躇なく僕のいる異空間に飛び込んできた。
「お待たせ、習兄、四季義姉。あと、妹と弟ども!」
言いながら最初から作られているスペースに滑り込むように座る小鳥。ほんとに元気な人だ。
「…ん。いらっしゃい小鳥叔母さん」
「だから叔母はやめい」
「…ん。小鳥姉。食べよ」
また前と同じやり取り。けど、やっぱり険悪な雰囲気はない。
「だね。じゃ、習兄、四季義姉、食べていい?」
「ん。いいよ」
「ですね、それでは」
「「「いただきます」」」
いつもの作法を済ませていただきます。球技大会があるから、元気が出るようにしているのかおかずは割と茶色が多い。若鶏の唐揚げ、とんかつ、野菜のフライに、ハンバーグに……って種類多い!?
めっちゃ作るのめんどくさそう……。あ。美味しい。
「それはよかったです。まぁ、めんどくさいのはめんどくさいですけど、保存は時間進まない空間に置いておけばいいので、ちまちま作れますから」
「朝方の忙しい時間に全部は作らないよ。さすがに。やろうと思えばやれるけど、ちょっと面倒」
ちょっとで済んじゃうんですね……。普通、超しんどいになるでしょうに。さすが魔法。
あ。魔法と言えば。
「幸樹のシャイツァーってどんなの?サッカーに関係してる?」
「え?僕?僕のシャイツァーはしてないよ。僕のは防御に関係するタイプ。別に喋ってもいいんだけど、レイコ姉さんが「私より先に言っちゃうのですか……」みたいな顔してるから、後にして」
!? ほんとに? ほんとに礼子ちゃんがそんな顔してるの!? パッと振り向いてみたけど、普通の顔。むぅ、見逃した。
「奇跡的に説明した順が、姉弟順になってるからな……。俺とレイコの上下はよくわからんけど、アイリ姉ちゃん、カレン姉ちゃん、俺ときた。だから次はレイコっていう」
せっかくだから揃えておこうと。
「ごめんなさい」
ペコリ頭を下げる礼子ちゃん。
「いいよいいよ。気にしないから。せっかくだから揃えときたいって気持ちはわかるし」
ゲン担ぎ? みたいなものでしょ。しておけば大学に合格しやすくなるかもしれない。
「それより、礼子ちゃんのはどんな」
「レイコはシャイツァーないぞ」
え。マジで。てか、何故に牙狼が答えるの……?
「私が家族で唯一、シャイツァーを持たないからかと。別に気にしていませんのに」
礼子ちゃんは、彼女が口を開き始めた瞬間、ワタワタし始めた牙狼を呆れたような、それでいて優しい目で見つめる。
「シャイツァーはありませんが、私もちゃんと魔法が使えます。ただ、次の競技には関係しないと思いますが……」
そうなのね。てか、みんなは何に出るんだろう?
「…バスケットボール」
愛理ちゃんが僕の心を読んで答えると、なぜか静寂が訪れた。何故に
「ボクら全員で出るんだよー!」
あぁ、なるほど。愛理ちゃんが答えたらそれが全員分の答えだったのね。ありがと、華蓮ちゃん。
「どーいたしましてー!」
なるほど、バスケか……。うん? バスケ? バスケって確か5人でやる競技だったような……。
「蹂躙するの!」
笑顔で物騒なことをいう瑠奈ちゃん。だけど、お子さんたちも誰一人それを咎めようとしない。……マジで蹂躙するつもり?
「…ん。蹂躙しておくと引いてくれるはず。今はお父さんとお母さんの子供ってことで、若干、こわごわみられている感じはある。…けど、それが落ち着いてきたら害虫が集ってきそうで鬱陶しい。その辺のフラグを折りたい」
害虫? 害虫って何ぞや……。
「告白狙いの男子ってことー」
なるほど。OK出したら必然的に先輩達側の事情に巻き込まれちゃって申し訳ない……からかと思ったけど、違うね。
一応、なくはないけどそっちはかなりどうでもいいってオーラが愛理ちゃんからヒシヒシ出てる。
「…お父さんと一緒にいる時間を削ろうとするような奴らは害虫で良い」
「わね」
愛理ちゃんと瑞樹ちゃんが頷きあう。幸樹も微妙に頷いてる。他の子らが頷いてないのは……、
「そもそも寿命が違うからー」
相手が可哀そうと。華蓮ちゃんがハイエルフ。礼子ちゃんは恋人が牙狼だからたぶん牙狼と同じ獣人。瑠奈ちゃんは何だ?
「魔族なの!」
言いながら瑠奈ちゃんは一瞬魔法を解いて、本来の姿を見せてくれた。立派な角やら羽やら尻尾やらがあって、めっちゃ強そう。
「ブイ!」
嬉しそうにピースする瑠奈ちゃん。かわいい。……けど、ピースしてるってことはたぶん僕の「強そう」って思った気持ちが伝わってるわけで。
え、まさか僕の気持ち、瑠奈ちゃんにすら読まれてる!? 超失礼だけど、子供っぽい瑠奈ちゃんに読まれるのはなんか悲しいんだけど!?
「むぅ」
ペシペシ体を叩かれる。手加減してくれてるのかそんなに痛くない。けど、地味に痛い。ごめん。
「…子供だって、親の気持ちを汲み取ることはある。それを考えると不思議じゃないでしょ?」
ごもっとも。
「それで、礼子ちゃんの魔法はどんなのなの?」
「一気に戻ったな!?」
え? そりゃ戻すでしょ、牙狼。告白男子を減らしたい理由は既に説明してくれてるんだから。これ以上聞いたって仕方ないでしょ? だったら興味のあることを聞きたい!
「あの、悪いですけれど、私の魔法は櫂斗伯父様が今聞きたいと思っていらっしゃるであろう「バスケットボールの中で活用できる」ようなものではありませんよ?」
え。マジで?
「マジです。使えて精々、コウキと同じように身体強化くらいではないでしょうか。といいますか、お姉さま、妹たちもそれくらいではないかと……」
マジかー。って、牙狼も幸樹もそんな感じだった。使えないのか……。
「…魔法、シャイツァーを使ってる経験が生かせるのはたぶん、わたしたちの中ではカレンくらい。他は近接戦闘の経験からうまく敵を抜いていくくらいだと思う。…ドリブルしながら走るとかの経験はあんまりないけど」
それでも身体能力によるG O R I O S H I出来そうね。華蓮ちゃんが生かせるってのは……、弓で狙い撃つ経験かな? バスケのシュートとは加減がずいぶん違いそうだけど。
「練習したー!癖はつかんだよー!」
それでいけるのね……。さすが。どこからでもスリーポイントシュート叩き込むマンの誕生か?
「かもねー。めっちゃマークされたらちょっときつくなるけどー。それならそれで、おねーちゃんや妹たちが活躍できるからよしー!やりよーもあるしねー!」
華蓮ちゃんがいい笑顔。……やりようあるのね。すごいなぁ……。
「小鳥は何に出るの?」
「!?さっきまでわたしに興味なかったのにいきなりこっち来ましたか」
「興味ないとは失礼な」
ちゃんとあったよ。ただ、お子さんたちの方の興味が強かっただけで。
「おぉう……。それを言われてしまうと納得せざるを得ない。わたしはバレーボールでした」
バレー? あれ、バレーって確か午前の部だったような……。
「です。素人のわたしが言えたものではありませんが、相手はほぼド素人の集まりでしたので、その子らよりマシなわたしらと、経験者一人でほぼ粉砕してやりました!……決勝は粉砕されましたが」
おぉう……。見に行けなくてごめん。
「問題なしです。妹たちを優先してやってください」
小鳥がちょいちょいと僕を手招きする。何だろう?
「お察しの通り、妹たちは放っておくとほぼほぼ人間関係作りませんので……。おせっかいでしょうが、作れるときにそこそこの関係を築かせてあげませんと。その点。わたしはほっとかれても勝手に作りますし」
説得力がすごい。
「特に愛理と幸樹、瑞樹の長女と末組が」
だね。あんまりつきあいないけれど、愛理ちゃんはかなり排他的。僕と普通につきあってくれているけれど、それは習先輩、清水先輩の紹介だから。
きっと僕だけだと相手すらしてくれないと思う。……そもそも僕の側から声かけれないけど。
幸樹と瑞樹ちゃんもその気がありそう。愛理ちゃんに比べればマシだけど。何があったんだ……。
「わたしは知ってますけど、そのあたりのことは言いません。本人から聞いてくださいな。わたしもそうしましたので。三人とも、そこそこえぐいですけど。動画じゃなくてよかったって程度には」
マジで?
「マジです。愛理ちゃんはわたしとのその日初対面の時の挨拶を見ていただけると、排他的な原因の根深さがわかるかと」
初対面って言うと……、あぁ、あれか。
「叔母さんとかの件?」
「です。あれが始まったのは初対面の時からでして……。愛理の背景を何も知らないので、わたしもさすがに30も越えてないのに叔母さんと呼ばれたくなかったので、姉にしてと言ったのですが、知ってたら言わねぇよ。ってくらいには「うわぁ……」です。幸い? 習兄の家族だから言い合ってたら折れてくれましたが……」
小鳥的にはあんまり嬉しくないと。
「その辺はわたしも微妙なのですよね。叔母さんと呼ばれたくないのは本音。ですが、あの最初のやり取りくらいは余裕で許せる。そんな心持ですので……」
なるほど。……愛理ちゃんはそんな強硬に主張しない子な気がする。意見対立があっても、もう一回、長短合わせて考えて、変化させることくらいは余裕でできるはず。そんな子が強硬に言うってことは……何かを守ってる?
「習兄と四季義姉の長姉ということ。ですね。わたしを姉と呼んでしまうと、あの子から見れば「長女よりも上の姉が出来る=愛理は習兄と四季義姉の長女ではない」という方程式が成立するような気がするわけです。二人の長女という点でアイデンティティを確立させた愛理にとって、その辺は死活問題なわけで。……折れたくないけど折れるのを是としたのは、「二人の娘」という点にもアイデンティティを置いているので、多少は、いいかって感じっぽいです」
重いわ。なんであんな軽そうに見えるじゃれあいにそんな自己同一性が絡んでくるの!?
「愛理ですから。あぁ、ついでに言っておきますと幸樹と瑞樹もアイデンティティを「二人の子供」ってところに置いてますので、ご注意を」
聞きたいけど聞きたくない……!
「…ごちそうさまでした」
「「「「ごちそうさまでした」」」」
!? 早い!?
「…ごめん。そろそろ準備があるから行かなきゃだめ。お先に失礼する」
「するー!」
愛理ちゃんと華蓮ちゃんが言って、残り三人が頭を下げて出て行く。
「え。そんな時間たってます?」
「割と。でも、まだ時間はあるし、何だったら流れる時間をもっと遅くするから安心して」
ギャー! えっと、急いで食べます! ほら、小鳥も急ぐよ!
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